第二話 3人の巫女
皆が学園祭の準備をしている中、花凛は夏穂、美穂、志穂達に伴って空き教室へとやってきた。
『まさか、こんな所に3人徒も揃ってるなんてね。運が良いわね花凛』
空き教室に入ると、真っ先にリエンが口にした。
その表情は、何処か嬉しそうな。まるで、良い拾い物をしたかの様な顔をしている。
「別に、あなたに協力をするわけではないからね? リエンさん」
いつもの夏穂とは違う、大人びた雰囲気でリエンに口答えしてくる。
「私達は、花凛さんに惹かれたから協力するのよ」
美穂が続けて言ってくる。普段から大人びているので、あまり変わり映えはしなかったが、目は鋭く柔らかな物腰も無くなっている。
「私達は、巫女としての力を花凛に使う。リエン、あなたではない」
そして、志穂が最後にそう言ってくる。志穂も普段から物静かなのだが、口調が強めでハッキリと意思表示をしている。
『ふん、分かってるわよ』
その3人の態度に、リエンは不機嫌になっている。
花凛の知る3人では無かった為に、呆然と突っ立っているだけの花凛に3人が気づき近寄ってくる。
「ごめん、花凛。びっくりしたよね」
そこには、いつも通りの夏穂がいた。
「う、うん。いったい3人は何者なの?」
花凛は、ただのクラスメイトだと思っていた人達が、龍と深く関わっていた事に驚きを隠せないでいた。
「私達はね龍の力を宿していて、他の龍にその力を加護として与える巫女なのよ」
美穂が続けて説明してくる。美穂も志穂もいつの間にか、いつも通りに戻っている。
「な、なんで。そんな力を3人が?」
花凛が、驚きの表情のまま3人に質問をする。
どう見ても一般人の彼女等に、その様な力があるなんて想像にも出来なかった。
「それはね私達3人のご先祖様が、ある日特別な龍から力を授かる事になったのよ」
その問いかけに、美穂が続けて説明をする。
「そして、その時に龍とある契約をしたのよ。それは、この力により子孫を繁栄させる代わりに、その力を他の龍に加護として与える事。それから、その3人の女性は巫女として龍に力を与えたり等して、家を繁栄させてきたの。そして、龍の力は子から孫へと脈々と受け継がれていったの」
花凛はただじっと聞いていた。何故、彼女達が自分にこんな親身になってくれるのか、それが聞けるとあってか真剣な表情になっていた。
それを見た3人は、花凛に柔らかな笑顔を向けてくる。
そして、美穂は続ける。
「そして、私達3人の両親がその巫女の子孫で三姉妹なの。つまり、いとこ同士なのよ私達は。そして、龍の力も親からちゃんと受け継いでいるの。ついでに私達、神楽家は代々女性が家主を継いできた。龍の力は女性にしか宿らなかったから。だから、お父さんは全員婿養子。私達の苗字が同じなのはそう言うこと」
美穂に言われて、花凛はようやく気がついた。
そうこの3人は、神楽夏穂、神楽美穂、神楽志穂となっていたのだ。
てっきり、三つ子か同じ所に養子にされた人達かと思い、気にも止めていなかったのだ。
『これで、分かった? 花凛は、とてつもない人達に好かれたのよ』
リエンが、花凛にそう言ってくるがその言葉は何処か羨ましそうであった。
「でもさ、それなら何でリエンを毛嫌いしているの?」
「それは、龍達が私達の母親や祖母に自分に加護を与えさせるためにと、無理やり言うことを聞かせようとしたり、加護を与えた後も物扱いしてきたから」
花凛の言葉に、少し憎しみを込めた口調で志穂が言ってくる。
「ご先祖様の手記に書いてあった。『龍は傲慢である。決して気を許すな』と」
そう言って、志穂がリエンを睨んだ。
「リエンさん、あなたも昔私の母親から、無理やり加護を得ようとしたらしいわね。失敗したらしいですけれど。私が産まれる前だから、私の事が分からないのは当然ですけどね」
志穂に続き、美穂がリエンを見つめて言ってくる。
『若気の至りよ。今は……悪かったと思ってるわ』
リエンが、3人を見つめ申し訳なさそうな顔をしている。
『結局、あなたのお母さんは折れなかったからね。必死になりすぎていたわ……』
「でも、何でそんなに欲しがるの? 自分達も龍なのに?」
花凛は、頭を俯かせているリエンに疑問をぶつけた。
『それはね、3人の先祖が力を貰った龍っていうのがね。《神龍》だったからよ』
「えっ……?」
あまりの言葉に、花凛は聞き返した。絶対に、あり得ないはずの龍の名前が出てきたからだ。
『だから、神龍よ。ほんの一欠片に満たないけれども、龍の力を数倍に引き上げる力を受け継いでいるのよ。だから、彼女達はこう呼ばれているの《神龍の巫女》』
花凛は、目を見開き呆然としていた。
信じられないスケールの話だった為に、頭が思考を停止していた。
「お~い、花凛。どうした~?」
夏穂が、花凛の顔の前に手をヒラヒラさせて反応を確認している。
「隊長、駄目です。反応しません!」
そして、敬礼しながら美穂に状況を説明している。
「あらあら、どうしましょう?」
美穂も、あごに手を当てながら唸っている。
『ちょっと! 花凛! 惚けてる場合じゃないわよ! どうするの?!』
「はぅ?! えっ? えと、どうって?」
リエンの叫びに、ようやく我に返った花凛が聞き返した。
『加護を受けるのかどうかよ?』
「えっ、えっと。ちょっと待って、それって何人もの龍に与えられるものなの?」
花凛が、再び質問をしてくる。それは、単に自分よりももっと凄い龍に使えるなら、使って欲しかったからだ。
「1体の龍だけよ。そして、私達は龍に加護を与える気はなかったから、1体も加護を与えてないわよ」
花凛の質問に美穂が答えてくる。
「え? だったら尚更私なんかよりもっと凄い力を持った龍の方が……ふえっ?!」
そう言い切る前に、3人が近寄り花凛の手を取った。
「花凛さん、やっぱりあなたは素敵よ」
「私達が、親から聞いた他の龍とは違うよ。傲慢さが無い。なのに、あんなに必死になって戦っている」
「そんなあなただからこそ、私達3人共あなたの力になりたいと思った」
美穂、夏穂、志穂の順に花凛を説得してくる。
『3人共って、ちょっとあなた達本気?!』
リエンが驚愕の声を上げる。
「えっ? えっ?」
花凛は、何だか訳が分からなくなっているようである。そこまで自分の事を評価されたのは、男の時でも無かった為耐性がなかったのだ。
そして、夏穂と志穂は手を離した。
「順番は、とっくにジャンケンで決めていたしな~」
「先、どうぞ」
そう言うと、夏穂と志穂は半歩下がった。いったいどういう事なのかと花凛がが首を傾げていると。
「じゃ、いきますね。花凛さん」
「えっ? むぐっ……」
美穂がそう言った瞬間、花凛の唇に柔らかなものが当たる。
そして、目を見開いた花凛の目の前には美穂の顔があった。その美穂の唇が、花凛の唇に当たっている。
そう、美穂は花凛に口づけをしてきたのだ。
「んぅ~んぅ~」
事態を理解した花凛が、唇を離そうと抵抗するものの、両手でホールドされていた為に離せずにいた。そうこうしているうちに、花凛の唇を押し広げようとするものがあった。
花凛の唇をゆっくりと撫で、力が抜けた所に一気に花凛の口に侵入してくる。そして、舌を絡めていく。
花凛の頭はとっくにパニックになっていたが、それがとても濃厚な口づけだということは理解していた。
「んっ……んふ。ん~」
しかし、それと同時に何か物凄い力が花凛の中に流れ込み、自分の中の力が膨れ上がる感覚に襲われた。
そして、ようやく美穂が唇を離す。
「美穂。あ、あなた。何を……」
花凛は、顔を赤くし美穂に問いただす。突然唇を奪ってきたのだから、動揺するのは当然であった。
「何って、加護を与えたのですよ。神龍の加護を与えるのは、古来より接吻と決まっているようなので」
そう言いながら、美穂は舌なめずりする。まるで、美味しいものをいただいかのように頬を紅潮させて。
「悪くなかったですよ。花凛さん」
花凛にトドメを刺すかの様に、美穂がいたずらな笑みを浮かべる。
その言葉を聞いた花凛は、見る見るうちに顔が真っ赤になっていった。
「じゃぁ、次は私の番ね~」
そして、夏穂が両手をワキワキさせながら近づいてくる。
そんな中リエンが驚きの声を上げる。
『本気なの?! 1体の龍に3人の加護なんて、一度もないのよ?! どうなるか分からないのよ!』
リエンの叫びに、美穂が冷静に返してくる。
「花凛さんなら、大丈夫ですよ。あの人はあなた達とは違うから」
『何の根拠にもなってないわよ……』
リエンがうなだれるように肩を落としている中、花凛が助けを求めていた。
「そんな事より、助けてよ~!! リエン~!!」
『この人達本気みたいだし、諦めなさい』
リエンまでもが、トドメを刺すかのように両手を横に広げお手上げのポーズをとっていた。
「ぬふふ、そう言う事よ。諦めて私達の加護を受けなさい」
そう言って、夏穂は花凛の顔を両手でホールドしてくる。
最早、花凛に逃げ場は無かった。
「ひっ……い、いやぁぁあああ!!」
貞操の危機すら感じた花凛は、知らないうちに悲鳴を上げていた。




