不憫兎と不遇職
兎と戯れ
【ロケットラビット】、見た目は普通の白い兎に似ているが額に一本の角が生えており、魔力を身に纏っての高速突進もとい突撃を攻撃手段としている。
並の鎧程度であれば容易に貫くほどの威力を持つが、代償として一度突進をすると魔力回復が完了するまで何も攻撃できなくなる。
また突進中は曲がる事ができない為、回避して何も出来なくなった所を攻撃するのが一般的な討伐方法である。
街道を進む商人の馬車に度々突っ込んでくるので討伐クエストが頻繁に出されているが、人気が無い為定期的に衛兵から討伐隊が組まれている。
―――
私の目の前には白い兎…もといロケットラビットがいた。連続での突進は出来ないのか、今は私と向き合って威嚇?している。
「こうしてみると見た目はいいよねぇ。これを倒さないといけないのかぁ…。」
そう、見た目だけはこのロケットラビット…とても愛くるしいのだ。そりゃ外見が普通の兎と大差ないのだからそうなのも当然なのだが…。あぁ、撫で回したい。
とはいえそんな悠長な事を考えている暇ではないのもまた事実。こうして時間を掛けている内にこの距離で突進されては回避するのも難しいだろう。あんなの食らったら即死待ったなしだ。外に行く度に死に戻りで帰るなんてしたくないよ。
「よし、君には悪いけどこの世界は厳しいのだよ。『マジックショット』。」
意を決した私はロケットラビットに対して攻撃を開始した。てっきり回避も素早いのかと思っていたんだけど、その動きは正にただの兎であった。つまりは直撃した。
何だか呆気ないと思いつつ、一撃では倒せなかったのでもう一度魔法を発動し倒しきった。
「うーん、やっぱり何か可哀想になってくるねこれ。」
可愛いものは愛でたい、そんな私です。そんな甘さじゃやっていけないんだろうけどさ。
ここは心を鬼にしてやらねばならぬのだと気持ちを切り替える。やらねばやられるのがこの世界、弱肉強食とは残酷なものよ。
とりあえず一体分の経験値は蟻よりも多いようで、クエストクリアまで狩ればレベルも上がるかなという感じだ。なおドロップアイテムは〈兎の毛皮〉が一個だけだった。私に使い道あるのかなこれ。
そういえば昨日の素材も持ったままだったなぁ。インベントリに空きはあるからまだ大丈夫だけど、今日帰ったらウィルチェさんに譲っとこ。アントの甲殻なんかは鍛冶職人で何かに使えそうだしね。
あとは『マジックショット』のスキルレベルが2になってたよ。やっぱ唯一の攻撃手段だから上がるのも早いね。テキストでは特に変わった様に見えないけど、多分攻撃力が上がったとかかな。火力不足の私には大変ありがたい。
さて確認はこんなものにしてっと、兎退治を再開しようか。予想以上に兎が強いけど、予定は変更せずにあの岩を目指す事にする。ただふらつくだけで至る所から飛んで来そうなんだけどさ、どの方向からでも飛んでくるのはやはり怖いのだ。ならば岩を背にして戦ったほうが幾分かはやりやすいだろうという魂胆である。
そうと決まれば即座に移動を始める。なるべく兎に狙いを定められないように小走りでね。
移動を開始して数十秒、早速と言わんばかりにドンッと横からロケットラビットが飛ぶ音が聞こえた。
「見つかるのが早いわ!よっと!」
私は前に軽く飛んでその兎を回避する。だがその直後に今度は正面から飛んでくる音がした。
できればさっき避けたやつを倒してもおきたかったが、まずは回避を優先。右に避けて無事回避。
「ふんふん、どうよ私もやればできるじゃん。」
あの速度の兎に対してここまで被弾なしなのだ。私にしてはとても頑張れている気がする。そんな事言ってると食らってしまう訳ですがね、フラグってやつですよ。回収はしたくないね。
「ていうか全然倒せないんだけど!少しは止まってくれないかな兎さん!」
最初に倒した時からだいぶ時間が経ったのだが、未だ私の討伐数は4体であった。
突撃を回避して近寄れさえすれば私にも倒すのは容易なのだが、一体を避けたらそれを補うが如く続けざまに飛んでくるのだ。おかげで私は上手く近寄る事が出来ずに兎を避けたら取り逃がしていた。
「まずい…このままじゃ日が暮れてしまう…。どうしようかな。」
どうしようかなとか言ったって、どうしようもないんだけどって感じではある。なにせ私にはあの速度で飛んでくる兎を迎え撃つ手段はないし、素早く着地地点に近寄る術もないのだから。
避けながら近づければいいんだろうけど、私にそんな器用な事は出来ないよ。必ず途中で転ぶ自身があるよ。そしてこうしている間にも次々に兎は飛んできているのだ。
「仕方ない…岩までダッシュして少し安全確保をしてから考えよう。」
あの岩がどれだけ私を守ってくれるかは定かではないけど、今はあれを休息地点と信じて走るしかない。勿論途中で狩れそうな距離に落ちた兎は倒すけどね。
「よし行くぞ私、いざ突撃。」
そして私は無心に走った。それはもう必死に走った。まるで私は某友人のために走り続けた男のようだった。なお速度は悲しいくらい遅かった。私の運動神経悪すぎ…インドアですから。
あらゆる方向から飛来する兎を跳んで避けたり飛び込んで避けたり転んで避けたり…全て避けられた私を褒め称えたい、いや褒めて。凄く喜ぶよ。
だけどたまに後ろから飛んできた兎に遭遇したので討伐数は7体に増えた。この方が効率いいのではと思ったけどいくら何でもリスキーすぎる。それに私のスタミナ的な意味の体力が持ちそうにもないし。
そんな訳でなんとか私は目標にしてた岩まで来た。割りと遠くからでも見えたのでそこそこ大きいんだろうなと思っていたが、近くまで来ると予想よりも全然大きく、家くらいの大きさはあった。でっかいね。
これだけ大きければ後方の180度はばっちりカバーしてくれるだろう。しかも前から飛んでくれば岩に当たるはずなのですぐに攻撃を入れる事も出来る。実質怖いのは横からの攻撃だけとなるのでかなり安全に狩れる…はずだ。
「上から何か来たら困るけど…無いよね?」
そう思うと急に不安になってしまう私です。冷静に考えれば草原にぽつんと佇む巨大岩…怪しさ抜群である。岩が動き出してゴーレムになったとか割りとあり得そう。
「…よく見ると登れそうだし、登っちゃおうかな!」
岩の表面は凸凹してるので登れそうなのだ。落ちたら痛そうだけど即死は無いと信じてる。家の2階から落ちても骨折くらいで済む…はず?いや当たりどころが悪ければ普通に駄目だよね。この世界だと状態異常に骨折とかありそうな気もする。無駄にリアルな訳だし。
上に登って何か意味があるのかと言われれば微妙なんだけど、私の不安が拭えれば充分なのです。奇襲を警戒するのは大事、いいね。
さて兎に狙われる前に登ってしまおう。そうしよう。私はクライミング的な専門知識はないけど多分どうにかなると信じてる。昔連れて行ってもらった子供向けのクライミングイベントを思い出すのだ。
…落ちた記憶だけ思い出せた。碌な記憶じゃないな。
はい。よじよじと岩を登った私でございましたが、結論だけ言いましょう。ただの岩でした、はい。
「あら見晴らしの良くていい景色…じゃないんだよ!私の頑張りは何だったのさ!」
岩の上は平らではなくゴツゴツした自然的な岩その物、何か貴重そうなアイテムが落ちているとかも無く本当にただの岩だった。
逆に言えば魔物の巣があったり隠れられる場所も無かったので、そういう意味では本来の目的は達成できたというべきだろうか。
「はぁ…まあいいや…。少し休憩してから降りて狩りを再開しよう…。」
あーいい景色ですなー。あっちを見てもこっちを見ても草原。一面のクソみd…おっとこれは危ない。あと一応薄っすらとオスロンの城壁っぽいのは見えたよ、それだけです。
何か新しいのが見えれば良かったのになぁ。次の街とかダンジョンっぽい何かとかさ。新フィールドとかも面白そうだ。
というかこの広い草原は全てロケットラビット地帯なのかな?流石にもっと進めば他の魔物も出てくるんだろうかね。ゴブリンみたいな亜人系とか馬や牛みたいな動物系とか居そうだよね。今度調べてみようかな。
休憩していると、ふと思った事があった。ここから草原の中では目立つはずである白い兎を探してマジックショットを撃てばいいのではと。マジックショットの射程と距離減衰的なのが無ければ有効だと思うんだよ。我ながらいい手段なのではないでしょうか。
「どれどれ…兎さんは見えるかな〜?」
私は頭をチラッと岩の上から覗かせると…いるわいるわ、一杯いるわ。こんなに居たのかってくらい白いのが見えるよ。そりゃあんだけいたるところから飛んでくる訳だ。ほんとよく無傷で来れたな私。覚醒してしまったか?
「よぉし…あそこの奴からやろう。当たってよねぇ…『マジックショット』。」
見えた中では近くにいたロケットラビットと思われる白い物体を目掛けて、私はマジックショットを発動した。遠距離で魔法を撃つのは初めてだったので当たるかどうか不安だったのだが、そこはシステム的な補正が掛かるのかちゃんと当たってくれた。
するとさっきまで何も見えなかった白いやつの頭上にロケットラビットの文字とHPバーが表示されていた。
「へぇー、これだけ離れてても対象にすれば見えるんだ。便利だねぇ。」
流石に攻撃を受けた兎はこちらの事を探しているけれど、岩の上にいる私を見つけてはいないようだった。HPはやはり距離が遠かったからか半分も削れていないが同じように2,3発当てれば倒せるだろう。逃げなければだけど…。
「一方的な狩り…いいね…。」
今まで散々飛び回られたのでこうも一方的に攻撃出来るのはとても楽しい。それマジックショットをくらうがよい。
二発目も問題無くヒットしたが、ここで向こうがこちらに気が付いたみたいだ。そしてそのままこっちに向かって飛んできたのだった。本当にロケットのように斜めに飛んだのまでは良かったが、軌道がズレていたのか私の頭上を通り抜けて反対側へと悲しく落下していった。
「あ…経験値が入ってる…。」
悲しみの兎はあの高さからの落下に耐えられなかったらしい。なんて悲しい生き物なんだ…。彼らはせめてもう少しくらい耐久に目を向けても良かったのではないか。
とまぁ悲しい結果になったけど倒せた事には変わりないのだ。ちゃんと討伐数が増えてるのを確認した私は上からの狙撃を続けた。
「んぅ~っ!やっと終わったぁ!いやー長かった…。」
あれからしばらく岩の上で粘った結果、無事?討伐数が15体になりクエスト目標を達成できた。時間的には16時を回った辺りなのかな、少し夕方に近づいているお空模様である。
「早く戻らないと…夜になっちゃうね…。帰りも兎を避けないといけないのかぁ…やだなぁ。」
夜になると視界は悪いし夜行性の魔物構成になるので基本的に難易度が上昇してしまう。だけどそれを差し置いてもまあ兎ゾーンを抜けるのが辛い。
とはいえ泣き言言っていても仕方ないのもまた事実。諦めて帰ることにしよう。早いからといって死に戻りはしたくない私だ。
とりあえず私は岩からまたよじよじと危なさげに降りるとマップを開いて街道の場所を確認する。
「取っててよかった『マッピング』。よし、あっちか…ってあぶな!?」
クエストが終わったと油断してのんびりマップを開いていたのが悪かった。何とかギリギリで回避できたけど、正面から兎が飛んできていた。
「ふぃ〜…危なかったぁ。…あれ、私の後ろって…。」
兎は私の正面から来た。そして私の後ろには岩があったはずである。これは…もう盛大に衝突した事だろう。最悪反動で倒れたのでは…そう思って私は岩に振り向くと、
「つ、突き刺さってる…。」
そこには岩に角が完全に刺さってぶらーんとなっている兎がいた。角を岩から抜こうと頑張っているみたいだけど、全く抜けそうにはなかった。そしてその様子をジタバタしてて可愛いと思ってしまう私。
しばらくすると兎は抜こうとするのを諦めたのか脱力してしまった。岩に突き刺さった兎、それをただ見つめてる私、少し夕焼けがかった空…何だかとても哀愁溢れる光景である。シュールではない。
あまりに動かないのでどうしたのかと気になり、こやつのHPを見てみる。
「うわ…瀕死ですな。」
大体一割ちょっとって所だろうか、その程度しか兎のHPは無かった。とはいえ私に出来る事も無いだろうし、助けた所で利点があるのかも疑問である。恩を仇で返されたらたまったものじゃないよ。
「だけどねぇ…あまりに不憫なんだよね。」
己の全てを掛けたこの浪漫しかない突撃を外し、岩に弾かれるのではなく突き刺さってそのまま死に至るのも可愛そうである。
ちょっと前にも言ったけど私は可愛いものは好きなのだ。助けたくもなってしまうのだよ。
そんな訳で私はこの兎を助けてみようと思う。そしてあわよくば懐柔してしまいたい。どうせあるんでしょう?『調教』とかそんな類のスキルが。
ふっふっふ、2日目にしてこんなチャンスに恵まれるなんて私は幸運だ…。日が暮れるにしたがって私の運は上がるのだ!きっと、たぶん。
「ポーションは効くのかな?んー、わかんないなぁ。とりあえず回復魔法からやるか、どうせMPは自動回復するし…『ヒール』。」
これで駄目だったらポーションをかけてあげようと、まずヒールを使うと兎のHPバーは瞬時に半分近く回復した。よかった、回復魔法は効果あるんだね。実際の戦闘じゃ使い道無さそうだけど…。とりあえずもう一度ヒールを使用し、兎を全快させてあげた。
しかしこのままではまたHPは減っていくのみ。それはただの生き地獄になってしまうので、突き刺さっているのをなんとか引っこ抜かないといけない。
「私のSTRは低いけど…強引に引っ張ったら首がもげるとか無いよね?グロは勘弁してよ!」
唐突なホラーはお呼びではないのです。私は突き刺さっている兎の頭をなるべく優しく掴むと引っこ抜く作業を開始した。
「んぐぐぐっこんのっどんだけ奥まで刺さっちゃったのっ!」
どうして外した時の事を考えていないのだろうかこの兎は。もうなりふり構わず引っこ抜こうとしてるけど抜けそうにないんだけど。
そんな格闘をしばらくしていると、唐突に私は後ろにひっくり返った。お、これはもしや?の前に地面に体を打つ私。
「あいたたた…どう!抜けた!?」
これでグロ映像が見えたら私は泣くぞ。と、そんな私の心配は無用なようで岩に首だけ残っていたとかは無かった。そう、とかはなかった。
「……あの、いやそんな気を落とさないで…ほら、生きてればきっといい事あるって…ね?」
私の前には岩に刺さったままの立派な角と、折れてしまった自分の角を悲しげに見つめる兎がいた。一体この兎はどこまで不憫なのだろうか。
そのまま何も言わず、お互い動かずにその角を見ていると、ポテッという音を立てて角がひとりでに地面に落ちた。それをおもむろに私は手に取り、そっと見つめる兎の額に当てる。
「いやいやほらもしかしたらがあるから!ポーションって確かそんな効果もあるはずだから!ね!」
いや実際はどうなのか知らないんだけだね。試してみるしかないよね。そーれポーションだ。
「元気だしな…。きっとまた生えてくるって…。」
結果は駄目でした。思いっきりポーションをぶち撒けてみたけれど、角はまたポテっと地面に落ちた。そしてそれを見つめる私達。なんだこの絵は。
辺りは既に暗くなり始めていたが、私達は草原の中で悲しい雰囲気に包まれていた。
ロケットラビットの表記が殆ど兎になってますけど、ただ面倒くさかっただけです。
兎を全てロケットラビットに変換すると長くて気になっちゃいまして変えました。
本来はただ凶暴な兎にするつもりだったんですが、なんか兎にも与えたいと思った結果こんなロマン砲兎になりました。変なのがいてもいいじゃない、なろうだもの。




