上月栞菜と初日の終わり
リアル的な話とネガティブな話。
ゲーム要素は少なめとなってますので苦手な人は流し読みして下さい。
シーナさんと別れて聖堂からギルドへと向かおうとした私は中央広場へと出てきた。
「うむむ、最初よりは人が減ってる…はずだけどやっぱり多いなぁ。それにもう夕方なんだ。記念すべき初日ももうすぐ終わりかー。」
森に入った時はまだ日はてっぺんくらいだった記憶だったが、時の流れは早いものである。空は夕焼けに染まりNPCだと思われし住人達はどんどん広場から路地へと入っていく。
相変わらず広場に沢山いるプレイヤー達はどうするんだろうか。このまま夜の街を散策するのか、今夜泊まる宿を探すのか、それともフィールドへと向かうのか。
皆の顔はとても明るい。パーティと思われし人達は楽しそうに歩いていき、初日なのに早くも露店を展開している商人は客のプレイヤーと笑っていた。広場のベンチを見ると何か食べ物を堪能している者もいる。他にも様々なプレイヤー達が私の目を過ぎていった。
「みんな…楽しそうだね…。」
私は自分の口から飛び出たその言葉に驚いた。どうしたんだろうか。この光景を見て私は惹かれたのだろうか。
「ふふ…そうかもしれないね。だって…みんな誰かと一緒にいるもんね…。」
そう、広場をいく人達はその殆どが複数で行動していた。私みたいなソロの人はあまり見えない。まだ初日のはずなのに。
「なんだろうなぁ。寂しいのかなぁ…私は…。」
別にソロでやっているのに後悔はない。むしろ気楽でいいとも思っている。だけど…それでも私は寂しいのだろう。楽しそうな広場の光景を眺めてると、私はこの世界に適合できていないのではと段々不安になってくる。
「いやいや…本当にまだ初日なんだから…これからだよ、これから。焦んなくていいんだよ…。」
私はパーティを組みたいのではないんだろう。ヒーラーという職になったのに、思考はソロのままなのだ。昔っからそうだった。
なら私は何故この光景を見て寂しいと思うのだろうか。
…それは簡単なことである。
「私は…友達が欲しいのかな…。」
これだけ、本当にこれだけだ。子供じみた馬鹿げた思いかもしれないが、私はただ気軽にゲームの事を話せる友達が欲しいのだろう。
この広場にいるプレイヤーのように、この世界で見つけた些細な事一つで笑い合え、一緒に買い物や食事をして遊んだり、そんな事ができる人を私は求めているんだろう。
「正に子供のわがまま…か。私は何も変わってないんだね。ほんと、何も成長してない。」
私は聖堂の前から動けず、呆然と広場を眺めている事しか出来なかった。ただただ己の無力さ…虚しさに打ちひしがれていた。
ここに居ては邪魔だろうと思ったが、私はすぐに動く気にはなれなかった。
本当に、ゲームの中だというのに…あまりにも…ここは現実すぎた。
ごめんね。少しだけ、ほんの少しだけ。私の事を話させてほしい。もしかしたら…それで少しはすっきりするかもしれない。だから、こんな子供のわがままに付き合ってほしい。
私、上月栞菜は現実でも一人だった。家族は居るよ。一人っ子だけどね。
小さな時から、それこそ幼稚園に入る前から私は親の影響でゲームをして遊んでいた。
それから小学校、中学校、高校、大学と全てにおいて、私はゲームばかりだった。女子らしさなんて無かったさ。
小さな時はテレビや携帯ゲームだけだった私は、小学の高学年の時にオンラインのゲームにどハマりした。それこそネットモラルなんて知らなかった私は、迷惑な低年齢プレイヤーの典型的で酷いものであった。
それが故か、私は当時からソロだった。中途半端に知識だけ集めて実践はできない、そのくせ発言だけは一丁前。そんな私には当然の事であった。ま、当時の私には理解出来なかったんだけどね。何が気に入らなかったのだろうと素で思っていたくらいだ。
そんな私の寂しさはその時からあったのだろう。なにせ、オンラインのMMORPGの話題なんて話せる同級生は居なかった。コンシューマのオンラインゲームは流行っていたが、どうにも私には興味のないジャンルばかりだったんだ。
周りの女子は楽しそうにお洒落とか芸能人がどうのという女性らしい会話に花を咲かせ、男子は部活や流行りのアニメやゲームの話題ではしゃいでいた。
それでも私は数年前からサービスが開始されていたオンラインゲームをやっていた。当然現実の流行りな話題なんてさっぱりわからなかった。
しかし小中は昔馴染みもいたので少しは話しをしたりしていたよ。地元の話題くらいなら流石の私でも少しは理解できたからね。
だがそんな私は高校に入ると完全に孤立した。見知らぬ人達しかいない教室。流行りの話題がわからない私は話しについていけない。部活も入らずに家に帰ってオンラインゲーム。
すぐに私はクラスに存在はするが、いないような存在になった。誰も見向きはしないし、話し掛けもしてこない。私からもしなかった…出来なかった。
まあ今思えばイジめられたりとかは一切無かったので良いクラスメイトだったのだろう。
そのまま何も変わらないままに私は高校を卒業し大学に入ったが、そこで私は自堕落になった。もうニート街道を突っ走った。家を出る気分にならないからと朝からゲームを起動し、特に何も無いのに深夜か朝までやり続けた。
結局大学は中退。就職もしないで好きなように過ごした。我ながら酷い。
だから今回の実験は私にとって最高の条件だった。合法的に好きなだけゲームが出来て、お金もかなり稼げる。期間中は施設が全負担なので、親に負担もかからないという。
これに飛びつかない訳にはいかないと応募し、こうして私はこの世界に降り立ったのだ。
それなのに…それなのにこのザマである。結局私は一人じゃないか。自分から誰かに話し掛ける事もせず、一人で我先にと突っ込んで死んだ。
あのまま本当に終わってたらこんな思いしなくてよかったのかな…。
「あはは…何言ってんだろ私…。なんでこんなにネガティブになってるんだろ。あほらしい。」
途中から私は俯いていた。通り掛かる人の邪魔になろうと、この虚しさから溢れ出そうな感情を人には見せたくないという些細な意地だった。
故に、また私は気が付かなかった。
「……あのー?聞こえてる?ねぇ、ちょっと大丈夫?」
その声で漸く戻ってきた私は、ハッと視線を上げた。
そこには一人の女性がいた。肩までのふんわりとした茶髪。頭にはゴーグルを引っ掛けていた。私を見つめる目は濃い茶色。顔立ちは整っており、誰が見ても美人だと認めるだろう。格好は何かの初期装備と思われし物なのでプレイヤーだろう。
「大丈夫…です。すいません、気が付かなくて…。」
私が気がついた事と、返事をしてくれた事に女性は少し安心した表情になるが、それでもすぐに心配している様なものに変わった。
「体調に異常とかじゃないならいいんだけどさ。そのね、そんな泣きそうな顔で大丈夫って言われてもって感じだよ。」
泣きそうな顔?私が?いつの間にそんな事になっていたのだろうか。
ふと目元を拭うと、確かに私の目は潤んでいた。なんてことだ。
「何か辛い事があったのなら、私で良ければ話しを聞くよ?見ず知らずの人に話すのはちょっと気が引けるかも知れないけどさ。なんでもぶちまけると気分は楽になるってものよ。」
女性はそう言って私と目線を合わせるために少し前屈みになった。
「いえ…本当に大丈夫…ですから。あなただって…待ってる人がいるでしょうし…私の事は気にしなくていいです…。」
すると女性は何か呆れた顔になってしまった。何か言っちゃったかな。
「いやね。どうして私に待ち人がいるのかと思ったのは聞かないよ。でも残念ながら私は見ての通り一人だから、さ。一人で悲しむのもいいけど、誰かに縋れば楽だしなんか安心するよ?」
何故なのだろう。何故この人は見ず知らずの私をここまで心配しているのだろう。
「どうして…あなたは私を気にするんですか…。知らないはずなのに…。」
思わず声に出してしまった。でも聞かずにはいられなかった。
女性は不思議そうな顔をして、キッパリと言う。
「そんなのなんとなくよ。特別な理由があった訳じゃないのよ。ただなんとなくこんな所で一人俯いてるあなたが気になったの。」
それじゃだめかな、と女性は苦笑いをした。
なんだそれは。特別な理由もなく、ただ気になったからと知らない私に話しかけたのか。
「そんな…それじゃあ…あなたは心底お人好しなんですね…。」
「あっはっは、そうだねぇ。自分でもたまに思うわ。…だけどなおす気はないかな、それが私ってやつなんだよ。」
あぁ、そんな優しい目で私を見ないで。縋りたくなってしまう。こんなお人好しで優しい人は私には勿体無い。
「すいません…本当に大丈夫ですので…私はもう行きますね…。」
離れよう。そしてどこかで一人この気持ちが消えるのを待とう。それがいい。
私はありがとうございましたと女性に告げ、この場所から逃げるように立ち去る事にした。眩しい世界を見たくないがために、顔は下向きで。
「えっ、ちょっと!?」
後ろから女性が焦る声が聞こえるけど、私は止まる訳にはいかないんだ。辛いんだよ。
なのに、
「捕まえた!もう、いきなりどっか行こうとするのは酷くないかなぁ。」
どうしてこの人は来てしまうのだろう。
「あーあぁ、ほら泣いちゃってるし…。そんなに悲しいなら私の胸を貸してあげるよ。」
どうしてこんなに優しいのだろう。
「さっきはなんとなく気になったからって言っちゃったけどさ。今わかったよ。あなたに話し掛けた理由がね。」
どうして、私なんかに
「あなたが寂しそうだったから。これじゃ駄目かな?」
どうしてわかってしまうんだろう。
もう溢れ出る涙は止まらないし、泣き声も出てきた。
「はいはい…寂しいのは辛いもんね。こんな世界に一人で放り出されたら誰だってそうなるよ。私もそうだもの。」
「…ぐすっ…あなだも…?」
そうとは思えなかった。この人が一人なのはおかしいだろう。この人なら自然と人は集まるだろう。
「そう、少し訳あってね。現実で事前に誰かと話そうなんて思ってなかったのよ。だからね、一人なの。」
そう言う女性の顔は少し暗い。それじゃだめだよ。あなたにそんな顔は似合わないよ。そう伝えようにも、私の言葉は泣き声で上手く話せなかった。
「ふふ、やっぱりあなた優しいのね。大丈夫よ。だってこうしてあなたと知り合えたんだもの。そうは思わない?」
その言葉に私は頷く。
「そう、よかった。遅くなっちゃったけどさ、私はウィルチェっていうの。あなたの名前も教えてくれないかな?」
「…カ…ン…カンナです…。」
「んーじゃあカンナちゃんでいいかな?私の事は呼びやすいように呼んでいいからね。よろしくね、カンナちゃん。」
そう言われると、私はまた何か感情が溢れてきそうだった。でも、これはさっきまでとは違うものだ…。これは悪いものじゃない。
「私からも…よろしくお願いします!ウィルチェさん!」
だから私は出来る限りの笑顔で応えた。それを見て、ウィルチェさんも笑ってくれた。
涙は、いつの間にか止まっていた。
普通の画面越しのオンラインゲームとVRの現実のようなゲームでの違いはこういう所にもあると思うんです。
文字での会話、言葉での会話。ゲームだけどもう一つの現実。
現実の話は多分当分ないと思います。次回からゲームに戻ります。多分。頑張ります。
デイリーPV4桁や100pt超えとかしてしまい驚愕の作者です。
皆様本当にありがとうございます。




