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黄昏ラピス  作者: 村月 亜唯
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※※

紫は待合椅子に座っていた男性元へ行くと声をかけた。

「お客様、お待たせ致しました」

会釈をし両膝を床へつけ膝立すると、男性と同じ目線に合わせ

「先ほどのスマートフォンのデータ確認を一緒にさせて頂いてもいいですか」と尋ねた。

男性は

「はい、お願いします」そう答えると、ダウンジャケットのポケットからスマートフォンを出した。

「では、カウンターの準備が出来てますので、こちらで再度お伺いしますね」そう言うと、紫は9番まであるカウンターの内の1つ、6番のカウンターへと男性を誘導した。


紫はカウンターへつくと

「本日担当します。里村です。お願いします」と言い椅子に腰下ろした。

「あ、お願いします」男は言った。

「それでは機種変更もご検討されてるという事なので、お客様のお名前をこちらに記入お願います」

と紫はブギーボードを男性の前に出し、「はい」と答えると、男は出されたブギーボードへ"松村優希"と名前を書き、紫へ渡した。

「松村様ですね。ありがとうございます。では、ご利用中の電話番号と暗証番号をこちらに入力お願います」テンキーのキーボードを優希の前に出しながら言った。優希はテンキーで自分の電話番号と暗証番号を打ち

「これでいいですか?」

「はい、お客様の確認出来ました。ありがとうございます」紫は松村へ、

「松村様、ちょうど2年目なので、機種変更しても大丈夫です。問題はデータですが…」

それを聞くと

「えっ?データ無理ですか?」と若干慌てながら優希は聞いた。

「あっ、申し訳ありません。液晶のメッセージが少し見えてしまって…」ごめんなさいと言うと紫はスマートフォンを松村へ向けた。

「うわぁ、これ友達からで」孝一からのメッセージが液晶のど真ん中に表示されている。

「いえいえ、返信も電話も出来ず不便でしたね。データはクラウドに同期されてると思うので、大丈夫だと思います」そう言うと紫は新しい機種の選定や、その後の説明を行った。

「松村様って、私と同じ歳なんですね」

「えっ、マジで?お姉さん、めちゃくちゃ幼く見えますよ。ほら、背も低いし…」言いかけて優希は自分の口に手をあてた。

「そうですよね。そう見えちゃうみたいですね。もう諦めましたけど」

紫はいつもそう言われると付け加えた。


紫は22歳なのに顔立ちも幼く小柄で、未成年に見られる事は多い。

忘年会や新年会、単純に呑みに行く時も初めて行く居酒屋では年齢確認をされた挙句、証明を提示し、それでも信じてもらえず干支を聞かれた事もある。

その話を聞いた優希はくっと笑いながら

「わかる。俺でも年齢確認したくなる」

「そうですか」と紫は口元を緩ませつつも、思わずデータ全部消してしまおうかと、紫は内心思った。

「来週スノボに行くから、早く行き先探さないといけないし、友達に電話もしないといけないのに、スマホ壊れたら本当に困って」使えないスマホを見ながら松村が言った。

松村でなくともそうだろう。今は全てがスマートフォンで管理されている。自分の電話番号でさえ、覚えていない人が多い。

お客様電話番号は?と聞くと、わからないと言う人も多く、挙句調べるにしても自宅の番号すら覚えてなかったり、家族の番号も覚えていない。

今の時代、特に自宅に電話をひいてる人も少ない。番号がわからなければ、当然番号が書いてある何かを持って来てもらうしかない。

「そうですよね。今の時代ってスマートフォンがないと連絡も出来ないし、電話番号を覚えてないですもんね。連絡出来なかったら、大変ですね。スノボ行くんですか?いいですね。来週は寒くなるみたいですし」紫は機種変更の手続きをしながら、松村と話をした。


接客をする時に、客とこうした他愛の話をするのは珍しくはない。

「私、スノボってした事ないです。難しいでしょ。出来る人って凄いです」話はしながらも、手元はパソコンのキーボードを叩き、手続きを進めている。

「した事ないの?したらいいのに。楽しいし、そんなに難しくないし」

「無理ですよ。運動というかスポーツは走るのも遅いし、球技なんて、ドッチボールで逃げる事しかできない人です」紫は深い溜め息をつくと、中学や高校の時の話をした。

泳げなく水泳の授業だけは避けていた事や、球技大会もボールに近寄らなかった事など、聞いていた優希は

「見た感じ得意そうなのに」思わず言う。

「それ。いつも言われるんですよね。でも、実際見た目とは真逆で苦手なんです。こっちも見た目損ですよ」紫は苦笑いした。


そうこうと雑談をしていた中で機種変更も終わりに近づいた。

「後はデータを移行したら完了です。思ったより時間がかかって申し訳ありません」いつの間にか、カウンターについてから1時間が経とうとしていた。

「全然、そんなに時間がかかってると思わなかった。楽しかったし」もう終わってしまうのかと優希は内心残念に思った。

「データの移行だけなので、あちらのカウンターでします」紫は6番カウンターから操作専用のカウンターへと松村を案内した。

6番カウンターよりも少し背の高いハイカウンターへ移動すると、優希は椅子に腰を下ろした。腰掛けた優希と同じくらいの目線に紫は立って作業を始めた。

操作専用のカウンターだけに、周りにはあまり人はいない。

優希は紫に

「里村さんて下の名前はなんて言うの?」と聞いた。

「ゆかりです。紫と書いてゆかり。あんまりないかもですね。松村様、いいお名前ですよね。優しく希望を持つという意味なんでしょ。いい名前です」

紫はデータを移行しながら、俯いていた顔を上げ松村を見た。

優希は少し恥ずかし気に

「俺も自分の名前は好きかな。意味も昔聞いたときに親がそんな事を言ってた。よくわかったね」

「それはわかりますよ。漢字の名前の作り方が、普通は勇気とかなのに」紫は目線をスマートフォンへ移すと手元の操作に集中した。

「里村さんの名前の意味は何?」優希も自分のスマートフォン目線を移す。

「私の名前の意味は、私も知らないんです」紫は操作をしていたからなのか、俯きながら答えた。

「そっか。でも、珍しいよね。紫って名前」優希はスマートフォンを操作する紫の手元を見ながら言った。

「そこはそうですね」一瞬、紫は顔を上げたが、優希の視線が自分の手元にある事に気付き、また顔を下げ手元にあるスマートフォンの操作を続けた。

「里村さんて彼氏とかいるの?」松村の突然に問いかけに、思わず紫は手元を止めた。

「里村さんて可愛いから、絶対いるよね、彼氏」聞きながら、優希は自分が恥ずかしくなった。普通こんなこと聞くこともないのにと考えると、何考えてんだと自責の念にかられる。

「いないですよ。いるように見えるみたいですけどね」

紫はいつもながら、見た目判断というのはと言いつつ、それもどうかと日頃から思っていた。

「そういう松村様こそ、彼女いらっしゃるんじゃないですか?」

「俺?いない、いない」顔の前で手を振り松村は言った。

「そっちの方が意外です。背も高いし凄くモテると思いますよ」紫は素直にそう思った。

「モテるかぁ…男友達としか遊んでないから、ないなぁ。出会いもないし」

思えば女性と遊びに行った事なんてあったっけ?そう考えると優希には思いあたるところがない。

それも当然と言えば当然かもしれない。人との関わりを持とうとしていなかったのだから。

「里村さんの連絡先とか聞いたらダメなの?」松村の質問に

「そうですね。そうゆう事は言えないです」と紫は定番の回答をしたが

「仕事や店内でなく、偶然外で会ってしまったりするのは、また別ですけど」と付け加えた。

その紫の言葉に

「そうだよね。偶然会う事ってあるよね」

「はい。ショッピングモールですし、声をかけられる事はありませんけど、見掛けたと言われる事は多いですよ」

ー――てことは、待ち合わせは出来るって事かな

「今日って、何時に終わるの?」

「18時過ぎです」

「今が17時半だから、1時間後くらいか」時計を見ながら優希が言った。

「データ移行無事に終わりましたよ。LINEに返信もこれで出来ます」

紫は新しいスマートフォンを丁寧に拭きながら続けて

「そうですね。今日はあまり忙しくなさそうなので、それくらいには終わりますね」

新しいスマートフォンを渡しながら松村に言うと

「じゃー1階のスタバで待ってていいかな。まだ話をしたいし。ダメ?」松村がそう言うと

「私、早番の時には帰りにスタバにいつも寄ってるので、もしかしたらお会いするかもしれませんね」

口元に笑みを浮かべながら紫はスマートフォンの箱を紙袋へと入れた。

「そうなんだ」

優希は新しいスマートフォンを片手に握りしめ、出口へと向かった。

松村の後に続き出口まで紫はついて行くと

「ありがとうございました」と会釈し、その後ろ姿見送った。

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