第一話 学園祭前日
周りの木々ははすっかり赤く染まり、紅葉も見頃を迎える時期である。
今日は学園祭前日。転校して来たばかりだからと言って、それに甘えるわけにはいかないと感じた花凛は、小道具作り等は積極的に手伝っていた。
「ふ~ん、このクラスはお化け屋敷をやるんだ~」
花凛がそう呟く。なぜなら、小道具や仕切りの壁等を見ていると、お化け屋敷特有の形や色をしていたからである。
「花凛さん、大丈夫ですか? あなた病み上がりでしょうに」
仲良し3人組の1人、美穂が話しかけてくる。
「大丈夫だよ。それにこうやって体を動かしていた方が余計な事を考えずに済むからね」
「それってやっぱり、あのNECが化け物発生に関係しているから?」
花凛の言葉に、仲良し3人組の1人である志穂が反応する。
もう1人の夏穂は、必死に何かシナリオみたいな物を書いている。このお化け屋敷のストーリー設定を頼まれたらしい。
花凛は、2人に視線を戻し頷いた。
実は、あれから薬として認可された『アビリティルギー』を使った事で、化け物になったという声がネットに溢れかえっていた。
NECには批判の嵐が殺到するかと思いきや、その声は国の情報規制で消されていた。
つまり、世界中の国々がこの新エネルギーの開発に全力で協力していたのだ。
そして、自分の国がその薬を独占しようと躍起になっていた。何故なら、その薬を軍の兵士に使えば、強力な戦闘兵器に様変わりするからだ。
それと、新エネルギーが新たな資源になれば石油も天然ガスも不要にる。つまり皆がそのエネルギーを使う事になる。となれば、そこには莫大な富が生み出されるのだ。
そこで、是非とも我が国に流通の拠点をと、代表取締役のサディアスに国のトップ達が媚を売りまくっていたのだ。
この僅か1週間足らずで、世界は様変わりした。NECに味方をする世界に。
そして、それに伴い当然鬼化する人や真鬼になる人達が全国で倍増したのだ。
現に花凛は今日の朝も、鬼化した人を浄化していたからだ。
「皆は、あんな薬使わないでね」
花凛が心配そうに呟いた。
「それでしたら大丈夫ですよ、この学校の人達は皆あなたの事を信じていますし、ネットであれだけの事が書かれている物に手を出す勇気なんてありませんよ」
美穂がそう言いながらにこやかな笑顔を向けてくる。
だが、花凛1人では恐らく誰も話を聞いてはくれなかったであろう。しかし、この3人も花凛を手伝う為に一緒になって必死に訴えかけてくれた。
花凛は、その事に少なからず感謝をしていると同時に疑問を抱いていた。
いったい何故この3人は、ここまで花凛に協力してくれるのだろうか。
「ねぇ、3人は何で私にこんなに親身になってくれるの?」
花凛は、美穂に聞いてみた。ただの一般人のこの3人が何故ここまでするのだろうか。当然、危険もつきまとう可能性もある。それにも関わらず、この3人は積極的に花凛に協力していた。
「ふふ、あなたは。私達3人にとってのヒーローだからよ」
美穂がもっともな事を言ってきたが、うまくはぐらかされた気もしている花凛は、3人に釘を打つことにしておいた。
「でも、危険だからね。手伝ってくれるのはありがたいけれども、巻き込まれるよ。死ぬかもしれないんだよ?」
花凛は、3人を失いたくない一心で訴えていた。
「分かっているわ。だから、危険がない範囲で手伝っているのよ」
美穂も志穂も、心配しないでといった表情を向けてくる。
花凛は、その顔を見ると何も言えなくなった。
そして、準備は着実に進み。教室の中は、既に気味の悪い場所になっていた。
「それにしても気合入っているね~特にこれなんかお金かかったんじゃ無いの?」
花凛はそう言うと、机の上に隠すように設置してある3Dホログラムの機械を指さした。
しかも、演出を盛り上げる為の生首やら、幽霊の置物等もどれもクオリティの高い物で、高校生が行うレベルをはるかに超えており、遊園地などで行われているお化け屋敷と遜色ないレベルである。
「ふっふっ。花凛、この学校の学園祭を舐めたらダメだよ~」
「どういう事?」
夏穂の言葉に、花凛は首を傾げる。
「この学校の学園祭はね~1番良かったクラスを、一般人のお客さんに投票して貰い1位になったクラスには賞品が出るのよ~!」
夏穂が、人差し指を立て高らかにそう叫んだ。
「へぇ~でも、その為にここまでする必要は……」
花凛が指摘しようとしたとき、夏穂が手を前に出して止めてくる。
「ふっふっ、甘いわね。その賞品はね~そのクラスだけ修学旅行が海外になるのよ~! どう? やる気になるのも分かるでしょう?」
「あ~確かに。それなら頑張っちゃうね~じゃぁ、私も何か演出しよっかな~? 炎出したり~」
「花凛さん、それ火事にならない?」
「あっ……」
花凛の提案に、美穂がダメ出しをしてくる。花凛は、ガックリと肩を落としうなだれていた。
皆が準備を進める中、花凛は今日1日リエンの姿を見ていない事に気づいた。
「あれ? ま、まさか。消えたとか? リ、リエン。居る?」
皆に気づかれないように、リエンを呼んでみる。
『いるわよ~心配しなくても、まだすぐに消えることはないわよ~』
そう言いながら、リエンが花凛の中から炎と共に現れた。
寝ている時などリエンは、こうやって花凛の中に潜むような形になっているからだ。
「あ~良かった。何してたの?」
『何って、あなたがいったい何の龍の力を持っていたのか、あなたの魂の情報を再度調べているのよ。でも、まだ何なのかよく分からないのよね~』
そういうリエンの表情は少し曇っていた。何か危険な物を見てしまったような、そんな表情にも見える。
そして、言いづらそうに口を開いた。
『でも、あなたの中の龍の事で1つ分かったことがあるわね』
「えっ? 何?」
花凛は、自分の中にそんな特別な力があったことに対して、喜びを隠せなかった。ワクワクした表情を浮かべながらリエンを見つめる。
『そんな、良いものじゃないわ。あなたの中の龍の力はね邪悪な力よ』
そのリエンの言葉に、花凛は一瞬で表情が不安の色へと変化した。
「えっ、な……何で? 何で私に邪悪な力の龍が?」
『それを調べていたのよ、でも分からなかったわね。ねぇ、あなたの家族である谷本家の家系図とか残ってない?』
リエンが、不安そうに見つめる花凛に質問をする。谷本家のルーツを調べれば、何処かで怪しい人物が出てくるはずだと考えたからだ。
「分からない。聞いてみないと……」
もはや、学園祭の事はどうでも良くなっていた。
何で自分の中にそんな力があったのか。リエンと融合しなくても覚醒していたのか。暴走はしないのか。
様々な事が、花凛の脳裏に浮かぶ。
そして、放課後になり花凛は実家であった谷本家に向かうべく席を立つが。今日は学園祭前日の為、準備をしなくてはならなかった。
「あっ……」
周りの様子を見てつい言葉をもらしてしまう。
「良いわよ、花凛さん。何か思い詰めた表情をしているし、重要な事を調べに行くんでしょ?」
その様子を見て、美穂が花凛の行動を了承するかの様に言ってきた
。
「花凛は、転校したばっかだし特別待遇のゲスト扱いだよ~だから、花凛は本業を優先したらいいわよ~」
「学生の本業は、学校生活では?」
夏穂の言葉に、志穂が冷静にツッコミを入れる。
「あ~もう、細かいことは良いの~皆も良いよね?」
そう言って、夏穂が皆にも了承を取る。
「あぁ、いいぜ~」
「というか、あなたが頑張ってくれているから、私達は安心して生活出来ているからね」
「だから、ヒーロー業を優先していいぜ~神田さん~」
クラスメイトの皆が口々にそう言った。
その言葉に、花凛は涙が出そうになっていた。
「皆、ごめん。でも、私の力は……」
自分の中には邪悪な力があるかもしれない。そう思った花凛は、皆の賞賛に値するほどではないと感じ、皆にそれを伝えようとしたその時。
「大丈夫だ、花凛。あなたの中に邪悪な力があっても」
「あなたの心に光があれば」
「その力、正しく使えるはず」
夏穂、美穂、志穂が各々順番に花凛に囁いた。
「えっ……?」
花凛は、驚き顔を上げると。そこには、いつもの3人の表情とは違った表情を見せる3人の姿があった。
3人とも、全てを見透かすような目をしており、顔つきも高校生とは思えない顔つきをしていた。
『あなた達……まさか!!』
リエンには思い当たる節があるらしく、目を見開き3人を見ており、3人もまた姿を消しているはずのリエンをしっかりと見つめていた。




