不遇職と鍛冶職人
ゲームに戻るとは何だったのか
お部屋で会話するだけ
女神様、あなたが本当に存在しているのでしたら、私のわがままな願いを聞いてくれたのでしょうか。もしそうだとしたら、とても感謝いたします。
おかげで私はとても素敵な…優しい人と出会えました。
「ん〜〜っ!ああよく寝たぁ…。…さてと、今何時かな……って…あれ…?」
おかしいな、いつも右手を伸ばせばあるはずの時計が無い。はて?場所を変えたんだっけ?左手側は…何も無いはずだし…床に落ちちゃったのかな。
「まったく困ったもんだねぇ〜………あれ…私の部屋じゃない…?ここどこだ…?」
おかしい、私に用意された部屋は白いワンルームのはずだ。それなのにここは壁が木造だし、明らかに広いし、ベッドも簡素な作りだ。
こんな場所私は知らんぞ。いつの間に私は移動させられたんだ。
私が不思議に首を傾げていると、横から声が聞こえた。
「カンナちゃーん。寝ぼけてないで目覚めなさーい。ここはゲームの中でしょー。」
ゲームの…中…?
「あぁ!そっか!ここえふこねの中か!」
思い出した思い出した。うんうん。そうだったね。すっかり忘れてたよ。いやーまだまだ慣れんねぇ。
「…それでもここはどこ?私は何をしてたんだっけ…?」
「はいはい。それもちゃんと説明してあげるからね。とりあえず…おはようカンナちゃん。私の事覚えてる?」
昨日の記憶が曖昧なのを見かねてか、女性…ウィルチェさんが私の横に腰掛けた。
「勿論それは覚えてますよウィルチェさん。おはようございます。それで…ここは?」
「んとね。ここはギルド直営の宿屋だよ。多分説明は受けたと思うんだけど…受けたよね?」
えーっと、確かにそんな事をちょろっと言っていたような気がする。まあ納得。
「それであの、私にはここに来た記憶が無いのですけれど…」
「あー…えっとね…初めに言っとくけどさ。別に変な事は一切してないからね?」
どうして最初にそれを言うのかが気になるのですが。私の身に一体何が…いや何も無かったのか。
「どこまで覚えてるのかはわかんないけどさ。カンナちゃんあの後泣き疲れたのか安心したのかは知らないけど、私の胸に飛び込んだまま寝ちゃったのよ。」
私の胸の中でおやすみなんて状況になるとは思わなかったわとウィルチェさんは苦笑いした。
…なんだその恥ずかしい状況。初対面の人に心配されて、胸を借りて泣いて、そのまま寝落ち。やばい思い返すと微かにそんな記憶があるような…うわうわ恥ずかしい!あまりの恥ずかしさに悶そう。
己の酷さにもう顔真っ赤である。ぷるぷる震えてきた。いっそころしてくれ。
「あらら…そんな真っ赤になる程なの。やっぱり起こした方がよかったかなぁ。」
「いえ、私の不甲斐なさの性ですので。気にしないで続けて下さい。」
もう私に怖いものなどない。ここまで醜態を晒したら逆に落ち着いてきた気がする。どんとこい。
「それで眠ったカンナちゃんを背負ってこの宿屋まで来たっていうこと。多分…すんごい見られてたけど…変なのに絡まれなかったからいいかなってね。」
背負われていた。見られてた。あの広場の大人数に?
「あぁぁこの年齢にもなって泣き疲れて眠って背負われていたのを人に見られていたなんてぇぇぇ恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい……」
もう私はベッドの上を転げ回った。それはもうアニメみたいにゴロゴロと。
「あ…えっと…その…大丈夫だよ。多分…。顔は見られてないと思うから…ね?」
「うう…もうお嫁に行けない…。」
「そ、そんなに!?カンナちゃん繊細すぎない!?」
心は乙女でありたい。そんな私です。…嘘です。乙女な要素は元から無かったわ。
ん?お嫁に行けない…?そういえばなんだか随分涼しい気がする。
気になった私はチラリと視線を下に…
「ウィルチェさん。」
「なに?」
「どうして私は初期装備からインナー姿に変わってるのでしょうね?」
私の初期装備はいずこに。そしてウィルチェさんどうしたのですか、随分と視線が泳いでおりますぞ。
「いやいやいやいや最初に言ったでしょ変な事は何もしてないって。私はただローブだと暑いかなって脱がしただけだから。やましい事は無いから安心して。」
ほんとかなぁ。ジトーッ。
「いやほんとに無いから。そこは信用して欲しいな。」
「ごめんなさい私も意地悪しました。それと、色々とありがとうございました。」
「いいのいいの。私が好きでやった事だから。カンナちゃんが気にする事はないよ。」
初対面だったのに、あれだけ迷惑かけたのに、この人は笑って流してくれた。凄いなぁ。私もこんな風になれるかな。
「さって、それじゃあ改めまして。ウィルチェです。職業は鍛冶職人だよ。戦闘は…するつもりないかなー。街で職人プレイするつもりかな。よろしくね〜。」
ああ、あの格好は鍛冶職人の初期装備だったのか。しかも街篭り系鍛冶職人とは…ますます理想的な人過ぎて嬉しい。
ともあれ次は私の番だね。ウィルチェさんもにこにこしながら待ってくれてるし。
「カンナです。職業はヒーラーで…ソロやってます。未熟者ですけど、よろしくお願いします。」
ぺこりとお辞儀。そしてウィルチェさんを見ると、何やら驚いた顔をしていた。まあわかるっちゃわかる。
「えっと…カンナちゃん?戦えない私が言うのもあれだけど、ヒーラーでソロって大変じゃない?」
「そうですねぇ。他人の戦闘を見てないので比較はしにくいんですけど…範囲攻撃がないのと火力が低いんですかね。あと打たれ弱いのも中々…。」
こうして振り返ると良い事ないのではヒーラー。ウィルチェさんもうわぁって顔してるし。
「よくそれなのにソロでやっていこうって思ったね。素直に凄いと思うよ。」
おや、てっきり反対されるかと思ってたから褒められるとは予想外。思わずニヤけちゃう。
「いえいえ、ただ人が少なさそうな職業でやっていこうとしただけですよ。別に凄くはないです。初日から死に戻るくらい無鉄砲でしたしね。」
最早いい記憶…にはならないけどいい経験にはなった蟻死に戻りである。あのお陰で私は今ここにいるのだから。逆に感謝の域。
「でも普通はヒーラーってパーティを探すものらしいから、一人でやろうと思えるのは凄いと思うんだよねー。ていうか死に戻りしちゃったの!?」
死に戻ったのってそんなに驚く事だったかな。
「いやほら、確かに運営から説明はされてたけどさ。もし小説みたいな事になってたらそれで死んじゃってたんだよ。怖くて私なら誰かが経験したのを見てからじゃないと無理無理。」
ああ、なるほどね。確かにそう言った不安もあるよね。私はそんなの気にする事ができないくらい浮かれてたからなぁ。
「でも私が死に戻りできたのはこれで証明はできましたよね?それにそのお陰でウィルチェさんと会えたので、私としてはよかったなって…。」
「かーっ!嬉しいこと言ってくれるねぇカンナちゃん。私もカンナちゃんと会えてよかったよー。」
「うわっぷ…いきなり抱きついてくるとびっくりしますよ…。あわわわ」
ふぅ…としばらく私を撫で回した後、満足げに私から離れたウィルチェさんはそれでね、と仕切り直すように私の横に座り直した。
「私はさっき言ったけど、街で頑張っていこうと思ってるの。えっと…それで、カンナちゃんが素材になりそうな物とか見つけたら私に売ってくれないかなって。あとあと、カンナちゃんの装備だって作りたいなってね。」
とあたふたしながらウィルチェさんは話した。
うん、つまるところこれは貴重な鍛冶職人との個人的なお付き合いの誘いだね。私としては願ったりな事である。断る要素なし。
まあなんにせよウィルチェさんの望みを断るつもりなんて私には無かった。
「勿論喜んで受けますよ。ウィルチェさんの役に立てるのなら私は嬉しいですし、ウィルチェさんが作った装備も着てみたいです。」
私がそう返事をすると、ウィルチェさんはやったー!とベッドに倒れてしまった。そ、そんなに喜んでくれるとは思ってもいなかった。
「じゃあじゃあ早速フレンド送るね。むふふ、初めてのフレンドがカンナちゃんみたいな可愛い子で嬉しいなぁ。」
「可愛くないですよー。私もウィルチェさんみたいな綺麗な人が初めてで嬉しいですよ。」
なにやらそういうことかとウィルチェさんが呟いた気がしたけど気のせいだろうか。まあいいや。
すぐにピロンという気にならない程度の通知音が鳴ったので私はメニューを開く。当然コミュニティにアイコンがあったのでそのまま『フレンド』へ。
そこにはまだ誰もいなかったフレンド一覧に、未承認のウィルチェさんの名前が存在していた。私は迷わず承認を押す。
「ありがとね。これで何処にいてもメッセージを飛ばせるから、何かあったら連絡してね。お願いね!」
「は、はい。了解しました。」
グイグイっと押され気味になってしまった。ウィルチェさんもテンション高いなぁ…。でも厄介とかそんなことはないし、むしろ楽しいからいいんだけどね。
「今はまだ自分の工房持てないけどさ。すぐに派生職になって工房買うからね。あ、ちゃんとカンナちゃんの部屋も作るから安心してね!」
ついでに初期職業の生産職はギルドやNPCの職人から場所を借りて作業を行うらしい。前者は少しの利用料が、後者は利用料はないけど個人で話し合わないと使わせてくれない。
派生職で買えるようになる工房もギルドが管理している空き工房を購入するか、各NPCが管理している工房を譲り受ける感じだ。とは言っても流石に無理な金額を要求される訳でもなく、システムで分割払いにも出来るのでお金がないプレイヤーでも安心だ。
というか最後に何か逃してはならない言葉が聞こえたのだけど。
「あの、私の部屋…ですか?」
そうよ!とウィルチェさんはやる気満々に返事をしてくれる。出会ってから最大の気合いの入れ具合だ。
「カンナちゃんが何時でも帰ってこれるような場所を作るの。素材も保管できるし私も装備を作ったらすぐ渡せる。いいと思うんだけど、駄目だった?」
あわわわそんな悲しそうな顔をしないで。
「いやいや全然嬉しいですよ。ただ流石にそれだけしてもらうのなら私も少しはお金払いますよ。」
「私は別にいいんだけどね?カンナちゃんがそう言うのならそれで。それまではこの宿屋のこの部屋で寝泊まりするつもりだから、よろしくね。」
あ、この部屋使うの今日だけじゃないんだ。それなら宿泊費も稼がないとね。頑張れ私。
そんな意気込んでる私を見て、ウィルチェさんはふふっと笑ってくれた。何かあったかな?
「あぁ別に変な事じゃないの。ただね、これでカンナちゃんも寂しくならなくていいかなって。もうあんな顔しなくていいよって、そう思ったの。」
「…!」
あぁ、この人は本当に…底抜けに優しくて…お人好しなんだな。だけど、そのお陰で私は救われた。
「はい…ウィルチェさんがいてくれるなら、もうあんな気持ちにはなりませんよ…。ですので、ウィルチェさんもあまり気にしすぎないで下さい。」
だから私もこの人のために頑張ろう。それで恩が返せるのなら…いや返せなくてもいい。私がやりたいからやるんだ。それでいいのだろう。
「いいのいいの。何度も言うけど、私が好きでやってるだけの事だから。むしろ迷惑だったら遠慮なく言ってちょうだい。」
「そんな事ないですよ。…じゃあ、毎日笑顔で楽しく過ごせるように頑張りましょう?」
「楽しんでこそのこの世界だもんね。それにやっぱりカンナちゃんは笑ってた方が似合うよ。」
全くそんな事言って…ともあれ、一人だった私にもこうして話せる人が出来たのは本当に嬉しい。初めてかもしれないなぁ、こんなに気楽に話したのは。願わくば、これからもこの人とこうして話す事ができたらいいな。
「よっし、じゃあどっかにご飯食べに行こ!昨日あれから何も食べてないからお腹減ってるのよ〜。」
「す、すいません…私のせいで…。私持ちでいいですよ…。」
「またまたいいのよ。それよりここら辺何があるのかまだ知らないから楽しみね〜。」
そう言うと、ウィルチェさんは先に部屋から出てしまった。
ふふ…本当に女神様の導きがあるかの如く私のわがままな願いが叶ってしまった。ならばこの大切なものを私は大事にすると誓おう。
そして、私も彼女の道に幸運を祈ろう。似非聖職者みたいだけど、この世界じゃ私はそんな感じなのだ。
ウィルチェさんに女神様の導きがあらんことを。
「おーいカンナちゃーん、早く行こ〜。」
「はーい。すぐ行きます!」
ほんと、楽しくなりそう。
カンナは美人や綺麗なお姉さんに憧れています。
それ故に自分の顔はそれに当てはまらない普通だと認識していますが、世間一般では可愛いになります。
次、次回こそは…街の散策とかになりそうで不安に。冒険してカンナさん。
明日の更新はできるか不明です。




