不遇職とゲテモノと
短め
やる事が…やる事が多い…!
「いやー!やっぱり何か食べると気分もよくなるねぇ。そう思わないウィルチェ?」
「あー、うん…うん。ソウデスネ。」
あ、どうも。只今私達はウィルチェがお世話になってるっていう人に会う為に、宿から出て真昼の人混みを眺めている最中です。
んでついでに遅めの朝ご飯というかお昼ご飯というか、そんな感じでそこら辺で売ってたお肉をむしゃむしゃしてるってとこ。
あとロットは宿の受付に預けた。契約したのなら一緒にいた方がいい気はしたけど、宿の従業員から受ける待遇が気に入っているのか、そそくさと受付のおばさんへと跳ねていった。
それでいいのか魔物よ。それでいいのか従魔契約…。
「どしたのウィルチェ。何かあった?」
んで、なんていうか。さっきから隣を歩いているウィルチェが元気が無いように見えるのだ。はて、何かあったのかな。
「いやー…別に何にもないし元気なんだけどね。カンナちゃんさん元気出過ぎじゃないですかね…カンナちゃんこそさっきまでのしょんぼり具合はどこに置いてきたのさ。」
「そんなのお肉代と一緒に置いてきた!なんたってこれから色々作るんでしょ?そう思うとわくわくするじゃん。あとお肉美味しいし。」
「…まぁ、うん。よくわかんないけどカンナちゃんが元気になったのならいい事だ…うん。」
そう言って片手で顔を覆うウィルチェ。そんなに変わってたかな…。
「にしてもカンナちゃん…また随分とガッツリいってるよねぇ。美味しいのそれ…?」
「おいしいよ?なんで?」
「いやぁ…そりゃあ…見た目がね…ちょっとね?」
うーん?
見た目…か。うむ、確かに変わってるとは思う。でも美味しいからいいのだ。
「いやさ、そもそも絵面がでっかいイモムシだからね!?何そのサイズ!?ゲテモノじゃない!」
「まーまー、ウィルチェ落ち着いて。外見はこんなでも味は牛肉だよ。ちゃんと輪切りにされてるし、全体見なきゃ大丈夫大丈夫。」
「その段階でおかしくない?普通に牛肉食べたくない?」
うむうむ、それは言ったらダメなのだよウィルチェ。私だってこれと普通の焼き肉が並んでたら普通の方を選ぶよ。
「でもここにはこれしかない訳だし、折角こんなファンタジックな世界にいるんだからさ。こういう怪しいのを食べてみたくなるじゃん?」
「そういうものなのかねぇ…。いやぁでも私には無理だよぉ。」
言いながらウィルチェはブルブルと身震いした。あれだね、虫がダメなんだろうね。わかるわかる、私だって苦手だ。
ま、でも料理になっちゃえばメチャクチャグロテスクな外見の物以外はいけるのが私だ。例えばイナゴとか簡単でわかりやすいのかな。
それで今私が食べてるおっきなイモムシの輪切りの焼き肉…うん、そうとしか言えないのごめんね。私は食レポとか無理だから諦めて。
おっとズレた。んでこいつは【ビーフカタピラー】っていう魔物らしい。もう名前からして肉って感じだね。
見た目は何度も言ってるけど大きなイモムシ、全長30センチはあるし、直径も15センチくらいはある。脚とか顔は切り落とされてるからわからない。
あと一応ゲテモノみたいだけどゲテモノでは無く、この世界では割と一般的な食材らしい…うん。
特に人を襲うような凶暴性は無いし、そもそも攻撃の手段を持っていないらしい。基本的にマイペースで、お腹が空いたらそこらへんの植物やらを適当に食べて寝る、とかいうニートみたいな生物なんだとさ。現実の私みたいだね。
まあそんなんだから専用の牧場?も結構あるらしい。普通の牛肉と味もそんな変わらないし、育成コストも安く、それ故購入価格も安い。正に庶民の味方なやつなんだって。
らしいとかそんなのが多いのは、店内に置いてあった資料を読んだだけだからだ。よくあるじゃん、テーブルにメニューと一緒に置いてあるあれだよ。
「もぐもぐ…それでウィルチェがお世話になってる人ってどんな人なの?」
大体半分くらいのお肉を胃に収めた辺りで、私は諦めみたいな遠い目をしているウィルチェに聞く。
「……はぇ?んぁっあーはいはい何でしょうか!?」
「むぐむぐ、今日はウィルチェの方が丁寧な言葉が多い気がするね。」
とりあえず私は再度ウィルチェに聞き、お肉を口に放り込んだ。
「あぁはいはい。えっとね、『適当だけど凄い人』かな?いい人だよ。」
「はー…なるほどねー。わかったようなわからないような……。でもまたどうしてそんな人に会えたのさ。」
別にウィルチェの社交性を疑っている訳ではない。まだどんな人かも会ってないからわからないが、気になっただけである。
「うーん、期待するような展開では無いと思うんだけどなぁ…。」
と言いつつも、ウィルチェは続ける。
話しは私がロケットラビット狩りの素材を渡し、何か装備を作るよーという所まで遡る。
ウィルチェはまず鍛冶を教えてくれる人物を探す事にしたそうだ。何故最初にそれを?と思ったが、当然訳があった。
それは、『このゲームの生産難易度が高過ぎ』、これに尽きる。様々な細かい所が無駄にリアルなえふこねさん、どうやらそこもリアルだったらしい。
こう適当にカンカン叩いてれば完成する。なんて事は当然なく、何段階とある工程をこなさないと装備の生産は出来ないらしい。当たり前だが私はそんなの知らんよ。
それにどの素材がどういう効果があるのか。何と何を組み合わせたら良いのか。各素材の加工方法は……などなど、基本的な鍛冶知識のヒント的な物もシステムでは助けてくれないとか。厳しすぎない?
一応チュートリアルと言えるギルドのクエストで貸工房を使用すると教官的なポジションの現役鍛冶職人が教えてくれるのだが、如何せん利用するプレイヤー数が多すぎて手が回らない状況らしい。
それ故二日目でもう一対多の教え方に変わったが、あまり改善されなかったようで…。
まあ全体の一割が生産職としても一万人な訳で、その半分が鍛冶職人としても五千人。それだけの人数を全て丁寧に教えていくのは無理難題だって事くらい私にだってわかる。
教本的なあれを作ればいいじゃないと思うんだけど、人の身を守る重要な物だから、教える側も出来る限り見てやりたいとかなんとか。いやはや、大変ですなぁ。
他人事みたいだけど、装備を作ってくれる人達がいるから私達戦闘職は冒険出来てるんだし、蔑ろにしちゃいけない事だよね。反省。
まーそんなこんなで色々厳しい生産職の世界を見て、ウィルチェは早々にギルドでの鍛冶チュートリアルは諦めたらしい。
それでまずは鍛冶が盛んだという北地区で探していたみたいなんだけど、これといって気になる所が無かったらしい。
というのも確かに様々な武器防具…はたまた道具などあらゆる種類の物を売る工房があったが、その殆どが失礼ながら普通の物…つまりは扱える人をあまり選ばないように作られていた物だったようだ。
でもそれは別に悪い事では無いし、むしろ高い技術が必要な事だろう。細かな調整が必要なはずの装備なのに、ある程度の人がしっかり使える。凄い事だと私は思うよ。
だがまぁウィルチェが作るのはそういうのでは無く、特定の個人…つまりは私の為の装備である。だからウィルチェはこれから向かう工房の職人に師事したとか。
そして場所はそもそも北では無く、東寄りの中央。気分転換に違う所も歩いてみるかという時に見つけたらしい。
そこの装備は何やら人を選びまくるような感じで、他とは違う気がした…みたい。というか選びまくるような物ってそれはそれで怖いのだけど。大丈夫なのかな、少し不安になってきたぞ。
…戻そう。工房の主であるその人も弟子的な立場の者はとったことが無かったらしいが、『冒険者の鍛冶職人』というものに興味があったようで、割りと軽く了承してくれたそうだ。
「ふぅ、ザックリだけどこんな感じだよ。ね?あまり期待するようなものじゃなかったでしょ。」
ウィルチェは一息ついてそう言った。
「いやいや、ウィルチェも大変なんだーっていうのがよくわかったよ。」
「それはなによりで…。まぁ、後は実際に見て会えばわかるよ。ここからそんな離れて無いしさ。」
うんうん、百聞は一見になんたらっていうやつだよね。少し不安な気持ちが浮上してきたけれど、凄い人だってウィルチェが言ってるんだから信じようじゃないか。
ま、ならとっとと目の前のイモムシお肉を食べちゃわないとね。ひょいっと。
「…カンナちゃんさ。左手しかないのにほんとよくそんなひょいひょい食べられるね…。利き手右でしょ?」
「むっふーん。それも考えてこれを選んだからね。絶妙に刺しやすくて食べやすいよ。ウィルチェもどう?試しにさ。」
「いーやー私は遠慮しとくよ…。」
むぅ…美味しいのに。
それを少し残念に思いつつ、私達は食事を続けるのだった。もぐもぐ。
日々の消化と掘り作業が終わらない作者です。あと2週間程でたのしい戦いが始まるというのに武器が終わる気しません。干されそう。
たまにはのんびりとした所も出しとこうという気分でした。カンナさんの頭は作者並みに単純なので美味しい物食べれば元気出ます。
生産の複雑、高難度はゲーム的に初心者バイバイですが、元々この世界で活動している人達の立場を考えた結果こうなりました。
次回は工房へ到着…予定。日にちはいつも通り未定です。




