第十一話 増える怨念
激戦が終わった神楽家の夜。
3人と一緒に、疲れ果てたように布団に倒れ込んでいる花凛。
しかし、そこにいつも笑って話しかけてくるリエンは居ない。
いつも一緒に居るのが、当たり前になっていた花凛は、知らないうちに涙が頬を伝う。
「寂しいのですか? また会えるのですから、泣く必要はないでしょう?」
「でも、私の知っているリエンじゃないかも知れないし……。何だか、怖い」
「そうですか、大丈夫ですよ。フェーゲさんを信じて上げて下さい」
そう言いながら、ネーヴァが花凛の頭を後ろから優しく撫でてくる。
花凛の布団に、ネーヴァが一緒に入っていた。
「ん? あれ? ちょっと待って、何でネーヴァさんが居るんですか?」
「え? あなたが心配でしたから。大切な友人と暫しのお別れで、悲しんでいるかと思いまして」
そのものズバリな事をネーヴァに言われて、花凛は顔が赤くなっていた。
「ちょっとあなた。花凛さんは、私達が慰めるのです」
その様子を、隣の布団から見ていた美穂が、花凛の布団に潜り込んでくる。
「ちょっと、美穂! ズルいわよ、私も慰めるんだから!」
「私も」
そう言って、夏穂と志穂も花凛の布団に入ろうとしてくる。
「ちょっ、待って。全員は無理だってば!」
さすがにこの状況に花凛は焦るが、お構いなしに花凛に密着してくる3人に、ありがた迷惑な友人だなと感じていた。
「神龍の巫女に、ここまで大事にされる龍は珍しいですわね」
その様子を見て、パジャマ姿のネーヴァが花凛の布団から出て、花凛達を眺めた。
「それだけ想ってくれる友人がいれば大丈夫でしたね。私は、別の部屋で護衛も兼ねて待機していますので。花凛さん、あなたはしっかりと休んで下さい」
あの後、味方をしてくれた四天龍達と挨拶を交わしていた。
ネーヴァは、のんびり屋だけれども良いお姉さんといった感じで、話していて落ち着くので花凛は好きであった。
ネブラの方は、少し取っつきにくい感じではあったが、面倒くさがりさえしなければ、その仕事ぶりはテキパキしていて出来る人間のイメージである。
ただ、取り組むのに時間がかかるのが難点であった。
「ありがとうございます。ネーヴァさん」
「どういたしまして。神龍復活の儀まで、あなたはしっかりとその3人を守るのですよ?」
そう言いうと、ネーヴァは部屋を出て行くと隣の部屋に向かった。
「あんな龍も居るんだな」
「もしかして、私達は今まで低級の龍しか見ていなかったのでしょうか?」
「それを言うと、リエンもそうならない?」
志穂の言葉に、 美穂が咄嗟に口を塞いだ。
そして、おずおずと花凛を見る。悪い事を言ってしまったという感じの顔で。
「大丈夫だよ、美穂。昔のリエンは確かに、上から目線で色々ダメだった所もあるかもだけれど、それも含めてリエンは大切な友人だよ。ちゃんと、ダメな性格は私が直すよ。もし、戻って来た時に性格が昔に戻っていたら、私が直すからね」
花凛は3人に気を使わせまいと、必死に笑顔を作っていた。
「花凛さん」
その言葉に美穂が花凛を抱きしめてきた。
「あっ、私も!」
「もちろん、私も」
夏穂と志穂まで花凛に抱きついてくる。
さすがに、3人にも抱きしめられると少し息苦しくなっているようである。
「待って3人共、苦しいから。っていうか、そろそろ私の布団から出てよ~」
こうして、長い一夜が更けていく。
アメリカにあるNEC本社ビル、その屋上には大きな流線形の装置が置かれている。
そして、その装置の前にはサディアスが立っている。
「くく、龍達の身勝手な権力争いの間に。こちらは、タルタロスまでの道が出来上がりましたね。後は、これを指定の場所に置き、開け放たれたタルタロスへの裏口に繋げば完璧です」
そして、サディアスはゆっくりとビルの淵に移動する。
ここは、アメリカの100階以上ある超高層ビル。
眼下に広がるは、米粒のように小さく見えるアメリカの街並みである。
強く吹き付ける強風にも、サディアスは全くビクともしていない。
不敵な笑みを浮かべ、まるで神の様に下の世界を覗いていた。
「人間共よ、まもなくだ。お前達が築き上げたものが、いったいなにを犠牲にしているのかを思い知れ。何もかも忘れ、同じ事を繰り返す人類はここで滅ぶがいい」
そして、次は顔を上に天を仰ぐ。
まるで、何かを確認しているかのような様子である。
「さて、後はタルタロスの壁を壊し穴を広げていくだけ。今はヒビが入っているくらいだからな、もう少し壊しておくか」
すると、サディアスの身から黒いオーラが吹き出る。
だがそれは普通の鬼のオーラとは違い、異質で威圧感があり、そして何より禍々しかった。
そして、サディアスは気分よく高笑いしている。
徐々にオーラは天にのぼり、途中で何か別の空間に入ったかのようにかき消えていく。
「さて、これでいい。で、貴様はいつまでそこで眺めているのだ」
すると、サディアスは急に誰かに声をかけている。
その時、サディアスの背後の暗闇から誰かが立っている。暗くてその全容はよく分からない。
「ふん、こういう隙をつくやり方は気に食わんのだがな」
暗闇からその人物がサディアスに話しかける。
その口調から、不機嫌そうになっているのがみてとれる。
「あなた達には悪い様にはしません。安心してください」
「利害が一致している間は……だろ?」
その言葉にサディアスの表情が曇る。
「ふん、まぁいい。だが、これだけは覚えておけよ。次、勝手な事をしたらその喉食いちぎってやるからな」
暗闇にいる人物は、獣の様な低いうなり声を上げながらサディアスを威圧すると、暗闇の中に溶けるかのように気配を消した。
「ふふ、お前の目的はタルタロスの中にある“アレ”だろう。だが、させんよ。せいぜい、邪魔者を引きつけておいてくれよ。怨念で鬼化させたものでは限界があるのでな。早く怨念を使って、人間共を生物兵器に仕立て上げなければな。それもまた、計画の要だ。沢村に一層気を締めてもらわんとな」
そして、サディアスはゆっくりとビルの淵から下りると、屋上の出入り口へと向かっていく。
すると、月明かりに照らされサディアスの影が大きく伸びていく。
だが、それは人の姿ではなく龍の姿でもない、禍々しい悪魔のような形をしていた。
「さぁ、始めよう。人類最後の宴を。足掻き、惑い、狂い、絶滅し、嘆くがいい。負の感情を爆発させろ。それこそ、タルタロスに巨大な穴を穿つ最後の鍵なのだ。フフ、フフフハハハハハハ!!」
月夜の超高層ビル群の中、サディアスの笑い声だけが天に響き渡っていく。
まるで、人類の不幸願うように。
そして、その笑い声が宴の合図と言わんばかりに、声はエコーし遠くへ遠くへと響いていく。
その笑い声に何か力が込められていたのだろうか、辺りにある禍々しいオーラがうねりだし苦しそうな人の顔になると、下の街へと向かっていく。
徐々に徐々にその数は増えていき、そして次々と街へと空へと放たれていく。
それは、タルタロスに封じられていた怨念か、それともこの世界に漂っていた怨念かは分からない。
タルタロスから怨念が漏れ出している今、地上も空にも様々な怨念が満ちていた。
まるで、人類最後の時が来るのを喜ぶかの様に、怨念は喜々として飛んでいく。
人に死体に、様々な物に取り付きその怨念を晴らすために。




