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第67話 感謝~違和感~

「あらあらまあまあ! こんなにも魔力草が!」

「大変だったのよ、命がけで」

「そうなのですか?」

「そうなのよ! エーテル溜まりにぶつかっちゃって魔物が次から次へと現れて切りがなかったわ」

「まあ! そんな状態でよく……」 


 脳天気な様相で出迎えてくれたのはマリアロスだ。自慢げな様子で巴が戦闘の様子などを話している。ステラはここにはいない。そんなに魔力草関連が苦手なのか。それとも魔力欠乏症の子どもと関わりたくないのか。少し不思議に思う。


「やはりこれもシージエ様のお導き! なるようになります……とは言え、ありがとうございました。これでシュイも大丈夫でしょう。大変だったみたいで、心苦しいのですが謝礼の方は……」

「いいんだ金の問題ではないんだ」


 我ながら乾いた笑いで返しているんだろうなと思う。


「それよりシュイに早く魔力草を煎じたお茶とやらを飲ませてやってくれ」

「わかりました。今から用意してきます。シュイの元に居てください。きっと喜びます」


 孤児院の奥の部屋に通され、シュイが安静している寝床にやってきた。静寂に包まれた空間でシュイの咳の音だけが響いていた。シュイは見るからに消衰していて、寝ようとしているのに咳がそれを妨げるかのように体が小刻みに震えていた。


「誰? マリアロスお姉ちゃん?」

「遊都だ……魔力草を取りに行っていたよ」


 咳を出しながら何事か言おうとしていたシュイを押しとどめる。落ち着かせてもう大丈夫だと伝えていると魔力草の茶を持ってマリアロスが巴と部屋へとやってきた。

「シュイ。これをお飲みなさい。遊都さんたちが死ぬ思いで採って来てくれたものですよ」


 シュイが両手で受け取るとゆっくりと飲み物を嚥下していく。シュイの緊張で強ばっていた腕が弛緩する。やがて、そのまま倒れるように動かなくなった。


「遊都……おにいちゃ……ありが……」

「寝たようです。大広間でお話ししましょう。その前に魔力草を保存しなくてはいけませんね」


 マリアロスがたくさん摘んでいた魔力草を丁寧に戸棚に収納している。その様子を眺めていた。たくさん採りすぎたのかな? その大量な魔力草を無心に移していたマリアロスが零す。


「また増えてきた……」


 緊迫感すら覚える形相で零した言葉にそれってどういう事だと思う。


「マリアロス……魔力草の群生地が魔物の発生地点になるって知っていたな」

「それは知りませんでした」


 しらじらしいと思う。


「魔力草の群生地の調査だけして採取しなかったのも知っていたからだろう(・・・・・・・・・・)


――違和感。


 マリアロスと眼が合った気がした。


 閉じられたような糸目のマリアロスが笑って言う。


「なるようになります」


 その時ちょうどタイミングを見計らったかのように孤児院の子どもたちが歓声とともにやってきた。おびただしい歓迎の言葉とシュイを救ってくれた感謝の言葉。遊んでとせがむものや。何がなにやらで泣き出す幼い子までいた。大歓声のなかもの凄く幸せそうに笑っている巴の姿が印象的だった。


 何か物語の当事者になってしまったかのような……うすら寒い。何か気持ち悪いものを抱えたような。歯に引っかかった何かがあるような沈んだ気持ちがあった。俺とは対照的に巴は太陽のように笑い。さんざめく幸せを振りまいていた。巴は満足気味だが、これで本当にいいのか。巴が俺に幸せのお裾分けをしようかのように笑いかけた。



「ね? 人から感謝されるって気持ちいいでしょ?」



 巴はこの問題は何も解決していないのをわかっていないのか? 魔力草は一時的に魔力欠乏症を和らげる。但し、一時的だ。しかも魔力草は強い魔物が発生するようなところにしか生えない。それは俺たちでは太刀打ちできない魔物の集団だ。それを了承して採りに行く? 俺はそこまで面倒を見れない。俺は物語の主役ではない。

 剣と魔法でずばっと敵を倒してはい終わりではないのだ。この場に居ないステラを羨ましくすら思った。だったら魔力草を採れるようにする? どうやって? 俺たちがいなくなったあと、またそう遠くない日にギルドのクエストに貼られるのだろう……そして受けたやつは恐らく死ぬ。


 脳天気な巴の笑い声が孤児院に響いた。


 命を賭けた見返りが子どもの笑顔? 俺は何をやっているんだ。釈然としないまま孤児院を後にした。マリアロスのお見送りも何か気持ち悪いものを見たような気持ちにさせられ俺は沈んだ思いをしていた。ステラが大丈夫? と問いかけるような慈愛を持った眼でみてくる。



 ……気分を変えたい。



「そういえばテキサスホールデムするんでしょ? グレイソンと約束したもんね」



 いつになく上機嫌な巴に誘われるまま、俺たちはグレイソンと約束していたギルドに向かっていた。

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