第79話 サバイバル戦7
会場の熱気にあてられたのかステラの民族調のフードがずり落ちる。きめ細やかな青髪が露わになる一方その涼しげな容姿は俺にこもった熱をも取り除いてくれる。
「レイズ120」
だがその声は上ずっていた。リンパーである彼女がそのスタイルを崩したのだ。これは言い変化か悪い変化か良くも悪くもそれはフラッシュ一辺倒であるという彼女のやり方を脱ぎ捨てたという意思表示に見えた。怜悧に見える蒼い眼はその無機質さを持って、整った人形かのような印象を受ける。そのレイズ額の真価は分からない。誰もが気づかない変化……だが俺は気づいた。俺だけが受け取ったメッセージ。「あなたはひとりではない」そうステラに優しく諭された気がした。鼓動が高鳴る。ステラによろけた姿勢を支えられるかのように俺も呼応しようと「コール」と宣言しそうになりハンドを思い出す。ハンドはダイヤのJとスペードの4だ。入るべきではない。そんなハンドだ。だが、入らなければならない。入らなければ負けると俺の中の経験則が必死で声高に悲鳴をあげる。あるのだ、理論とか期待値とかを超えた場面は。何かあるのか。ステラを思わず見る。ステラと見つめ合う。心拍の音だけが俺を締め付ける。ステラの眼は何かを懇願するかのように潤んでいる。あの期待するような眼はどこかで見た……あれはいつだったか。
「スクイーズプレイ?」
「そう、ステラがスクイーズプレイとかしてきてくれたら嬉しいな」
「うわ下ネタとかひく」
「え、遊都の為なら私。するどんなご奉仕でも」
「こら、ステラ男にそんなこと言わない、めっちゃくちゃにされるわよ」
「え、嬉しい」
やばいステラの眼が輝いてきた。
「ひくわ~」
俺は咳払いして説明しようとする。
「スクイーズってのはその搾り取るって意味があってな」
「うわーエロい。これだから男は……まあ遊都も溜まってるもんね、異世界だし、そういうことしようにもできないもんね」
「勝手に理解者側に回ろうとするな巴」
「遊都……」
がしっと肩をステラに握られる。
「……わかってる///」
「わかってねえわというか下ネタやないわ」
「えーでもスクイーズってあれでしょ搾り取るとかなんとかいう意味何かもの凄いアブノーマルな……うわエロそう」
「そこから離れろ」
「ともかくステラみたいにリンパーがいきなりスクイーズプレイなんかしてきたら何かあると思うものなんだ、少なくとも俺は怖くて参加しようとは思わない」
「で? 結局なんの話なの?」
「そこからかよ」
「今夜の話」
ステラの頬に朱がさす。
「まあ今夜には違いないが」
「私席を外すわ」
「いや待てスクイーズプレイできない」
「うわ最低っ、ステラという超可愛い美少女で飽き足らず私にも手を出そうなんて節操ないわ」
「変態……でもそんな遊都好き」
「だから、テキサスホールデムの話だっての!」
「レイズ180」
ステラが胸の前で手を抱えた。
「さあ勝負ですぜ、コール」
ステラの透き通る声が響く。
「レイズ240」
俺とステラの心が一つになる。ステラ……なんてやつだよお前は。大好きだよステラ。
「レイズ300」
「む、コール」
「レイズ360」
「レイズ420」
「ほう、こんなやり方があるのか」
「えーあー、シャーロット様どうしたら」
「プレイに口を挟めるわけないだろう」
シャーロットが愉快げに口の端を緩める。
困惑しつつもバロンはまだついてくる。
「コール……ですぜい」
「レイズ480」
「レイズ540」
終わりが近づく、このままだと俺とステラは互いに食い合うことになる。バロンが引かなければ、どっちかが引くしかない。
「コール……」
バロンが初めて狼狽を見せる。
「レイズ600」
「レイズ660」
もう限界だ1000を切った。俺の気持ちを悟ったのか。
こちらを見てはにかんだ。
ステラがバロンに宣言する。
「オールインです」
「ありがとうステラ……フォールド」
「ヘインツ、ザックよく見とけよ」
「そんな、シャーロット様ご無体な。ええ、ええわかりましたよ、わかりましたともオールインコール」
ステラがめくる。AKだ。強い。ステラらしくない色不揃い。そうかテキサスホールデムプレイヤーになったんだな、ステラも。能力に頼らない普通のテキサスホールデムプレイヤーに。異色。能力で有利にことを進め勝ち進むこの異世界テキサスホールデムでは異質に見えるだろう。
バロンはKと6だった。そりゃそうかハンド参加率が高すぎる。明らかに脅してチップを掠め取るプレイングをしていた。そういうプレイは正攻法に弱い。
フロップが開く。
ハートの2 クラブの4 スペードのK
ヒットした。勝率は8割を超えたか。
ターン
スペードの5
6かと思い一瞬ひやりとする。
リバー
ダイヤの2
ステラが勝った。勝ってくれた。
「よしっ」
ガッツポーズをとり思わず声が出る。
「バロン、落ちろ。いつものとおりに」
「いつもはここで勝っておりますが、いや、しかしあとはおまかせしました。ザック、ヘインツ見たな」
「まかされました人民統制」
13ハンド目が始まりアナスタシアが「レイズ290」を宣言した。バロンはアナスタシアに応える形でコールし差し込み、それがまるであらかじめ決められたかのように静かに敗退した。
「観戦に徹せよ」
「存じております」
それが不気味に思えた。
【12ハンド目 終了時点 ブラインドレベル3:30/60】
BTN …… バロン (1690→290)
SB …… 巴 (1175→1145)
BB …… ザック (1455→1395)
UTG …… ステラ (1400→3550)
MP1 …… ヘインツ (1640)
MP2 …… シャーロット (1440)
HJ …… アナスタシア (1600)
CO …… 遊都 (1600→940)
【13ハンド目 終了時点 ブラインドレベル3:30/60】
BTN …… 巴 (1145)
SB …… ザック (1395→1365)
BB …… ステラ (3550→3490)
UTG …… ヘインツ (1640)
MP1 …… シャーロット (1440)
MP2 …… アナスタシア (1600→1980)
HJ …… 遊都 (940)
CO …… バロン (290→0)
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サバイバル戦 8位 敗退 バロン
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