第13話 二人の侵略者
田峯壮馬:女神から「命の実」を託された、スキル?「城郭知識」
アグレアス:地2水2火2風2、スキル「知識(命の実とリンク)」、得物は鞭(鞭技)
マルファス:地5水0火0風0、スキル「土木工事」「土人形創造II」「遠隔活動」、得物はモーニングスター
スライムのビフロン:地1水2火1風2、スキル「陽光召喚」、得物はサック
インプのロレイ:畑荒らし
ちょうど空いているビフロンの部屋のベッドに、気絶しているインプのロレイを寝かせた。
気絶しているだけだから、放っておけばそのうち目覚めるとアグレアスは言うのだが、先ほどの怪我がどうにも気になる。
余計な怪我をして壮馬様に負担をかけやがってとマルファスが悪態をつく。
それはつまるところ、命の実にはアグレアスたちの怪我を癒す能力があるという事になるのだろう。だとすれば、強敵が現れた場合、回復に命の実の煙が吸われてしまい枯渇という可能性があるという事になる。
以前、新たな仲間を呼ぶのをアグレアスは必死に止めていたが、そういう可能性があると言いたかったのかもしれない。
「ん……うぅん……」
その吸い込まれそうなくらい大きな黒い目をインプは開いた。
片目を閉じ、不釣り合いに細長い指を瞼に当てる。どうやら外から入る光が眩しいらしい。
「どうやらぁ、起きたみたいですねぇ。ロレイ、こちらが壮馬様ですぅ。死にぞこないのあなたをぉ、助けてくれたんですよぉ」
インプの枕元でビフロンはそう語り掛けた。
その間ロレイは細長い指をプルプル震わせ、額に筋を一本浮き立たせた。どうやらビフロンの喋り方に苛々してしまったらしい。
半身を上げるとロレイは俺に向かってぺこりと頭を下げた。
「お助けいただき本当にありがとうございました。私、ロレイと言います……」
……。
……続きは?
まだ何か話すのかと思って待っていたのだが、ロレイはそこで会話を止めてしまった。
もっとその、あれができます、これができますって、こう色々あるんじゃないの?
「あっ、ロレイ起きてるじゃん! なあ、ロレイ、後でで良いからさ、お肉になりそうな動物を連れて来てよ。牧場作るからさ。あと、とうぶんの食料もついでに狩ってきてよね。よろしくね!」
ロレイの様子を覗きに来たマルファスが、それだけを言って出て行ってしまった。
というかロレイは先ほどまで怪我で倒れていたんだぞ。そんなのを相手に、焼きそばパン買ってこいみたいなノリで言うかね、普通。
どこのヤンキーだよ。
「では、私、行ってきますね……」
そう言うと、ロレイはベッドを抜けて部屋から出ようとした。
そんなロレイの肩を押さえる。
「いや、ちょっと待てって。その前に俺、君に聞きたい事があるんだよ。アグレアスに飲み物を用意してもらうから、ちょっと話を聞かせてもらえないかな?」
ロレイは無言でコクっと頷いた。
アグレアスにお茶の準備をしてもらうと、怪我の件を詳しく話すようにお願いした。
なぜそんな事が聞きたいのかとアグレアスが不思議そうな顔をする。
「前回ビフロンが来た時に、ビフロンを襲ったとかいう奴、そいつが侵略者だっただろ? だからもしかしたらロレイを襲った奴も次の侵略者なんじゃないかって思ってね。情報がわかれば、対処もしやすいかもしれないじゃん」
なるほどと最初に納得したのはアグレアスではなくマルファスだった。
さすが壮馬様なんて言っておべっかを言ってきやがった。
今さら取り繕っても、さっきのヤンキーみたいな言動は取消にはならないからな。
「襲って来たのは二人……騎士と魔術師……」
……。
……続きは?
そう思ったのは俺だけじゃないようで、アグレアスは口元をひくつかせながら、額に青筋を立てて何かを懸命に我慢している。
マルファスも両目を閉じて、唇を噛んで顔を小刻みに震わせている。
「ねえぇ、ロレイぃ。それだけだとぅ、壮馬様がぁ、情報が少なくてぇ、困っちゃうじゃないのぉ。もっとぉ、他に無いのぉ?」
おい、ビフロンよ! もうアグレアスとマルファスは限界寸前なのだから、お前は口を開くんじゃないよ!
「ああ、もう! どいつもこいつも、ちゃんと喋る事はできないんですの? はあ、イライラする! ……ん? どなたかいらしゃったみたいですわね」
アグレアスが口に人差し指を当てて、窓から外を覗く。
その隣で俺も同様に外を覗く。
見ると、広場ではすでに土人形のソロちゃんが槍を構えて侵入者を警戒していた。
侵入者は二人。
一人は騎士風の男でピンクの金属鎧を身に付けている。鎧からはみ出す肉体は筋肉隆々。紺色の立派な口髭を蓄え、赤いマントを羽織っている。兜には刈り上げた髪の毛のように毛があしらわれている。
もう一人は魔術師風の女性で、白いローブに黄色いコートを羽織っている。金髪で丸い眼鏡をかけている。
「ほう、ゴーレムか! ゴーレムごとき、ワシの敵では無いわ!」
騎士風の男は剣を引き抜くと、腰を少し落として気合を入れた。
剣を構えて、ソロちゃんの槍をすんでで避け、懐に飛び込んでいく。
「剣技! 岩石割り!」
騎士風の男の振った剣が一瞬見えなかった。
だが、次の瞬間、ソロちゃんの体は三つに分断されていたのだった。
「やぁん! あたしのソロちゃんがぁぁ!」
そう言ってマルファスが飛び出して行った。
それにアグレアスが焦って、あなただけでは無理と言って追いかけた。
さらにビフロンとロレイも続いた。
「女に、スライムに、インプ、さしずめそこのガキはゴーレムの操縦者といったところか。魔物とその仲間め、全員まとめてワシの剣の錆びにしてくれん!」
立派な口髭を上下させて騎士風の男はニヤニヤと笑みを向けている。
アグレアスは鞭を、ビフロンはサックを、ロレイは弓矢を構えている。
マルファスは、ソロちゃんと叫びながら崩れた土人形の前に跪いている。
「マルファス! さっさとそれを直しなさいな。ビフロンはロレイと魔術師を!」
言うが早いか、アグレアスは鞭を騎士風の男に走らせる。
まるで槍のように鞭の先が騎士風の男の防具の薄い所に突き刺さる。
「舞い踊れ! 癒しの風!」
魔術師が鉄笛を吹くと、騎士風の男の傷を瞬時に塞いでしまった。
騎士風の男が踏み込んでアグレアスを横薙ぎにしようとする。
だがそれをアグレアスは上体を反らして避ける。剣はアグレアスの腹部の服を切り割いただけで終わった。
「女! やるではないか!」
そう言って立派な髭を上下させた騎士風の男を、アグレアスは鼻で笑った。
「ずいぶんと余裕な態度をしてらっしゃいますけれど、後ろをご確認なられた方がよろしいのではありませんこと?」
何の事だと言って騎士風の男が後ろを振り返ると、相方の魔術師は口と鼻をビフロンに塞がれ、助けが呼べず、鉄笛をぶんぶんと振ってもがいている。
呼吸ができず、顔色が真っ赤である。
騎士風の男が剣を手に魔術師に駆け寄ろうとしたまさにその時であった。
騎士風の男の兜の横を何かが追い越して、魔術師に向かって飛んで行く。
飛んで行ったものはロレイの矢。矢は正確に魔術師の胸を射抜き、息ができず朦朧としていた魔術師は、その白いローブを赤く染めて絶命。
「き、きさまらぁぁ!!」
そう叫んで振り向いた騎士風の男の右腕をロレイの矢が貫いた。
だが騎士風の男は全く怯まない。左手に剣を持ち換え、なおも戦おうとする。アグレアスに向けて駆けよって来て、手にした剣を突き入れようとした。
ところが、その踏み込んだ足に鞭を絡められて、横倒しにすっころんだ。
それでも騎士風の男は諦めずに起き上がろうとする。
だが、修理が終わったマルファスのソロちゃんの槍が正確に喉元を貫いたのだった。
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