不遇職と鉱石
本戦に滑り込み
「んじゃよ、嬢ちゃん。当然の事だが、作ってやるとは言ったが無償でやる訳じゃねぇからよ。…まあつまりあれだ、幾ら出せるんだ?」
改めて始まった私の装備&腕製作であるが、開口一番イニシエスタさんが発した言葉はこれだった。
いや大切だし当たり前だよね。お金とか報酬の事はしっかり決めておかないと大問題だもんね。わかるわかる。
……でもさ、皆さんご存知かと思われますがね。私の所持金というか全財産なんて多分だけど、端金もいいとこのレベルしか無いのである。
だってポーション買うだけで無くなりそうな額だよ。ほぼ初期装備レベルの物でしかもおまけみたいなローブ用のフード付けるのが精一杯だったんだよ?
なのに一から装備製作なんて絶対足りないじゃん。分割払い対応なんですか。ローンでもいいですか。人生初の借金はゲーム内でした、なんてのは中々ぶっ飛んでませんかね。
まあ見栄張ったり嘘ついても良い事は無いだろうし、ここは素直に言いましょう。
「……わかっちゃあいたが、無一文だったかぁ。」
「あの…ほんと…すいません…。」
案の定というか私の所持金を聞いたイニシエスタさんは、天を仰いで呆れてしまった。いやーこれはまずいぞ。どうしましょうかね。
「てかよー、嬢ちゃんは魔物討伐をしてんだろ?何でそんなに金が無いんだよ。豪遊でもしてんのか?」
「いやいやいやいやそんな豪遊だなんてしてませんよ!そもそもそんなお金無いですし!準備費用と宿泊と食費だけですよ。」
何でそんなお金持ってると思ったのですかイニシエスタさん。魔物討伐に夢ありすぎですか。
「んん?じゃあ尚更何で金が無いんだよ。」
「え?」
「いや嬢ちゃんこそ、むしろなんでそんな反応なんだよ。……もしかして依頼も無しに外に出て魔物狩ってんのか?」
ならまだわからんでもないな、と心底不思議そうに彼女は首を傾げる。
はて、何かおかしい。どうしてこんなにイニシエスタさんは不思議がっているのだろう。新米のペーペーがあまり稼げないというのは割と普通なのではと思っているのだが、違うのだろうか。
「嬢ちゃんそりゃ間違ってないがなぁ…幾ら新米だからって装備を揃えられないくらい金が無い訳ないだろ。
そんな装備に回せないくらいの稼ぎでどうやって生きてくんだ。それに買い換えなくたって修理は必要だしよ。
真っ当に討伐稼業で生きてんなら新米だってそれくらいは稼いでるよ。」
試しに聞いたらこの回答である。まあご尤もな事だ。
「でも現に私はこの通りなのですけども……。」
「……なあ嬢ちゃん。一度の依頼でどれだけ貰ってる?」
「えっと…確か…」
2000だったかそこらだった気がするような。もっと多かったっけ?これまた頭から吹き飛んでるよもう。
しかしまたどうしてそんな事を…
「嘘だろおい…それどこのだよ…。」
え、待ってなんか凄い驚かれたんだけど。目を見開いて信じられないみたいな表情してるよ。
「どこのって…ギルドのですよ?」
「馬っ鹿言えよ!?そんな子供の小遣い程度の金額でギルドが依頼出す訳ねぇだろ。」
子供の小遣い…そんなレベルなのこれ。でもでも普通にみんな受けてるしさ。
「はー…いいか?ジャイアントアントの討伐ならその二十倍は貰える。ロケットラビットなら十五万でも安いぞ?」
「……はぇ?」
んんー?今凄い額が聞こえた気がするぞ。桁を聞き間違えたかな。
「何でお前は驚いてんだよ。これくらい魔物討伐なら普通だろ。」
「いやいやいやいや待ってくださいイニシエスタさーん!?だって私は本当にそれしか貰ってないんですよ!なのになんですか普通って!?」
驚くわこんなの。私の金銭感覚狂うよ。ほらほら見てよ、ここまで口を全然開いてないウィルチェもうんうん言いまくって物凄く同意してくれてるよ。
「わ、私もギルドへの納品で同じくらいだったよ!?それもおかしいの!?」
あ、遂に口を開いたぞ。ついでに少し抱きつきが緩んで涼しくなった。
「ボッタクリにでもあってんじゃねえのおめえら。ギルド納品だって見習いの鍛冶屋にゃ定番の稼ぎだし、その納品物だって兵士共が使うんだ。相場通りの額が支払われるに決まってんだろ。」
「うっそー……。うえぇそんなー…」
打ちひしがれたがようにウィルチェはズルズルと私の体に崩れ落ちる…というかまた元に戻ったねこれ。どうしちゃったのさほんと。
「かぁー、むしろあたしが聞きてえよ。なんでギルドがあんたらを奴隷みてぇな扱いしてんだ。教会と違ってまともなはずだったんだかなぁ…。」
「はぇー…知らにゃいですぅ……」
知らぬ内に奴隷と同等の扱いだったと知って私もカウンターへと崩れ落ちる。なんなのだ…どっちが正しいのだ…。訳がわからぬ。
「あぁー…おいおい二人揃って突っ伏さないでくれよ。こっちとしちゃ嬢ちゃんが無一文の理由がわかったし、それなら幾分か考えてやるからよ。」
あーカウンターの木目がキレイですわー。これはいい木材使っておりますなー。わからないけどさー。
「戻ってこいおら!現実見ろこんにゃろ!」
「あいだぁい!?」
「お前もだウィルチェ!」
「ぐふぅ!?」
戻りました。いえす、私は強く生きますマム。超痛い泣きたい何この人、力強すぎない?ウィルチェなんて戻るどころか逆に気絶したよ?白目むいてるよ?
「あ、やりすぎたわ。すまんすまん。」
「いえいえ…私達もあまりに衝撃的過ぎたのでいいんです…はい。」
「まー、なんだ…あれだ。これからは他のとこで依頼受けるなり、手に入れた物はあたしとかちゃんとその道の連中に直接売りにいけよ?今のままじゃいつまで経っても稼げないからよ。」
はい。心に刻み込みます。にしてもこれ知らない人のが絶対多いし、私達とても運が良いのでは。いや頭が上がりませんよほんと。物理的にも上がらなそうだけど。
「よぉし!んじゃ話が逸れまくっていたが、今度こそ嬢ちゃんの物についてだ。……もう無いだろうな?」
「無いですよ?」
気を取り直してという感じで姿勢を正す私とイニシエスタさん。そしてまた脱線しないかと警戒しておりますが、もう無いはずだよ。多分、うん…多分…ね?
「まあ結局さっきの話しから続いてたりするんだがな。嬢ちゃんは確か昨日の素材は持ってるんだったよな?」
「そうですね。どこにも売ってないですし誰にも渡してないですよ。」
更に言うと自分でもまともに見てないよ。何がどれくらいあるかも把握してないからね。
「なら見せてくれるか?数があるならそれを使って素材分の代金は0にしてやらぁ。」
おおそれは助かりますよ。というか鍛冶職人への個別の製作依頼なら素材は持ち込みが基本じゃ無いのかね。仕組みがわからないよ。
まあ今はいいか。とりあえずインベントリを開いてっと…
「それじゃあ出しますけど…どこに置けばいいですかね?」
チラリと見えるインベントリの中身。じっくり見なくてもわかるくらい、たらふく物が入っておりますよこれ。いや自分でも驚きだよ。倒した数より多くない?どゆこと。複数ドロップとかあるのかな。
とまぁ、そんな数をカウンターにドーンとばら撒くのも悪いしねってことだよ。
「気にせずここに置いてくれ。なんだ、それともそんなデカいもんでもあるのか?」
「あー…いえその、数が少しあるかなって感じです。」
「なら小分けにしてくれればいいさ。あたしが見たらそっちの空いてるとこにでも除けるからよ。」
「わかりました。」
そう言って後ろを指差すイニシエスタさん。どうやらカウンターの裏に大きめの台があるようで、そういうための物なのか上には何も乗っていなかった。
そしてそれを確認した私は、やっととばかりにインベントリから見た目は少し大きめの石にしか見えないアイテム群を取り出し、カウンターにゴロゴロと置き始めた。
とは言っても、種類ごちゃ混ぜで出すと面倒だと思うし、スタックされているごとに出してくよ。
まぁアイテム名は鑑定とか無いから〈石〉と飾りっ気も無くシンプルに表示されているだけなんだけど、スタックされているという事は一応違うアイテム同士なんだろうね。きっとね、多分ね。
とりあえず一種類…と思われる石ころ共を出し終えた所でイニシエスタさんに見てもらう。一応そんな感じで私から言っておいたので変な間は無いよ。
え、これで終わりですかとかそんなやり取り一々するのも気不味くない?そうでもない?
「ふーむ、まあこいつらは〈鉄鉱石〉だな。特筆する事も無いし、どんな物かは嬢ちゃんでも大体わかるだろ?」
「あー、はいそうですね。」
「んでこっちは本当に只の石ころだ。あたし達に使い道は無いから、そこらへんの草むらにでも置いとけ。」
「は、はぁ…?」
イニシエスタさんの鑑定?でいいよね、が一つ終わり、ごちゃ混ぜの石ころ共が〈鉄鉱石〉と〈只の石ころ〉に分けられた。
うん、特に言う事は無いな。鉄鉱石なんて大抵のゲームに出てくるし、意味や使い道なんかも大体は同じだよね。
にしてもスタックされているからと言って、全部がそのアイテムって事じゃ無いんだね。完全なハズレ商品が混ざっておられるよ。草むらにでも捨てとけってくらい価値無い程みたいだし。
ん、あれ?
そう言えば何か鉄鉱石の見た目が変わった気がする。何ていうか、微妙に色が変わったと言うか、普通の石ころでは無いなとわかる程度には違って見える。
不明なアイテムから鑑定で判明したから…なのかな。試しにタッチからの詳細出してみると〈石〉から〈鉄鉱石〉に変わっているし、そういう事なのかね。
まあ後で調べればいいや。はよ次出せみたいな顔でイニシエスタさんが見てるし、ちゃちゃっと見せちゃいましょうねー。
てことでゴロゴロと次のスタックを取り出す私。こっちはさっきよりも数が少ないかな。
「はい、お願いします。」
「ほいよっと。」
そうしてまたカウンターの上で二つに分別されていく石ころ達。はてさて今度は何なのかなー。
「うし、まずこっちの多い方がまた只の石ころだ。」
「えっ!?」
暫し待った後、イニシエスタさんはそう私に言い放った。
まあ当たり前だけど言われた私は驚きだよ。さっきと同じで多い方が使い道あるアイテムだと思ってたよ。それがまさかハズレとは残念過ぎる。
「うぅ…じゃあそっちの少ない方は…?」
半ば声に出ているが、内心しょんぼりしつつ、私は十個程しかないアイテムであろう石ころ達に希望を寄せる。
「おう、こいつは〈魔鉄鉱〉っつうもんだ。ま、これもそこまで言う事は無いな。」
「あのすいません、わかんないです…。」
おうおう、いきなりゲームちっくなファンタジー鉱石がご登場してしまったよ。いやまぁ何となくはわかるよ。でも念の為…ね。
「わーったわーった。簡単に言えば魔力を多く含む鉄鉱石だ。主に杖の類に使うもんだが、鉄鉱石より脆い。補う方法もあるが素人にゃあちと難しいかもな。」
あ、はい。大体予想通りの物だった。だけど鉄鉱石より脆いとはまたどうしてなのかね。メタな事言うとバランスの為だろうけど、何かしら訳があるんだろうね。
「あとは鉄鉱石より産出が少ないってのはあるが、これだけありゃ充分だ。だから心配する必要は無いぞ。」
「ほおほお、なら安心ですね。」
今は私の装備以外に使う予定も無いので、足りるのなら問題は無い。最初は少なくてがっかりしそうになったけど…まま、いいのですよ。
「まだあんなら出してくれ…っても嬢ちゃんくらいの腕だとこれ以上の鉱石は無いか?」
「えーっとぉ…鉱石と言えるかは微妙なんですけど、あります…ね。」
「ほお、何か珍しいもんでもあったか?」
まー、珍しいかもわからないけど何体かありますよ。うわ改めて今見ると少し気持ち悪い。
「よいしょっと…そい!これなんですけど…。」
だが出さぬ訳にも行かぬので、背中を持ってあまり見ないように取り出す。するとイニシエスタさんは驚きの表情をして、
「おいおい鉄鉱虫じゃねぇか!それも丸々の!おーいおいおい嬢ちゃんやるじゃねぇか。」
「そ、そんなに良い物なんですか…これ?」
私が聞くと、彼女は興奮気味に答える。
「いいもんの中でもいいもんだぞ。ここらで採れる鉱石の中じゃトップクラスに良い。それにここまで状態がいいんだ、もう申し分ない高級品だな。」
その後もイニシエスタさんの解説は続く。余程珍しいのか少し早口になってるし、その口調も楽しげだ。
「奴らは魔物だからよ。ただ倒すだけじゃ消えちまう。それに上手く残せても傷で駄目になったりもしやすい。だがこいつらは傷も殆ど無く素晴らしい!
あぁそうだった。使うのは背中の石なんだがな、目当ては中身の方になる。表面付近は防護用のどうでもいい石だ。
んでよ、表面を削ると翠色した石になるんだ。〈翡翠鉄鋼〉っつうんだがな、こいつがとんでもなく硬い。武器に使えば一級品間違いなしってくらいだぞ。」
は、はひ…。とにかく凄く良い鉱石なんだって事がわかりました。はい。
その後も長々と凄い素晴らしいとか色々と語った後、「いやー久々にあいつ以外にいいもん持ってきてくれる奴が来たわぁ。」なんて言いながら頬擦りまで始めちゃった。客観的に見たら蜘蛛に頬擦りしてるのと同じっちゃ同じでだいぶ危ないですぞ。
ま、まあ悪い事じゃ無いからいいんだけどね。
にしてもこれの入手なんて、ひたすら崖下に叩き落としてただけだったんだけど、死体を丸々残すのは難しい事だったんだね。
運が良かったのかな。んでその後盛大に運が悪かったのもこれのせいか?
「うぇっふん!すまんな、取り乱した。」
暫しの大興奮の後、イニシエスタさんは落ち着いてくれた。その…なんですか…そんな一面もあるんですねって感じでございます。いいと思いますよ。はい。
「一応それで鉱石は全部です。後は鉄鉱虫の脚だけとかそんなのです。」
「あー、ならそれも一応貰えるか?加工すりゃそれも使えるんだ。」
はーい、ってことでドサッとあまり見た目的によろしくない鉄鉱虫の一部だった物達を出していく。これ苦手な人はダメな絵面だ。ウィルチェが気絶していてよかったかもしれない。
「よしよし、予想以上だったぞ嬢ちゃん。これなら新米にゃ充分どころか過ぎる程のもんが作れるぞ。」
「恐縮です。えと、腕の分も含めて足りますかね?」
「ん?余裕余裕。〈魔鉄鉱〉と〈翡翠鉄鋼〉で充分だろ。後は〈鉄鉱石〉と前に嬢ちゃんが手に入れたっていうアントの素材で、腕の付け根から覆える篭手でも作ってやる。」
お、それはよかったですよ。貴重で性能高いけど作るには足りないなーっていうのが一番悲しいからね。あとアントの素材はウィルチェが渡してくれてたのかな。
「んじゃ細かいサイズとか計るからちょいとこっち来れるか?」
「はーい。」
と、私が移動しようとした時…
「はへっ…わたしはいったいなにを…?」
気絶していたウィルチェが目覚めた。めちゃくちゃ抜けた声を出しながら。
「おはようウィルチェ。」
「……おはよう、カンナちゃん…?」
どうやらまだ覚醒はしてないようだ。余程強く叩かれたらしい…まあステータス的なあれだろうけど。
「おう起きたか。今から嬢ちゃんの腕作るからよ。お前もとっとと準備しろよ。」
「えっえっ、もう作るの!?あわわわちょっと待って下さいなー!」
いまいち状況がわかってなさそうではあるが、ウィルチェはパタパタと奥に行こうとして…不意に止まった。
「…そうだ。イニシエスタさん。私見せたい物があったんですよ。」
「あぁ?お前が?」
んん?ウィルチェが見せたい物…はて。どこかで何か買ったのかな。だって外に出て採掘とか採取をしてたって事は無いだろうしね。なんだろうか。
「今日カンナちゃんを連れて帰る前にですよ。」
思い出すように、ウィルチェは続ける。
「変な魔女っぽい格好した女の子に渡されたんです。『わかる奴にはわかる』って感じで。これなんですけど…」
そう言って彼女は真っ黒…だけど薄っすら透明な拳程度の石を見せてきた。
直後、イニシエスタさんの顔が鉄鉱虫を見た時よりも圧倒的に驚いた顔になる。
「…おい。お前これが本当に何だかわかんねぇで言ってんのか。」
これまでの会話で無かった程に低く問いただす口調で、イニシエスタさんはウィルチェに話す。
「冗談抜かせ。それを渡された、なんていう話を信じるのは赤子かゴブリンくらいだ。」
「『幻想水晶』。お前程度が持てる…いや見れる筈も無い。どこから盗ってきた。誰を殺した。何人殺した。言え。」
工房の話が終わる訳が無く、後1,2回はやるんじゃないですかね。
予定では全部の話をこんな長々やるはずではーと思っているのですが、書いてるといつの間にかこんな事になってます。
短く正確に書けるっていうのは凄いですよねほんと。私には無理です。
本戦走るので次回は月末か来月初めくらいですかね。気長にお待ち下さい。




