九話
夜になると、顕が帰宅してきた。
昨夜のことがあってから、初めて顔を合わすせいか、気まずい空気が流れる。
「おかえり」
「……ただいま」
「ご飯は?」
「済ませてきた」
私の目を見ようとしない顕。
本当にもう、冷め切ってしまっているのだろう。
顕は、ソファに座りテレビを見はじめた。
私がこの重たい空気に耐えられず、虹太の部屋に行こうとした時、顕が自分から話かけてきた。
「これ、なんだ」
顕が指差していたのは、今日飾った虹太の絵だ。
「ふふ、これね。虹太が描いたのよ。すごくよく描けてるでしょう」
子供の作品に目が行くなんて、やっぱり顕にも父性はあるんだと感心していた。
ところが、私の期待はすぐに裏切られてしまう。
「……リビングにはこういうの、飾らないでくれないか」
耳を疑った。
そこまで顕は、冷たいのか。
虹太がせっかく上手く描けた絵を、たった一枚飾っただけで、何故ここまで冷遇されなければいけないのだろう。
「どうして? 虹太、すごく上手に描けてるじゃない」
「……上手い、下手の問題じゃないんだよ。嫌なんだ。こういうの」
あまりの冷たさに、結婚する相手を間違えてしまったかもしれない……とまで考える。
「……嫌よ。本当に顕って冷たいのね」
「……もういい。好きにしてくれ」
顕はテレビを消し、立ち上がって自室に向かった。
皆もっと、幸せな家庭を築いているのに、どうして?
一人になったリビングで、声を出して泣いた。




