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22 とりあえず笑っとこ

「……ぷ」


「……石田?」



 どうした、いよいよ壊れたのか?

 むしろ、最初から壊れていたんじゃねえのかな? という気がするが、とりあえずドコが壊れちゃったんだよ? やっぱ全部?


 壊れた勢いで、俺に襲い掛かってくるなよな!?



「ぷっあはは!」


「お、おい?」


「あははは! あーっははっはっは! お、おなか痛い! うぷ! ぷっはは!」



 なんだ? なにがおかしい?

 俺としてはおかしいよりも、怖ろしいことの連続だ。まあ、主にお前が怖ろしいんだけど。



「もー! なに言ってんの、ケイちゃん! どうしたの、いったい。プックク、あはははは!」


「いや、だってお前さ……」


「あははは! 散々もったいつけた話がそれなの? ぷっはははははは!」


「…………なんか、いろいろ納得いかねえんだけども」



 なんで俺、爆笑されてんの? まあ、襲われるよりは全然良いんだけどさ?

 笑いモン扱い状態なのはなぜ? ホワイ?



「そういうこと考えるってことは……あ、まさか、ケイちゃんて、僕のこと好きなの?」


「どゆこと? 俺が恋してる側にまわっちゃうの!?」


「へえ、そっか、そっか。そうなんだね、ふーん、ふーん、ふうん?」


「違えよ! 話作んじゃねえよ! なにがどうなると、そんな発想が出るんだよ!」


「あははははははは! ゴメン、ゴメン」



 石田は文字どおり、腹を抱えての大爆笑をしやがった。


 クソ! あんなコト聞かなきゃ良かった。

 なーにが「俺のコト好きなんだろ? (キリッ)」だ。


 女に言うのもどうかと思うセリフを、よりによって同性のクラスメイトに言っちゃったよ。なんだか、俺、バカみたいじゃねえか!

 いやああああ! 小っ恥ずかしいコト聞いちまったじゃんよおおおお! 記憶を抹消したいかな!



 ふぅ……まあ、だけど。



「はあ……。まあ、俺の誤解みたいでホッとしたわ」


「そうそう、息を吐くと気持ちが楽になるって言うもんね」


「そういう話じゃねえから、ったく。でもさ、お前が、しょっぱなから俺に対して『抱きしめてあげる』だとか『カッコイイ』とか言ってたじゃん」


「ふふふ?」


「そんで『手を握っててあげる』だの『玉肌に傷はつけない』とか言うからさ」


「あははは、言ったね。うんうん、言った言った」


「で、照れてたよな? ヤンキー女神に俺らがイチャついてるって言われた時さ」


「そうだっけ?」


「とどめにお前、抱きついたよな。俺がこの世界で、目え覚ました時さ」


「あはは、そうだね」


「な? 今言ったことを思い返せば、俺が早とちりするのもわかんだろ」


「かもねえ」


「まあ、勘違いでホッとしたぜ。けど、お前もあんまし紛らわしいことは言うなよな?」


「そうだね! これからは気をつけるよ」


「そうだな、マジで気をつけてくれな。はは」


「うん、あはは」


「あはは」


「「あはははははははははははははははは」」



 なんで笑いあってんの、俺ら。



「だいたい、俺は彼女がいるんだからな。もしもお前が女で俺のことが好きだったとしても、浮気なんかしねえぞ、俺は」


「浮気……」


「そうだよ。付き合ってる子がいるのに、他の誰かと、どうこうするはずがないだろ」


「………」


「おーい、石田。話、聞いてるか?」


「……聞いてるよ」


「おーい、石田達也君よー? どしたー?」


「ケイちゃんは、その子のこと」


「うん?」



 石田が真っすぐな眼差しで俺をガン見してくる。曇りなきなまこって、たぶんこんな目の事を言うのかもしれない。



「好き、なの?」


「…………なんで、そんなことを聞く?」


「聞きたかったから」


「そりゃ……」


「ふーん?」



 石田は瞬きを忘れたのかと思うくらいに、ジッと俺を見つめているが、その瞳を直視出来ない。

 うん、なんかもう面倒だし、とりあえず放っとこ。


 けど、良かった。

 これで、ひとつは不安要素がなくなった。これからは、あんま紛らわしいことすんなよな。


 それと、俺からの話はまだ終わっていない。



「なら俺も聞きたいことがある」


「なあに?」



 最大の謎の答えを聞いてない。

 俺よりもお前のほうが勿体つけていると思う。



「結局『選ばれし者』ってなんなんだよ」


「それは……」



 勇者でもない。なんの力もない。この世界に来た理由もない。無い無いづくしだ。

 そんななにもない俺が、なんの理由で、なにに選ばれたってんだよ。女になった本当の理由は?


 あー、もう理由なんかどうでもいいから、俺を早く男に戻せよお!



10/17 誤字脱字修正。

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