第14話 宝石加工
田峯壮馬:女神から「命の実」を託された、スキル?「城郭知識」
アグレアス:地2水2火2風2、スキル「知識(命の実とリンク)」、得物は鞭(鞭技)
マルファス:地5水0火0風0、スキル「土木工事」「土人形創造II」「遠隔活動」、得物はモーニングスター
スライムのビフロン:地1水2火1風2、スキル「陽光召喚」、得物はサック
インプのロレイ:地0水1火0風1、スキル「遠隔活動」、得物は弓(弓技)
「ん……ぐはっ……」
騎士風の男は口から大量の血を吐き出し、立派な口髭を真っ赤に染め上げた。
しばらく体をぴくぴくと痙攣させていたが、それもすぐに収まっていく。
すると、まず先に胸に矢を受けて絶命していた魔法使いの女性の方から黒い霧となって漂い始める。
ある程度霧になって体が崩れると、騎士風の男の体からも黒い霧が漂い始めた。
ただ、魔術師の方の霧を吸収した段階で命の実の色は漆黒のような色になってしまい、それ以上の霧を吸わなくなってしまったのだった。
「これ以上霧が吸えないみたいだな。残った霧ってどうなっちゃうんだろう?」
ふわふわと漂う霧を指差し、アグレアスにたずねた。
すると、アグレアスは手にしていた鞭を消し、腕を組んで黒い霧を眺めた。
「このままですと、そのうち消えてしまいますでしょうね……」
視線の先にビフロンが映ると、アグレアスはパンと手を叩いた。
「そうですわ。ビフロン、あなたレベルが上がって宝石加工スキルを覚えてらっしゃるじゃありませんか。あなたこれをどうにかできませんの?」
そうアグレアスが指摘すると、マルファスがビフロンを見て、本当だと驚いた顔をする。
「そうですねぇ。覚えたてですからぁ、どうなるかわかりませんよぅ。そもそもぉ、宝石があるかどうか。壮馬様ぁ。この二人のぉ、お財布をぉ、確認してはもらえませんかぁ?」
ビフロンが言い終わる前に、アグレアスは騎士風の男の、マルファスは魔術師の服をまさぐり、財布と思しき革袋をビフロンの頭上に放り投げた。
二つの革袋がビフロンのゼリー状の体を押し潰す。
ビフロンのこの喋り方に苛々したのだろうが、ちょっと君たち酷くないか?
若干ダメージが入ったらしく、命の実から少しだけビフロンに黒い霧が飛び、その分だけ黒い霧が吸いこまれるのが見えた。
……何をやってるんだ、お前らは。
頭……なのかどうかはわからないが、体の一部をさすりながら、ビフロンは体の一部を伸ばし器用に革袋の紐を開けていく。
先に魔術師の方を開ける。いくつかの宝石とそこそこのお金が入っていたが、どうやらハズレだったようで、今度は騎士風の男の革袋を開ける。中身は同様にいくつかの宝石とそれなりの量のお金。残念ながらこちらもハズレらしい。
「ううん、ありませんねぇ。そういえばぁ、前回の黄色い奴はぁ、ちょっとアレでしたけどぉ、草色のやつもぉ、宝石って持ってましたよねぇ? あれをぉ、見せてもらえませんかぁ?」
そう言うとビフロンは、ちょんと俺の肩に飛び乗った。
そのビフロンの行動に、アグレアスとマルファスが同時に眉をひそめてイラっとした顔をしたが、とりあえず今は見なかった事にしておこう。
アグレアスの行李の中から草色の鎧の衛兵の革袋を渡す。するとビフロンはあれも違う、これも違うと宝石を別けていく。
「あっ! ありましたぁ! これですぅ。えっとぉ、壮馬様ぁ、命の実をぉ、もっとぉ、近くでぇ、見せてください!」
ビフロンの喋りを聞いていると、どうにも時間の流れが緩やかに感じる。
そして……実に苛々する。
命の実を机の上に乗せると、ビフロンは命の実の回りをうねうねと回り始めた。
その行動は何かしらの宗教儀式のようにすら感じる。
ふと見ると窓の外からアグレアスとマルファスがこちらを覗いているのが見える。恐らくはビフロンの喋りは聴きたくないが、やる事には興味があるといったところだろうか。
「これはぁ、難解な術式ですねぇ。これを真似るのはぁ、不可能ですぅ。でもぉ、簡易ならぁ、今のあたしでもぉ、いけるかもぉ? ちょっとぉ、やってみますねぇ」
ビフロンが喋っている間、外からは壁を引掻くカリカリという音がが聴こえ、喋り終わった段階でダンという壁を蹴る音が聞こえた。
その音に思わずびくりとしてしまうが、ビフロンは全く動じず袋の中にあったレモン色の宝石を机の上に置いた。
むにゃむにゃと何やら呪文を唱える。
レモン色の宝石が一瞬ピカッと輝き、不思議な文字のようなものが石の周囲を列をなして回る。文字のようなものは高速で回転を始め、一文字づつ宝石の中に吸い込まれて行く。
全ての文字が吸い込まれると石が少しだけ黒ずんだ。
「成功ですぅ! これでぇ、少しの間ならぁ、黒い霧をぉ、ここに閉じ込めておけるはずですぅ。徐々にぃ、蒸発するようにぃ、抜けていきますけどぉ、命の石に取り込まれるでしょうからぁ、簡易的な物と考えてもらえればぁ、良いかなってぇ」
ビフロンに渡されたレモン色の石を手に取ると、窓から黒い霧が集まって来る。徐々に石は黒さと赤さを増して行き、ついには漆黒に輝く。
「凄いじゃん、ビフロン! これ、命の実の予備タンクみたいなもんだよね。もしこの宝石を持ってる奴が来たら、またよろしくね!」
ビフロンは机の上でぴょんぴょん跳ねて喜びを体現している。頭?と思しき所を撫でてあげると、少し桃色に体色を変更させてぷるぷると震える。
なんかとっても必死に見えて実に可愛い。
後背から何とも言えない尖った視線を感じるが、今はあまり気にしないでおこう。
そこでふとある事に気付いた。
慌てて櫓から飛び出し広場を見る。
「なあ、ロレイは? あいつ、どこ行ったの? というか、いつからいないんだ?」
畑の方を見に行くのだが、やはりいない。
明らかに焦っている俺とは対照的に、アグレアスもマルファスも、そういえば先ほどから姿が見えませんねえと呑気に言っている。
「いやいや、お前ら何でそんな平静でいられるんだよ! 来た早々に姿を消すとか、そんな寂しい話はないだろうよ。俺たちは家族だろ。あいつだって、来たばっかりだけど新しい家族だろ。もう少しお前らも心配しろよ!」
アグレアスとマルファスがきょとんとした顔をする。
その後で二人とも少しだけ瞳を潤ませた。
「その、壮馬様がわたくしたちをそのように思ってくださっていただなんて。わたくし、感激ですわ。その一言だけで、わたくしたちは壮馬様とこの城を、命に代えても守り通そうって気になりましたわ」
瞳をとろんとさせて、アグレアスは俺の手を取り身を寄せて来た。
マルファスは無言で背中から抱き着いてきた。
いや、そうでなく、ロレイの事をだなあ……
すると、虎口の方からグァグァという鳥の鳴き声と共に、まるで遊びに行っていた子供が家に帰って来たかのように、何事もなかったかのようにロレイは帰って来た。
手には足を縄で縛った鴨を五羽手にしている。どうやら鴨は生きているらしく、時折羽をパタパタとさせる。
「……鴨」
鴨を持つ手を伸ばし、無邪気に言うロレイ。
アグレアスとマルファスを振り払い、ロレイに向かってつかつかと歩いていく。
俺が怒っているという事だけは表情からロレイにもわかったのだろう。だが、その理由がわからず困惑した顔をする。
「黙って外に行くんじゃないよ! 外には俺たちを討伐しようとする冒険者がうろうろしてるんだぞ! 何かあったらどうするんだよ!」
それを聞くとロレイは大きな瞳に涙を湛え、膝を折り両手で顔を隠してわんわんと泣き出してしまった。
「これからは、外に行く時はちゃんと言ってから出かけるんだぞ。じゃないとみんな心配しちゃうから」
しゃがんでロレイの肩をぽんぽんと叩くと、ロレイはこくこくと泣きながら頷いたのだった。
よろしければ、下の☆で応援いただけると嬉しいです。




