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不思議な宇宙(そら)のもとで  作者: まほ。かんた。
不思議な年の瀬、その先に
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第九章 不思議な年の瀬、その先に①

第九章「不思議な年の瀬、その先に」スタートです。


年の瀬を迎えた青星家。

そんな中、とある人物が訪ねてきます。


ここから始まる、テツロウたちの賑やかな年末年始。

今回もよろしくお願いいたします。

■第九章 第一話


 年の瀬も押し迫った、ある日のこと。


 ピンポーン


 玄関のチャイムが鳴った。


 「ごめんください」


 「は~い」


 エミが明るい声で玄関を開けると――

 

 「こんにちは」


 「エミちゃんですね」


 「前に会った時より、

  ずいぶん大人っぽくなりましたね」


 「あっ……」


 エミは一瞬目を丸くする。


 「お久しぶりです、ミナミさん」


 「ふふっ、本当に久しぶりですね」


 ミナミは優しく微笑んだ。


 「こちらへどうぞ」


 エミはミナミを応接間へ案内する。


 応接間へ入ったミナミは、

 どこか懐かしそうに室内を見回した。


 落ち着いた雰囲気をまとった女性だった。


 長い紫色の髪を後ろでまとめ、

 穏やかな笑みを浮かべている。


 その表情の端々には、

 どこかタリアを思わせる面影があった。


 ソファへ腰を下ろしたミナミは、

 エミへ視線を向ける。


 「テツロウちゃんと、タリアはいますか?」


 「はい」


 エミはうなずく。


 「兄さんたちを呼んできますね」


 そう言うと、エミは応接間を後にした。


 しばらくして――


 テツロウ、タリア、

 そしてリオが応接間へやって来た。


 リオはミナミの姿を見ると、優雅に一礼する。


 「お久しぶりです、ミナミさん」


 「お久しぶりです、リオちゃん」


 ミナミは穏やかに微笑んだ。


 続いてテツロウも頭を下げる。


 「お久しぶりです」


 「ミナミおばさん」


 一瞬。


 ミナミの笑顔が固まった。


 次の瞬間――


 すっと立ち上がる。


 「テツロウちゃん」


 「はい?」


 ぐいっと距離を詰める。


 「おばさんじゃないでしょ?」


 穏やかな笑顔。


 しかし、有無を言わせない圧力があった。


 「えっ」


 「いや、その……」


 テツロウは思わず後ずさる。


 「ミ、ミナミさん……」


 「はい、よろしいです♪」


 ミナミは満足そうに微笑んだ。


 その様子を見ていたタリアは、

 小さくため息をつく。


 「母上」


 「今日はどうされたのですか?」


 ミナミは表情を和らげる。


 「年末ですからね」


 「今年も家に帰らないと聞きましたので」


 そう言ってタリアを見る。


 「元気にしているか、顔を見に来たのですよ」


 「それと――」


 今度は応接間にいる面々へ視線を向けた。


 「皆さんの近況も少し知りたくて」


 タリアは小さくうなずく。


 「そうでしたか」


 「ご心配をおかけしています」


 「いいえ」


 ミナミは優しく首を振った。


 「元気そうで安心しました」


 そして視線はテツロウへ向く。


 「テツロウちゃんはどうですか?」


 「宇宙のもとの研究は」


 「もう、あれから五年ほどになりますね」


 突然話を振られたテツロウは、

 少しだけ背筋を伸ばす。


 「ええ」


 「タリアちゃんや妹たちに支えてもらいながら」


 「なんとか続けられています」


 ミナミは満足そうに微笑んだ。


 「そうですか」


 「皆さん、本当に頑張っているのですね」


 ところで――


 ミナミは、ふと思い出したように口を開く。


 「テツロウちゃん」


 「記憶が曖昧で覚えていないと思うけれど」


 「あなた、向こうの世界では

  もう少し積極的になってもいいんですよ?」


 「積極的……ですか?」


 テツロウは首をかしげる。


 ミナミはくすりと笑った。


 「あなた達のお父さん――ギンガ兄さんはね」


 「大切な人を守る時も、

  自分の想いを伝える時も、

  とても真っ直ぐな人でした」


 「お母さんのメテルさんも、

  よく振り回されていましたけれど」


 「それでも、とても仲が良かったんですよ」


 テツロウは思わず目を瞬かせる。


 父と母の話を聞く機会は、そう多くない。


 タリアは小さく咳払いをした。


 「母上……」


 「確かに、以前メールで母上に」


 「テツロウ氏には、

  もう少し積極的になって

  いただきたいとは書きましたが……」


 タリアはそこで言葉を切る。


 「まさか、本人の前で話題になるとは

  思いませんでしたぞ」


 リオも微笑みながら頷く。


 「ふふっ」


 「確かに、お父様のような行動力は

  見習ってもよろしいかもしれませんわね」


 エミもくすりと笑った。


 「兄さんは優しすぎるんですよ」


 「もう少し自分から動いてもいいと思います」


 三人の視線が集まる。


 テツロウは思わずたじろいだ。


 「いや……」


 「父さんはいったい何をしていたんだ……?」


 応接間には小さな笑い声が広がった。


 ミナミはふと微笑んだ。


 「そういえば――」


 「以前、タリアからのメールで聞いたんですよ」


 「リオちゃんが、

  あのゲームで味わった感触が

  素晴らしかったって」


 リオは少し照れながら微笑む。


 「ええ」


 「あの感覚は、とても不思議でしたわ」


 「身体が自然に動くというか……」


 「とても心地よい感覚でした」


 ミナミは満足そうにうなずく。


 「やっぱりそうでしたか」


 「実は、夫であり、

  タリアの父でもあるサジの思想をもとに――」


 「私なりに改良した物があるんです」


 タリアが首をかしげる。


 「父上の思想……?」


 「母上が作られたのですか?」


 ミナミは持参していた桐箱を

 テーブルの上へ置いた。


 静かに蓋を開く。


 その中には――


 一本の赤い鉢巻きが収められていた。


 「これは?」


 テツロウが思わず身を乗り出す。


 ミナミはにっこりと微笑んだ。


 「テツロウちゃん専用です」


 「これを頭に着けると」


 「向こうの世界で、

  あの技が使えるようになります」


 応接間が静まり返る。


 「……え?」


 テツロウは思わず固まった。


 リオは目を輝かせる。


 「お兄様」


 「それは素晴らしいですわ」


 「あの感触を、また味わえるのですね」


 エミも嬉しそうにうなずいた。


 「いいなぁ」


 「私もあの時、リオお姉ちゃんを

  見ていて思ったんです」


 「兄さんにやってもらいたいなって」


 タリアも興味深そうに鉢巻きを見つめる。


 「テツロウ氏」


 「これはなかなか興味深い装備ですぞ」


 ミナミはテツロウを見つめながら、

 にっこりと微笑んだ。


 「それとですね」


 「テツロウちゃんが、

  もう少し積極的な行動を取れるように」


 「元になったゲームには無かった

  機能も追加してあります」


 応接間の空気が止まる。


 「……追加機能?」


 テツロウは嫌な予感を覚えた。


 ミナミは楽しそうにうなずく。


 「ええ」


 「サジの設計思想を参考にしつつ」


 「私なりに調整しておきました」


 「きっと役に立つと思いますよ♪」


 「いや、その機能の説明をですね……」


 テツロウが言いかける。


 しかし、

 ミナミはにこにこと笑うだけだった。


 その横で――


 リオは興味深そうに鉢巻きを見つめ、

 エミは少し期待したような表情を浮かべる。


 タリアは小さく額に手を当てた。


 「母上……」


 「その説明を省くのは、どうかと思いますぞ」


 「あらあら」


 ミナミは楽しそうに笑う。


 「大丈夫ですよ」


 「簡単な説明書も入れてありますから♪」


 そう言って、

 赤い鉢巻きの入った桐箱へ視線を向けた。


 「あと、タリア」


 「これも頼まれていたものです」


 そう言うと、

 ミナミは鞄の中から透明な

 保護シートのような物を取り出した。


 タリアは目を見開く。


 「それは……!」


 ミナミから受け取る。


 「ありがとうございます、母上」


 「これで最後の部品が揃いましたぞ」


 リオが首をかしげた。


 「何に使うのですか?」


 タリアは嬉しそうに答える。


 「ヴァルゴmk2です」


 「これがあれば完成が近付きますぞ!」


 テツロウは首をかしげる。


 「ヴァルゴ?」


 「ヴァルゴmk2?」


 少し考えてから思い出した。


 「ああ」


 「確か、タリアちゃんが

  作っている模型みたいなやつだっけ」


 「模型ではありませんぞ!」


 タリアが即座に否定する。


 「れっきとした試験機ですぞ!」


 応接間に小さな笑い声が広がった。


 しばらくして――


 ミナミは時計へ視線を向けた。


 「さて」


 「私もそろそろ帰りますね」


 タリアが立ち上がる。


 「もうお帰りですか?」


 「ええ」


 ミナミは優しく微笑んだ。


 「年末は何かと忙しいですからね」


 「それに」


 「タリアの元気な顔も見られましたし」


 そう言うと、


 応接間の面々を見渡す。


 「皆さんも元気そうで安心しました」


 エミはぺこりと頭を下げた。


 「また遊びに来てくださいね」


 「ええ、もちろん」


 リオも微笑む。


 「お会いできてよかったです」


 「こちらこそ」


 そしてミナミは最後にテツロウを見る。


 「テツロウちゃん」


 「その鉢巻き、ちゃんと使ってくださいね♪」


 「いや、その前に説明を――」


 テツロウが言い終える前に、

 ミナミはくすりと笑った。


 「使えば分かりますよ」


 そう言い残して、

 ミナミは青星家を後にした。


 応接間には、

 赤い鉢巻きの入った桐箱だけが残されていた。

 

 リオは赤い鉢巻きの入った桐箱へ視線を向ける。


 「そういえば――」


 「エアリさんに頼まれている

  ログハウスの掃除がありますわね」


 「ログハウスは、

  お兄様がいないと入れませんので」


 「せっかくですし」


 「掃除の後に、赤い鉢巻きも試してみますか?」


 「ああ」


 テツロウはうなずいた。


 「そういえばエアリちゃん、

  今日は用事があるって言ってたな」


 タリアもうなずく。


 「年末点検も兼ねていますぞ」


 「ちょうど良い機会ですな」


 エミは立ち上がった。


 「あっ」


 「それじゃあ、ミニを呼んできますね」


 そう言うと、

 応接間を飛び出していく。


 そして――


 「ミニちゃーん!」


 エミの声が家の奥へ響いた。


 「これから兄さんと一緒に、

  ログハウスの掃除に行くよー!」


 しばらくして。


 「掃除!?」


 元気な声が返ってくる。


 どたどたどたっ――


 勢いよく廊下を駆ける足音。


 ほどなくして、

 ミニが応接間へ駆け込んできた。


 「兄ちゃん!」


 「兄ちゃんと遊べるの!?」


 目を輝かせながら、

 テツロウの前へやってくる。


 エミは苦笑した。


 「掃除だよ?」


 「えー」


 「でも、兄ちゃんもいるんでしょ?」


 ミニはにっこり笑った。


 「だったら行く♪」


 リオは立ち上がると、

 優しく微笑んだ。


 「では」


 「準備をして向かいましょうね♪」


 そして、

 ふと思い出したように付け加える。


 「お兄様」


 「ミナミさんから頂いた赤い鉢巻きは、

  忘れずにお持ちくださいね」


 「ああ」


 テツロウは桐箱へ視線を向けた。


 「そうだったな」


 その言葉に、

 皆がうなずく。


 タリアも立ち上がると、

 操作端末へ視線を向けた。


 「今回は1/20設定にしますぞ」


 タリアがそう告げる。


 「1/20?」


 テツロウは首をかしげた。


 「外伝で使用したゲームモードと同じ縮尺です」


 「ああ」


 テツロウは小さくうなずく。


 正直なところ、

 細かい設定まではよく分かっていない。


 だが、

 タリアがそう言うのなら問題ないのだろう。


 「まあ、任せるよ」


 そう答えると、

 タリアは満足そうにうなずいた。


 エミは微笑んだ。


 「では兄さん」


 「転送が終わったら、

  玄関まで迎えに行きますね」


 「迎え?」


 テツロウは首をかしげる。


 しかし、すぐに思い出した。


 「ああ」


 「転送したら玄関に行くよ」


 エミはうなずく。


 「はい♪」


 「待ってますね」


 テツロウは赤い鉢巻きの入った桐箱を手に取る。


 そして、

 白衣のポケットへそっとしまい込んだ。


 テツロウ達は応接間を後にし、

 地下へ続くエレベーターへ乗り込む。


 

 青星家 地下二階。


 宇宙のもとへの転送装置の前で、

 テツロウは静かに立ち止まる。


 そして――


 転送装置を作動させると

 装置が淡く輝く。



 次の瞬間。


 見慣れた部屋が広がっていた。


 宇宙のもと。


 テツロウ専用の居室だった。


 テツロウは周囲を見回す。


 「さて……」


 そういえば、

 皆でログハウスの掃除をするのだった。


 「何故か玄関で待ち合わせなんだっけか」


 テツロウはそう呟くと、

 部屋を後にした。


 テツロウは玄関の扉を開く。


 そこには誰もいなかった。


 「まだ来てないのか」


 そう呟いた、その時――


 遠くから賑やかな声が聞こえてくる。


 ほどなくして、

 巨大なエミ達の姿が見えてきた。


 エミ。


 ミニ。


 リオ。


 そしてタリア。


 四人は楽しそうに話しながら近付いてくる。


 「兄さん♪」


 エミが最初に気付いた。


 「お待たせしました」


 ミニも嬉しそうに手を振る。


 「兄ちゃん!」


 「早く行こうよ♪」

挿絵(By みてみん)


 リオはそんな二人を見て微笑む。


 そして――


 テツロウへ優しく視線を向けた。


 「では、お兄様」


 「お掃除しに行きますわね♪」

挿絵(By みてみん)


 こうして、

 青星家の慌ただしくも賑やかな

 年末の営みが始まるのだった。


■第九章 第二話へ続く

第九章第一話、お読みいただきありがとうございます。


久しぶりに青星家を訪れたミナミ。

そして、テツロウへ託された一本の赤い鉢巻き。


年末の大掃除を終えた後は、

その赤い鉢巻きのテストも待っています。


大掃除に、謎の赤い鉢巻き――。


テツロウたちの、

いつもとは少し違う「不思議な年の瀬」が

少しずつ近付いてきました。


次回は10月2日(金)公開予定です。

次回もよろしくお願いいたします。

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