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クソ弱勇者はチートつき!  作者: 甘味好き
二章 魔族・《魔王》
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魔国潜入

シルヴィアのいきなりの人間の国の使い、つまり外交官宣言。

俺は内心メッチャびびっていた。

つまり、シルヴィアの外交官宣言は外交官のフリをして入国しようって作戦だ。


明らかに魔族は怪しんでいるが、戦争に交渉は付き物だ。

もし、敵国の使いを切り捨てたとなれば内心は知らないが、勝ったとしても建前を作って賠償金を増やすのに苦労するだろうし、負けたら賠償金が上がる。

この世界でも仕組みは一緒かは知らないが、仮にも一国の使いを自分の判断で切り捨てるのはハイリスク過ぎるのだろう。

魔族の手は先程よりも下がっている。


「貴国には内密に国境を超えさせて貰った。何せ人間は魔物と同じ様に発見次第抹殺らしいのでな」

「……つまり、ウィーンの使いだからこの場は見逃せと?」

「いや、そうでは無い。むしろこのまま《レムリア》に入国させてくれると嬉しい。何分こちらも疲れているのでな」


何だろうか。

シルヴィアがちゃんと王女様しているのが普段のあの態度から想像出来ないからなのか、シルヴィアが別人に見える。


つか久しぶりにそのしゃべり方聞いたな。

一ヶ月ぶり位か。

ってそんな事はどうでも良いか。


俺は数秒考え、シルヴィアの作戦に乗る事にした。


「その通りだ。俺は護衛だがそれなりの地位にいる。二人とも殺せば国が黙って居ないぞ?」


俺の方は真っ赤な嘘だがシルヴィアの方は殺すとマジでヤバい。

何せモノホンの王族だ。


「護衛なら黙っていろ」

「ぐっ」


何故か魔族は俺に当たりがキツかった。

女には優しい奴何だろうか? ……気が合いそうな奴だな。


「使いならそれなりの地位なのだろう?証拠はあるのか?」

「ああ」


そう言ってシルヴィアが見せたのはステータス板。

ただ、本物のステータスでは無く、スキル《偽装》でステータスは前に見たシルヴィアのステータスのままにしている。


「これはっ……」

「そうだ。王族だ」


名前で王族とわかるあたり、この魔族はそれなりに知識があるらしい。

てかシルヴィアってそんなに有名なの?


「……使いかどうかはともかく、貴様らを殺す事は出来なくなった」

「ふぅ」


そこで俺は一息ついたが、シルヴィアはまだ何か言いたい事がある様だ。


「それは良い。ただ、私達がここにいたのはちょっとしたトラブルでな。仲間達は他に居ない。だから捜索はしなくても良い」

「ほう。それはまた」


何故か魔族の男はニヤリと笑うと下がっていた槍を持ち直した。


「なら貴様らがここで死んだとしても誰も気づかず、魔物にやられて戦死したと言っても誰も疑わないという訳だな?」

「ッ!!」


最後のは蛇足だったな。

魔族の男にまた殺意が芽生えていた。


仕方無い。

コイツら全員眠らせて──


「それはダメだね」

「!!?レラージュ様!!」

「??」


見ると、数人の魔族を引き連れた魔族の中学生位の女の子がゆったりとした歩調で歩いてきた。

女の子はウェーブのかかった紫の髪に耳には銀のピアス、幼いながらも胸はそれなりで、鎧の下から見える細い脚が艶かしい。

ただ、放つ空気は威厳たっぷりで、元々ここにいた魔族達は女の子の雰囲気に押されている様だ。


女の子は一瞬、無表情で俺達を見て、すぐに俺達の目の前の魔族に戻した。


「何故、人間の使いを切り捨てようとする?」

「……人間は発見次第、即刻抹殺という命が《魔王》様から出されておりました故」

「そんなのに真剣に取り合っておるのは、貴様ら親衛隊と一部の過激派だけじゃよ」


女の子は見た目にそぐわず、老婆の様なしゃべり方だった。

これがロリババア! 何て内心、はしゃいでいるとロリババアがこっちを見た。


「儂は魔国レムリアの王族かつ、《魔王》の妹のレラージュ・グアと言う者じゃ。臣下がとんだ無礼を。非礼を詫びよう」


そう言って頭を下げる女の子、もといレラージュさん。

……ってあの《魔王》の妹ぉ!!


「え、えと~……どうも」


シルヴィアも対応に困っている様だ。

どちらかというと、この逆転の展開よりも《魔王》の妹が出てきた事のダメージが大きいらしい。

当然だ。

《魔王》を殺したのは俺なんだから。

レラージュさんからしたら兄の仇が俺だ。

そりゃびびる。


「む?何じゃ?どうかしたのかシルヴィア殿」

「あ、話聞いてたんですか……」

「ちょっとそこの影でな。臣下が粗相をしたら出てくるつもりだったんじゃが、案の定じゃな」


しゅんと小さくなるさっきの魔族の人。

何か悪いことした気分になるな。


「して、貴殿らがウィーンの使いというのは本当か?」


どうしよう。

ここで「はい」と言えば、魔族に拘束され、少なくとも一週間以上は行動を制限されるし、ずっとこの人達を騙し続けるのは無理だろう。

逆に「いいえ」と言えば即刻抹殺という落ちになりかねない。

何故ならさっき、魔族の人が言ってた《魔王》の命令が空恐ろしいものだったからだ。

さっきまでの戦力なら簡単に脱出できたが、俺が本気では無いとは言え、スキル《索敵》を看破して隠れ続けられる程の実力者が《魔王》の妹含め五人いる。

《天使化》か《悪魔化》が使えれば出来るかもしれないが、あと五分は必要だ。


どうする? 八方塞がりだ。

時間を稼ぐにしても、ここで迷っていたら嘘だと確実にバレるし、かといって騙し続けるのも……。

シルヴィアもどう答えるか迷っている様だ。


と、何故かここで俺達に救いの手が差し伸べられた。

レラージュさんが俺の耳元に顔を寄せて囁いたのだ。


「後で話は聞く」


と。

俺がキョトンとしているとレラージュさんは、うんうんと聞いている事をアピールしながら頷いている。

ここはしゃべっているフリをすれば良いのだろうか?


「なるほどそんな事情が……」


レラージュさんは俺が何か言う前に俺から離れてしまった。

レラージュさんの髪から良い匂いがしたのに気がつくと、横から鋭い視線を感じた。

シルヴィアが、じと目で俺を睨んでいた。

嫉妬されるのは嬉しいが、そんな睨まなくても……。

でもシルヴィアが自分の脇の匂いを必死に嗅いでいるのを見て和めたからチャラだ。


「彼らは確かにウィーン王国の使いじゃ!!入国を許可する!」

「しかし、殿下!」

「儂がそうしたいと言っているのじゃ。責任は儂が取る」


レラージュさんは軽い殺気と共に鋭くそう返すと、さっきからうるさい魔族の男はやっと黙った。

レラージュさんは、この話はもう終わりだという風に手を叩いた。


「槍を下ろすのじゃ!不敬罪に値するぞ!」


不敬罪という言葉が効いたのか、周りの魔族達は皆槍を下ろした。


「さて、ついてこい。儂が首都まで案内しようぞ」


レラージュさんは後ろを向いて歩き出す。

レラージュさんに元々ついていた魔族の人達もそれに続く。

全員目があったが、全員で纏めて戦えばもしかしたら《魔王》には届かないが、迷宮レムリア最深部のドラゴン達の半分に匹敵するかもしれない。


「雄次郎、行くぞ」


王女モードがまだ抜けていないのか、シルヴィアは王宮にいた頃と同じ様な態度で俺の手を引っ張った。

俺も慌ててついていく。

王宮の頃と比べて変わったのは、俺が手をちょっと強く握るとシルヴィアも握り返してくれる事かな。


後ろから俺達に槍を突きつけた魔族達もついてくるが、レラージュさんにあそこまで言われたから後ろからブスッ! って事にはならないだろう。

つか俺は《不老不死》ってスキルがあるから大丈夫か。

実はこのスキルは試すのが怖くて一回も使用していないが、名前的に死なないスキルだと理解している。

いざと言う時には役にたつはずだ、と信じてこのスキルの実験はしていない。

普通怖くて出来ないだろ。


この世界に来て初めてこの大陸に来たが、出てくる感想と言えば……魔物良く出てくるな。


迷宮とは違い、魔物は殺しても魔力になって拡散せず、自然に朽ちていく。

だから魔物を急いで焼く必要は無いし、ゆっくり迷宮では手に入らない素材を剥ぎ取っても良いのだが……。


「ふんっ!」

「ほいっと」

「……」


レラージュさんのお付きの人達が出てくる度に一瞬で消し炭にしてしまうので剥ぎ取るも何も無い。

レラージュさんは手出ししていないが、彼女もこの位余裕で出来そうな位強そうである。


手伝った方が良いか聞いたが、手を煩わせる訳にはいかないし、レベルを上げたいからと断られてしまった。

前者はともかく、後者を言われると引き下がるしか無い。

現に今さっき一人がレベルアップしたらしい。


そんなこんなで三時間後、約三十体の魔物を葬りながら進軍していた俺達はやっとこさ、魔国の首都、《レムリア》についた。


「おお~」

「……すっげぇ」


迷宮と同じ名前をつけられている《レムリア》だが、中身は全然違った。

何となく、《魔王》の住んでいる所ってでっかい城があって、シルエットになっていて、後ろでは雷が鳴り響いていて、いつも曇りで暗い雰囲気で満たされていると思っていたが、本当に全然違った。


まず、綺麗に晴れている。

空には鳶では無いが、大きい鳥の魔物が飛んでいて、小鳥が囀ずっている。

街並みは、ここは異世界だと実感出来る程の中世ヨーロッパ感。

木造やレンガが混ざっている様な感じだが、本で読んでイメージしていた通りの街並みだ。

街は活気的で、とても戦争をしている様には見えなかった。

あ、今そこで子供が転んだ。


城もちゃんとしていた。

ウィーンの王宮より小さいが、立派だ。シルエットでも無いし、造りもちゃんとしている。

何かの宗教の建物もあった。

ここは若干怪しい奴等がいたが。


「スゲーな。良い国だ」

「魔国はそれなりに発展しているし、先人達の苦労もあって国民が植える事はあまり無いのじゃよ」


自分の国が褒められたのが嬉しかったのか、レラージュさんがちょこちょこ説明を入れてくれる。

シルヴィアも熱心に耳を傾けていた。


「レラージュ様、ここはまだ魔物が出る区域。早く中へ」

「む、そうじゃな」


後ろでレラージュさんのお付きの人の一人がそう言ったので、移動する。

ここは魔国を見渡せる位置にあるが、まだ関所を通っていないので入国は住んでいない。


そもそ何故レラージュさんが俺達を助けたのかわからない。

魔国に入った瞬間後ろから……っていうのもありえなくも無いが、だったらさっき殺った方が……。


う~む、わかんないな。

ま、シルヴィアもそれなりに警戒している見たいだし大丈夫か。

恐らくこれから監視されたり色々話さなくてはならなくなるだろうが、よくよく考えればあそこで戦闘になるよりはこっちの方が楽だ。

いざとなったら俺が本気を出せば良いだけだし。


「では、ようこそ。我が国へ」


関所をレラージュさんの顔パスで通り、俺達は訝しげに見られながらも入国できた。

中から見ても魔国は活気に満ちていた。


ただ、人間の俺とシルヴィアを見る目は完全に怪しい奴を見る目だったが。


痛い視線を抜けながら、三十分で城に着いた。

ここは流石に顔パスでは無かったが、いくつかの質問だけで入る事ができた。


「では、シルヴィア殿達には儂と来て貰おうかの。イルミー。ついてきなさい」

「はっ」


お付きの人の一人がレラージュさんの後についていく。

残りは城に入場したら二人は何処かへ行き、一人は最初に俺達にあった魔族達を何処かへ連れて行き、残りの一人は何やら離れた所で俺達を監視していた。


「雄次郎行くぞ」


シルヴィアもスイッチが入りっぱなしの様で毅然とした態度でレラージュさんの後についていった。

俺は王宮の頃のキャラに戻すか? と思案したが、やっぱりやめた。

恥ずかしいからとかではなく、単に出来なくなっているからだ。


とか考えている内に目的の部屋に着いた。

城の中はウィーンよりも造りがシンプルだった。

案内図みたいなのもあった。

流石に個人の部屋などは書かれていなかったが、広間や会議室の場所などが書かれていた。

ウィーンは敵に潜入された時の為に複雑にしていた様だったが、ここはそんな事考えていないのかな?


「ああ、それは偽物だ」


近くにあった案内図を見ているとレラージュさんが説明してくれた。

どうやら敵に潜入された時に撹乱させる為の様だ。

本物は門に置かれているらしい。


「さ、入ってくれ」


レラージュさんが扉を開けてくれた。

中は普通の客間の様だ。

ソファがあって、テーブルがあって、窓がある。

罠は無さそうだ。


「さて、かけると良い」


部屋に入ると、レラージュさんが自分は座らずに俺達に促してくる。

俺は礼儀的にダメだと思ったのだが。


「あ」


シルヴィアが実に自然な動作で座ってから、やっちまったって顔をした。

明らかにミスったって顔だ。

シルヴィア、お前、仮にも王女だろ? 礼儀位教わらなかったのか……。


「はぁ……」

「すすす、すいません!!」


俺が溜め息をつくとシルヴィアはすぐに立った。

素も出ていたので、余程テンパっているのだろう。

俺がフォローした所で意味が無いだろうな。

だって……


「よい。貴様らが偽者だとは既にわかっておる」

「ふえ?」


わかっていないのはシルヴィアだけで、レラージュさんも、後ろのお付きの人も、俺も皆ばれてる事を理解している。


「連れてきたのは聞くことがあったからだ。恐らくだが、貴様らは迷宮から出てきたのだろう?」

「そこまで気づいているとはな……」


どうやら本当にレラージュさんは結構気づいているらしい。

髪と同じ紫の目が嘘は許さないという風に燃えていた。

いや、比喩だが。

とは言え、俺が魔族に何かをしたわけじゃあるまいし、レラージュさんは結構、話がわかりそうな人だから事情を話せば解放して貰え……


「聞きたい事はたくさんあるが……取り敢えず、最初はこれじゃな。《魔王》……兄上の失踪について何を知っている?」


……そうに無いな。

どうやら結構ヤバい状況みたいだ。


お楽しみいただけましたか?

次の投稿は水曜日になります。

これからは週に一、二回のペースになります。

結構早く変更するかもしれませんが、一応はそれを目標に頑張っていきます。


誤字脱字、感想、質問など受け付けております。

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