第十話 巣立ち
煉獄王。それは、リエンの父親の煉獄龍であった。
煉獄龍 フェーゲ。それがリエンの父親の名前である。
「ちっ、厄介な奴を呼んできてくれるな」
憎々しい様子で、瘴霧龍ネブラを睨みつける。
しかし、ネブラは一切の動揺は見せずに大きな欠伸をする。
「貴様!!」
源十朗は、余程プライドが高いのか。この作戦が成功しなかったことに腹が立っているのか。
怒りを露わにし、目の前で敵対の意思を見せている者達を睨みつける。
「グラディウス。ここは、退いて欲しいな。そうでないと、我々が一斉にこの場で戦うと、この街は消し飛んでしまう。それじゃぁ、先代龍王に顔向けが出来ない。だから、このままでは先代龍王から託された、掟への特別措置というのを発令しなければならないな」
すると、源十朗が怒りの顔からしかめっ面に変化していく。
さすがに、今の掟が現龍王の支配にあるとはいえ、特別措置を取られるとそれが無効になってしまい。グラディウス達にも、掟が適応されてしまうことになる。
「くっ。こんな、煮え湯を飲まされる事になるとは思ってもみなかったな」
「戦いとは、そういうものだグラディウス。君が、花凛君に苦戦したからこその結果だ」
その言葉に納得行かないのか、源十朗が再度花凛を睨みつける。
威圧感を放った為、花凛は咄嗟に偃月刀を握り直す。
「やれやれ、そんなわけはないと言った顔だな。これ以上、手間をかけるなら俺が相手になろうか?」
そして、フェーゲは腕を高く上げると手に炎を纏わせ、そこから炎をモチーフにした巨大な剣が現れそれを肩に担いだ。
その大剣が出てきた瞬間、花凛と同等かそれ以上の熱量が発生し、辺りの気温が急激に上がっていく。
「フェーゲさん、これ以上は……」
ネーヴァの言葉に、ハッと我に返ったフェーゲがポリポリと頬を掻く。
「あぁ、いけないな。俺もまだまだ喧嘩っ早さが直っていないな」
そして、地面に大剣を刺す。まるで、威嚇するかのように。
「で、どうするのだ?」
優しい声でも、やはり凄みはあった。
さすがにこれには、源十朗もたじろいでいる。
すると、アビゲイルが間に入ってくる。
「源十朗社長。今は、引きましょう。まだ我々の方が有利ですから」
「ちっ! 何とも忌々しい。この俺が引くことになるとはな。おい、宗次朗! 起きてるか?!」
すると、その源十朗の声に反応するように、離れた場所で倒れていた宗次朗が起き上がる。
「やれやれ、隙をついて逃げようとしていたのに、なぜバラすのでしょうかね。さすがの私でも、これだけの数の龍を相手にするのは無理ですよぉ?」
「何を言っている? お前もとっとと去れ。場違いだ」
その源十朗の言葉に、宗次朗は凄く不機嫌になる。
だが、この状況ではいくら薬を使っても勝てる要素がないと悟ったのか、大人しく源十朗の言うことに従い、その場から退散した。
ネーヴァやネブラを、睨め上げる様に睨みながら。
「きっもちわりぃ奴だな」
眠そうな目をしながら、ネブラがそう言った。
確かに、宗次朗の龍の力への執着心は異常であった。
だが、それは全て龍であり義兄でもある源十朗への妬みからであった。
「良いか、次はこうはいかんぞ。龍王の命で動く俺達こそ、正しい行いをしているのだからな。この反逆者共が」
源十朗は、そう捨て台詞を吐きながらアビゲイルが用意していた、予備のロングコートを肩がけして、腕をズボンのポケットに突っ込み、塀を跳び越えていく。
その姿を確認した花凛は、龍化を解いた。
すると、緊張の糸がきれたのだろうか、花凛はドサッと地面に倒れ込んだ。
「あ、あれ? 力、入んないや」
すると、花凛の元にフェーゲが近寄ってくる。
「仕方あるまい。完全な龍になった後に、龍化の更に先の状態にまで至ったのだからな。龍の真の力を完全に解放する状態、“真龍化”にな」
しかし、花凛はそんなことよりも、涙が止めどなく溢れてきていた。
心にぽっかりと大きな穴が空いた気分になっていた。
「リエン……」
そう、この戦いで大事な人を。自分の命を助けてくれた、命の恩人。
新たな人生を激動の人生に、それでもやりがいのある人生へと導いてくれた人。とても大切な自分の半身を、親友を失った。
「ごめんなさい。リエンのお父さん」
「むっ、何を謝る必要がある?」
そう言うと、フェーゲは花凛を自分の腕で支える様にして座らせる。
「君の中に、リエンの魂の情報があればリエンは復活できる。魂か完全に消えたわけではないのだ。まぁ、約1000年でその魂の情報が綻びて復活出来なくなるが、それ以外なら復活する方法はいくらでもあるのだ」
その言葉に、花凛はフェーゲに詰め寄る。それが、本当なのか必死に確認を取ろうとする。
「ほんとに?! ほんとにリエンは復活できるの?!」
「リエンが最後に君に何て言った? それを信じてあげないのか?」
花凛は、大きく首を横に振る。リエンの言葉を信じないわけがなかったが、もしかしたらという可能性もあった。
しかし、リエンの父親も同じ事を言ってくる。
花凛は全て信じる事にした。
「君を現世に転生させる時、少しだけリエンの魂を分けておいたのだ。分魂術というものだがな。まがりなりにも、死者の魂を管理する立場なんで、少しばかりそういう事もできるのだ。そして……」
そう言うと、フェーゲは花凛に向けて手を広げ、花凛から何かを取り出そうと近づけてくる。
すると花凛の胸の辺りから、火の玉の様な小さな炎の塊が出てきた。
「えっ? こ、これは?」
「これが、リエンの魂の情報だ。これがあればリエンの記憶もそのままに、新たな肉体を持って蘇らせる事ができる。リエンは、君の魂と馴染む前にちゃんと隔離していたようだな」
そしてフェーゲは、その炎の塊をそっと優しく扱い、瓶の容器に入れて保管した。
「さて、それでもリエンが復活するまで1ヶ月以上はかかる。花凛、君はどうする? これからは、リエンの指示無しで戦わねばならん。そもそも、リエンと一緒になったから鬼化した人達の退治をやっていただろう?」
そう言われても、花凛の答えはとっくに決まっていた。
「そんなの、もう私の中では答えは決まっているわ」
すると、花凛は家から飛び出して来て花凛の元に走ってくる夏穂、美穂、志穂に視線をうつす。
そして、再びフェーゲに視線を戻す。
「私は、あいつ等を許すつもりはない。リエンに託されたのもあるけれど、私は自分の意志でNECを、そして敵対する龍達を倒す。そうしないと、一般の人達も。この3人も普通の生活が出来ないからね」
「ふっ、なるほど。そう言ってくれると思った」
フェーゲは、決意に満ちた花凛の目を見ると納得したように頷いた。
そして、ネーヴァとネブラが続けて言ってくる。
「ならぱ、私達は現龍王から離反しあなたに協力します」
「あいつをほっといたら、もっと面倒くさい事になるからな。そいつはごめんだ」
その言葉に、紫電とアシエが少し暗い表情をしている。
「あ、あかん。花凛の奴、気づいたら俺よりも強くなっとるんちゃうか?」
「紫電さん、疑問形ですか? 確実に、アシエ達より強いですよ」
「し、しかも俺等、最近活躍してるか?」
「してないです」
紫電は、顔を片手で覆うと愕然としている。
活躍していないというのが、相当ショックらしい。
すると、その様子を見たネブラが紫電達に近づけてくる。
「おいおい、お前達はお前達でやることがあるだろう? NECが作り出そうとしている、バイオロイドの研究所。それを探し出し、破壊するという任務が」
「あっ、は、はい! わかりました!」
「分かりましたです!」
立場的に四天龍の方が上らしく、紫電もさすがに目上の存在には敬語で返している。
そして、紫電達は足早にその場から去って行き、ネブラに言われた研究所を探しに行った。
「援軍がいるなら、こいつに連絡しろよ」
その後ろ姿に向けて、ネブラが花凛を指さしながら言っているが、聞こえているかどうかは定かではない。
「花凛! 大丈夫?!」
「花凛さん、ごめんなさい。私達のせいで」
「あんなのが来るとは思わなかった」
相変わらず夏穂、美穂、志穂の順番で花凛に近づき謝ってくる。
「あなた達のせいじゃないよ。友達を守るのは当然でしょ?」
すると、後ろから3人の父親の亮蔵がやって来て、花凛の前に立つと深々と頭を下げてきた。
「ほぇ?! えっ、ちょっと頭を上げて下さい」
花凛は戸惑いながらそう言うが。亮蔵は頭を上げずに、花凛にお礼の言葉をかけてくる。
「いや、是非礼をさせてくれ。娘達を守ってくれて感謝する。そして、君が他の龍とは違うことも分かった。娘達が肩入れするのも、よく分かった」
「お父様……」
その言葉に夏穂が驚いていた。しかし、厳格だからこそなのだろう。礼儀作法というものは、しっかりするべきという事を3人の娘達に見せたかったのであろう。
果たして、この様な人物が人を殺めたりするものだろうか。
夏穂、美穂、志穂もそう考えたらしく、顔を俯かせていた。
とにもかくにも、花凛にとっては長く。そして、人生が変わるほどの夜であった。




