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クソ弱勇者はチートつき!  作者: 甘味好き
二章 魔族・《魔王》
24/30

雄次郎VSロノ

すいません。予定より更新時間が遅れました。予約投稿をするのを忘れていました。

「来たな」


俺は現在イルミーさんの監視の元、約9時間の睡眠をとった後、レラージュの質問責め(主に人間の文化等について。答えたのはほぼシルヴィア)を何とかやり過ごし、見張りに道を教えて貰って、昨日ロノに言われた通り、訓練所に来ていた。

時間は九時半。

少し早い。


「おはよ。で、何すんの?」


訓練所では同じ鎧をした騎士達が前に俺がやっていたのと同じ訓練の様なものをしていた。

まだ俺が《勇者》をやっていた時、クラスメイト達に追い抜かれながらずっと訓練に励んでたなぁ……。

今となっては良い思い出だ。

何せそのおかげでシルヴィアは俺に惚れたんだから。

人間やっぱり努力が大事だよ。


そういえばコイツらに俺が元《勇者》って事も言ってないな。

言うべきだろうか。

いや、聞かれたらで良いな。


「少し待っていてくれ。……そう言えばお前を俺は何と呼べば良い?」

「雄次郎で良いさ。レラージュが言うには俺とシルヴィアはお前達と仕事仲間になるらしいからな」


レラージュの訳の分からない理論に言いくるめられてしまったのは今朝の事だ。

泣くぞ? と脅されたのは生まれて初めてだ。

レラージュは俺達に何をさせる気なのだろう?


「そうか。では俺も」

「あ、ロノって呼ぶから」

「せめて自分で言わせてくれよ!」


ロノのツッコミは無視して魔族の騎士達の訓練を見守る。

男女比は五:五だな。

数が多いのは戦争の為に集めたんだろう。


コイツらは戦争の事をどう思っているのだろうか。


「そう言えば《魔王》の派閥を見ないが、ソイツらは何処にいるんだ?」

「奴等は城で会議する時以外は貴族街で遊んだり、パーティーを開いたりしてるよ。呑気な連中だが、それなりに権力があるから文句も言えない。面倒な事だ」


つまり、今は居ないから俺達何かを招けたのか。

それにしても、パーティーか。

これも懐かしいな。

ウィーンでも良くやったな。

あれは俺達が《勇者》で、不安を打ち消す為ってのもあっただろうが。


「お、ちょうど終わったな」


何やら訓練が終わった様で、騎士達が全員こっちに向かって走ってきた。


「おい雄次郎。お前、そこの小屋行って着替えて来い」


ロノが指したのは俺達がいるところから三十秒で行ける位置にある小屋。


「何故?」

「ちょっと体を動かすって言ったろ? その為の服だよ。浴衣のままじゃ出来ないだろ?」


それもそうなので素直に従う。

《言語理解》の力で、この服は当てはまる言葉が無かったのか、浴衣と変換された。


小屋に入るとテーブルが目に入り、その上に白い服と普通の木刀が置かれていた。

浴衣を脱いで畳んでテーブルの上に置き、白い服を着る。

デザインはホステスが着る様なキラキラした上下に、何かの付与がついているであろうネックレス。

靴もずっと履いていた(消臭はしてある)ウィーンで支給された靴から、そこに置いてあった革靴みたいなヤツに変えた。

木刀も一応持っていく。

髪をずっと切って居ないので肩まで伸びているが、明日当り、シルヴィアに頼んで切って貰おう。


何て事を考えていながら小屋を出ると、変な視線を感じた。

見ると、ロノの前に騎士達が整列して座っていて、皆俺を見ていた。

「あれが……」とか「強いのか……」とか「はぜろ……」とか聞こえてくる。


「 どういう事だ? こんな服装で俺に何をしろと?」

「それはちゃんとした防具だよ。薄い布地だが、物理防御は保証する」

「何で防具を?」


嫌な予感がするんだが。


「悪いな。今からお前には俺と闘って貰う」

「は?」

「コイツら、最近やる気が無くてな。本気の戦いってものを知らないのが一番の原因みたいで、戦闘を嘗めていて、訓練も疎かにしている奴も出てくる始末だ。コイツらの士気を上げる為に、ちょっと本気の闘いってヤツを見せてやりたいんだよ」


ロノは「頼む」とか言いながら、目は爛々と光っている。

何かちょっと危ない人に見える。


「つまり模擬戦をしろと?」

「おう。あ、魔法は無しな。コイツらには魔法無しで何処まで闘えるかを教えたいんだ」

「断ったら?」

「頼むよ。俺も楽しみにしてて昨日眠ってねぇんだ」


コイツ……俺と闘いたいだけのバトルジャンキーじゃねぇか!

昨日ボコられたのがそんなに悔しかったのか!?


「……この装備は?」

「ああ。木刀でも当り所が悪いと死ぬからな。保険の為だ」

「……」


いかにも水商売の服だが、この世界にホストという存在がいるかわからないし、デザインはともかく、それなりな能力も持っている様だが、……何かさっきから男の方から殺気が、女から変な視線を感じて、凄く悪居心地が悪いのだが?


「気にすんな」

「心を読むな」


仕方無く、俺は模擬戦をしてやる事にした。

だけど、絶対コイツ凹ます。


さっき、騎士達が訓練していた広場に到着した。

広場にはサッカー場の一番外側のラインだけ残した様な線が書いてある。


「ルールは魔法禁止。スキルも身体強化系以外禁止。アイテムもその木刀のみ。俺は鎧だが、お望みなら同じ装備にしても良い」

「大丈夫だ」

「余裕だな。で、範囲はこの広場の線の中。足が外に出たら負け。木刀を折られても負け。相手を殺しても負け。わかったか?」

「オーケー」


俺は今のうちに屈伸しておく。

本気でやるつもりだが、この通常状態のステータスで魔法を禁止されたらキツいかもしれない。


昨日俺がコイツらを無力化出来たのは、俺オリジナルの重力魔法を使ったのと、俺の魔力が桁外れだったからだ。

《天使化》か《悪魔化》を使うつもりも無いし、魔法無しのステータスでも対抗は出来るが、圧勝は出来る自信は無い。

下手したら負けるな。


それに木刀を折られたら負けって事は、前みたいに扱いを間違えて折って負ける事もある。

あのチートな無垢な覇竜剣(イノセント・ロード)を使えれば楽なのに。


ちなみに、無垢な覇竜剣(イノセント・ロード)は自分の部屋のベッドに隠してある。

ベッドに穴を空けて、空いた空間に剣を入れて、そこを万物創造クリエイション・ユニバースで穴を塞げば出口の無い隠れ部屋(?)の完成だ。


「では、両者構えて……3……2」


チッ。

もうやるしか無いな。


「……1……始め!!」

「ふんっ!!」

「っつ!」


俺が迷っていても始まってしまい、ロノが突っ込んでくる。

それなりの速度だが、対応は出来る。

上段からの剣を、ウィーンでシルヴィアから習ったいなし方で勢いを下に流す。

剣を切っ先を下に、斜めに構えて衝撃を下に受け流すやり方だ。


「ぐっ!」

「貰った!」


狙った通り、ロノの剣は俺の剣で受け流され、地面に刀身の先が刺さる。

俺は多少は勢いに流されたが、ロノの真横に立ったままなので、体制が不安定でも斬りかかる事が出来る。

そう思い、首元に袈裟斬りを打ち込もうとしたが、


「甘いわ!」


ロノは木刀を地面を抉りながら振り抜き、砂で目潰しをしつつ、俺の袈裟斬りを勢いに乗せて横に弾いた。


「ヤバッ!」


目に砂が入りかけて、右手で目を擦りかけたが、寒気がしたのでバックステップで大きく距離をとった。

勘が当たった様で、ちょうど俺がいた位置をロノの剣が通り過ぎていく所だった。

あと数秒遅かったら負けていたかもしれない。


「良い反応だ。魔法だけの奴では無い様だな」

「ちょっと疲れたから休憩したいんだけど……ダメ?」

「ダメだよ!」

「ちょっ! うわっ! 来んな!」


ロノは思った以上にやり手で、剣を打ち合っている最中も喋るだけの余裕があったし、体術の心得もある様で、実践慣れしたロノの攻撃に、すぐに押され始めた。


「どうした? 魔法が無ければやはりただの人間か?」

「お前、……キャラ変わってる、よ!」


まだ軽口を叩く元気があるものの、恐らくロノは手加減をしているだろうし、今のままでも俺は負けるだろう。

ウィーンにいた頃までの俺なら、この力があっても、適当に言い訳をしてすぐに諦めていただろう。

だけど、“今”の俺はそんな腑抜けじゃない。


「いいぜ! 本気でやってやるよ! 《身体強化・序》!!」


比較的使い勝手の良いスキルの《身体強化》を使う。

これならルールに反していないし、他にも同じ様なスキルを持っている奴がいるだろうから、バレても大丈夫だ。

このスキルは名前のまんま、身体っていうか、ステータスの魔力と魔耐以外を底上げするスキルだ。


普通の人間はただの《身体強化》しか手に入らないが、俺みたいな人外や魔族、あと亜人とかなら、このスキルの派生スキルを使える様になるだろう。

《身体強化》の三段階、序、真、終という感じにステータスの上がり方にギアが上がるが、その分効果持続時間は減るし、その後の筋肉痛が酷くなる。

“終”の筋肉痛に至っては魔法を使っても中々治らない。

だから使いたく無かったんだが。


「仕方ねぇよな? だって負けたくねぇし!」

「良い根性だぜ! 気に入ったぁ!!」


ロノも《身体強化》を使わないで、素の“本気”を出すみたいだ。

ここからが正念場かな。


━━━


「やってるね」

「そうじゃの」


私、シルヴィアは現在魔国レムリア王城アガレスの訓練所が見える一室の窓際にいた。

隣にはレラージュちゃんがいる。

この子、見た目は13歳位だけど、歳は339歳で、人間で言うと30代なのに、見た目が子供だからその分精神で埋める! って張り切って今の老婆見たいなしゃべり方になったそうだ。

その理屈はわからないが、嘗められたく無いという気持ちは痛いほどわかった。

私にも、そういう経験がある。


更にドアのすぐ近くにはイルミーさんがいる。

彼女は中性的な顔で、仕草は男っぽく見えるけど、正真正銘女性だ。


彼女は私の監視として良くいる。

他の人がくる事もままあるが、レラージュちゃんのお付きの人で、女性はイルミーさんともう一人しか居ないから、その二人でやりくりしている見たい。

イルミーさんが張り切って頑張っている様だけど何故だろう? ま、良いか。


「シルヴィアは、どっちが勝つと思うのじゃ?」


私達は今、訓練所で行われている雄次郎とロノさんっていうお付きの人の模擬戦を見ている。

雄次郎が本気を出せば瞬殺だろうが、制約をかけて闘っているらしい。

さっきまで雄次郎が押され気味だったが、《身体強化・序》を使ったあたりから拮抗している。


「勿論、雄次郎ね」

「何故じゃ?」

「雄次郎がまだ本気じゃないのもあるけど。……恋人を応援するのはダメかな?」

「ほほう。やはりシルヴィア達は恋仲だったか」


大して驚いて無い所を見ると、知ってたみたいね。

ま、当然気づいていたでしょうね。

気づいていなかったのは、雄次郎とイルミーさん位? 今も後ろで凄くびっくりしているし。


「あ、見ろシルヴィア。ロノが《身体強化》を使った。ロノはただの肉弾戦なら儂の護衛の中で一番なのじゃ」

「へぇ。……てことは雄次郎が負けそうだけど。………あ、やっぱり張り合った」


やっぱり子供なんだから。

そゆところも好きなんだけど。

ああ、今夜良いかなぁ……ハッ! ダメダメ! ここは人様の家よ! ……あ~でも~。


「シルヴィア、雄次郎がまた強くなったんじゃが、あれは何じゃ?」

「《身体強化・真》ですよ。《身体強化》の三段階あるうちの二段階目です」

「ほう! 儂も使えるが、遠くから見るとあんなに綺麗に見えるのじゃの! ほれ、魔力が溢れてきておる!」


《身体強化》等のステータス強化系の技は魔力が派手に身体から吹き出す事から見分けがつくのだが、雄次郎のは本人の元々の魔力の色ではなく、《唯一神オメテオオル》から貰ったという魔力の白と黒交互に変わる魔力になっていて、とても綺麗に見える。


それにしてもレラージュちゃんが《身体強化・真》を使えるとは意外だ。

見た目からして戦闘向きには見えなかったから、そんなの覚えていないと思っていた。


「おおっ! 雄次郎もやるが、やはりロノの方が押しておるの! 流石じゃ!」

「それはどうですかね? あっ、危ない!!」


レラージュちゃんが跳ねてはしゃいでいるが、私もはしゃぎたい。

雄次郎を大声で応援したい。


「ごほん。お二人とも、此度の目的をお忘れでは無いでしょうね?」


イルミーさんが我慢の限界という風に咳払いをする。

レラージュちゃんは「ヤバッ」と言いながら席に戻る。

私もチラッと雄次郎を見てから席につく。


「のう、イルミー。後、数分だけ……」

「ダメです。今回は真面目な件なのです。食事中に話している様な世間話では無いのですよ?」

「うぅ……イルミーのケチ」


すげもなく断られ、レラージュちゃんがショボンとしてしまった。

だけど、この件は本当に大切だ。


「「人間への大使として、私達に出ていって欲しい」朝のイルミー言伝ては、本当という事ですか?」

「そうじゃ。正確には、こちらからの書状を渡して来て、その国の現状を把握して欲しいのじゃ」


レラージュちゃんはオンとオフがしっかりしている様で、さっきとは違うキッチリとした雰囲気を纏っていた。


「何故、私達が?」

「シルヴィアは、元々ウィーン王国の第二王女なのじゃろ? それならばわかると思うが」

「魔族への、警戒心の高さですね」


雄次郎達、《勇者》が召喚される以前から、ウィーン王国とその周辺諸国では、冒険者ギルドを含め、魔族は発見したら即戦闘となっていた。

魔国レムリアでも同じ様な事になっていることから、現状の不味さがわかるだろう。


「そう。前に兄上が出した降伏を進める為の使いは、ズタボロになって逃げ帰ってきた。隠密にするため、一人で行かせたのにも関わらず、立ち寄った街の冒険者にやられたそうじゃ。ま、兄上の行いが悪いせいなのじゃが」


レラージュちゃんは、そう言って鼻を鳴らした後、鼻をかんだ。

どうやら詰まっていたらしい。


「シルヴィアと雄次郎を迎えた理由の一つに、戦争を止める為と、関係の回復があったの? それを引き受けて貰いたい」

「私からは異存は無いわ。雄次郎にも話しておく。ただ、無いと思うけど、雄次郎が断れば私も断るわ」

「何故じゃ?」

「私は好きな男の三歩後ろをずっと付いていく女なの」

「なるほどのぅ……」


レラージュちゃんが顎に手を当てて、数秒考えた。


「わかった。雄次郎は儂が何とかする。で、シルヴィアは雄次郎さえよければ引き受けてくれるのか?」

「うん」

「良し。では、後に万全の態勢でシルヴィア達を送り出す。その為に少し働いて貰うが、良いかの? 何、ちょっとした雑用じゃ」

「良いよ。あとは雄次郎だね」

「ああそうじゃの。そろそろ終わる……」


ドゴオォォォン!! と、そこで城に大きな音が響いた。


「終わったよう、じゃの」

「何か凄い音がしたね」


たぶん雄次郎がやりすぎたんだろうなぁ。

やれやれ、と内心溜め息をつく。


「どうなったかの?」

「……」


イルミーさんも気になる様で、レラージュちゃんの後ろから外を見ている。

勿論、私も見る。


訓練所にはさっきまで無かった、大きなクレーターが出来ていて、その中心には人が一人立っていた。

もう一人はクレーターの外で倒れていた。


「土煙で良く見えんの」

「見えませんな」

「見えませんねぇ」


土煙が邪魔でシルエットしかわからない。


「良し。行くぞ!」

「えっ! レラージュ様! 窓から!!」

「よいしょ」

「シルヴィア殿まで!」


イルミーさんは可愛そうだと思うがそのまま無視してレッツゴー!


……勝ったのは勿論雄次郎だよね?

あれ、何か不安になってきた。


お楽しみいただけましたか?

連続更新は今日でで終わりです。

次の更新は日曜日か月曜日の予定です。

次回から本当に、週に何回かの更新になります。


誤字脱字、感想、質問など受け付けております。


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