閑話 不遇職と…… 1
繋ぎの話し
ゴブリンとの戦いでカッコつけた挙げ句、イキってしまいまして見事なまでに奇襲された私です。どうも、皆様ごきげんよう。
いやー、もう一体のゴブリンが攻撃してこなかったのは仲間を呼んでいたからだったんだね。つまりあの時…私と弓ゴブリンが攻撃しあう直前に叫んでいたのも周囲の仲間に対しての救援要請だったという訳だ。はやとちりはやとちり…でも何言ってるのかわからないのは事実だし仕方無くないですか。
違う?そうですよね…はい…。
うん。油断していた、という言葉で済ませるには恥ずかしいレベルだよね…。戦闘中は周囲の事も気にするべしと学びましたよ。いやぁ…痛い勉強になった…。
んで、えー…なんだかんだ死ぬのは二度目になるのかな?自分で言ってなんだけど死ぬのが二度目って中々にパワーある気がする。どうでもいいね。
デスペナはまだ大した事無いから特に問題無し。そもそも本来の目的である腕と槍の説明については達成しているのである。尚更問題なんて無いんじゃないかね。
むしろ移動時間を短縮したと考えられないだろうか。まぁよく聞くアレだよ。
うん。見苦しい程に言い訳って感じがする。実際そうだよこんちくしょう。うぎぎぎぎ。
………で、だよ。
そんな事は正直どうでもいいのである。私が気になっているのはそれじゃないんだ。
なんで…何時まで経ってもダメージによる痛み、及びそれによりHPが尽きた事による死亡表現が来ないのか。それと、どうして周りから一切の音が聞こえてこないのか。
今回は正直に言うよ。
怖い。めちゃくちゃ怖い。
来るはずのものが来ない。聞こえるはずのものが聞こえない。あれだけ吹いていたはずの風が、今は一切吹いてる感じも無い。私の体には、何も触れていない…草原の草、地面ですらも…だ。
私は今何処にいる?何が起きているの?
だから怖い。怖いから閉じた目を開けたくない。
体を丸め縮こまり、目を閉じて真っ暗な世界にいる私。目を開けば、きっと全てわかるのだろう。だけど恐ろしい存在が見えたら嫌だ。故に私は何も見ない。
…そんな思考のまま、既に数分が経っていた。数分間ずっと同じ考えをしていたのだ。所謂現実逃避である。
あと、あまりのリアルさにときたま忘れかけるが、この世界はゲームなのだ。だから多分バグかなんかだ…そう思っている所もあったりする。結構な数の人が同時に行動し続けている訳だし、一つや二つバグが発生してもおかしくは無い。きっと運が悪かったんだろう……ってね。
そんな風に私は考えていた。待っていればその内解決するだろうと。すぐにあのリスポーン部屋に送られるのだと。
そう思っていたのに……
───
「いい加減、目を覚ましてはどうかな。」
いきなりだった。何の前触れも無くいきなり男性の声が聞こえた。
「起きているんだろう? ならば目を開いて早く立ち上がってもらえないか。」
…嫌だ。こんな状況で、誰なのかもわからない声に反応して目を開くのは嫌だぁ。
「全く困ったものだ…。キミ…年頃の女性が床で丸まっていられては、こちらとしても仕事の邪魔なのだよ。」
床?私は地面ではなく床に…?
私がそう思った時、今まで感じられなかったもの…体に何かが触れている感覚、周囲の音が蘇った。
丸めた体、その脚に当たる感覚は冷たい床だ。それもコンクリートでは無く木製と思われる。決して草原の地面では無い。
音もだ。誰かがペンを走らせる音、紙を動かす音、カチカチと時計が動く音……ザワザワと草原が風で靡く音では無い。
私は…今どこにいるの?
「何処って……私の部屋だが?」
「…えっ」
声に出していないはずなのに何故か返事があった。それに驚いてしまった私は、変な声と共に思わず目を開けてしまった。
「やぁ、お目覚めかね。」
「あっ…え?」
そこは何処かの部屋だった。端的に示すとすると事務所が近いだろうか…。
木で作られた床と壁。応接用と思われるソファーが二つとその間に小さなテーブル。そして私に話しかけていた男性が使用している事務用の大きな机。その背後には窓があるが、今はカーテンが掛けられて外は見えない。
壁には本やよく分からない小物などが沢山仕舞われている棚と、壁掛けの時計が一つ。
天井には名前は知らないけどあのクルクルとプロペラみたいなのが回っているアレがついている照明が一つ。
失礼ながら、全体的に妙に古臭いと感じる部屋だ。いや…この世界じゃ普通と言えるか。でも…それでもだ。この部屋は今まで見てきた場所と違う。
時代が少しズレている感じがするのだ。こう…なんていうかなぁ…この部屋は明らかに現代って感じなんだよ。だけど最近とは言えない感じ…。うーん、具体的な年数はわかんないけれど……1900年くらいの部屋だと思う。昔見た海外映画や古い時代が題材のゲームだと見掛ける気がする。
ま、あまり詳しくは知らないから私が間違ってると思うけどね。素人の若造が一目見たらそう思った感じですわよ。おほほ。
んで、先程から私に話しかけていた件の男性である。こちらは一言で表せばダンディなオジサマ……これに尽きる。年齢は…四十代…かな?
え?短い?
あー…うん、まぁ、あれなんだ。今は私が床に寝てて体だけ起こした状態じゃないですか。それで相手は事務机越しなのですよ。
正直ね、あんま見えていなかったんだ…。事務机の手前にいるんだ私は。背があったら見えてたかも…無い物ねだりだけどさ。
「…とりあえず、何時までも床にいるのは辛いだろう? そこが空いているから座るといい。」
そこ…と言うのはソファーの事だろう。確かに床に居たままでは(お互い)話しにくいし、私は素直にお言葉に甘えてイソイソと移動しちょこんとソファーに座る。
うむ。とても座り心地が良い。何様のつもりかと言われそうだけど、良いものは良いのです。内心そう思うのくらい許してほしい。
「顔に出ているぞ。悪い気はしないがな。」
「………」
一瞬で縮こまる私。そんな直ぐに出てました?うそだぁ…。感情表現素直すぎる…。
猛烈に恥ずかしい。床で寝てた事実よりも恥ずかしいよ。え、今お顔が真っ赤になったりしてますかね。
「安心したまえ。まだ、普通だよ。」
「………………」
その発言でなりました。え、本当に私が顔に出しすぎなの?それともこの人が表情から読むのがめっちゃくちゃ上手いの?
もうわからない…とりあえず恥ずかしいのだけは確かです、はい。
「……………。」
「落ち着いたかな?」
「はひ……。」
オチツキマシタ。モウダイジョウブデス。
えぇ、本当ですよ。もう私は冷静そのものです。クールオブクール。
と、まぁ私のせいでまた無駄に時間をかけてしまったよ…。でも自分で思っていた以上に気持ちは顔に出ると学べたからね?
いやー今日は沢山学ぶ日だなぁ!嬉しいなぁ!
「…そろそろいいかな?」
「はい…。」
ダメそうですね。放っておいたら永遠にこの流れになりそうですよ。困ったもんだ私。
なのでもう顔を彼の方に向けてしまいましょう。対話の姿勢に入るのだ。雑念を捨てるのだ。
…そんな私の気持ちがまたしても伝わったのだろうか。男性もペンを置いて私と向き合った。
「少々遅くなってしまったが、まずは名前を聞いてもいいかな?」
定番である。やっぱり知らない人との会話は自己紹介から始まるものだよね。
「カンナっていいます。一応冒険者としてやってます。」
「冒険者…か。」
「えーっと、何か…?」
そんなに気になる事だっただろうか。この世界だと割と認知されている存在って思っていたけれど違ったのかな。
「あぁ、気にしないでくれ。冒険者という存在についてはよく聞くものだからね。」
そう言って彼は机の上に置いてあった紙束を手に持ちパラパラと捲り始め、少し経ってから「これじゃないな。」とまた別の紙束に手を伸ばしていく。
「あ、あのー…?」
「ん、どうかしたかい?」
「お、お名前を…その…まだ聞いていないので…。」
私がそう聞くと、「あー…」と言いながら手を止めた。
うーむ…この人、話の途中で手を動かしてそっちに没頭する少々困ったアレなのでは…?私も似たようなタイプだからよくわかるぞ。
あと…何故か男性は直ぐに名前を言ってくれなかった。目を泳がせ、口に手を当て…まるで悩んでいるかのような…そんな感じである。
自分の名前を忘れる…なんて事は無いと思うので、多分言えないのだろう。理由はわからないが、まぁ色々とあるんじゃないかな。
その後だいたい二十秒程だろうか。男性はようやく口を開いた。
「…イシムラ…A…ダニエル」
「…………え?」
「イシムラ・A・ダニエル。私の名前だ。好きなように呼んで構わないよ。」
「…え、あ、はい。」
私は思わず口をポカンと開けてしまった。思いもよらぬ感じのお名前が出てきちゃったよ。絶対それ今手に持ってる紙束に書いてあった人達の名前だよね?適当に並べましたってか何でバリバリのニッポンジンネームが書いてあるのかが気になるよ。何の紙束ですかそれ。
私は心の中でツッコんでおく。よく耐えた…私にしては頑張ったのではないだろうか。ぐっと堪えていなかったら、今頃スポーンと口から飛び出ていたに違いない。
「何やら言いたそうな顔をしているね?」
「ソンナコトナイデス。」
「……ふむ、まぁいい。」
多分また顔に出ていたのだろう。本当にどうにかしないと今後の人生で困りそうだな私…。意識していかないと…。
「それで、一体どうしてキミはそんな所で寝ていたのかい?」
まぁ結局の所これまでのやり取りにあまり意味は無いのだ。ご挨拶くらいの社交辞令みたいなやつである。
本題…というかお互いの質問の時間はこれからというわけだ。それで最初の問いはコレである。
…うん、いきなりわからない。
「わからない…か。キミには理由も無くいきなり人の部屋に来て、そのうえ床で寝る趣味…もしくは癖でもあるのかね?」
「いやー…そういうのは無い…はず…」
「だろうね…。」
これには二人で苦笑いである。もしくは頑張って空笑いをするべきだったかな?
とはいえ仕方なかろう。一番大事な事柄なのだから。そしてそれがわからないという。男性…えー…ダニエルさんからすれば本当に困ったものだろうに。
「質問を変えようか。そもそもキミはここが何処か知っているのかね?」
気を取り直して…という感じでダニエルさんは一度咳払いをして問うてきた。
……うん、これもわからない。
「…ならば何処から来たのかは、わかるかね?」
えーっと、草原で死んだらここにいました…としか言えないよね?
うーむ、いやいやでもこれをこのまま言っても私達にしかわからないよね…。どうしようかな。
「…あまり、私も言いたくはないのだがねぇ。そんなのをいきなり信じられると思うかい?」
「あははー…そう…ですよね…?」
バカ正直にそのまんま言ってみたらこう言われてしまったよ。うん…知ってた。私達同士じゃないとこうなるのは目に見えていたよ。でも他にどう言えばいいのかもわからなかったんだ。
「はぁー…まぁいいさ…。多分だが、キミは本当の事を言っているのだろう?ならばもう少し細かく教えて貰えるかね?」
私がどうしたもんかと思っていたら、呆れた顔をしながらダニエルさんはそう言ってきた。
「え…というと…?」
「キミ達という存在、何処に住んで何をしているのか…とかまぁその辺りだよ。何故ここに来たのかがわからないのなら、ソレを考えられるようにする。」
ダニエルさんはそこでため息を一つ…
「本気で原因を特定出来るなんて思ってはいないけどね。もしかしたら迎えを呼べるかも知れない…どうせ用事がある訳でもないんだ。雑談のつもりでどうかね?」
ダニエルさんがに持っていた物はいつの間にか全て机に置かれ、指を組んで話しをする姿勢になっていた。その顔は退屈な時間を紛らわすには丁度良い暇潰しが出来たと少し喜んでいるように見えた。
「じゃ、じゃあ私もここの事を聞いても良いですか?こんな形ですけど、折角来たので…。」
「あぁ、勿論。話せる範囲でなら、ね?」
人と…特に男性と話すのは苦手だけど、お邪魔した側として精一杯の努力をしよう。頑張るよ私。会話に花を咲かせてみせようじゃないか。
あれ?またゲームの話しが無い…って書く度に思う作者です
毎度の事ながらもう少ししたら久しぶりのゲーム要素が出てきます、はい…。




