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煉獄の焔  作者: yukke
第九章 邪悪との邂逅
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第五話 闇の奔流 ③

 目の前にいる愛しき者すら切り裂こうとする、花凛の禍々しき爪。

それが、神田を切り裂く前に突然止まる。


『う……ぐぅ。な、何で。何なのよ、邪魔しないでよ!』


 突然、花凛は顔を歪ませ苦しみだす。どうやら、中にまだ正常な花凛の意識があるのだろう。

それが、神田を殺そうとする自分の体を止めている様である。


 しかし、それも長くは持たないだろう。


「すまん、花凛!」


 神田は、そう言うと花凛の腹を蹴り飛ばし、自分から一旦突き放す。

その時、神田の腹に刺していた爪も抜けた為、神田は腹部を咄嗟に押さえ出血をふせいでいた。


『くぁ……っ。もう! 何で邪魔をするのよ。あなたも私なのよ』


 花凛は地面に着地しながらも、額を押さえて何かを呟いている。

見えない何かと話しているその姿は、 その体の中に居る何かと話している様であった。


「花凛、頼む。いつものお前に戻ってくれ」


 神田は、腹を押さえながら花凛の元に、ゆっくりと近づいていく。

その顔は、いつもの花凛に戻ってくれるようにと、懇願する顔である。


『止めて!! 来ないでぇ!』


 花凛は、頭を抱えてそう叫ぶ。

このままこの人物を近づかせると、中にいる弱い自分が再び出てきそうであったから。

目の前のこの人物が、自分にとってそこまでに大きな存在になっているとは、思いもよらなかったのだろう。


【ちっ、まだまだ足りなかったか? ん?】


 その様子を見ていた亮は、自分に近づく3つの影を確認していた。

そう、それは。亮の家族であった。


【なんだ? 今更、何か用か?】


 その家族達に、亮は憎たらしい者が目の前にいると、そう言わんばかりの態度をとっている。

花凛が亮だった時、家族等その程度の存在であったのだ。


「お兄ちゃん、お願い。もう、これ以上自分を傷つけないで」


 妹の美沙が亮に向かい、必死に懇願している。

もう、会えないと思っていた兄が目の前で、邪悪な姿となっている。

家族にとって、これ程の苦痛はないであろう。

自分達が甘かったせい? 育てるのを失敗した?


 そのどちらとも取れるような悲痛な顔を、亮の家族達全員がしている。

しかし、それは邪悪となった亮にとっては、良い負の念となり力となっていた。


【クク、その顔。良いねぇ。良い養分だわ。ハハハ!】


「亮!! もう止めなさい!」


 愉快な笑い声を上げる亮に向かい、母親が声を荒げる。

それでも、亮の顔は嬉しそうな顔をしている。

本当の自分を知り、ショックで顔を歪ませる家族は、痛快でたまらないのだろう。


「亮、俺達がお前をそこまで追い詰めたんだよな? この事態は、俺達が作り出したようなものだ。だから、俺達はいくらでも罰を受けよう。だが、それで全てを帳消しにしろ。今まで通りの亮。いや、花凛に戻ってくれ」


【はぁ? 何言ってやがる! 図に乗ってんじゃねぇよ! てめぇら如きに、罰を与えた所で何になるってんだ! てめぇらは、俺に何もしてねぇよ。そう“何もな”。だから、てめぇらが何をしたところで、俺には何の意味もなさねぇよ!】


 亮の家族達は、また悲痛な顔をする。

何もしていないと言えば、その通りであったからだ。

出来損ないの息子と決めつけ、のらりくらり生きる息子を切り捨てていたのだ。


 正直、この年で仕事に就けなければ、追い出すつもりであったほどである。

自分達の病気、収入の無さ。その点から、ダメ息子を家に置いておく余裕はなかった。


 不況の世の中、何も珍しい事では無かった。

しかし、亮は違っていた。自分の中に宿る、邪龍の一部に餌をやっていたようなものである。

だが、もちろんそのままではこんな事にはならない。邪龍が、目覚める事もなかった。


 全ては、あの日。リエンと魂を融合した時から始まっていたのだ。

死から復活したとは言うものの、とんでもない物まで目覚めさせてしまったのだ。

もちろんリエンはそれを知るよしも無く、あの時は緊急であった為に致し方なかった。

偶然が偶然を呼び、今の事態になっていたのだ。


「お兄ちゃん……私は、それでもお兄ちゃんを信じていたんだよ。いつか、立ち直ってくれるって。優しいお兄ちゃんに戻ってくれるって」


 それでも、美沙は訴えを止めない。

ここで引いたら、二度と兄は元に戻れないのではないかと、そう感じていた。


「お兄ちゃん、ちゃんと頑張っていたじゃん。でも、社会がお兄ちゃんを見捨てたとしても、他の人達も同じだったの? お父さんとお母さんは見捨てたかもしれないけれど、私は見捨てないよ!! ねぇ、どうだったの?! 全員、お兄ちゃんを見捨てたの? 怖がって、自分から友達を作らない様にしただけじゃん!」


【うるせぇなぁ。他人なんざ、全員同じなんだよ。裏切るんだよ】


 亮は、面倒くさそうにそう答える。

何を言っても無駄。そんな態度をとりながら。


「じゃぁ、花凛になってからはどう? 誰かあなたを裏切ったの? ねぇ、お兄ちゃん。あのさ。男の時、最初に裏切っていたのはお兄ちゃんの方でしょ?」


【っ!! う、うるせぇ!】


 美沙の厳し目の言葉に、亮は動揺していた。

どうやら、心の奥にしまい込んでいたものを引きずり出されたようである。

美沙は、いくら訴えても無理ならばと賭に出ていた。

少し、きつめに自分の感じた事を率直に述べたのだ。

亮であったときの事と、花凛になった時の事を比べて、その違いから亮が

後ろめたく感じている事を突き止めたのだ。


「そうでしょ? 花凛になってから、あなたは色んな人の期待に答えていったよね? がむしゃらになって、ただ目の前の人を大切な人を救う為にって、頑張ったじゃん。その結果、今あなたの周りには誰がいるの?」


【うぁ……ぐぅ。止めろ止めろ! 違う。そんなのは、ただ自分の力が凄いって証明するための、してもらう為の道具だ!】


 亮は、必死に自分を闇に堕とそうとしている。だが、図星なのかこちらも頭を抱えて苦しみだした。

産まれ落ちたばかりの闇。それは、簡単に染まるが簡単に崩れる、実に脆い物でもあったのだ。

だが、それでも邪龍の力である。そうは簡単に上手くいくわけではない。


「男だった時は、人の期待に答えてこなったでしょ? 誰もお兄ちゃんを助けようとしなかったのは、そこなんだよ。お兄ちゃん、誰も悪いわけじゃないよ。運が悪かっただけ。それを人のせいにして逃げて、期待を裏切っているのに、人の助けを求めるの?」


【なにぃ……!!】


 亮の顔は、歪んだ様に物凄い形相になり、美沙を睨みつけている。

そして、ゆっくりと近づきその手を、美沙の首に持っていこうとする。


 それでも、美沙は意を決して次の言葉を投げかけた。


「図々しいよ、お兄ちゃん」


【うるせぇぇぇええ!!】


「うっ?!」


「美沙!」


 両親が叫ぶ中、美沙は亮の放った黒いオーラに、首を締められるようにされ、宙に浮き上がっていく。


【図々しいのは、どっちだ!】


「くっ……怒るって事は、図星でしょ?」


【だまれぇぇえ!!】


 その叫びの後、美沙の首に纏わり付く黒いオーラが、更に濃くなりキツく締め付けているようである。

美沙は、苦痛の表情を浮かべ始める。




「花凛!! 目を覚ませ! このままではお前の家族が!」


 その様子を確認した神田が、再び花凛に声をかける。

だが、やはり花凛には届いていないのだろうか、頭を抱えているだけである。


『家族? そんなの、どうでも良いわよ。何で、守らなきゃならないの! 見捨てた人を、期待に応えようとしても身向けもしなかった人達を、どうして助けなきゃならないの?!』


 その様子からして、花凛の闇はまだ深いようである。

たが、その目には何故か涙も浮かんでいた。


「くそっ、一か八か!」


 神田は、懐から何かを取り出し口に含むと、花凛に向かい走り出す。


『えっ?!』


 頭を抱えて苦しんでいた花凛は、反応が遅れてしまい、神田の行為を受けてしまう。


 そう、神田は花凛の頭を掴み引き寄せると、その唇に口づけを行ったのだ。


 しかも、口に含んだ何かを飲み込ますように、かなり濃い大人のキスをしてきている。


『んぐぅ、ん~!!』


 花凛は、目をパチクリさせ神田の胸を叩き、何とか逃れようとするが、神田は闘気龍の力を使い頭を押さえているので、逃れられないでいた。

そうこうするうちに、花凛は徐々に四肢の力が抜けていく。

長い長い、キスは花凛を骨抜きにする程であった。


 そして、神田は口に含んだ物を隙をついて飲み込ました。それは、ネーヴァから受け取った、あのビー玉くらいの大きさの水晶であった。

そして、それを確認するとゆっくりと唇を離す。


「花凛、この世にはどうにもならない不幸はいくらである。だがな、それでも自分を見てくれる人、信じてくれる人が1人でも居れば世界は変わる。今のお前は、もう過去を捨て去り、新たに女の子として生まれ変わったんだ。それだけは、間違いない。過去に囚われるな。でも忘れるな。それがあれば、お前は誰よりも強く前に進めるだろう」


『うっ……ぐぅ』


「戻ってこい、俺のたった1人の大切な人」


 そう言って、神田は花凛を強く抱きしめた。


【ぐっ、うぅ。クソが!】


 その瞬間、亮の黒いオーラが一斉に霧散し始める。

美沙の首を締めていたオーラも消え去り、美沙は地面に落ちお尻を強打する。


「あいたたた。あっ。お、お兄ちゃん……」


 美沙は、咄嗟に顔を上げて声を上げる。

そこには、ある程度のオーラは消えたものの、未だに黒い姿をする亮が花凛を睨んでいた。

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