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煉獄の焔  作者: yukke
第五章 学園祭襲撃
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第三話 加護の力

 辺りが暗くなり出す頃、学園祭の準備も無事に終わり明日の本番を待つだけとなった。

そしてクラスメイト達が家路につく中、花凛もふらふらと校門に向かっていた。


『花凛、どう? 体に何か変化は?』


「いや、今の所は何も変化ない……かな? 加護を受け取った瞬間は、自分の中の何かが弾けそうにはなったけど」


 花凛は、そっと自分の唇に触れ先程起こった事を思い出していた。

あれから残り2人にも濃厚な口づけをされ、3人から神龍の加護をうけとったのだ。

しかし、今の所これといった変化は見受けられなかった。


「と言うか、私のファーストキス……」


 花凛はふと呟いた。

女同士とはいえ、やはりキスはキスである。花凛は今まで一度もしたことがなかった為、初めてのキスになってしまう。男の時もしたことが無いので、正真正銘のファーストキスである。


 すると、そんな花凛を見てリエンが呆れた様に言ってくる。


『キスくらいでなにショック受けてるのよ? それに、女同士なんてノーカンでいいじゃん』


「うぅ……そんな簡単に割り切れないです」


 花凛は、更に肩を落としてうなだれてしまった。


『それにしても、あの3人でも花凛の中の邪悪な方の龍の力は分からなかったわね~』


 神龍の巫女3人は龍の力を見る事も出来たが、花凛の中の元の龍の力がどの様な物かは、闇が深すぎるらしく見ることが出来なかったらしい。


「家に言って、家系を探るしかないのか」


 花凛が、そうつぶやく。

そして、花凛は帰る前に谷本家に寄ることにし校門へと向かう。

すると、そこに見慣れた人物が立っていた。


「お~花凛! 久しぶりやな~」


 そこには、紫のスカジャンにジーパンを履いている紫電の姿があった。

髪は相変わらず紫色で立てているが、帯電している時に比べると少し落ちていた。


「あっ、紫電さん。どうしたの?」


 紫電の姿を見つけると、花凛はそちらに歩み寄っていく。


「いや、何。お前の学校、明日学園祭なんやってな~面白いそうやし、見に来よう思てな。後は、お前からのメールでNECのバカ共の事を聞いてからじっとしてられんかってな。この市に日本支社があるんやろ?」


「あっ、そうだった。と言うことは、原因を潰す為にしばらくこっちに?」


 紫電の言葉に花凛が返す。仲間が増えるのは良いことなので、素直に嬉しくなっている花凛を見て、紫電は恥ずかしそうに頭を掻いていた。


「まぁ、そう言うことや。俺が担当していた場所は、俺の弟子にまかしとるさかいに、本腰入れて奴らをぶっ潰してやるわ」


そ う言ってくる紫電の顔は、少し頼もしそうに見えた。


『紫電、それは良いんだけど。住むところどうするの?』


「まぁ、どっかの公園やな~」


「えっ? 公園って、野宿?!」


 紫電の言葉に、花凛が驚いている。普通は、アパートか何かを探すところが、この男は普通に野宿を選ぶのだから驚かずにはいられなかった。


「何か、問題でもあるんかい?」


 あっけらかんとしている紫電に、花凛は盛大なため息をついていた。

そして、腕を組み考え事をし始める。


「賢治さんに頼んで、警察の寮とかに仮住まいとか出来ないかな?」


『花凛、そんな事しなくて良いわよ。ほっとけばいいのよ』


 花凛の提案を、リエンは即却下してきた。しかし、おそらく紫電は今までも野宿だったのだろう。

こっちで行動するというならやはり、それなりの所に住んでもらわないと、色々と面倒な事になるのは目に見えていた。


 そうやって、校門を出て花凛が考えていると。近くから悲鳴が聞こえてきた。


「お? 早速、鬼化した奴がでたんか?」


「えっ? 嘘?」


 紫電の言葉に、花凛はきょろきょろと辺りを見渡す。すると、商店街の先から逃げまどう人々の姿が見える。


「あっちね!?」


 そう言って花凛が走り出す。それに、続き紫電も追いかける様にしてついてきている。


『さ~って、どれくらい力が上がってるのかしらね~』


「どういう事や?」


 リエンの言葉に紫電が不思議そうに聞き返している。

そして、人々が花凛達の方に向かって逃げて来ている中、花凛達が人々を追いかけている者の姿を捉えた。

それは、どう見ても鬼化した人物であった。しかも、5人である。


「ちょっと、多いな~もう!! 薬使ったのかな?」


 そう言いながら、花凛はいつものように炎から偃月刀を取り出す。


「あの、とんでもない会社の怪しい薬なんかよく使うわな~」


『どんな手を使ったかは知らないけれども、政府が認可してしまっているし、皆が特別な力を欲しいと思っちゃってるんでしょう? それで、安易に手を出しちゃってあんな事になっているのよ!』


 花凛に続き紫電も戦闘態勢に入る中、いつものようにリエンが状況分析を行っていた。


「とにかく、1体ずつ浄化するしか無いわね」


 

 そう言って、花凛が5体の内の1体に狙いを定めると偃月刀を下に構え、斬り上げる姿勢を見せる。


「火焔刃!!」


 花凛は、そう叫ぶと予定通りに偃月刀を振り上げる。しかし、その時想像以上の事が起こる。


 偃月刀の刃先から飛び出した炎の刃は、いつもの数倍の大きさになっており、威力も数倍に上がっており地面をえぐり斬っていた。

そして、その勢いのまま鬼化した5人を飲み込んでいく。

鬼化した者達は、悲鳴を上げる事も自分に何が起こったのかも理解出来ぬまま、燃え散っていった。


「花凛、お前何やあれは?! 何したんや?」


 あまりの出来事に紫電が声を荒げる。しかし、当の本人も何が起きたのか理解出来ず、リエンを涙目で見つめている。


「リエ~ン、どういう事これぇ~」


『これが、神龍の加護よ』


「なっ、なんやって?! 花凛、お前いつの間にそんなん受けたんや?!」


 紫電の顔色が一瞬にして代わり、花凛に掴みかかってくる。


「ちょっ、どうしたの紫電? 痛いって……」


 すると、丁度後ろから聞き慣れた3人の声が聞こえてきた。


「わ~お。これは凄いもんだね~想像以上だわ~」


「あらら、やっぱりいきなりだと制御出来ていないみたいですね」


「でも、花凛ならあっという間に出来るでしょう」


 夏穂、美穂、志穂が交互に感想を言ってくる。

その姿を確認したリエンが3人に詰め寄っていく。


『ちょっと!! あなた達が身勝手に花凛に加護なんか与えるからよ!』


 すると、今度は紫電が3人に駆け寄ると物凄い形相で3人を睨み怒鳴りつける。


「お前らか?! 『神龍の巫女』は!! 丁度ええ、俺にも今すぐ加護を与えろや!!」


 最早、その姿は見苦しく力に固執する悪の様であった。


「うわ、こっわ。これだから普通の龍は嫌なのよ」


 夏穂が、咄嗟に後ろに飛び退く。そして、美穂が紫電を睨み付けている。


「残念ですが、私達は3人共花凛さんに協力したかったので。3人共、花凛さんに加護を与えました」


「なっ、なんやって~?!」


 美穂のその言葉に、紫電ご驚愕の声を上げる。しかし、紫電は諦めなかった。


「ほな、お前らの親や! 何処におる?!」


 すると、3人共急に悲しそうな顔になり紫電とリエンを順番に見つめた。


「とっくに死んでおります。あなた達、龍にこき使われてね」


 美穂が、努めて冷静な言葉で言ってくる。


「ちっ!! くそが!」


 紫電は足で地面を思いきり踏みしめている。よっぽど悔しかったようである。


『仕方ないわよ、紫電。私達が、物みたいに扱ってきたから自業自得よ』


 そう言ってくるリエンに、美穂が険しい顔で質問をする。


「前から聞きたかったのですが、何故龍達は私達『神龍の巫女』を物扱いするのですか?」


 3人の質問に、答えにくそうにしながらもポツポツと語りだした。


『それは、人に力を与える行為が私達龍にとっては、裏切り行為だったからなのよ』


 そのリエンの言葉に、夏穂、美穂、志穂の3人が目を見開き驚いている。


『だけど、相手は神龍。私達は止めに入ることもできずに、3人の女性に力を分け与えるのを眺めているしか無かった。だったら、その3人から神龍の力の一片を頂けば良い。そう思った私達龍族は、あなた達巫女の家系に対し酷い仕打ちをしてきたみたいなのよ。千年以上も前からね』


 リエンが話し終えると、3人は黙ったまま俯いていた。

しかし、その握られた拳は怒りに震えている様にも見えた。

だが、それは龍達に向けられているのか、無責任に力を与えた神龍か、はたまた最初に深く考えず繁栄の為にと力を貰ったご先祖に対してなのかは、花凛には分からなかった。

その前に、花凛にはやらなければいけないこともあった。


「ねぇ、リエン。この力の制御ってあなたでも出来ないの?」


 そう、花凛はこの強すぎる力を何とか制御し使えるようにしなければならなかったのだ。


『3人から加護を貰った龍なんて、未だかつて居ないわよ。つまり、私でも制御出来ないわ。花凛、自分で制御するしかないわ』


「そっ、そんなぁ?!」


 リエンの言葉に、花凛は最後の希望を断たれた様な顔をし肩を落とした。

すると、花凛の肩を3人が叩きにっこりと微笑んでいた。


「大丈夫。花凛なら、ちゃんと扱えるよ」


 夏穂が最初に言ってくる。だが、いつもの夏穂の口調なのでその言葉はどこか軽かった。


「私達も、巫女としてあなたの力になりますから。花凛さんに全て任せきりにはしませんよ」


「そうそう。大丈夫だよ花凛」


 美穂と志穂が続けて言ってくるが、そもそも3人の加護を受けた龍が居なくて前代未聞の事なのだ。夏穂、美穂、志穂の言葉だけでは花凛の不安を拭いきる事は出来なかった。

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