15 魚味百パーセント
俺の問いをスルーして、石田は説明を続ける。
「もうひとつはお金。この世界にも貨幣制度はあるんだけど、お金はチート能力で作れないって」
「そっちはなんでだ? 金なんか無尽蔵に作ったら経済が混乱するとか?」
あんなヤンキーでも、世界が破綻する危機とかは一応憂いているのかな。
「神様が言うにはね、「舎弟のクセに偽金なんか作るんじゃねーよ。さっさと大金稼いで、あたしに回せ。カンパは舎弟の重要な義務だ」ってことみたいだよ」
「アイツ、ガチでタカリにきやがった……」
ありゃ、ヤンキーどころが本職だよ。もう絶対かかわりたくないし、可能なら存在を忘れたい。
結局、魚を捌くのも焼くのも俺がやった。必要な各種道具を伝えると、石田はそれらをチートで作ってくれた。思う所はあるが、生きた淡水魚の踊り食いはさすがに無理なので、まあ助かったかな。
下拵えくらいは手伝ってもらおうと思っていたけど、捌いた魚のワタを見たくらいで青い顔をした石田には頼めたもんじゃない。しょうがねえなあ、ったく。
まさか、家族や友達とよく行くキャンプの経験が、異世界で役立つ日が来るとは思いもしなかった。
そして腕まくりしたドレス姿で調理をする日が来るとも思わなかったよ。今の俺を傍から見たら、凄いバカっぽそうで泣ける。身内には死んでも見られたくない……泣きてえ。
「火のそばに行くとドレスが煤けそうだな……」
「あ、そのドレスね、絶対破れないし燃えないし汚れないし、おまけに着てる人をあらゆるダメージから守る最高の鎧的な装備なんだよ。体形に合わせて伸縮も自由自在の便利アイテムなの」
「なんだそりゃ。ホント色々とデタラメだな」
俺の隣で魚が焼けるのを待つ石田の顔は、じつに楽しそうだ。
なんだかなあ。そんな邪気の無い笑顔を見せられたら、自然と俺まで和んじゃうじゃんか。
「こういうのは初めてか?」
「うん、家族でもしたことないよ。ウチの親、インドア派なの」
「そっか。生焼けだと菌とか寄生虫が怖いからな。遠火でジックリ焼きあがるのを待つか」
「チェックなら任せて! いま魚をサーチして菌と寄生虫がいるか、いたらそれらが死滅したかを調べるからね」
「またチートか? 便利だけどなんか萎えるなあ、それ」
串を差して焼きあがった魚を頬張る石田は「ケイちゃんて料理も出来るんだね! 凄い」としきりに俺を褒め、「美味しいね」と上機嫌だった。腹を割かれて暴れる魚を見た時は「うわー」とか引いていたのに食ったらこれだ。ホント、調子良いヤツだな。
といっても、塩も振ってない焼き魚だから美味いと言える出来ではないはず。俺に気を使ってんのかも?
「お前、食い方結構雑なんだな。ほら、アゴとか口の端になんか付いてるぞ」
「え、どこどこ? 取って取って、ケイちゃん」
「ったく、もう……」
顎と口を指で拭い、食いカスをとってやる。
指に付いたそれを見ても、取り立てた変化はない。俺が食っているのと変わらぬ焼き魚のようだ。
石田が触れると、塩味になるチート効果でもあるのかな? 試しに取ったカスを口に入れてみる。
「あ、ケイちゃん……」
「どうした?」
「あの、その……それって、えっと、要するに……僕たちは口と口で……」
石田が目を丸くしてなにかゴニョゴニョ言っている。
なんだ? まさか俺が食うとヤバい効果が出るとか言わないよな。
舌に乗せて味わってみたものの、それはやっぱり俺が食ってるのと同じで、魚の素材感百パーセントの味だった。まあ、そりゃそっか。
「もちょっと落ち着いてゆっくり食えよ。 慌てることもないだろ」
「う、うん……そだね、エヘヘ」
石田は嬉しそうに目を細めて「ありがと」と、照れたように可愛く礼を言った。
はは、調子良いな。まあ、女の子はこんな感じでいいのかもな。
……って、おい、コイツは男じゃねえか! 見た目は可愛い女の子だけどさ。
なんか今の俺って、なんも出来ない男を「しょうがないなあ」とか言いながら世話してる女の子みたいになってない?
あと、ずっとコイツに『ケイちゃん』って呼ばれて、普通に返しちまってるんだけど、それもどうなの? ちょっとは呼び方を否定しろよ! 俺よ。
大体さっきまで女になったこととドレス姿に戸惑いまくりだったのに、今はこの姿で当たり前の様にメシ食って、自然に寛いじゃってたよ。
流されないように気をつけようって思ったばっかなのに、早くもこの状況に馴染みまくってるじゃん! 石田のせいか!?
ヤバいヤバい。自分の置かれた立場を客観視しないと泥沼に嵌りそうだ。そもそも俺が女になった理由をまだ聞けてないんだけど、選ばれし者って結局なんなの?
そう言えば、あれからずっと見られている感覚が一向に消えないような。
けど鹿が見てるのはさっき分かったし、視線の正体がわかればどうってこともない。見渡す限りの草原だし、この辺りでは人が珍しいのかもしれないが、鹿相手ならいくらでも見てくれとドヤ顔で言える。
もしかしたらヤンキーが天から覗いていたり、最悪この世界での敵……魔王とかが俺たちに気づいたのかと思ったけど、視線に関しては怯える必要はなさそうだ。
なら、飯も食ったし、石田にはジックリと話を聞かせてもらおうか。
「石田」
「なに? ケイちゃん」
「大事な話がある。俺たちにとって凄い重要な話だ」
「僕たち二人の大事な話? 今からそれを!?」
「お、おう。今から、うん、そう」
「ま、待っててね! 光速で準備するから!」
「あ、う、うん」
話があることを伝えた途端、石田が恐ろしく食い気味になった。
なんなの? 一体。
10/28 サブタイトルの15の後のスペース打ち忘れを訂正。




