第七章 不思議な虚空の中の宴②
今回は大学での特別講義の後のお話です。
そして、新たな登場人物との出会いも待っています。
【登場人物】
■青星テツロウ
本作の主人公。
大学での特別講義を終えたばかり。
■赤井エアリ
テツロウの幼馴染。
今日も穏やかにテツロウを見守っている。
■青星リオ
テツロウの妹。
お兄様の活躍を誇りに思っている。
■紫雲タリア
『宇宙のもと』関連技術の開発担当。
テツロウの知識と経験を高く評価している。
■桃野リブラ NEW
アイドル活動も行う大学生。
リオを慕っており、今回テツロウと初めて出会う。
■第七章 第二話
十二月上旬――
テツロウとエアリは、
エアリの父である赤井教授に頼まれ、
リオたちが通う大学へ
特別講義の講師として招かれていた。
そして、
その講義も無事に終わったところで――
「お兄様!」
明るく気品ある声と共に、
リオがテツロウへ駆け寄ってくる。
その隣には、タリアの姿もあった。
「テツロウ氏。よかったですぞ!」
リオは嬉しそうに微笑む。
「お兄様、とても素敵でしたわ。
お兄様の特別講義」
講義を終えたばかりのテツロウのもとへ、
リオとタリアが並ぶようにやってくる。
すると、そこへ――
「ふぅん……」
ピンク色の髪をした小柄な少女が、
興味深そうにテツロウの顔を覗き込んだ。
ふわりとしたゆる巻きの長髪。
どこか人目を引く、不思議な存在感。
「この方が、
リオ様のお兄さん……?」
リオはすぐに胸を張る。
「リブラさん。お兄様は立派な方です」
リブラと呼ばれた少女は、
じっとテツロウを見つめたまま、
小さく首を傾げる。
「そうかしら?
さっきの講義を聞いてても、
あまりパッとしませんでしたけど……?」
「むぅ。テツロウ氏の真髄は、
ここではわからないのですよ」
タリアが少しむっとしたように言う。
リオも大きく頷いた。
「お兄様は偉大な方ですわ」
二人に持ち上げられ、
テツロウは照れくさそうに頭をかく。
「そ、そうかな……。
でも、リオやエアリちゃん、タリアちゃん……
みんなのおかげだよ」
エアリも静かに微笑む。
「テツロウさんは立派ですよ」
テツロウは改めて、
目の前の女性へ視線を向けた。
「えっと……君は?」
少女はスカートの端を軽くつまみ、
ぺこりと一礼する。
「申し遅れました。
私は、リオ様をお慕いしながら、
アイドル活動もしております――
桃野リブラと申します」
そして、少しだけ悪戯っぽく微笑んだ。
「リオ様のお兄さん。
どうぞ、お見知りおきを」
「お兄様。リオは、もっとお兄様に
特別講義をしていただきたいですわ」
リオは期待に満ちた瞳で、テツロウを見つめる。
そして、少し頬を染めながら続けた。
「個人的に……我が家で」
「むぅ。私もですぞ」
タリアも腕を組みながら頷く。
「テツロウ氏には、
まだまだ教わりたいことがありますゆえ」
エアリは、
そんな二人を見ながら小さく微笑んだ。
「ふふっ。テツロウさん、人気ですね」
その様子を見ていたリブラは、
再びテツロウへ視線を向ける。
じっと観察するような目。
「……リオ様のお兄さん、
と呼ばれるこの方が。
どれほど素晴らしいのか、
私も少し気になります」
すると、リオはどこか誇らしげに胸を張った。
「お兄様の本当の偉大さは、
ここではわかりませんわ」
「先ほどの講義では、
ほんの一部しかお見せできてませんからな」
タリアまで当然のように頷く。
リブラはきょとんと目を瞬かせた。
「……?」
その時だった。
エアリが、まるで何気ない
提案でもするかのように口を開く。
「では、こうしましょうか」
「午後はまだ時間もありますし――
“家”の方で、 もう一度テツロウさんに
特別講義をしてもらいましょうか」
「えっ?」
テツロウは思わずエアリを見る。
「家って……まさか、
“宇宙のもと”を使って?」
しかし、リオもタリアも、
まるで当然の話のような顔をしていた。
「もちろんですわ」
「その方が早いですしな」
エアリも穏やかに頷く。
「私もフォローしますから。
テツロウさん、
もう一回くらい講義しましょうよ」
「いや、もう一回って簡単に言うけど……」
困ったように笑うテツロウ。
一方でリブラだけが、
まだ話についていけない様子で
小さく首を傾げていた。
「……“宇宙のもと”?」
リオは、ふわりと微笑む。
「百聞は一見に如かずですわ。
――特に、お兄様は」
「……?」
リブラは不思議そうに瞬きを繰り返す。
だが、リオがそこまで言うのは珍しいのか、
やがて小さく頷いた。
「……リオ様が、そこまでおっしゃるのなら」
リブラはまだ半信半疑のまま、小さく頷いた。
エアリは、そんなリブラを見ながら穏やかに微笑む。
「では、移動しましょうか」
「移動……?」
リブラは不思議そうに首を傾げる。
リオはどこか楽しそうに微笑んだ。
「ふふっ。続きは、お家ですわ」
「ええ。ようやく始まりですぞ」
タリアまで当然のように頷く。
リブラはますます困惑した表情になった。
「えぇ……?」
テツロウは苦笑しながら頭をかく。
「そんな大げさな……」
「大げさではありませんわ」
「ですな」
リオとタリアの返答は妙に真剣だった。
エアリだけが、くすりと小さく笑っている。
「ふふっ。とりあえず帰りましょう。
午後はまだ時間もありますし」
その後。
一行は大学を後にし、
冬の街並みを歩き始めた。
十二月の冷たい風が、
静かに街路樹を揺らしている。
吐く息は白い。
「しかし、リブラさんまで
来るとは思いませんでしたわ」
リオが歩きながら振り返る。
リブラはマフラーを軽く
口元まで上げながら、少し視線を逸らした。
「だ、だって……
リオ様が、あそこまで言うんですもん」
そしてちらりと、テツロウを見る。
「正直、
まだ普通の人にしか見えませんけど……」
「はは……」
テツロウは困ったように笑うしかなかった。
タリアは隣で腕を組みながら頷く。
「まあ、最初は皆そうですぞ」
「そうなんですか?」
「ええ。ですが、そのうち分かります」
エアリのその言葉だけが、
妙に意味深に聞こえた。
やがて一行は駅へ到着し、
ホームへ向かう。
昼下がりのホームには、
買い物客や学生たちの姿が見えた。
冬の空気の中、電車が静かに滑り込んできた。
青星家・地下二階――
「これが、“宇宙のもと”
の基幹となるシステムです」
テツロウは、
巨大な装置群を見上げながら静かに説明した。
淡く光るモニター。
幾重にも並ぶ配線。
地下空間いっぱいに広がる機械群。
リブラは、ぽかんとした表情でそれを見上げる。
「これが……?」
アイドル活動もしている彼女だったが、
さすがにこの光景は想像の外だったらしい。
「さあ、お兄様を迎えにいきますので、
この下の地下三階へ移動しますよ、リブラさん」
リオが自然な口調でそう言う。
「……え?」
リブラは目を瞬かせた。
視線の先には、確かにテツロウ本人がいる。
「いや……リオ様のお兄さん、
そこにいますよね?」
しかしリオは当然のように頷いた。
「ええ。ですので、お迎えにいきますわ」
「???」
リブラの頭の上に、
見えない疑問符が浮かんでいるようだった。
エアリは小さく笑いながら、
テツロウへ視線を向ける。
「テツロウさん。転送したら、
私たちが迎えにいきますので」
「玄関で待っててくださいね」
「うん。エアリちゃん、
迎えに来てくれるんだね」
ごく自然に交わされる会話。
しかしリブラだけは、
完全に話についていけていなかった。
「えっ……?
えっ?」
タリアはそんなリブラの背中を軽く押す。
「リブラさん、ささ。
この下へ行って、
テツロウ氏を迎えにいきますぞ」
「いや、だから本人――」
困惑するリブラを半ば押すようにしながら、
リオ、エアリ、タリア達は地下三階へ降りていく。
そして――
誰もいなくなった地下二階。
静かな空間に、
機械の低い駆動音だけが響いていた。
テツロウはゆっくりと振り返る。
視線の先にあるのは、
“宇宙のもと”の転送装置。
「さて、と……」
小さく息をつきながら、
テツロウは静かに装置を起動した。
淡い光が、
地下空間を包み始める――
次の瞬間。
テツロウは、
見慣れた自分の部屋の中で小さく息をついた。
「そういえば……エアリちゃん達が
迎えに来てくれるんだった」
そう呟きながら、急いで玄関へ向かう。
そして、扉を開けた瞬間――
「テツロウさーん!」
明るい声が響いた。
テツロウは反射的に顔を上げる。
そこには――
巨大なエアリが、
青星家へ向かって歩いてくる姿があった。
冬空の下。
長い赤髪を揺らしながら、
エアリは優しそうに微笑んでいる。
その後ろにはタリア。
さらにリオの姿。
そして――
リオの後ろには、
困惑した表情のリブラまでいた。
「リオ様……」
リブラは目の前の光景に、
まだ現実感が追いついていない様子だった。
リオは優しく微笑みながら振り返る。
「リブラさん、大丈夫ですわ」
「お兄様を見ていただければ、
きっと安心できますわよ」
テツロウは、
ゆっくりと彼女達を見上げる。
巨大な少女達が、
冬の空を背に自分を見下ろしていた。
エアリは、どこか嬉しそうに微笑む。
「テツロウさん。
やっぱり、こちらの方が素敵ですね」
「むぅ。これこそ真の特別講義ですぞ」
タリアも満足そうに頷く。
「テツロウ氏。
今日は色々教わりますからな」」
リオは、うっとりしたように目を細めた。
「お兄様は、やっぱり素敵です……」
一方でリブラは――
小さくなったテツロウの前へ、
ゆっくりとかがみ込む。
その瞳が、
じっとテツロウを見つめていた。
「これが……リオ様のお兄さん……」
心の奥で、
何かが静かに揺れる。
胸の奥が、
少しだけ熱くなる。
「……いえ」
リブラは小さく息を呑む。
「テツロウ様……」
その瞬間。
彼女の中で、
何かが少しだけ変わり始めていた――
冬空の下。
小さなテツロウを囲むように、
巨大な少女達が穏やかに微笑んでいる。
その光景は、
どこか現実離れしていて。
けれど不思議と、
温かかった。
リブラは胸元を押さえながら、
小さく息をつく。
まだ理解できない。
何が起きているのか。
なぜリオ達が、
ここまでテツロウを慕っているのか。
なぜ自分の胸が、
こんなにも高鳴っているのか。
だが――
「……もっと、知りたい」
その気持ちだけは、
はっきりとしていた。
そして。
桃野リブラは、
まだ知らない。
この先、
“宇宙のもと”の中で。
自分の日常が、
少しずつ変わっていくことを――
■第七章 第三話へ続く
第七章 第二話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、リブラとテツロウの初対面回でした。
大学での出会いから始まり、
『宇宙のもと』、そして青星家へ。
リブラの視点から見ると、
かなり不思議な一日だったかもしれません。
これから彼女がどのように物語へ関わっていくのか、
見守っていただければ幸いです。
ご感想やご意見なども、お待ちしております。
※挿絵はAIを用いて作成しています。
AIの仕様や制約により、
作者のイメージ通りに再現できていない部分もありますが、
あくまで参考イメージとして
補完しながらお楽しみいただければ幸いです。
次回 第七章 第三話は
8月18日(火)公開予定です。




