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閑話 鍛冶屋と魔女

遅くなりました。今回はサブキャラの話し

 弟子とその連れを帰し、一人となった工房。自分以外の動きが無くなったその空間で、イニシエスタ・アンルエリは大袈裟にため息をつく。


 「あぁ〜…危なかった…。」


 大事な用事を忘れていた。


 二人にはそう言ったが、これは半分嘘である。全て嘘では無いのかと言われそうだが、全てでは無いのである。


 嘘の部分は()()()()()という所。別に忘れてなんかはいなかった。なにせ元から無かったのだから。


 だが大事な用事は嘘ではない。ついさっき出来たのだから。


 「来るだろうとは思ってたがなぁ…こんな早くに来る必要ねぇだろって…。」

 いつもの事と言えばそうなのだが、それでも愚痴の一つはいいたいものである。


 そして、


 「なんだその言葉は。大切な親友様が来たのだからもっと歓迎しろよ。」

 その相手がこうして既に目の前で立っているのも、いつもの事なのだ。



 背は150かそこら。髪は黒でSの字に湾曲後後ろへ跳ね、前髪の一房が異様に長い。瞳は宝石の様な赤で顔立ちは人形のように整っている。


 お察しの方はその通り、ウィルチェに幻想水晶を押し付けた魔女である。ただ服装だけは変わっていた。


 装飾も少なめでシンプルな魔女服に近かった格好…。

 それが黒を基調とした所は変わりないが、肩を出したレースやフリル多めのドレス風に。しかも当然かと言わんばかりに胸元や袖までフリルである。もはや全身フリルなんじゃないだろうか。見ていてどこの金持ちだと言いたくなるし、とても鬱陶しい。

 そして正面だけは膝上くらいで丈が短いため、脚が出ているがそこには同じ黒のタイツを履いていた。胸焼けしそうな程にクドいフリルだらけと比べて、それは驚くくらい大人しい存在であった。むしろ目立つレベルである。


 総じて典型的な魔女から大きく変わったと言えるが、頭に乗せている黒いトンガリ帽子だけは変わりなかった。



 「あたしの事情に合わせて、来る時間を調整してくれんなら喜んで歓迎してやるさ。ま、今までんな事一度たりとも無かったがな。」

 「連絡は入れただろ。全く欲張りなやつめ。」


 誰が欲張りだと言い返し、イニシエスタは舌打ちする。しかし、実際こいつの言う通りなのだ。『連絡を入れた』…これは確かにイニシエスタは受け取っていた。


 「来るって連絡をわざわざ刻印して()()()()()()()のはどうなんだかなぁ…。」



 …刻印。一般的には武器や防具に特定の魔術効果を付与させる為に専用の器具を使い刻むものだ。文字だったり模様だったり様々な種類があるが、それらを理解し組み合わせ、狂い無く刻印するには相応の知識と技術が必要であり、扱える者は多くはない。


 そしてあまり使われないが、道具や素材自体にも刻印は出来る。

 何故あまり使われないのか……は単純に道具に刻印しても大して効果を期待出来ないためだ。当然だがコストに合わない。

 素材に刻印するにも同様の理由だが、こちらの場合は加工すると刻印が崩れるため無意味になるというのが大きい。



 簡単に言うとこんな感じなのだが、つまりこの小さな魔女はその無駄な素材への刻印をしたというわけだ。


 「しかもよりによって幻想水晶にだ…。世間の連中が聞いたらどんな反応するかねぇ。」

 「知るかそんなの。どうせ使い道なんて無いのだからいいだろう。」

 「けっ、そう言うのも世界広しとお前だけだろうな。」


 幻想水晶…世にも貴重なそれに対し、これからお前んち行くからと刻印するのは流石にどうなんだと、一つや二つ言ってもいいだろう。だが、言って変わるやつでも無いというのはわかっているので口には出さない。でも心の中では文句を言ってやる。


 そしてその刻印されていた幻想水晶というのはウィルチェがこの魔女から渡されていたあれである。魔女には何も話していなかったはず…であるが、こいつの事なので僅かに残っていた魔力の残滓か何かで把握したに違いない。


 (わりかし丁寧に消したと思っていたんだがなぁ…。」

 駄目だったかぁ…と、イニシエスタは一人項垂れた。ここまでの反応でわかってくれると幸いだが、こいつにはウィルチェの事をあまり知られたくなかった。

 なんでって問い質されるからだ。そして大抵面倒事を起こす。下手すりゃ大勢の人間を巻き込むレベルではっちゃける。別にイニシエスタの生活に直接影響が出る訳では無いのだが……色々あるのだ。色々と…。



 「んで、今回は何の用だ。また杖を作って欲しいのか?」

 と、いうことでここは話しの方向を修正…もとい誤魔化しに入る。

 どういう手段で知られたか、などはあまり詮索しても仕方ない事だ。あくまでもうこの話は終わりで本題に入る。これがこいつとの会話では大切なのである。

 

 「んぁ?あぁ、それもあるな。」

 「それも…か。まぁいいそれからやろう。後は作業しながらでいいだろ?」

 「あぁそれでいい。だがなぁ…今回のはすぐ終わるだろうよ。」


 (よし。)とイニシエスタは内心安堵した。完全に話題を逸らせたと。

 しかしまだ油断は出来ない。ここからどんな無茶振り要求をされるかわからないからだ。こればっかりは慣れない…慣れたくない…。こいつの求める武具を普通だと思いたくない、鍛冶屋としての想いである。


 「あまり大層な物じゃなくてな……」


 (さあ何が来る…)

 イニシエスタは僅かに身構える。全てはこいつのせいなのだ。

 例えば近接戦闘に特化した殴るための杖だの……特定の魔法しか使えなくなる杖……折れやすくして折れたら爆発する杖……金やら宝石やらをじゃらじゃらぶら下げた杖のような何か……そしてたまにくる至ってまともな杖…でも素材は贅沢。

 まあその他などなど…といった具合で最早どれだけ作ってきたのかわからない。だが全ての杖に共通している事が一つだけある。



 『全部折れて無くなった』



 これだけは全てに言えた。例外一つ無く、真っ二つにポキリと…はたまた粉々に…作った側としては泣きたくなる。

 別に手を抜いた訳でも無い。一般的な魔法使いであれば年単位、もしくは生涯使える物だと自信を持って言える。

 それをこいつは数時間から数日で壊す。長くても一週間。一月持ったことなど殆ど無い。



 つまるところ作る度に少し悲しくなるのだ。あぁこいつもボロボロにされるんだろうなと。なら作らなければいいとも思うだろうが、こいつには色々あるのだ…。無碍には出来ない。


 「見た目は安っぽい木製…短杖でな。性能はガキが持つような無いよりはマシ程度。予備はいらん。」

 「は?」


 あまりの出来事に、イニシエスタは思わず素で声を出した。己の聞き間違いが何かか…あまりに場違いな内容が聞こえた気がする。


 「何だその顔は。今言った通りだ、二度は言わん。」

 「いや待てよ。何だその杖は。あたしを馬鹿にしてんのか?」

 「私がわざわざここに冗談を言いに来たと思うか?そこらで買うのは流石に脆い。お前なら出来るだろ?」

 「そりゃ出来るがよぉ…。用途がわからん。何でそんな棒きれが必要なんだ?」


 棒きれ…別にそこらの工房を侮辱しているのでは無く、実際あるのだ。魔術の道に入ろうという子供向けで、ギルドや魔術教導院で売られている杖が。

 本当に見習い向けなので、魔法の発動方法を覚えようという段階でしか使われない。使われている素材も安物……一応暴発しても大した威力にはならないから、という理由あっての事だが、魔法を使えるようになれば二度と振ることが無い事から通称が『棒きれ』なのだ。


 それをこいつが要求してきた。それがイニシエスタには理解が出来なかった。こいつは見た目通り魔の道で生きている者だ。今更学び直したいなんていう質でも無く、例えそうだったとしても棒きれを扱うレベルからだなんて事は絶対に無い。



 ならば…

 「相手を馬鹿にでもして暇潰しか?趣味が悪いな相変わらず。」

 「おいおい人聞きが悪いな。今回はただの研究の一つさ。」

 「……そうかい。」


 研究…か。イニシエスタはそれであらかた察する。また碌でもないこと考えてんなと。…魔女の楽しみだと言わんばかりの顔が、もう全てを物語っていた…。





───


 「あたしからも聞くが、いいか?」

 時は少し進み、今は作業中である。と言っても魔女の言葉通り、すぐ終わりそうなものではあるが。


 「珍しいな。お前から聞いてくるとは、構わんさ。何かあったか?」

 「ギルドの事だ。どうやら『冒険者様』共を奴隸以下の値で動かしているらしい。何故だかわかるか?」


 そう、ギルドの唐突な行動が気になったのだ。勘違いしないで欲しいのだが、本来ギルドはあんな値で依頼は出さない。

 そもそもイニシエスタがカンナ達に言った一般的な依頼報酬金額というのは、本来ギルドの基準である。


 それなのにこんな格安以下の無料に近い値段で依頼を出していたなど、これ迄に聞いたこと無い。

 個人依頼で払えるお金が無く、報酬が超低額になってしまった…というのは多少なりともあったが、公式的に行うとは思ってもいなかった。


 それをこいつならわかるだろうと聞いてみた訳である。こいつは様々な場所に顔を出しているはずなので、何かしら知っているはずだと。


 そして案の定、特に思考する事なく魔女は口を開いた。


 「なんだ、遂に奴隸商売でも始めたのかあそこは。まあ、冗談は置いておくか…それで?あの堅っ苦しい中立気取りの連中がそうする理由なんて一つだけだろう?」

 むしろお前は何故わからないという態度で魔女は続ける。

 「『()()()()()()()()()』。これが全てだ。」



 やはりそれしかないか、とイニシエスタはため息をつく。薄っすらと予想はしていたのだ。だが本当にそうだとは思えなかった。しかしこいつの言葉により、それは確信に変わった。


 「ギルドは危険への対価として金を払ってんだ。小さな綻びが死に直結する魔物討伐…無償でやろうなんて馬鹿はまずいないだろ?故に他の仕事に比べりゃ高額の報酬を支払う。」


 それはこの世界に生きる者であれば、子供のうちに教わるであろう事である。ギルドはどこの国にも所属しない完全なる中立組織。

 ありとあらゆる地域の魔物による被害を無くす為、都市発展のための資源集め、未開拓地域での探索などなど…様々な仕事を依頼として登録者へと斡旋している。

 そして基本どれも成功報酬額が良く、一件の軽い依頼を達成してしまえば一月は暮らせるのが普通だ。なので死の危険が常に存在しているのにかかわらず、とんでもなく人気が高い。



 だが…死の危険があるのだ。当たり前だが、人は死んでしまえばそれまでである。どれだけ名声を得た英雄でも、死んでしまえば終わりである。

 実際ギルドの依頼を受け討伐に向かったが、いくら経とうと帰ってくる事は無かった……というのも少なくはない。


 魔物との戦闘で敗北してしまったのか、それとも自然の前に屈したか、食料不足、素材などを巡り仲間との対立……理由は様々である。


 しかし、だからこそギルドは高額の報酬を払うのだ。通常の仕事としての金額に、危険に対する金額を上乗せして。



 つまり…


 「死にもしない…いや死んでも何事も無かったかの様に戻ってくる冒険者には、危険も何も無い。そんな奴等に金を払う気など、更々ないんだよあそこは。」

 「…ギルドにとって、あいつらは客じゃねぇって事かい。」


 イニシエスタの言葉に、魔女は「そうだ」と頷き答える。


 「ギルドは腕っぷしだけの連中にとっては生命線だ。そしてギルドもそれを理解し、そいつらに合わせた仕組みを作っている。

 本来の客はそっちなんだよ。どんなに冒険者様共が優秀だろうと、馬鹿で無能な脳筋共の受け入れ先として運営していくって訳だ。いやはや…お優しい事で…ってな。」

 「なーるほどなぁ…。その内、冒険者共も気付いてギルドから離れ、元の姿に戻っていくって事かい。」



 そもそも、ギルドは自ら『冒険者様』を受入れた訳では無い。創造神からお告げとやらがあった後に各国のお偉い皆様方が話し合いのために集まった。そして数日に及ぶ話し合いの末、中立でありどこの国にも存在しているギルドが初めに受け入れる事になったのだ。


 この時ギルドとしてはあまり乗り気では無かったのだが、下手に断ってどっかの国が出しゃばり世界情勢が荒れる方が面倒だと考え、ギルドは準備を始めた。

 そしてその結果、比較的平和でギルド本部があるオスロンに『冒険者様』が召喚されたという訳である。


 故に堂々と冒険者様方はお断りですと言う訳には言えず、あの様な露骨ではあるが遠回しな方法でやっている……というのが今ここにいる二人が出した結論だった。




 「に、してもだ。随分と冒険者様とやらが気掛かりなようだなシエスタよ。何かあったのか?」


 おっとまずいな、とイニシエスタは素早く察する。逸らせようとした話題が牙を向いてきた。


 「いや、何も無いさ。冒険者が

今日来てな…その時聞いたのが気になっただけのことさ。」

 「ほう、そうか。」


 魔女はそう言うと、もう興味無いと言わんばかりに椅子の上で脚を組み、それに頬杖をつく。


 「ならば何故、冒険者様なんて奴に鍛冶を教えてやっているのか教えてもらえるか。なぁ、シエスタよ?」


 前言撤回。こいつは全然興味無くしてなかった。ただ態勢変えたかっただけだ。こんにゃろう。



 「………あたしが興味を持った。それだけだ。それ以外には何も無い。」

 「ふむ、ふむふむ。なるほど…なるほどな。()()()興味を持った、か。なるほどなるほど、あのお前が、か。」


 クヒヒヒヒ、魔女は楽しげに笑う。対して、イニシエスタはそれを見て苦い顔である。


 「これまで何人、何十、何百、何千、はたまた何万と教えを請われ、その全てをぶった切ってきたお前が興味を持ったと!そっちの方が面白いではないか!

 何故だ?冒険者様は期待が持てるからか?死なないからか?あぁ興味深い……あの冴えない平凡な女がお前には特別に見えたと…なるほどなぁ?」


 「わかったわかった認めよう…。確かに期待はしてる。どこまであたしに食らいついてくるかが気になったんだよ。…だがらな、頼むから手は出すなよ?あいつはあたしのもんだからな。」


 観念したとイニシエスタが両手を挙げてそう言えば、楽しげにゲラゲラ笑っていた魔女はスンと静かになる。傍から見ると情緒不安定にしか見えないため心配されそうだが、こいつは至ってマトモである。妙に演技ぶるだけだ。



 「安心しろ。言われなくても手は出さん。仮に出したとしても大したものは見れなさそうだしな。」

 「それは…ありがたいねぇ。」


 イニシエスタは内心ホッとした。一見すると信用性皆無であるが、こいつがこう言ったらまず絡む事は無い。今までの傾向からするに余程のことがない限りは安心である。


 (いやぁ…よかった…。)





───


 その後、当初の予定通り、大して時間も掛からずに一振りの杖が完成した。

 いかにもそこら辺で売っていそうな…特徴も無く、荒削りした棒の先端に安物の魔石を埋め込んだだけの物…この世界の人間なら殆どが知っているであろう物である。


 そしていざ出来上がったそれを見て、魔女は満足気に頷く。


 「流石だな。どこからどう見ても『棒きれ』だ。完璧と言わざるを得んなこれは。」

 「そりゃよかったよ。耐久性だけは上げたつもりだが…丁寧に扱えよ?所詮は『棒きれ』だ。普段のに比べりゃ脆いからよ。」


 それに対し、わかってるよと魔女は手を振りつつ答える。その様子を見てイニシエスタは確信した。


 (あぁ…これは折るな。調子に乗ってポキっといくのが目に浮かぶ…。)

 さらばあたしの渾身の『棒きれ』。どんなに価値が低かろうと、自分が作った武具というのはどこか特別に見えるものである。それなのに、未来が決まっているとなると悲しくもなるってものだ。



 そんな鍛冶屋の想いなど知ってか知らずか、魔女は椅子から立ち上がり、イニシエスタに告げる。


 「それでは、私はそろそろ帰るとしよう。早速やらねばならぬ用があるのでな。」

 「…………んぁ?まじで言ってんのか…?あの、お前が?」


 イニシエスタは素直に驚愕という表情で魔女に聞き返す。対して魔女は「何を間抜けな事言ってるんだお前は」と言ってきた。


 だがイニシエスタがこういうのも無理はない。というのも、この魔女はすぐに帰ることがまず無い。一つ話題を終えたらすぐ次の話題、一つ作業を終えたらまた一つ作業が…といった具合に半日どころか一日居座るのが普通であった。

 言動やら何やらでわかりにくいのだが、こいつは他人といるのが好きなのだ。ただ正直ではないのである。そこが実に面倒くさいのだが…本人に言うと文字通り半殺しになるので口には出さないようにする。


 しかしそんな彼女が今日は一時間程で終わりだ帰ると言うのだ。珍しいにも程があるものである。


 「言っただろう。用がある、と。探求は急ぐものであると私は思っている。お前も知ってるだろう?」

 「まぁ…それは、もう痛い程わかってるが…。」

 「またすぐ来るさ。その時には成果を見せてやる。期待していろ。」

 「わかったよ。お前がそこまで急ぐ事なら、あたしもお言葉に甘えて期待させて貰おうか。余程のものなんだろ?」

 「ふっ…そりゃ当然さ。ではな。」




 そう言うと、魔女はイニシエスタに背を向け、工房の出口へと歩き始める。

 そしてすぐに扉に辿り着き、ドアノブに手を掛けた所で、ふと何か思ったのかこちらに振り向く。


 「なあシエスタよ。」


 そこにはこれまでの自信に満ち溢れた…人を弄るような表情では無く、外見相応の少女の様な寂しい表情を浮かべている魔女がいた。


 「お前…退屈していたのか…?」


 その声音は、とても…とても、後悔しているかのように聞こえた。そしてそれは『ように』では無く、実際そうなのだろう。


 「何言ってんだ。あたしは退屈なんかしちゃいない。やりたい事なんて次から次へとやってくるんだ。そんな暇ありゃしないさ。」


 むしろ、


 「足りない。あたしには時間が足りなさすぎる。足りない時間でどこまでの事が出来るのか、それすら考えるのが楽しいね。」


 イニシエスタは笑いながら、嘘偽りなくそう答えてやった。お前は何も心配しなくていい、そう思えるように。


 「そう、か。お前はよく出来た子だな…本当に。すまん…またな…。」


 最後にポツリと言って、魔女は扉を開け外へと出ていった。一人工房に残されたイニシエスタは、ハァと溜め息をついてから、再び鎚をその手に握る。





───

 「はぁ…行っちまったな。」


 再度…今度こそ一人になった工房で、イニシエスタは椅子に座ったまま伸びをする。まったくどうして…今日も今日とてのんびり未熟な弟子と過ごすつもりだったはずなのに、とんだ大仕事が入り、その上入れ替わりに魔女ときた。溜め息の一つや二つ出るってものだ。


 「にしてもあいつの服装はどうにかならんのかねぇほんと…今回のは流石に少女趣味が過ぎるだろ…。」

 別に少女であるのは事実なのでそれも問題無いと言えばその通りなのだが、目立ち過ぎないかが気になるのだ。あと見てて鬱陶しい。


 「…ま、いつもの事…か。」

 誰かに話す様に独り言をボヤきながら、イニシエスタは作業台に突っ伏す。その様子は傍から見れば急に倒れたと思う程にいきなりであった。


 「大丈夫…。嬢ちゃんへは、後で話すよ…。いくら何でも、ほっとく訳にゃ、いかんだろうよ。」

 一人の筈なのに、言葉が途切れながらも彼女は口を動かし話し続ける。

 「片付けも後でやる…。だからさ…今日はもう、いいだろ…?」

 言い終えた彼女のその目は、既に閉じられていた。

 「……あぁ、ありがとう。おやすみ。」


 誰かに言うように、眠りの挨拶を終えた彼女は安らかな寝息をたてはじめる。





 無音になった広い工房。だが、その静寂はすぐに終わる。


 「おはようございます、皆さん。さぁ、今宵も私達の為に、素晴らしき終わりへと向けて張り切っていきましょう。」


 世界は夜である。勝者は悠々と眠り、敗北者は無様に藻掻き苦しむ。そんな静かで長い夜の、始まりである。


 

 投稿空いちゃいました。理由としては作者がどっぷり遊んでたからです。あとは仕事から帰ると疲れて執筆する気力が出ませんでした。時間をください。


 最低限月1はやっておきたい所存ですが、あまり更新頻度は期待しないで下さい。とりあえず言える事ですが、更新停止や書くのを辞める事は無いです。作者個人として当作品の世界だけは終わらせたいと思ってますので…。


 後は、作品のあらすじやタグを編集するかもしれないです。主にゲーム要素が薄いなぁとか、もしかしたら一般的に見たら軽い百合になってしまうのかと不安になってきた為。


 最後に予めここで書きますが、作者の中で終わりだけは決めてます。行きあたりばったりなのは中だけです。何年後になるかは不明ですが、おう読んでやるよという方は今後共よろしくおねがいします。

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