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煉獄の焔  作者: yukke
第四章 動き出す巨悪
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第三話 ~ 怨念の刃 ~ ③

「おらぁ!!」


 紫電の怒号が飛び交い、次々とパンチを侍に浴びせていく。

しかし、侍は完全に紫電のパンチを見切りひらひらと避けている。


「紫電、退いて!!」


 その瞬間、花凛は偃月刀を振りおろし炎の刃を侍に向けて放った。


「あっぶなぁ!」


 紫電は、ギリギリで横に交わす。しかし、侍も難なく避けていた。

それを見て咄嗟に紫電は距離をとる。反撃をされないように、1回1回距離をとっていたのだ。


「やっぱ、隙を作らなあかんな。しゃぁない、頼むで」


 紫電はそう言うと、花凛に目配せをした。

花凛は、それに答えるようにしっかりと頷いた。


『それにしても変ね~動きが、どこかぎこちない時があるわ。死体だから? 違うわね。それに、攻撃や回避も1人の人間で動く以上の動きをしている。紫電が反応出来ない速さなんて、あり得ないわ』


 その様子を、花凛の上からリエンがぶつぶつ言いながら解析していた。


「あ、あの。リエン? 気が散るから口には出さないで」


 しかし、残念ながらリエンは聞いていなかった。

集中し過ぎているようであり、こうなると多分もう何を言っても無駄だろう。

花凛は諦めて、武器を構え直し侍と向き合う。


「さて、とにかく懐に入られたら一巻の終わりね。気を引き締めなきゃ」


 すると。侍が刀を鞘に収めたと思ったら、手を柄にそえ居合いのポーズをとってきた。

しかし、そのポーズは普通とは違い腰を深く落とし、刀も腰から更に深く構えていた。

さながらそれは、陸上のクラウチングスタートの様な格好だった。


「えっ? 何あれ? 初速をつけるつもり?」


「あかん!! 花凛、周りを見ろ!」


 紫電の声に驚き、花凛は辺りを見渡す。

すると、花凛達の近くのしだれ桜だけが見事に花を咲かせていた。


「え? 今、秋でしょう咲くはずが」


「ちゃう!! よく見い!! 暗いけど、花の色がおかしいやろ!!」


 花凛は目を凝らして見てみると、その花びらは濃いピンク色ではなく濃い紫色をしていた。


「ちょっ!! 何これ!」


「ボサッとすんな! 技使われる前に決めなあかん!!」


 そして、紫電は怒号と共に紫の雷となり光の速さで突っ込もうとした。

しかし、紫電は急に倒れ込んだ。


「あっ、なんや……力が入らん」


「えっ、な……?」


 紫電に続き、花凛までもがその場にへたり込んだ。


『嘘でしょう、あの桜の花。亡霊や怨念によって出来ている』


「何やって?!」


「ちょっと、それよりも。あれ避けなきゃ。なんかやばい!」


 そう言われ、紫電もリエンも侍を見ると。

侍の周りには、とても濃密なオーラが纏わり付いていた。


『あなたたちが、力が入らなくなってるのは。あの桜の花のせいね』


 リエンが桜の花に目を向ける。そこには花びら一枚一枚に、苦悶の表情を浮かべた人の顔が浮かび上がっている。

これらが、花凛の体の自由を奪っているようである。

そして、ついに侍が動き出した。


「……斬り捨て御免。夜桜『怨』」


 クラウチングスタートの様な格好をしていた為、出くわした時に放ってきた居合いより、更に速かった。

刀に纏わり付いているのも怨霊なのだろうか、とてつもない気を放っていた。


「くっそがぁあ!!」


 それに反応するように、紫電が動き出し花凛を担ぎ横に飛び退いた。

しかし、侍の居合いには怨霊の刃まで混じっており、刀の刃と同時に広範囲を斬り刻んでいく。


「うぐぁ!」

「きゃあぁ!」


 直撃は避けられたが、お互い少しかすったようである。


「はぁ……はぁ、危なかった。でも紫電何で動けたの?」


「自分自身に電気ショック与えたんや! んで、活入れて一時的に動ける様にしたんやけど。あの桜が咲いてる以上は結局動けへんで」


「えっ? でも、桜消えてる」


 花凛は、先程の攻撃を左足に受けたらしく、大量の血が流れ出ている。


「おま、花凛。その足ヤバいやんけ」


「大丈夫よ、これくらい。それより、あの桜はあの技の時しか使えないのかな。でも、まだ周りの空気は重苦しいから辺りを漂ってるわね。リエンまさかこれが」


『話しはあいつを倒してからね』


 花凛のその言葉に、リエンは察した様であるが最優先事項を先に片付けるように促してきた。


「わかった。じゃぁ、リミッター外して」


『分かったわ』


 リエンがそう言うと同時に、花凛の体には炎が纏わり付く。

そして、目は縦に獣の様になり髪もツイテールが解けてロングに、そして背中に炎が集まりだし龍の翼が生えた。


「へっ! 本気ってわけか。ならこっちも!」


 そう言うと、紫電はジャケットを脱ぎ捨てTシャツのみになると、体全体を激しく激しい雷が纏いだす。

すると、両腕とも龍の腕になりふさふさした毛が生え、目も花凛と同じく縦に獣の様になり、額からは龍の角が2本生えてきた。

お互い、完全に人間離れした姿になっている。


「あいつの動きが、鈍っている今のうちよ」


「へっ、あんな大技放ったんやからな体にがたがきてるんやろ!」


 そう言いながら、どちらかが言うまでもなくお互い同時に動き出した。

紫電は上空へ。花凛は、真っ直ぐに侍へと立ち向かう。

侍は、それに気づき刀を構えるが。その前に、花凛の偃月刀が侍に届きそうになる。侍は、咄嗟にそれを後ろに体を反らす様に避けていた。


「……ぬぅ」


「あら、技以外の言葉は初めて聞くね。でもいい加減鼻がおかしくなりそうだから、散って!」


 そう言いながら、真っ直ぐに突き伸ばしていた偃月刀を引き戻し、再び侍に突き伸ばす。

しかし、それを侍がようやく刀を抜き受け止めた。

そして、同時に侍が間合いを詰めようと偃月刀の刃を刀で受け止めたまま、刃を滑らせ懐に飛び込んでくる。

その瞬間、花凛は瞬時に後ろに飛び退き間合いをとった。


「ふぅ、危ない危ない」


 花凛は、侍の間合いに気をつけながら立ち回っている。


 何度か、刃が交わり。辺りに鉄と鉄が激しくぶつかる音が鳴り響く。


『やっぱりね、この侍なんか変だと思ったのよ』


「何が?!」


 侍の刃をはじいて攻撃を防ぎ、再び間合いをあけた花凛にリエンが話しかけてくる。

花凛は、息を整える為に侍との間合いを一定に保ちながら、リエンの言葉に耳を傾けた。


『こいつには、冥界に漂っている怨念や怒りの念が2つも入っているわね』


「えっ?!」


『普通、そんなのはあり得ないわ。そこの原因は分からないけれども、何かしらの理由で冥界にあるはずのもの。主に、怨念や怒りの念がこの世界に逆流しているみたいね。しかも、普通の人間のじゃないわ神話に出てる来るような人達のよ』


 あり得ない言葉のオンパレードで花凛は一瞬動きが止まった。

しかし、すぐに気を持ち直して侍と向き合う。


「えっ、でも。侍の様な喋り方だよ?」


『侍の中にも、神話になるほどの力を持った人達が少なからず居たはずよ?』


「……斬り捨て御免」


「くっ……!!」


 リエンが話し終えると同時に侍が間合いを詰め、斬りかかってきた。

花凛は、なんとか反応し。その攻撃を刃で受け止めた。


「とにかく、こいつの中にはその侍の魂2体も入ってるのね」


『その、怨念よ。実際に、その侍の魂が中にいるわけじゃ無いみたい』


「まぁ、良いよ。何とか作戦通りにいったから」


 花凛はそう言うとにやりと笑みをこぼした。

それと同時に、侍の持つ刀が斬り結んだ部分から徐々に変形していき、そして激しい音と共に刀が真っ二つに割れたのだ。


「なっ……」


 さすがの侍も表情を変えてはいなかったが、驚愕の声をもらしていた。


『えっ? どうやったの?』


「高熱で叩き折っただけよ。刀をそんな風にするには、とてつもない高熱がいるだろうけど、そこは煉獄龍としての力を最大限にね」


 そう言って、花凛はくるくると偃月刀を振り回すと刃から激しい熱が吹き出してきた。


『へぇ、もうそんなに力を』


 侍はただただ呆然としていた。

自分の魂とも言うべき刀を折られたのだから。


「紫電~お願いね~!!」


 花凛は、上空へ向かって叫んだ。


「おっそいわ~!! こっちは数分前から準備出来とるわ!」


 そんな叫びが上空から聞こえてくると同時に、激しい雷鳴が辺りに鳴り響く。

そして、1本の紫色をした雷が侍に向かって落ちてくる。その雷の先には紫電がいた。


「くたばれや~!!」


 なんと紫電は、上空に帯電していた雷をかき集め自らの力にし1本の巨大な雷にしたのだ。

そして、それを侍に浴びせようとする。


「電撃特攻!! 紫死雷電(ししらいでん)!!」


「……すま、ぬ」


 雷が当たる直後、侍はそう呟いた。

そして、巨大な雷の中に消えていき体は一瞬にして灰の様になっていった。






「2人共!! 無事か!」


 戦いが終わり、2人が姿を戻し地面に座り込んだ直後に、神田と警察官達がやってきた。


「今さら、遅いわ! ボケ!」


「紫電言い過ぎ、あんな奴相手じゃ警察なんて何も出来ないって」


 紫電の辛辣な言葉を花凛が咎めた。


「ちっ、それもそうやな」


「実際にその通りだ、あまりの敵に俺達は一般人を入れないようにするだけで精一杯だった。それより、2人とも怪我が酷いな。今、救急車を呼ぶから」


 神田が、そう言ってスマホに手をかけるが紫電が止めてきた。


「いらんわ、俺達は龍やしな数時間から半日で治るわ」


「なっ、そうなのか? 花凛、お前の足もか?」


 そう言って、神田が花凛の左足に目を向ける。


「ん、もう血は止まってるみたいだし。後は傷もちょっとずつ治っていってるね。心配してくれてありがとう」


 神田の気づきかいに素直に嬉しくなった花凛は、笑顔でそう返した。


「ふぅ、全く。無茶しやがって」


 そう言うと、神田は花凛に近づきお姫様抱っこで担ぎ上げた。


「ふえぇぇ?! ちょっ、神田さん? こんな事しなくても」


 花凛は、あまりの事に赤面し焦っている。


「いいから、これくらいはさせろ」


 その神田の言葉に何故か逆らえない花凛は、大人しく逞しい腕の中に収まっていた。


「はは、良い絵面やな」


『ほんとね~』


 神田に抱えられる、花凛の後をついて行くように紫電とリエンがにこやかに歩き出した。






 城の前の通りを挟んだ反対側に、高級なリムジンがいつの間にか止まっていた。

その中に、窓から花凛達の様子を眺める人物がいる。


「ふ~む、やはりあの龍の力は欲しいですねぇ」


 手には、グラスを持ち中のものを揺らしている。

「しかし、あの方の作った“ゲート”は素晴らしいエネルギーを出す反面。あんな副産物まで作ってしまうとは」


 そして、その人物はグラスを口につけ一気に飲み干した。


「まぁ、問題ないですね。様々なエネルギーがあの“ゲート”から出ているようですからね、素晴らしい限りです。人類の新たな進化はもう目の前。ク、ククク……クヒヒヒヒ」


 気持ち悪い笑い声を車内に響かせ、リムジンは発進し夜の闇の中に消えていった。

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