第四話 推測
戦いを終えた夜、神田のマンションには神田と花凛とリエンそして紫電の姿もあった。
車から降りる時にも、神田がお姫様だっこをしてきたので花凛の顔は未だに真っ赤である、そして制服のままリビングの椅子に座らされる。
『さてと、皆お疲れさま。特に花凛の成長が著しいわね。覚悟を決めたからかな?』
「う~ん、何だか分かんないけど以前より力を出しやすくなってるかな?」
その花凛の言葉にリエンは満足そうに頷いていた。
『さて、じゃぁ今回の件でだいたい私が考えついた、人間が鬼化する原因なんだけれども』
その言葉にその場にいた全員が静かになり、リエンの言葉に聞き入っている。
『最初に、私の見解を言うわね。まず、タルタロスの門が開いてると見ていいわね』
「おい、リエン。冗談はよせや、それはさすがに突拍子なさすぎるで」
リエンの言葉に即座に紫電が反応した。
『まだ、はっきりその場を見たわけじゃないから何とも言えないけどね。でも、かなりこの説が有力なのよね』
「えっと、とりあえず私達がついて行けてないよリエン」
詳しく説明して欲しいと、花凛が先生に質問するように手を上げている。
何せ、聞き慣れない言葉が今日は目白押しで、頭がショートしそうになっていたからだ。
『おっと、ごめんなさい。戦ってる最中は大ざっぱに言ったけどね。1から説明するとね。冥界は分かるかな?』
「えっと、あの世の事?」
花凛は、必死に記憶をたぐり寄せ1番しっくりとくる言葉を言ってみた。
『まぁ、そんな感じかな。日本の言葉で言ったら冥土や黄泉の事も一括りに冥界とされるわね。そして、冥界の中にも様々な世界が存在しているの。地獄や辺獄、煉獄なんかも冥界の中の1つとされているわね。あなた達人間の宗教の違いにより、この中には様々な世界が存在しているわね』
「へぇ、あの場所も冥界の中にあるんだ」
花凛は、リエンと初めて会ったあの炎に囲まれている場所を思い出した。
『その中に、神族を幽閉しているとされているタルタロスと呼ばれている場所があるの。そこは異様な空気が流れていて、神々ですら近寄る事は滅多にないと言われているわ』
「しかしな、強固な門と番人がおるねんで。そんなとこの扉が開くわけあるかいな」
紫電が、リエンの説に異を唱えている。
花凛と神田は、そもそも話が神話になってきた時点で完全に頭がヒートし煙を出していた。
『そうね、だから私の考えでは。誰かが、人間界とタルタロスとを直接繋いじゃった……とか』
「そんなん、人間ができるんか? それにタルタロスにいる奴らは、脱走しようにも力をほとんど奪われていると聞いたことあるで」
もはや、話は2人だけの集中議論になっている。
「神田さん、お茶がおいしいですね」
「う、うむ」
2人は、のんびりとお茶をすすり始めた。
『とにかく、扉じゃなく繋いじゃったとしたらどこまで開いてるかよ。タルタロスの中の奴らが全員出てしまうくらい開いてるなら、もっと酷い状態になってるはず。だとしたら、まだちょっとしか繋がってないのかもね。それでも、タルタロスの中の神族達の怨念くらいは漏れ出るかも知らないわね。それにあてられた人達があんな風に変貌し、鬼化しているのかもね』
「ちっ、確かにそれやとつじつま合うかもな」
『って、ちょっと! 聞いてんの、花凛!』
「ふぇっ?!」
議論が白熱しているなと思ったら、リエンがいきなり花凛に確認をとってきたものだから、びっくりして体が若干浮き上がっていた。
「ほえ? えと、あの。冥界がタルタロスでタルタロスが人間界にだっけ?」
『聞いてないわね』
「あぅ……」
花凛は、ガックリとうなだれていた。叱られた子供の様に。
『まぁ、とにかく。牢獄に捕まってる神族達の鬱憤がこの世界に流れちゃってるの。これで分かる?』
「あ~あ~……って、えぇぇ!!」
ようやく、事態を把握した花凛が仰天の声を上げ、その隣にいた神田も目を丸くしていた。
「ちょっと、それってヤバいんじゃ……」
『そう、私のこの説が正しければ。相当ヤバいわよ』
リエンが、怖い話をするかの如く花凛と神田を脅してきた。
「そ、それこそ。人間達が何とか出来るレベルじゃないな。完全にお前らに任すしか無いぞ」
神田は、お手上げのポーズをとっていた。
その時、突然神田のスマホが鳴り響く。そして、電話に出るために神田は席を外した。
『とにかく、まだはっきりと決まったわけじゃないから調査はつづけるわよ』
リエンが、言い終わると神田がリビングに戻り花凛達に話かけてくる。
「すまん、お前ら。呼ばれたから俺は出る。帰りは明日になるから、飯は食っといてくれ」
「あっ、は~い」
そう言って、神田はジャケットを羽織り出て行った。
「さて、じゃぁご飯にしよっか。材料はあるけど、神田さんの分まであるからな~あ、そうだ! 紫電あなたも食べていかない?」
「はぁ? いや、いらんわ。話が終わりなら俺は帰るわい」
『まぁまぁ、花凛は最近料理上手くなってるから大丈夫よ』
帰ろうとする紫電を、リエンが言葉で制止する。
『どうせ、あなた帰ってもろくな物しか食べてないでしょ』
「ぐっ、うるさいなぁ……しゃぁないな、材料余っても勿体ないやろうし食ってくわい」
そう言って、部屋から出ようとしていた紫電は振り返って再び席についた。
「ふふ、ちょっと待っててね」
そして、花凛はそのままエプロンを付けて台所に向かった。
「紫電、どうだった?」
花凛が、台所から洗い物をしながら話かける。
「ふん、まぁまぁやな」
紫電がお茶をすすりながら言ってきた。
『そんな事言って、花凛手作りのチンジャオロースをバクバク食べていたのは誰ですか~?』
「ぶっ!! おまっ、しゃ~ないやろうが! うまかったんやから。あっ……」
紫電はそう言うと、慌ててテレビにかじり付いた。顔を真っ赤にして。
「ふふ、ありがとう」
何だか花凛は、上機嫌であった。
何故なら、家族以外で食べてくれたのは紫電が初めてだったからだ。
神田はいつもお決まりの様に旨いとしか言わなかった。正直失敗したなと思う時もあったのに、その時も旨いしか言わなかった。
気をつかってくれているのは有難かったが、正直な感想も欲しかったのだ。
そして紫電の正直な感想を聞き、しかも美味しいとまで言われたら誰だって上機嫌になる。
「ん? おい、花凛。これ、神田から何か連絡ないか?」
「えっ? 何が?」
そう言われ、前を向くとテレビからニュースが聞こえてきた。
『先程、暴力団関係の事務所から大量の遺体が見つかった事件で、遺体はどれも激しく損傷していることから警察ではーー』
花凛は、台所の水を出しっぱなしでそのニュースに聞き入っていた。
「さっき呼ばれたのはこれやとしたら、まだ調査中やし。鬼化した奴らの仕業とは断言できひんのやろうな。連絡を待つしか無いわな」
しかし、花凛は不思議と胸騒ぎがした。
とてつもない者が動いているのではないか。そんな不安が頭を過ぎる。
暴力団関係は、この世界の闇に深く関わっており資金も大量に持っている組もある。タルタロスを繫いだのが人間達だとしたら、それを作るのには莫大なお金がいる。
資金源を暴力団関係者から調達していたとしたら、そして不要になり口封じの為に殺したとしたら。
花凛の頭には、一瞬でこれらのことが思い浮かんだのだ。
『どうしたの? 花凛、顔色悪いわよ』
「あっ、いや。何でも無い」
花凛は、努めて冷静に振る舞った。
そして、まだこの考えは確信ではない。だが、神田からこの事件を鬼化した奴らの仕業とされたら、相談しようと花凛は考えていた。




