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23 選ばれし者

「俺はお前と違って勇者じゃないんだよな?」


「うん、神様からはそう聞いたよ。実際、ケイちゃんはチートも使えないでしょ?」


「なにか思い浮かべて、それが実現したりとか出来ないからな」



 石田が言っていたマニュアルとやらをイメージしてもなにも浮かんでこない。

 マニュアルとやらをこっそりイメージしてみたんだよ、テヘ! なんて恥ずかしいコトは、石田には言わないけどさ。



「そうなんだ。ケイちゃんもマニュアルを読もうとしたことは理解したよ!」


「理解すんなよ! そんなこと一言も言ってないんですけども!?」



 コイツ、人の心を正確に読み取りすぎる。まさかそれもチート能力なのか? 

 読心術なんかされた日には、おっかなくて碌々考え事も出来ないじゃんか。



「そうだよね……神様には口止めしとけみたいに言われてたけど、ケイちゃんに隠し事は出来ないもんね」


「口止めって……俺が知ったらヤバイことなのか? それと一応ツッコんでおくけど、お前には隠し事しかされてない気がしないでもないぞ」



 石田から真っ当に話を聞けたことが一度もないのは、俺の気のせいじゃないはずだ。



「箇条で言うね? まず、女の子になっちゃう理由」


「ああ、聞かせてくれ」



 選ばれし者は無条件で女になる。

 なにが理由で、どんな原因で俺は女になってしまったのか。



「僕たちの世界の人が、この世界の魔力に曝されるとね。命の危険……簡単に言うと死んじゃうんだって」


「死ぬのかよ! ん? けど、俺とお前はピンピンしてるよな?」


「僕は神様から与えられたチートで耐性が出来てるから。でも、ケイちゃんにはそれがないの。勇者じゃないケイちゃんには能力がないから」


「じゃあ、なんで俺は平気なんだ?」



 耐性もないのに生きている。

 本当は死ぬなんて嘘で、石田はヤンキーに騙されたんじゃないのか?



「死なずにこの世界で生きていける男性がいるの。死ぬどころか魔力を体内に取り込んで、この世界で生きていくことが可能な男が、ごく僅かにね。女の人では無理なんだって」


「それが……俺?」


「うん。神様が、そう言ってた」


「魔力を取り込むと、どうなるんだ?」


「この世界で過ごしやすい体に変化するんだって」


「変化って……それってまさか」


「そう、その女の子の姿ね。その姿こそ、ケイちゃんがこの世界で生きていける証なんだって」


「なんだそれ! んな証なんか欲しかねえんですけど!」



 なんで俺がそんな特殊体質なんだろう。

 偶然にしても嫌なものを持ちわせている。大体、なんで男限定なんだよ!

 そんな物は誰かにくれてやりたい。誰かとは、勿論そこにいる女顔の石田のことだ。



「でも、それはあまり重要ではないんだって」


「重要じゃないって……生きるか死ぬかの問題なんだから、超重要じゃねえか」



 俺の疑問を無視して、なにか躊躇いを捨てるように石田が「ふう」と息を吐く。



「さっき自分の姿を鏡で見たでしょ?」


「ああ、見たよ。嫌だけど見ちゃったよ」


「なんでイヤなの? まあ、それは置いといてどう思ったの? 自分の女の子になった容姿を見て、なにを思ったの?」


「どうって……。ああ、俺って女になるとこんななんだなあ、って」



 あとは、女になっちゃったウンザリ感ぐらいか。

 絶対に「女の俺って可愛いな」とか思ったりしてはいない。うん、絶対にだ。……もちろん絶対だよ?



「あのね、ケイちゃんの容姿、特に顔のことなんだけど」


「俺の顔がなんだ?」



 なに? まさかヘンだとか言わないよな。

 確かに、素で女顔の可愛い系の石田から見たら見劣りするかもしれないけど、俺だって、ほら、結構イケてるんじゃないかな?

 決して「ないわーwww」の烙印を押されるほどの容姿ではないはずだよね? ね?


 ……って、なんでこんな必死になってんだよ? アホか、俺。



「じつはね、ケイちゃんの顔は、この世界の男性にとって……」


「お、おう?」



 石田が息を止めるように間を溜める。

 な、なんか怖くなってきちゃったぞ。この世界では俺の容姿が、忌むべき存在にあたるとか?



「凄い魅力的な顔なんだって」


「……は?」


「その美貌は老若問わず、あらゆる男を魅了してしまうほど。男の本能を揺さぶらずにはいられないって、神様が言ってたよ」


「どういうこと?」


「僕から見ても……ううん、地球の男が見たって、十人中八人が可愛いって思うような容姿なんだから」


「あのさ、ちょっと待ってくんない? 展開が急すぎて付いてけないんだけど? あとその統計どっから出てきたの? 人数の根拠はなに?」



 石田は俺をスルーして、一気に捲くし立てた。



「それに異世界補正が加わって、文字通り百パーセントになったんだよ。それを知ったらケイちゃんが、いい気になるから絶対黙ってろって神様が言うの。「アイツ、男にモテんの知ったらチョーづくからよ」って」


「なるわけねえだろ! 異世界補正ってなんだよ! なんで男にモテると俺がいい気になるんだよ!?」



 なにそれ? なんだ、魅力的って。

 俺が男を魅了する? なんでそんな話になるの?



「ケイちゃんは、女の子になっちゃって、さらにこの世界の男から無条件で好意的に思われる……文字通りの選ばれし者なんだよね!」


「なんだそりゃ! 勝手にそんなん選ぶな! 意味わかんねえにも程があるわ!」



 なにが選ばれし者だ!

 もったいつけた結果が男にモテまくるなんてオチだったとか、俺にとっちゃただの罰ゲームじゃねえか。恐怖の異世界未来予想しか思い浮かばないんですが!



「だからね、ケイちゃんは僕が守らなきゃ、って思ったの。男の魔の手からキミを守れるのは、チート能力持ちの僕しかいないでしょ?」


「魔の手……」


「安心して! ケイちゃんだけは、どんな脅威からもどんな男からのスケベ心からも、絶対に僕が守りぬくからね!」



 石田が真剣な眼差しで、高らかに宣言する。

 その様子はなにかの演説にでも使えそうなほど身振り手振りを交えている。お芝居でもしてんのか?


 ただ、宣言するのはいいんだけど、俺からコイツに重要な事実を伝えないわけにはいかない。

 そう、最も根本的なコトを言わなければならない。



「石田?」


「なあに?」


「俺がこの世界に来なきゃ、脅威だとか魔の手に曝されることもなかったんじゃないのか?」



 石田はハッとした表情になるとポンと手を叩く。

 まさか「盲点だったよ!」とか、つまんないボケをかまさないだろうな?



「うん、わかったよ! なにがあってもケイちゃんを守るって誓うからね!」


「俺の話をスルーすんな!」



 ボケもせずに全力で流しやがったよ、この勇者様は。

 鹿くらい狩れるようになってから、俺を守るなんてカッコイイセリフは垂れてほしい。


 言いたいことは山ほどあるけど、もう俺のツッコミ力はゼロをすっ飛ばしてマイナスよ!



10/18 句読点修正。

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