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【完結】あの山にダンジョンを築城しよう! ~命の実を守るために俺だけの城に引き篭もってやる~  作者: 敷知遠江守
第三章 防衛

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第12話 インプのロレイ

田峯壮馬:女神から「命の実」を託された、スキル?「城郭知識」

アグレアス:地2水2火2風2、スキル「知識(命の実とリンク)」、得物は鞭(鞭技)

マルファス:地5水0火0風0、スキル「土木工事」「土人形創造IIソロちゃん」「遠隔活動」、得物はモーニングスター

スライムのビフロン:地1水2火1風2、スキル「陽光召喚」、得物はサック

 黄色の鎧の騎士から黒い煙がたちこめ、鎧と盾を残して中の人物だけが砂のように黒い煙に変わっていく。

黒い煙はふわふわと漂い、こちらに向かって飛んできて、最後の粒子一粒に至るまで、綺麗に命の実に吸われた。

命の実は気が付けば吸い込まれそうなほど黒々とし、まるで周囲の光までも吸い込みそうな黒さとなっている。


「わぁい! ソロちゃん強い! ソロちゃん格好良い! さっすがあたしのソロちゃん!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ね、マルファスは無邪気に俺とアグレアスに嬉しそうな顔を向けて来た。

 俺の腕を抱えて、「見ていてくれましたか?」と言って外を指差す。

 凄かったよと言って頭を撫でると、マルファスは目をきゅっと閉じて全身を少しふるわせて喜んだ。


 こいつは何を持っていたのだろうかと確認に行ったのだが、宝石もお金もろくに持っておらず、高価そうな燭台を持っていただけ。


 気持ちはわからないでもないが、マルファスよ、人を『ハズレ』呼ばわりするのはどうかと思うぞ。



 黄色の鎧の騎士の襲撃があった翌日、スライムのビフロンのレベルが三に上がり農業知識スキルを覚えた。


 何で侵略者を倒したマルファスではなくビフロンのレベルが上がったのだろう?

 その素朴な疑問に、ぬめぬめとしたスライムのビフロンをマルファスは大きな瞳を細めてキッと睨みつけた。


「ビフロンはずるいんです! あたしなんてこんなに頑張って建物を作ってやっとレベルが上がるというに、そいつはあの光の玉を打ち上げているだけでレベルがあがるんですよ!」


 そう言ってマルファスは可愛い拳をビフロンに向けて繰り出す素振りをする。

 そんなマルファスを見てアグレアスが口元を隠してくすくすと笑った。


 そんなマルファスの子供っぽい苦情は置いておいて、それよりも畑だ。

 当然畑なのですぐに何かが食べられるわけでは無いが、成長すれば色々と食べられるようになる。

 つまりは、これでやっと非常食生活から脱出できる。


 とは言え、水が制御できない現状で畑などができるのだろうか?


「水撒きでございますか? それでしたら、ビフロンがわたしくと同程度の水魔法が操れますから、ご心配には及びませんわ」


 アグレアスがクスクス笑いながらいつもの麗しい顔でそう言ってのけた。


 一日中光魔法を持続させているビフロンに、さらに畑の水やりをやれとかブラック上司かよ……



 元々アグレアスは前の小屋の隣で見様見真似で畑を作って細々と生活していた。その頃の穀物が残っているらしい。

 小麦、大麦、ライ麦、大豆、蕎麦、唐黍、胡麻。

 全て元は山の中で野垂れ死んだ者が持っていた遺品なのだそうだ。


 多聞櫓から出て向かって左の壁、最初に部屋を作っていた場所を奥にぶち抜いてもらい、今いる場所からは一段下げて、奥に長い畑を作ってもらった。

 畑の横には土手のように通路を作り、通路と畑は土塀で仕切ってもらった。


 その段階でマルファスは限界を迎え、そこからはアグレアスとビフロンの出番。

 ビフロンとマルファスが呪文を唱えて、かっちかちの地面を軟らかく耕し、そこに麦や豆を蒔いていき、さらに水魔法を唱えて水撒きをしていく。

 きゃっきゃと言いながら水撒きをしているアグレアスの姿は、まるで水彩画のように美しい絵であった。


 なんにしてもこれで曲輪は二つ。まだまだ城というより砦だが、着実に大きくなっている。



 そこから幾日か、洞窟は平和であった。

 目が覚めたら見ず知らずの女の子が横で寝ているという事も無いし、襲撃者が襲ってくる事も無かった。ただただ朝からアグレアスとマルファス、ビフロンと面白楽しく過ごしただけであった。

 命の実はこの世界にやってきた時以上に黒さを強めており、しばらくは何の心配も無い。


 だが、そんな平穏がいつまでも続くわけが無いというのは、俺だけじゃなくアグレアスたちも感じていたらしい。

 朝の食卓でそろそろ何か起きそうと三人で言い合っていた。


 洞窟の入口から堀にかかる橋までは緩い下り坂になっていて、橋の手前に一段段差がある。その手前に少し溝が掘られている。そのため、外で大雨が降ると流れ込んだ雨水は橋の手前で溝を伝って横に抜け堀に落ちる。

 数日前、雨が虎口まで入り込んでしまい、ぐちゃぐちゃにぬかるんだ事があった。その際にマルファスに命じてそのように修正してもらった。

 おかげで櫓から見て堀が濡れていると外は雨が降っているとわかるようになった。


 それと、あわよくばこの段差でつまづいて堀に落ちてくれたらという期待も実はある。


 どうやら外は昨晩から雨が降っているらしい。

 朝食後、アグレアスとそんな話をしていた。


 外がいくら雨が降っていても、外壁は湿るだけで洞窟内に雨が降るわけでは無いので、水魔法で畑の水撒きを欠かす事はできない。


 朝食後にいつものように水撒きに行ったビフロンだったのだが、すぐに体色を青くさせて慌てて戻って来た。


「大変ですぅ! 畑がぁ、モンスターにぃ、荒らされていますぅ!」


 相変わらず喋りはゆっくりだったが、ビフロンにしてはかなり早口である。


 アグレアス、マルファスと顔を見合わせ、急いで畑へと向かった。


 ビフロンは畑が荒らされていると報告してきた。だが畑はまだ発芽した程度で荒らす余地など無いように思う。

 ではいったいビフロンは何を見たのだろうか?


 土塀に囲まれた畑に足を踏み入れると、そこにいたのは猿のようなモンスター。体毛は無く、肌の色は紫苑しおん色をしており、非常に血色が悪い。胸部と腰部に獣の皮を巻いている。特徴的なのは背中の蝙蝠のような羽。それと鞭のような形状の尻尾。

 確かインプとかいう名前のモンスターだったはず。


 インプは畑の隅で口元から牙をのぞかせてこちらを睨みつけている。

 よく見ると腕と脇腹、腿に大きく怪我をしており、そこから葡萄のような色をした液体が滴っている。


「壮馬様、早く命の実を! ここに入り込んだという事は、恐らくこの者は仲間になる者という事だと思われますわ!」


 アグレアスに促されるままに櫓に命の実を取りに向かった。


 この数日間、入口から動物が入ってくる事はあった。だが入ってすぐ、門に辿り着く前に引き返していった。

 どうやら動物たちには、この洞窟に何やら近寄りがたい気配を感じるらしい。

 実はゴブリンが巣に入って来た事もある。だが、広間を抜ける前にソロちゃんの槍の錆びになってしまった。


 あのインプがどうやって入り込んだのかはわからない。

 だが奥まで入って来れたという事は、普通のモンスターでは無いかもしれないという判断なのだろう。


「グギャ……グギギ……ぃやっ……あっ……」


 命の実から黒い細い光がインプに向かって伸びて行く。

 不思議な事に、大きく切り裂かれていた傷口に黒い光がまとわりつき、徐々に塞いでいく。

 黒い光がどんどん細くなり、ぷつりと途切れると、インプはその場にうつ伏せに倒れてしまった。


 櫓へ運ぼうと言ってインプを抱き抱えると、アグレアスは口を尖らせてインプを睨みつけた。ふとマルファスを見ると、マルファスも羨ましそうな顔をしてインプを見ながら指を咥えている。

 その反応は何だろうと首を傾げていると、肩にビフロンが乗って小声で囁いた。


「あの二人ぃ、そのインプのロレイがぁ、壮馬様にぃ、お姫様抱っこされているのがぁ、羨ましいみたいですね」


 ……いやいや、お前ら、くだらない事で羨望しとる場合かよ!

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