表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様になったので妹たちを勇者にして世界最強にします  作者: ほっぺ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/52

帰路



「ん…」



静かな海に、一つの声がこだまする。

吐息と共に、澄香が目を覚ます。

不意に走る激痛。体の節々が悲鳴を上げ、動く事すらままならない。



そんな中、倒れている環が目に入る。



「お姉ちゃん、そんな…!」



四つん這いで、じりじりと這い寄っていく。

一抹の不安を握り締めながら。

環の目の前まで辿り着いた澄香は、真っ先に息があるかを確認した。


苦しそうな表情だが、呼吸を繰り返す音が聞こえる。

その姿に、安堵した様子で息を吐いた。

澄香は、環の肩を抱き船まで歩き出す。


歩くたびに全身が千切れそうなほど痛む。

手が緩み環が離れそうになる。

澄香は再び抱き上げると奥歯を噛み締め、船へとそっと乗せていく。



「ふーっ、ふぅ」

「留奈ーっ!起きてる!?」



額から大量の汗を流し、海全体に問いかけるように大声で叫んだ。


方々から、小さな声が聞こえる。



「ぎゃー」


「…起きてる、よ」



2人の声が聞こえると、澄香は目を輝かせて言葉を続けた。



「フー!あんた元気あるんでしょ!」

「さっさと留奈を連れて来なさいよっ!」



船に横たわりながら俺に言い放つ澄香。

その言葉に俺は急いで立ち上がると、留奈の元へと猛ダッシュで駆け寄った。

足は折れているが、羽根は大丈夫だ。



(少しでも早く、留奈を船に戻さないと…!)



俺の姿を認識した瞬間、弾けるような笑顔が飛んできた。



「…フー、ちゃん」



頬を綻ばせて俺の名を呼ぶ留奈。

両手を広げ、抱き締めようとする。

俺は腕をするりとすり抜けて留奈のローブを嘴でしっかりと掴む。


留奈が名前を呼んだ瞬間、足の痛みが消えた。

信仰の力が強まったのか?

体が元気になったような気がする。


渾身の力で、留奈を地面から引き離す。

ふわりと浮いた体を、澄香の元へ持っていく。

俺の行動に驚いた様子の澄香は目を丸くした後、嬉しげに言った。




「やるじゃない!さぁ、留奈を乗せて!」



「すみ姉、船…動かせるの?」



「お、お姉ちゃんが出来るんだから、あたしも出来る…はずよっ!」



「見てなさい!えいっ!」



不安そうに眉を下げて問い掛ける留奈。

澄香は重苦しい雰囲気を払拭するように勇ましく発言し、オールを力強く握り締めた。



3人が乗ったのを確認し、全力で漕ぎ出す。

全身に走る痛みに目眩で倒れそうになる。

だが、小さな留奈ではオールを持つ事すら難しい。



「ぐっ…!こんな事を、お姉ちゃんはしてたの…?」


(あたしじゃ、持っていかれる…!)



冷や汗をかきながら、安定しない船を必死で動かす。

波にオールを取られ、船は上下左右に揺れ動く。

捕まっている手を放すと、一瞬で船から放り出されそうだ。


横たわっている環を横目に、感嘆のため息を漏らす澄香。

だが、澄香の操舵では一向に前に行くことが出来ずその場に留まっていた。


オールを握る手がどんどん赤くなっていく。

自身の呼吸も荒くなり、漕ぐ力が弱くなるのを感じる。



(やらなきゃ!今動けるのは、あたしだけなんだからっ!)

(早く帰って、ゆっくり…)




そう思いながらも、相反するように意識が遠のく。

体に無理をかけ過ぎた澄香は、足の力が抜け膝からガクッと崩れ落ちてしまう。





「…お姉ちゃんに任せなさいって、言ったでしょう?」





背中から感じる聞き慣れた声。

抱き抱えられた澄香と目が合ったのは、環だった。

息を荒げ、掠れた声で澄香に宣言する。



包み込むような笑顔で語り継げると、澄香をそっと船に座らせた。

環は、そのまま流れるように操舵を変わった。



起き抜けの体はオールを握ることが難しく、船は蛇行を繰り返していた。

力の入れ方が分からない。

それでも、無理矢理船を走らせていく。




「えっ、何、で?」



「…ちょっと、力を使い過ぎたみたい」

「澄香ちゃんに無理させちゃって、ごめんね?」


「う、動いても大丈夫なの!?」


「ええ!皆のためなら、何でも出来るわぁ」




自身溢れる発言と共に、オールを漕ぎ出した環。

ふらついた足元を隠しながら、一歩を踏み出す。


ふと、体がほんのりと発光する。

その瞬間、俺は直感的に感じた。




航路安定が発現したのだ、と。




「…ふふ、これで大丈夫、だね」




俺に視線を向け、確信を得た表情で問い掛ける留奈。

その問いに答えるように、俺は留奈の腕の中へと飛び込んだ。


さっきまでの荒波が嘘のように、船が動き出すと海が凪いでいく。

激しく揺れていた船体も、揺れを感じないほど静かになった。

その様子を不思議そうに見つめる澄香。




「何であたしの時とはこんなに違うの…?」

「やっぱり、泳げないから…?」



顔面蒼白でショックを受けていた澄香に、肩を揺らして笑いながら環が呟く。




「うふふっ、多分これは…3人の絆なのかもしれないわねぇ」



「え!?どう言う事?」




その言葉を発した後、環は俺をしっかりと見据えて小さくウインクをしてみせた。


環も気付いているようだ。何か仕掛けがある事を。




波が、自然と避けていく。

そして、安全な道に向かって船を先導する。


その流れに身を任せる3人。




「この調子なら、帰れそうねっ!」


「そうねぇ、折り返しってところかしら?」


「…早く帰って、報告しなきゃ」




村で待っている人達を思い出す。

もう、これ以上の被害は出ない。

あの禍々しい化け物を、倒したんだ。



(そう言えば…環の雰囲気、変わったな)

(あの時、何かあったのか?)



凛々しく船頭に立っている環をじっと見つめる。

纏っている気配が、前よりも強くなったような気がする。

まるで…力を得たような…



「あっ!見て!灯火が見えたわっ!」



澄香の言葉でハッとし、港から見える灯りに安堵と高揚が混じった表情になる。

3人も、船の上で飛び跳ねると嬉しそうに笑い合った。

その弾みで、ガタガタと大きく揺れる船。


慌ててオールを握り直して漕ぎ始める環。



「よ、喜ぶのは後にしましょうか!」


「そーねっ!こ、このまま沈んだら意味ないわ!」


「お風呂、入りたい…」





月が海へと沈んでいく。

もうすぐ夜が明ける。





無事に、村に帰ってくることが出来た。




「おおー!勇者殿ー!!」



漁港にずっと座り続け、帰りを待っていた村長。

ボロボロの船が視界に入ると目を真っ赤にさせて叫んだ。

涙を流して喜びを爆発させ、精一杯両手を振り回す。



その様子をみた3人は肩を竦めて楽しそうに笑った。




碇を巻き付け、船を停泊させる。

大急ぎで駆け寄り、3人を心配そうに見つめて問い掛ける村長。



「あ、あのモンスターは?」



「ご安心下さい。討伐してきましたわ」



「良かったぁ。これで皆、安心して眠れるわぁ」

「…戻って来れなかった奴の分も、頑張らねえとなぁ」



心の底から出た本音。

村長の言葉に、3人は何も言えず苦しい雰囲気が広がる。

環が口を出そうとした瞬間、晴れやかな笑みをこちらに向ける村長。



「勇者殿も無事に帰って来た事だぁ!まずはゆっくり、休んで下せえ!」

「離れに小屋、用意してあるでなぁ」




村長は、中心部から少し外れた場所にある小屋を指差す。

その小屋を見て、思わず戸惑ってしまう3人。




「えっ?あの小屋、あたし達が使って良いの?」


「当たり前ですとも!寝るくらいしか出来ねぇけどな」



「…セーブポイント、ゲット」



澄香と村長が会話をする最中、後ろで留奈が小さくガッツポーズをし密かに喜んでいた。

割って入るように、環は感謝を述べる。



「ありがとうございます!使わせて頂きますわ!」


「おー!明日は宴会するから楽しみにしといてなぁ」

「じゃあ、オラもそろそろ寝るんでな」



声を弾ませて言い放つと、村長はふらふらとした足取りで小屋へと帰っていく。



「…あの人、ずっと起きててくれたのかしら」


「そうねぇ。優しい人だもの、きっとそうだわぁ」


「わたし達も、早く帰ろ」



「ええ、ゆっくり休みましょうか?」



日の出と共に、小屋に向かう3人。

環の刻印が、朝日のように光輝いていた。




だが、誰も気付いていなかった。

環の右腕が折れている事に。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ