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魔核戦機アストレイア  作者: 秋紅葉リュウ
第二章 闘争

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第13話 絶対に認めない

 転校生として第13機動小隊の4人が俺の通う高校へ来訪してから三日ほどの時が流れた。あれからクラスメイト達はセイレーン――水無月たちに夢中で話しかけていたが、今では落ち着きつつある。当初はヒナタも興味津々で、いろいろと話しかけていった結果、イーグル――風見と特に仲良くなっていた。性格がだいぶ似てるし、何か通じ合うものがあったんだろう。


 一方俺はというと、遠巻きに見ているだけで、自分から関わろうとはしていない。なにせ、あいつらは俺の監視役だ。変に関わるとクラスメイト達から何か探りを入れられるかもしれない。自分もあいつらもデモンズであることを隠し通さなければならない関係上、それは絶対に避けたい。こうやってお互い不干渉を貫くのがあいつらにとっても都合がいいだろう。




――そう思っていたのだが.......




「待ちなさい。あんたに話がある。さっさとついてきなさい」




 周囲から人がいなくなったタイミングで、水無月が俺を呼び止めてきた。いくら周りに人がいないからって、なぜ学校の中で話しかけて来るのか。もしこの状況を見られていたら変な噂になるだろうに。




「なぜ今ここで干渉してくる。何か変な噂が立つとお前たちにとっても都合が悪くないのか?」




 俺は思った疑問をそのまま水無月にぶつける。しかし、彼女は依然として冷めた視線を向けたまま返事を返してくる。




「今はそんなことはどうだっていい。私個人、あんたに言いたいことがあるのよ」




 噂が立つ可能性を理解したうえで俺に言いたいことがある。俺は彼女の考えていることが分からなかった。しかし、彼女について行けばその意図が分かるだろう。


 俺はそうして水無月に導かれるままに足を進め、やがて誰もいない屋上へと辿り着いた。




「ここなら誰も寄り付かないはずね」




 屋上へ足を踏み入れた水無月がそう呟き、俺の方へと振り返る。




「あんた、あの時、アストレイアに乗ってクリーチャーと戦うって言ったわよね」




 水無月は開口一番にそんなことを言ってくる。俺は、なぜ今更そんなことを聞くのかと感じた。




「ああ、そうだが、なぜ今そんなことを聞く。あの時お前も聞いていたはずだろう」


「そうね、確かに私もしっかりとこの耳で聞いたわよ」


「だったらなぜ――ッ!!?」




 なぜ今更こんなところで聞いてくる――そう言いかけた途端、俺は背筋が凍り付くような感覚を覚えた。そして、その原因は目の前にいる水無月から向けられている殺気を含んだ絶対零度の視線だ。




「本当にあんたには戦場でクリーチャーと戦うに値する力はあるの?」




水無月はそんな視線を向けながらそんな問いを投げかける。




(戦場でクリーチャーと戦うに値する力?一体こいつは何が言いたいんだ?)




 彼女がそんなことを聞いてくるのか、その意図が分からない。少なくとも、彼女が言う力は俺にはあるはずだ。父さんが開発したアストレイアの強力な機体スペックをリスクを無視して最大限に発揮できる、生まれながらのデモンズとしての力が。それはIDOにとっても、彼女たちデモンズたちにとっても有用なはず。




「俺にはアストレイアの力を最大限に発揮できる力がある。それはお前も知っているだろ。俺はこの力を大切なものを守るために使うって誓ったあの日から」




 俺は、自分には戦う力があることを水無月に答える。


 これは決して自分の力を誇示している訳ではない。俺はあのクリーチャー襲撃事件を経験して、クリーチャーの脅威をその身で思い知った。クリーチャーが暴れたせいでたくさんの人が一瞬で死んだのもこの目で見た。大切な居場所が無慈悲に破壊される光景も見た。俺はもうあんな悲劇を見たくない。


 だが、俺にはその悲劇を防ぐ力がある。俺が戦うことで、父さんやヒナタだけでなく、多くの人をクリーチャーから守ることができる。守るために力を使う――それが今の俺にできることだと思っている。




「......だから何?」




 だが、水無月からの反応は酷く冷たいものだった。




「生まれ持って得た力に胡坐をかいて戦う......それがあんたのいうクリーチャーと戦うに値する力だというの? 心底呆れるわね」


「は.........?」




 俺は水無月の答えに言葉を失った。それと同時に、彼女に対する底知れぬイラつきを覚えた。




「そんな言い方はないだろう......!俺はお前たちデモンズと()()ように守るためにクリーチャーと戦う()()だろ!?」




 俺がそう言い放った時、水無月が顔を俯かせ、肩を震わせながらこちらへと近寄る。




「あんたが私たちと()()......? ()()......?」




 そして、彼女がすぐ目の前まで近寄ってきた瞬間、俺は胸倉を強く掴まれた。




「ふざけんじゃないわよ!!今までぬくぬくとコロニーの中で暮らしてたあんたに、私たちの何が分かるっていうの!!?」




 そう言って胸倉を掴んで睨みつける水無月の顔には薄っすらと涙が浮かべ、声を荒げながら言葉を続ける。




「あんたは私たちデモンズがどんな苦しみを受けながら戦っているか分かる......? 魔素負荷で身体を徐々に壊されるのを感じながら、魔石に刻まれたクリーチャーの遺伝子にいつ精神を犯されるか分からない恐怖に怯えて戦う苦しみが......!!! .......必死に戦ったとしても必ず何かを失ってしまう無力感が.......!!!」




 彼女は声を震わせてそう言うと、俺の胸倉を掴んだ手を放し、力なく笑う。




「ハハ......分かるはずないわよね......。実際に戦場に出たことがないうえに、魔素負荷に強い耐性があって、精神が犯される恐怖に怯える必要もないナチュラル・デモンズとして生まれたあんたなんかに......!」




 水無月はそう吐き捨てると、屋上へ登ってきた階段がある扉の方へと歩みを進める。そして、扉を開き、その先へ足を踏み入れようとした時、俺へ怒りで歪んだ顔を向ける。




「私はあんたを絶対に認めない......!()()()()()()()()()()()()の血を引いたあんたを......!」




 水無月はそう言い残して、扉をやや乱暴に閉じて去っていった。




「本当の戦場の過酷さ......デモンズの苦しみ......か」




 俺は水無月が言い残していった言葉が胸にある心に刺さっていた。


 精神汚染についてはあの時、父さんから聞いたアストレイアの実験の話で知ってはいた。だが、それとは別に魔素負荷というもので身体が壊れていくというのは初めて知った。デモンズたちはいつもそんな苦しみを背負って戦っている。だが、俺はデモンズを知らなかった。いや、知ろうともしなかった。そして、そんな苦しみを受けることのない俺が理想を語った。それが、水無月――セイレーンの心を傷つけることになってしまった。




「俺、デモンズの苦しみのことを何も分かってなかったな......」




 俺がそう呟いた時、後ろで扉が開く音が聞こえた。扉の方へと振り向くと、そこには二人の少女がいた。




「んにゅ.........」


「ありゃ、隊長の変な様子で階段を下りてきたから気になってきてみれば、あんたがいたんすか」


「お前たちは......キラービーとイーグルか......」




 ここへ来た少女は、セイレーンの仲間であるキラービーとイーグルだった。




「む......ここでの私の名前は蜂谷カリン......」


「あー......できる限りコードネームで呼ぶのは軍とは関係ない場所で言うのは避けてほしいっす。アタシは風見ソラって名前――いやまあこっちもコードネームみたいなもんすけど、できればこっちの方で呼んでくれっす」


「......そうか悪かった、蜂谷、風見」




 俺は二人に謝罪し、改めてキラービーを蜂谷、イーグルを風見と呼ぶ。




「えーと、そういえば隊長と何があったんすか?あんな顔の隊長、初めて見たんすけど......」




 風見は水無月の様子が変だったことについて、いきなり切り込んできた。俺は「それは......」と気まずさから言い淀む。




「......多分......リンが神崎に本音をぶつけた......私はそう思う......」




 言い淀む俺を横目に蜂谷は俺が言おうか迷ったことを言い当てた。こいつ、読心術でも使っているのか?




「隊長の本音?」


「ん......おそらく、彼がデモンズの苦しみを受けない......ナチュラル・デモンズで......そんな彼が戦うための力があると言って......リンの地雷を踏んだ......違う......?」




 俺は目を見開いた。蜂谷が言い出した推理はほとんど合っている。俺は予想外の出来事に唖然とする。




「ん......沈黙は肯定と受け取る......」


「デモンズの苦しみ......あー......魔素負荷と精神汚染のことすか......」




 蜂谷の推理に風見はどこか納得したように頭を片手で抱え、そして、俺へと向けて真剣な様子で顔を向ける。




「あんた、隊長のとんでもない地雷を踏んじゃったすね。アタシも話に聞いただけすけど、あの人、過去に魔素負荷が原因で慕ってた人を亡くしてるんすよ」




 風見は少し言いにくそうにしながらも、そのまま水無月の過去を語り始める。




「今から大体5年前くらいっすかね。神雷大隊の小隊数は10までしかなくて、アタシら第13機動小隊もまだ存在しない時だったっす。その時、旧・京都跡地に多数の竜種のクリーチャーが確認されたんす。幸い、竜種の中では弱い方の地竜種だったんすけどね」


「ん......あの時は大変だった......」


「そうっすね、たとえ竜種の中では弱いといっても、数が数だったから、他のコロニーのデモンズたちと協力して殲滅することになったんす。でも――」




 その先の話をしようとした時、風見はどこか暗い顔をしていた。それがどれだけ悲惨な出来事だったのかは分からない。だが、彼女らに何らかの傷跡を残したのは間違いない。




「隊長が所属していた部隊に地竜が雪崩のように迫っていたんすよ。気づいたころにはもう手遅れで、周囲を取り囲もうとしていたアタシやカリンのいた別動隊は対処できず、隊長のいた部隊は壊滅的な被害を受けたっす......。隊長が慕っていた人もその時に......」




 そう言った風見は、その時のことを強く悔いているかのように唇を噛みしめ、左側の二の腕を右手で強く握りしめていた。




「それからっす。隊長が仲間を守ることを強く意識するようになったのは。隊長が慕っていたあの人は仲間思いな人だったすから、その影響を強く受けてるんだと思うっす」


「......そうだったのか」




 水無月がなぜ【仲間】という言葉に過剰に反応していたのか。その理由は彼女の過去のトラウマが影響していた。俺はまだ守るべき大切なものがある。しかし、彼女はすでに大切なものを奪われた者だった。だが、俺にはひとつ気になることがあった。




「なあ、ひとつ聞いてもいいか?」


「ん?何すか?」


「水無月がここを出ていくとき、俺を【戦うことを捨てた裏切り者】の血を引いてると言われたんだ。なぜ、あいつはあんなことを言ったんだ?」




 俺のその質問を聞いた風見は「そ、それは......」とかなり言いづらそうに言葉を詰まらせる。そして、風見のその様子を見て、彼女の代わりに蜂谷が口を開いた。




「リンが慕っていたのは......【ガーディアン】.......かつての伝説の三英傑の一人......数少ないファーストチルドレンの生き残り.......だったデモンズ.......」


「三英傑.......母さんが呼ばれていたのと同じ.......?」




 カリンは俺の言葉に静かに頷き、肯定の意を示す。




「ガーディアンはあの時......リンたちを守るためにたった一人......地竜の注意を引き付けて、その進攻を食い止めていた......だけど、別動隊として動いていた私たちが合流するころにはもう......」


「力尽きてたってことか......」


「ん......だからこそ許せなかったんだと思う......」


「......どういうことだ?」




 俺はカリンの放った意味深な言葉に反応する。カリンは静かに目を閉じた後、言葉を続ける。




「神崎シュウ......貴方の母親は三英傑の一人だった......それも、その中で最強と呼ばれた【グリムリーパー】......彼女はかつての戦いで戦闘中に行方が分からなくなってMIAとして実質戦死処理された......」


「でも、母さんは生きていた。そして父さんと結ばれて、俺が生まれた」


「ん......でも、リンはそれを裏切りだと捉えた......」


「裏切り......」


「三英傑最強のデモンズとしての実力を持っていながら......彼女は戦うことを放棄して家庭を持った......生きていたのにその力をクリーチャーの殲滅のために使わず、自らの幸せのために過去を切り捨てた......そう思ったリンはデモンズとしての役目を放棄したグリムリーパーを裏切り者と言うようになった......」




 俺は水無月がなぜあれだけ怒りを露わにしていたのかを理解した。彼女が母さんのことをそう思っていたのなら、俺は尊敬する人を見捨てたも同然の裏切り者の子ということになる。そんな奴が自分も一緒に仲間だと言ってくる。キレないはずがない。彼女からすれば、俺は裏切りの象徴なのだから。




「神崎シュウ......貴方は今後、私たちと一緒に戦うことになる......だからこそ、リンとのいざこざは戦場では命取りになる......」


「.......だろうな」


「だから......大変だろうけども、リンとの関係を良くすることを奨める......戦場で生き残りたいのなら.......」




 水無月との関係を良くする――そんな無理に決まっている。彼女はあれだけ俺を嫌っているのに、あんな状態からどうやって良好な関係を築けばいいのか、その方法を俺が聞きたいくらいだ。だが、蜂谷の言う通り、このまま険悪な関係のままではいずれ自分の首を絞めかねない。


 俺がそんなとんでもない難題に頭を抱えている時、蜂谷が少しふらつき始めた。




「お、おい、大丈夫か?」


「こんなに話すの......久しぶりすぎて疲れた......私、寝る......zzz......」


「おっとっと、危ないっす」




 ふらついたまま眠りに落ちた蜂谷をすぐ横にいた風見が即座に受け止め、そのまま彼女を慣れた手つきで背負う。




「カリンがここまで長話をするなんて、本当に珍しいっすね。まあ、それだけ隊長のことを心配してくれてるってことなんだと思うっすけどね」




 カリンはその背中の上で静かに寝息を立てる蜂谷を優しい笑みを向けながらそう言った後、俺の方へと顔を向ける。




「まあ、これから大変になると思うすけど、とりあえずこれから戦場でもよろしく頼むっすよ神崎君。アタシらはあんたに期待してるっす」




 風見はそう言い残して、扉を通り抜け、屋上から去っていき、やがてここに俺だけが取り残された。俺は胸の痛みを押さえるように掴む。




「俺は一体、何をすればいいんだ......」




 水無月との不和。これを直さない限り、彼女とは共に戦うことすらままならない。俺はそんな無理難題をどう対処していかなければならないのか、延々と頭を悩ませていくことになった。

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