第四話 闇の奔流 ②
花凛の体から噴き出てくる闇のオーラは、徐々に花凛の体に纏わり付いていく。
そして、そのオーラは翼に、尻尾に、角に変わり花凛の体を変えていく。
制服も破れ、体を纏ってくるオーラが変わりの物をこしらえている。
鎧の様な形になっていっているようだが、露出が多く隠れているのは、胸と股の部分だけである。
脚は、龍の様に厳つい鱗で覆われた脚。
腕も同じ様に、鱗で覆われた龍の様に厳つい腕。
そしてツインテールの髪は解け、黒い髪に赤のアッシュが入っていたが、赤のアッシュは無くなり、黒一色に。いや、闇色と言った方が近かった。
身に纏った、オーラで出来た鎧のような物も、漆黒の闇の様に禍々しい色をしている。
「か、花凛……」
神田は、絶望の声を絞り出している。
だが、その表情に諦めの色はなかった。
しかし、亮によって動きを封じられている為、動けないでいた。
家族は、もうどうしたらいいのか分からないという具合に、真っ青な表情になっている。
【ククク、どうよ。闇を受け入れた感想は】
『アハッ。そうだね、こんなにも気分が良くなるんだね』
亮の問いかけに、花凛が高揚感を隠せない様な声を出している。
そんな声を、花凛は今まで一度も出したことが無かった。
だから、これは花凛ではない。神田はそう直感していた。
すると、花凛はゆっくりと後ろを振り向く。
その視線の先にいる、神田を見るために。
「うっ……」
その目を見て、神田は萎縮している。
今まで見た中で、1番怖いものを見たというような感じで、声が漏れ出していた。
花凛の目は瞳が無く、黒一色に染まってたのである。
『ウフフ。賢治さん、み~つけた』
まるで無邪気な子供の様に、花凛はぴょんぴょんと跳びはねながら、神田の元に近づいていく。
『ねぇ、賢治さん。幻滅したでしょ? 私の事』
花凛は、神田に顔を近づけてそう問いかける。
その雰囲気に花凛の面影は、どこにもなかった。
目を細め嬉しそうな笑顔を作っているのは、どこかその人物に恋をしている乙女の表情でもある。
「花凛、頼む。目を覚ませ!」
『え~私は、今目が覚めたばかりだよ~? 変な事言うね賢治さん。アハハハ!』
ケタケタと笑い声を上げる花凛に、亮が近づいてくる。
【さぁ、もっとだ。もっと俺を受け入れ、解放しろ】
『うん! 良いよ~!』
花凛は、軽い感じで答える。
最早、これ以上の闇を受け入れたら、元の花凛に戻らなくなるのではないだろうか。
そう頭によぎった瞬間。神田の中の何かが弾けた。
「止めろ。花凛、それ以上は止めてくれ。戻ってきてくれ!」
すると、神田の体から気の様なオーラが、激しい衝撃波と共に溢れ出す。
どうやら、龍の力がまた暴走しそうになっている。
『きゃっ?!』
【なっ?! き、貴様も龍だったか!】
花凛は、突然発生した衝撃波に驚き体勢崩れかけた。
亮は、思念体の為に全く衝撃波の影響は無かったが、その顔は驚きを隠せないでいた。
「花凛、今元に戻してやる」
神田の気は、徐々に落ち着いてくる。
なんと、今回は暴走すること無く収まっているようである。
それは以前とは違い、怒りによるものでは無かったからなのだろう。
神田はスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを取り、ゆっくりと花凛に近づく。
『アハッ、遊んでくれるの? 嬉しい。大好きな賢治さんと遊べるなんて、幸せ!』
そう言うと、花凛は恍惚な表情で飛びかかってくる。
その鋭い爪の付いた、龍の腕を振り上げ。そして、神田を切り裂くべく振り下ろす。
その瞬間、衝撃と共に辺りの墓を壊し、吹き飛ばしていく。
だが、神田はその攻撃を堪えていた。
『へぇ、今の攻撃耐えるんだ~じゃぁ、これはどう?』
そう言うと、花凛は片手を前に広げ、その手のひらに黒い炎を出現させ凝縮していく。
『黒焔冥龍弾!!』
花凛が、そう叫ぶと手のひらの黒い炎の球体が、神田に向かって飛んでいく。
「花凛、分からないか」
そう言うと、神田はその黒い炎の球体を片手で弾き返した。
「今の、お前の攻撃は軽すぎるんだよ」
『分かってるよ~』
「っ?!」
神田が、攻撃を弾き返した瞬間。その隙を突いて、神田の後ろに回り込んでいたのだ。
そして、その爪で神田の背中を切り裂いていた。
「ちっ、じゃじゃ馬め」
神田は、咄嗟に手を後ろに振り花凛を引き離す。
しかし、花凛はこの手を掴むと、鬼ごっこで逃げる人をを捕まえた様な、そんなにやけた笑顔を見せる。
『アハハハッ!!』
高らかな笑い声と共に、神田を大きく振り回し、花凛の後方に向けて地面に叩きつける様に投げた。それは、普通のスピードではない高速であり、神田は尋常では無いくらいに、地面を抉りながら吹き飛んでいく。
「ぐぅぅううう!!」
普通の人間ならとっくに意識が飛び、大怪我どころではないレベルである。
そして、ようやく墓地の周りの壁に激突し止まった。
「これは、弁償どころじゃすまね~な。くそっ!」
すでにいくつもの墓を壊していた為、バチがあたらないか不安になっている神田の前に、再び花凛が姿を現す。
移動するスピードも、遥かに上がっている。
『アハッ、丈夫だね。賢治さん~』
「止めろ、花凛。目を覚ませ!」
『だ~か~ら。覚めてるってば、とっくに』
もう、神田の言葉は届いていない。ただ己の中の闇を、負の感情を解消すら為だけに暴れている。
それが、花凛の中の闇なのか。亮の闇なのかは分からない。
『ねぇ、賢治さん。なんで私は戦わないとダメなの?』
「なっ?! 何を……」
花凛は、突然神田にとんでもない言葉を投げかけた。
『だって、私はリエンに勝手に龍にされたんだよ? そして、こんな厳しい戦いに巻き込まれてさ~嫌になるよ。会社で、無理やり働かされているのと、一緒じゃ~ん』
花凛の顔は、文句を言う子供の顔をしている。ほんとに、ただ不満を言ってるだけである。
「花凛、お前はあいつ等や一般の人を守る為に……」
『なんで、他人の為に戦わなきゃいけないのよ。他人なんて、所詮幸せになるための踏み台でしょ? その為に人を蹴落とすの。人を騙して利用するの。みんなみんなそう!』
神田の言葉を遮る様に、花凛は間髪入れずに声を張り上げている。
『自分の幸せは、他人の不幸があってこそよ! 他人の不幸があってこそ、自分に幸せがやってくるのよ!』
「違う!! 花凛!」
『違わないわよ!! だったら、何で私があんな目に! そして、今も命に関わる戦いをしているのよ!』
まるで溜め込んでいたものを吐き出すかの様に、花凛は自分の闇をぶちまけていた。
「花凛、お前だけじゃないだろ、その不幸……っは?!」
『分かってるわよ、それもね。でもね、もう無理なの。だからね、私の為に苦痛の表情を見せてよ。絶望の顔を見せてよ。私なんか、気持ち悪くて嫌いでしょ?』
花凛は、神田の腹に自分の爪を深々と突き立て、神田に苦痛を与えようと、更に爪を捻っている。
「ぐっ、うぐぅぅううう!」
神田は、その痛みに耐えるように歯を食いしばっている。
その表情を見ている花凛の顔は、まさに最高に幸せだと言わんばかりの笑顔を見せている。
『アハッ! それそれ、その顔! でも、まだすっきりしないなぁ。殺したら、もっとスッキリするかなぁ』
花凛の順調な闇の染まり方に、後ろだ見てみる亮は含み笑いをしている。
こうも上手くいくとは思っていなかった。
だが、それは墓地のある寺の屋根から、その様子を覗く人物も同じ様である。
『お願い、大好きな賢治さん。私の為に、苦痛の表情で死んでくれる?!』
そう言うと、花凛は突き刺した左手とは反対の爪を振りかざし、神田に向けて振り下ろす。
その力は誰かの為では無い。命を刈り取る為の力となってしまっている。




