第1話「終末の中の平和」
20XX年、世界は突如として現れたクリーチャーと呼ばれる怪物が各地に跋扈する地獄と化していた。人類は、持てる武力を総動員してこれに対抗したが、どこからともなく炎や風の刃などを発生させる魔法のような攻撃を放ってくるクリーチャーを相手に苦戦を強いられていた。
しかし、ある日偶然にもクリーチャーの討伐に成功し、それを解剖した際に発見した不思議な粒子を放つ、のちに「魔石」と呼ばれる不思議な物質を人類が手にしたことから、人類の歴史は大きく変わることになった。
その後、魔石を研究していくうち、魔石は生命体の生体反応に呼応して例の粒子を放出し、魔石が放つその粒子には原理は不明だが、炎や電気、風などあらゆる現象に干渉できる特性があることが解明され、その粒子は「魔素」と呼ばれるようになった。
「国際防衛機関」通称「IDO」はこの特性に目を付け、魔石を人間の身体に乳児または幼児の段階で埋め込み、成長過程で魔石と同化させ、身体と同化した魔石を通じて魔素を操ることができる改造人間「デモンズ」とデモンズが操る魔素を魔素変換炉で原動力へと変換して戦う人型機動兵器「Combat Operation Arms」通称「COA」を生み出した。
当初は人権の侵害や過剰な武力だと世間から批判を受けていたが、クリーチャーによる被害が拡大するにつれて、その声は徐々になくなっていった。
デモンズとCOAの台頭によって、世界はクリーチャーに対して現実的な抵抗が可能になり、デモンズ部隊によるクリーチャーの駆逐活動が拡大していったことで、一般の人間は各国が統治するコロニーの中でひと時の平和を謳歌している。
「おはよう、父さん」
「おう、おはようシュウ」
そして俺、「神崎シュウ」もコロニーの中で平和を謳歌しているうちの一人だ。
俺はダイニングで先に朝食を食べ終え、歯磨きの準備をしている父「神崎ソウジロウ」に朝の挨拶をし、朝食が用意されている席に着く。
今日の朝食のメニューはベーコンエッグ。シンプルだけど栄養満点でうまみたっぷりな朝食の定番のひとつ。美味いんだよなぁこれが。
「いただきます」
出来上がってから時間がそこまで経っていないのか、まだそれなりに熱々のベーコンエッグを焼いたトーストに乗せて頬張る。うん、美味い。
「シュウ、父さんはこれから仕事に行くが、今日は少し遅くなるから家の鍵をちゃんと持って行けよ」
「ん、りょーかい」
歯磨きを終えた父さんは仕事で遅くなることを伝えて出勤していき、俺も登校の準備を進めるために朝食を食べる手を早める。早くしないと《《あいつ》》を待たせちまうからな。
そうして朝食を食べ終え、歯磨きをした後、荷物の用意をしていると。
―ピンポーン
「っと、来た来た」
俺はせっせと荷物をまとめた後、玄関へ向かう……前に、やっておくべきことがある。俺は和室の一角にある仏壇の前に座る。
「それじゃあ行ってくるよ、母さん」
天国から見守ってくれている母「神崎シオリ」に外へ出かけることを伝え、俺は改めて玄関へ向かい、靴を履き、扉を開ける。
「すまん、待たせた」
「ううん、大丈夫、そんなに待ってはないから。」
扉の先にいたのは長い鮮やかな茶髪をポニーテールにしてまとめた俺と同い年の少女。
彼女の名前は「朝倉ヒナタ」。家が隣同士でもうかれこれ15年ほどの付き合いになる。所謂、幼馴染というやつだ。
高校生となった今でもこうして一緒に登校するような仲ではあるのだが、一般的に見て美少女と言えるような容姿をしているため、周囲の男性からの恨めしそうな視線(主に同級生)を受けることが日常茶飯事となっている。
「それじゃあ、一緒に学校へ行きましょ。」
「おう」
俺は玄関の鍵を施錠し、ヒナタと二人で学校までの道を歩き始める。
だが、そんな時だった。
―ザザ…ザザザ…ザー……
「うっ...また来たか......」
「またって、昔から聞こえるっていうノイズ音?」
「ああ、一体なんだろうなこれ......」
時折聞こえる正体不明のノイズ音は、俺が小さい時からずっと聞こえている。昔、医者に診察してもらったことがあるが、何度調べてみても身体に一切の異常は見つからず、なぜこんな音が聞こえるのか原因も不明。
しかも、ここ最近は聞こえる頻度が多くなっている気がする。正直、こうも頻繁に聞こえてくると日常生活にも支障が出てくる。
「あまりにも辛いんだったら学校休む?」
「いや、大丈夫だ。そのうち収まるだろうし」
心配してくれたヒナタに、これ以上余計な心配をかけないために大丈夫と言い、このまま学校へ登校することにする。
これ以上ノイズ音のことを気にしても仕方ないだろうし。
「ほんとに無理はしないでよ?」
「分かってるよ。そんじゃ、さっさと学校行くぞヒナタ」
「あ、待ってよシュウ!」
その後、俺たちは朝の登校を終え、朝礼をした後の午前の授業は何の滞りもなく進み、気づけばいつの間にか昼休みの時間になっていた。
「おーいシュウ、一緒にお弁当食べよ」
これから昼食を食べようという時、いつも通り隣のクラスからヒナタが弁当を片手にやってきた。毎度思うがこいつには遠慮というものはないのか?
「おーいシュウ、聞いてる?」
「あー待て待て、すぐ行く」
幼馴染とはいえ、こいつの近すぎる距離感はマジにでどうにかならないのだろうか?さっきからクラスメイトの男子たちの視線が痛いんだが。
さすがにこんな状況で飯は食いたくないので、教室から食堂へ場所を移して昼食を食べることにする。そんな中、ヒナタが昼食を食べながら話しかけてくる。
「そういえばシュウ、今日は予定空いてる?」
「ん、急にどうした?」
「今日おじさんの誕生日でしょ?だからシュウにおじさんが喜びそうなプレゼントを一緒に選んでもらおうかなって思ってるんだ」
「ヒナタ、お前父さんの誕生日知ってたのか?」
「当たり前でしょ?私たちが小さい頃からずっとお隣だったら知ってるに決まってるよ」
「そういうものなのか?」
「そういうものなの。そういうシュウは私の誕生日は覚えてるの?」
「え?.........すまん、覚えてないわ」
「もう!シュウのノンデリ!アンポンタン!」
完全に忘れてた俺に非があるのは分かるんだが、そこまで言う必要なくない?
この後、俺はなんとかヒナタを宥め、放課後に一緒に父さんの誕生日プレゼントを買いに行くことにした。




