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第99話 変則ヘッズアップ戦1

 バーンカードというのは、本来ただの捨て札とは違う。不正防止の意味のある行為だ。デックの一番上のカードは使わず2枚目からを使用する。一番上にあるプレイヤーから見える位置にあるカードが万が一傷や汚れていて、そのカードが何か予想できる状態のままチップを賭けるなんて事態を防ぐためにする。フロップ、ターン、リバーとバーンカードは3回行われ、ディーラーはチップの下に伏せたままカードを差し込み不正を未然に防ぐ。

 リバーをバーンカードにすればいいとは本来3枚のバーンカードにリバー自体を4枚目として加えたらどうだという話だ。つまりリバーのバーンカードとリバーで2枚。リバーのカードは闇に葬られる。リバーで能力を発揮するならリバーをバーンカードすればいいとはこういう事だ。元々不正対策なのだ。違和感は少ない。これには一つだけ問題がある。どうしようもない問題だ。だけど。


「次だっ、次」


 その問題を指摘するほど野暮なことはないだろう。グレイソンが笑顔で負ける。たまに勝ったりするが、負けることに徐々に天秤が傾いていく。グレイソンとアレクがスキルなしでヘッズアップをする。アレクが勝つ度青天井にレートが引き上げられていく、1000ライル、1万ライル、10万ライル……そして総額100万ライルのチップを賭けた勝負へと。勝っていくアレクの方が何故か顔が青ざめていく。経験値100倍なしのルールで良かったな、急にレートを上げて、財産を賭けるなんて勝負はまともな精神状態ではできない。その場合はもちろんティルトである場合が多いだろう。ただ今回が違うのは徐々に引き上げられている点と負けている側が憤然としてティルトしているのではなく、分かってやっているということだ。むしろ負け続けて、まともな精神状態でもなお、レートを上げていくという事態が異常なのだ。


「なーに、そんな簡単なことも分からないのか? カモから奪うんだよ。金持っている負けたがりからな」


 酒宴の席でグレイソンが言った、大祓のメインイベントに出るための方策、それが今ここで展開されていた。


「次は嬢ちゃん、やろうぜ」


 勝ちすぎてグロッキーになったアレクを放置し、グレイソンがステラをまずは1000ライルの慣らしの勝負に誘う。


「わかった。でも、ヘッズアップってどういうハンドで参加すべきなのか少し分からない」


 どうって……。


 グレイソンと眼が合い。どちらからともなく口を開いた。


「「Jを持っていたら参加するかな」……だな」

「気合いと負けん気……今の俺がいうのも可笑しいが」

「あとは精神論かな」

「まあやってみりゃ分かる、とりあえずやろうぜ」

「そうだな習うより慣れろだ」


 1000ライルのステラとグレイソンの勝負が始まる。


「フラッシュなんて手はいらないから苦手かもしれないけど」

「ヘッズアップでそれ狙いなんてのも面白いんじゃねーか」

「とどめを刺す時にか」

「まあめくらせる自体にはそうそうならないけどな」


 そうなのだ。ヘッズアップはチップを使った殴り合い。リバーではないリバーの先を俺たちはランドととりあえず呼ぶことにしたが、フラッシュになりそうな場合は5枚目を気軽にめくらせてもらえるものでもない。そこにたどり着く前に2択を迫られることになる。乗るか反るか。殺るか殺られるか。チップを提示し、意思表示をし、そこには確かに攻防がある。目に見えない駆け引きだ。


 「俺はヘッズアップが一番好きでよ」とはグレイソンの話だ。飲みの席でテキサスホールデムで一番好きな瞬間の話になった。レガリスは女性と勝負している瞬間ならいつでも素敵さと話し、ステラはフラッシュが完成する瞬間のカードがめくられるのが特に好きと言った。アレクはファイナルテーブルに残って選ばれた感じがするのが好きだと語った。そして俺は……インザマネーの瞬間。【バブル】がはじけた時が一番好きだった。入賞の瞬間と言い換えてもいい。【バブル】というのは入賞が決まる直前の状態で1人、また1人と賞金を手にすることなく敗退していく。あと○人敗退したら、参加費以上は手に入る、そんな緊迫した特殊な状況を泡がはじける前になぞられて【バブル】と呼ばれている。残っている人が全員賞金が手に入ることが確定した瞬間を【バブル】がはじけたとそういうのだ。どうしてグレイソンはヘッズアップが好きなんだ? と確かその場で聞いたことがある。


 帰ってきた言葉は「だってよ、それが1番会話をしているじゃねーか」だった。


 グレイソンが笑う。笑って会話をしている。


 ステラが貯金(バンク)を開いて戦慄していた。


「うし、じゃあやるか遊都。遊都は1万ライルからな」


 遊ぼうぜ。グレイソンの眼は雄大に感動を語っていた。

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