第九話 神楽家急襲 ~ 集う四天龍 ~
解放された花凛の力は、凄まじかった。
まるで、一瞬で人を焼き尽くすかのような業火を、瞬時に広範囲出したのだから。
「なんて、熱量ですか。私の氷の壁でも、何重にも張らなければ防げないほどじゃないですか。これなら、さすがのグラディウスも」
だが、炎の中から上着が燃え尽き、上半身を露出させた源十朗が炎を払い、突撃してくる。
「ぐぅぅぅう!! やってくれたなぁ!!」
ものすごい雄叫びを上げ、肩から巨大な剣を生やしている。
更に、背中にも何本か刀剣が突き出している。
「不味いですね。グラディウスが本気になった!」
さすがののんびり屋のネーヴァも、この事態に危機感を感じて花凛に加勢に向かう。
「ふぅ、あっぶなかったわ! あの人、凄いな。ってか、リエンの奴……」
「はいです、全て花凛ちゃんに託したようです」
紫電達を襲っていた敵も、先程の花凛の攻撃で全てやっつけたようで、周りに土や岩の人形の様な物が転がっている。
「舐めてくれたものだな。襲って来ていたのは、数人だけ。後は、全部この人形みたいな物だったんだ」
神田が辺りの光景を見て、言ってくる。
透明化能力の奴も、気絶したようであり。透明化が解除されていた。
その本人は、木の後ろに隠れていた。
『ブーンドック セインツ』は、全員息があるようで神田がロープで次々と縛っていく。
「よっしゃ、ほな俺等も加勢に行くで!」
「はいです!」
「よし!」
紫電に続き、アシエと神田が花凛の元に走って行く。
そして、すぐにその場にたどり着くが。
そこはまさに手を出す事が出来ないくらいの、大激戦が繰り広げられていた。
あのネーヴァですら、弓を引きながらもどうすれば良いのやらと、困った顔をして硬直している。
辺りには、鉄と鉄がぶつかり合う音。そして、花凛の放った業焔の熱気が舞っている。
「そこ!!」
源十朗の、日本刀よる攻撃をしゃがんで回避した花凛は、相手に足払いをかけ、そのままあごに掌底をくらわすべく、左手を突き出すが。
相手の目がぎらついていることに気づき、咄嗟に手を引く。
すると、相手の髪の毛から小さな刃が飛び出して来て、花凛の左手のあった部分を通り過ぎる。
引いていなかったら、危なかった。
そして、源十朗は地面に倒れる事無く体勢を立て直すと、次々と右足で蹴りを入れてくる。
ただ、その蹴りからは次々と真空の刃が飛び出してくるので、花凛は回避がギリギリになっている。
偃月刀でも受け止めながら、源十朗の攻撃を防ぐが、続けて日本刀の攻撃が襲ってくる。
「くっ……!!」
それも、偃月刀で辛うじて受け止める。
「ふっ、確かに先程とはうってかわってだが。まだ、甘い」
源十朗の姿は、体の至る所から刀剣が出ており、表情も厳つく変化し完全に龍化していた。
「甘い? これでも?!」
そう言うと、花凛は左手を離すとパッと手を広げる。
すると、炎の塊が出現し形を成していく。
そして、細くなった炎の部分を掴むと。炎の中から、もう1本の偃月刀を出現させる。
「なっ?!」
そして、それを源十朗の顔を目がけて振り抜く。
しかし、激しい音と共に源十朗の口元でピタリと止まった。
なんと、源十朗は歯で花凛の攻撃を受け止めていたのだ。
「うそっ?! こいつ、獣か何か?」
「くく、だから。甘いんだ」
どうやら、源十朗は剣閃や刃を操るだけで無く。
体中を刀剣に変化させることも出来るようである。
つまり、歯を刃に変えて受け止めたのである。
そして、そのまま花凛の腹部目がけて、横に蹴りを入れてくる。足の刃で切り刻むつもりである。
そうはさせまいと、花凛は左手に力を入れ刃先に炎を出現させる。
「ぬっ?! ぐぅ!」
炎の熱さと焼ける痛みで顔が引きつるも、離すつもりは無いようである。
すると、花凛は日本刀を引いた為に空いた右手の偃月刀で、挟み込む様にして切りつける。
間に合えと心の中で念じながら。
だが、お互いの攻撃は同時に当たった。
「くっ!!」
「ぐぉ!」
お互い、後ろに弾かれる様に吹き飛ぶと地面に転がる。
源十朗は、結局顔から斜めに斬りつけられ。
花凛は、腹から斜め上に斬られていた。
しかし、お互い龍であり龍化している為、傷は一瞬で自然治癒した。
そして、再び。お互いが向き合う。
花凛は、今2本の偃月刀を両手に持ち、相手の大量の真空の刃に対抗しようとする。
もちろん、源十朗はそれに気づいているが戦闘技術は、まだまだ自分が上だと判断し、花凛に向かっていく。
花凛は、向かってくる源十朗に対し、2本の偃月刀を持った両手を交差させると、斜めに交わる様に切り払った。
すると、十字に重なった炎の刃が源十朗に向かっていく。
だが、源十朗はこういう刃を扱うのが得意であるため、右手に持った日本刀で前方から飛んでくる炎の刃を、自分の日本刀に巻き込む様にして斬りつける。
「また、同じミスをするのか。俺には、こういうのは効かんといっただろう」
源十朗はそう言うと、日本刀を振り抜き花凛の炎の刃を巻き込む様にして、真空の刃を放つ。
しかし、目の前に花凛の姿はなかった。
「チッ! 上か?!」
花凛の行動を読んだ源十朗は、上を向く。
だが、そこにも花凛の姿はなかった。
「なっ?! どこに?」
「う・し・ろ!」
その言葉に、源十朗が振り向くが、既に花凛は1本だけに減らした偃月刀で後ろから斬りつけていた。
背中に生えている刀剣すらも、無残に折れていく。
「あっ、がぁっ!」
この時、花凛は初めて源十朗に膝をつかせることが出来た。
「ちっ、この野郎が。俺が、膝をつくなど何十年ぶりだ」
そう言いながら、源十朗は起き上がり手をかぎ爪の様な形にすると、指の1本1本を刀剣に変化させていく。
「五刀掌斬!!」
源十朗はそう叫ぶと、まるで瞬間移動したかの様に花凛の後ろに現れた。つまり、それだけのスピードで花凛を斬りつけたということである。
そうなると必然的に、花凛の体は瞬時に切り刻まれる。
しかし、今回は違っていた。多少動きが読めていた花凛は、何とか防御姿勢をとり直撃を免れていた。
そして振り向き様に、刃先に業焔と呼ぶに相応しい程の炎を纏わせた偃月刀で、源十朗を斬りつける。
「この進化した、“煉獄偃月刀”を舐めないでよね!! 神焔煉獄斬!!」
「ちぃ!! 俺の一撃の威力を削ぐなんてな、神龍の加護を得た龍がここまで厄介だとはなぁ!!」
花凛の凄まじい業焔による斬撃を、刀剣の指をした両手でガシッと受け止める。
本来、普通の龍や真鬼程度ならこの攻撃をこの様に受け止める事は、不可能に思える。そんな強力な花凛の攻撃を、ギリギリではあるが受け止めるなど、さすがは四天龍と言うに相応しいレベルだあった。
「私は、リエンに託されたんだ!! あなたを倒すために、そして前に進む為に!! この逆境を覆してみせる!!」
花凛の腕に力が入る、お互いが1本も引かず激しく燃え上がる炎の音と、それを受け止め押し返そうとし地面を踏みしめる音が、周りで手をこまねいている紫電達に、どれ程の打ち合いかを報せていた。
「ふん! 四天龍の2体だけなら、なんとかなるだろうなぁ。だが、サディアス。奴はなぁ……」
「それ以上の発言は、その口をもいででも止めますよ。グラディウス」
すると、源十朗の後ろから綺麗な声が聞こえてくる。
澄み切ったネーヴァの声とは違い、鈴の様な綺麗な声。
そして、その声を花凛は知っていた。
源十朗の後ろには、金髪碧眼のサラサラのロングヘアーでネーヴァにも負けず劣らずのモデル体型である、アビゲイルの姿があった。
そして、そのアビゲイルの姿を見たネーヴァが弓をそちらに向けて引き絞る。
「あら、これはこれは珍しい。お久しぶりですね、“陣風龍 ベェーチェル”。今までどこに?」
そのネーヴァの言葉に、アビゲイルが答える。
「私の大切な人の元にいたわ。それより、私もその龍の名前を捨てているのよ。今はアビゲイルよ」
アビゲイルの返答に、ネーヴァは顔をしかめた。のんびり屋のネーヴァが、ここまでの表情を見せるのは珍しいらしく、紫電達が目を見開いていた。
「アビゲイル。『父の喜び』ですか。何の冗談ですか? 四天龍ともあろう者が。今の邪悪な龍王に味方し、人々を鬼化させて。あなたの言う大切な人は、タルタロスの怨念を流出させて何が目的ですか?!」
ネーヴァの言葉から、何とアビゲイルは四天龍の1体。陣風龍 ベェーチェルであることが分かった。
すると、激しい爆発音が響きわたり、ネーヴァの元に花凛が転がり込む。
そして、源十朗が衝撃で後ろに下がりながら、アビゲイルの横につける。
「源十朗社長。退いて下さい。厄介な人物が到着しましたよ」
「あぁ?!」
すると、花凛達から少し離れた所で激しい火柱と、濃い霧が発生する。
その様子を見て、源十朗はアビゲイルの言葉の意味を理解したのか、非常に不機嫌な顔をしてみせる、
「ちっ、確かに厄介な奴だな。煉獄王、フェーゲ!!」
すると、火柱の中から40代に見える大きな男性が現れる。その姿は筋骨隆々であり、炎の様なミディアムの赤い髪を、後ろに流して数本をまとめて固めた様に立ち上げ、厳つい目つきで威厳ある風貌を醸し出している。
そして、その傍には濃霧から姿を現したもう1人の男性もいた。
20代に見えるその風貌は、炎の中から現れた男性より少し背が低めである。
その目も眠そうな目であり、ボサボサのくせっ毛のショートヘアーは、寝癖で更に情けないことになっている。
服装も、よれよれの物を着ており、ズボンからシャツがだらしなく出ている。
「ふぅ、連れて来るのが遅いですよ。“瘴霧龍 ネブラ”。あなたも四天龍です、自覚をして下さい」
その姿を見た、ネーヴァが呆れた顔で眠そうな男性に小言と言っている。
しかし、その男性は動じずに頭を掻きながら反論する。
「はぁ、こんな面倒くさい事にいちいちかり出される身にもなれ。あと、お前にだけは言われたくないな、ネーヴァ」
一理あるが、どっちもどっちであった。
四天龍のうち2体は、今何かNECと手を組み悪だくみをしようとしている現龍王に異を唱えている。
ということは、今NECに味方している刀刃龍グラディウスと、陣風龍ベェーチェルに敵対している、この絶氷龍ネーヴァと、瘴霧龍ネブラと呼ばれた人物2人が、四天龍の中でも花凛の味方をしてくれる龍となるのだろう。
だが面倒くさがりと、のんびり屋。果たして戦力になるのかどうか、疑問に感じた花凛である。
「まぁまぁ、君達。こんなところでガチで戦って欲しくはないものだね。君達、四天龍同士にらみ合っているだけでも、周りの動物達が逃げているくらいだからね」
花凛は、煉獄王から放たれた声に目を見開き驚いた。
その声を知っていたからである。体格に似合わない、なんとも優しい声。
「え、ま、まさか。リエンのお父さん?!」
その声に、煉獄王は花凛に目を向けにこりと微笑んだ。




