一話
「かなた、起きなさい」
「ママ、おはよう」
「おはよう」
今日もいつもと変わらない朝が始まる。
私、不二愛莉。三十歳。
同じ年の夫、顕と、幼稚園に通う五歳の息子、虹太との三人暮らしをしている。
七月の十六日、ナナイロの日に産まれたから虹太と付けた。
当て字と言われてしまうかもしれないが、私はすごく気に入っていた。
虹太はとても良い子で、手が掛からない。
「かなた、朝ご飯ちゃんと食べるのよ」
「うん、ママ。いただきます」
愚図ることもなく、朝のルーティンをしっかりこなす。
「歯磨きした?」
「うん、もうしたよ」
「幼稚園の準備は?」
「出来てるよ」
「偉いね、かなたは」
「うん、僕、お利口さんだから!」
こんなに育てやすい子がいるのかと言うくらい、虹太は聞き分けが良い。
私がつい、「お利口さんね」「偉いね」と育てたものだから、虹太の最近の口癖は『僕、お利口さん!』になっていた。
それも可愛いから、私は微笑ましく見ている。
虹太の世話をしていると、顕が顔を出した。
「……仕事、行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」
「パパ、行ってらっしゃい」
顕はいつも疲れた表情をしている。
結婚して八年目。
最近はあまり会話もない。
「パパ、本当に素っ気無いよね」
私が虹太にそう言うと、虹太は少し考えて話す。
「そうだね。でも……ママには僕がいるよ」
この言葉に何度も救われている。
本当に、虹太には感謝だ。




