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第66話 依頼

「ルタ!」


 二対の剣を見て遊都たちが叫んでいた。


「そいつは違ぇな!」


 俺は着地と同時に砂塵を巻き上げる。


「グレイソン・コートだ。恩に着ろよ遊都」


 砂埃で遊都らの姿は見えないが激戦のあとだけは見てとれる。力を抜かねえ方がいいなあ、これは。


奇跡の押売(シャークバイト)


 右手から燐光が溢れた。その仄な光を見てこのスキルを戦闘で使うのはいつぶりだと思う。


 俺のユニークスキル奇跡の押売(シャークバイト)は貸しを作った相手からスキルを拝借できる。まったく貸し借りが死ぬほど嫌いだった俺に、こんなユニークスキルが発生するなんてクソッタレだぜ。俺がこの世界に来た日。海中で俺は、昔俺の命を救ってくれた恩人を海面に蹴り上げ、代わりに深く沈み死んだ……死ぬはずだった。これであの時助けて貰った貸し借り0だぜと思ったら、魔法陣が俺の周囲に発生してやがって気がついたらこの世界にいた。


勇猛たる闘志の炎(バーニング・ブレイズ)で力を

颯爽たる初志の風(エアロ・ブレイズ)で早さを

断固たる大志の土(アース・ブレイズ)で堅さを

無形たる恣志の水(アクア・ブレイズ)で柔軟さを 


「複合スキル四大色の息吹(クワトロ・ブレイズ)!」


 身体が精神が万能感に包まれる。


「念には念を入れないとな。来いっ二対一体の双子剣(ドッペルゲンガー)


 霧散してオークのドロップ品の傍らに突き立っていた二対の剣が俺の手元に戻ってくる。


「穿て」


 不要な剣の片割れを投擲する。遠くに居た親玉らしいオーガが爆散した。死んだオーガを弔うかのように、濃いエーテルがオーガを覆う。更に強い魔物を産み出そうかとしているようだ。奥でエーテルが靄を作るのを見て思う。そう、これで終わりな訳がない……。遊都たちは大量の雑魚と遊んでいて逆に助かったな。


 一つ目の巨人サイクロプスとマンティコアがエーテルから何体も実体化する。咆哮も威嚇もしない淡々と凱旋するかのように現れてくる魔物の集団は、さも自分が勝者であるかのような驕りを見せつけていた。


「あれは、敵ではない……が。先は危ういな。お前達に特異なスキルはあるか? フードっ娘はいい。フードっ娘ができることは俺にもできる」


 剣を左手に持ち替え、右手で空中につららを無数

に発生させる。手を振り魔力に指向性を与えるとオオカミやオーク、ゴブリン、スライムが次々と氷で串刺しにしていく、消える間もなく貫いたそばから氷像にしていく。侵攻に対するちょっとした時間稼ぎにはなるだろう。


 フードっ娘が愕然としてアイデンティティを奪われたかのような眼で俺を見てくる。すまねえが現地人に用はねえのよ。


 嬢ちゃんが剣をこちらに向け先端に火を灯す。


「私は感情を炎にできるわ。強い怒りや不安、感情の振れ幅が強くする」


 なるほど。巴のスキルはテキサスホールデムで使えそうだと思い首を振る。今はそんな場合じゃねえ。


「俺は銀色の空を見て異変に気づけたんだが、あれはどっちのスキルだ?」


 とりあえず立地の属性も変えておくか。俺は雨雲を呼んでおいた。


「俺のスキルだ。積んだ金がそのまま攻撃力になる。ただ燃費が悪い。さっきのは俺たちの全財産30000ライルをつぎ……」

「なんだ、それっぽっちか」


 やべっ……。思わず本音が漏れちまった。

 咳払いをした。

 金が力ねえ……。なら何が来ても大丈夫かもな。


 しかし、遊都と巴を見て思う。


 金と感情――この命題は――


 まるでテキサスホールデムをやるために生まれてきたようなもんだな。


「そうか……金と感情か……」


 雨が降り出す。天気がうなり声をあげる。


「今からあいつらを殲滅させてくる」

「単身で?」

「そんなの無茶よ」

「俺を誰だと思っている? グレイソン・コートだ」


 俺のエーテルの圧が加勢しようとしていた小童どもの腰を引けさせる。よしよしそれでいい。雷を掲げたルタの剣で受けとめる。


「俺が雷で合図したら全部使ってぶっぱなせ。足りるはずだ」


送金(トランスファー)したら目を白黒させて驚いてやがる、可愛いなこいつら。さあ、狩ろう。剣を構え。踏み込む。1歩2歩、3歩で敵集団のど真ん中に躍り出る。横薙で払う。遮る物はない。雷が全てを駆け抜けていく。30程瞬殺していくとエーテルが1カ所に集まる。あれがここ一帯の全部だろう。雷雲に届くかのようなエーテルの靄が凝縮されてくる。



 へえ、タフなのを用意しやがった。なんつったかヒドラのもっと頭の生えたやつ、日本の神話でファンタジーに出てくるやつ。そう、思い出した八岐大蛇(やまたのおろち)だ。こいつは実体化した瞬間を狙うしかねえ。俺はどうにでもなるにしても遊都たちを庇いながらなんてまっぴらごめんだ。実体化した八岐大蛇の首3本落とす、八岐大蛇の実体化が完了する。さっき落とした首はもう復活してやがる。俺は合図の雷を剣に飛来させる。撃て。俺ごと撃て。なーに。遊都、お前が振り下ろす腕より俺は早い。それだけのことよ。


 銀色に世界が塗り変わる中。


――俺は安全圏へと離脱した。



「よう、上手くいったな」


座りこんだ遊都たちに声をかける。


「で、なんでお前はいつも死にそうになってんだ? 地球人はチート持ち……だろう?」


 反論の声が聞こえない。完全に脱力している。精神的な疲労が今来ているようだった。


「まあこの状況俺以外のやつなら死ぬか」


 俺は自分で納得した。俺に息も絶え絶えな遊都たちがお礼を言う。


「俺の方も俺の方で助かったからな。依頼が思ったより早く片付いた。地球人がたまにいなくなるので調査していたんだが、そうかエーテル溜まりか。俺の目的は達成した……お前らあれが目的だろう。摘んでけ。魔物が出たら追い払ってやるからよ」


 俺が魔力草を指さすと、巴が魔力草を摘みに走っていった。


「魔力草の採取を依頼したのは、どいつだ」

「マリアロス・シージエ。ヴェルトムンド孤児院のシスターだ」

「ふーんそいつが何か知っているか。まあそれは俺の仕事ではないか……仕事と言えば。そういや王家御都番(おうけごとばん)に報告しなくちゃならねーんだった。めんどくせーな」

「王家御都番?」 

「ああそれは。簡単に言うとテキサスホールデムの元締めだよ。まあここであったのも何かの縁だ。どうだ、今晩? 再開を祝してテキサスホールデムするか?」

「したいのは山々なんだけど」


 悔しそうな顔をして遊都が俯く。


「でも、金がねえよ」


 ああ。そうか。こいつらは無一文になった訳だ。これは応えるな。50000ライルぽっちでいいか送金(トランスファー)


「俺の依頼を解決した駄賃だ。とっとけ」

「こんなにもらうなんて」

「なら貸し一つだ、覚えとけよ」


 俺は遊都に笑いかけた。        


:::::::::::::::::::::::::



「……と言うわけだ。エーテル溜まりに大量の魔物が湧く。そこは魔力草の群生地となっていて、時折依頼を受けた地球人が死んでたんじゃねーのか、今回はスロア教は関係ねえ」


 相変わらず良い革張りだなと沈み込んだ椅子に深深と身を預ける。


 相対しているシャーロット・フォン・ミリオンゴッドの反応を窺う。こいつは王族であり王家御都番の長でもある。妙齢の甲冑に身を包んだ貴婦人――貴婦人といいつつバリバリの戦闘派だが、らしくない難しい顔で「マリアロスか……」と呟いている。


「黒なのか?」

「いや、白だ。染み一つない純白のな」

「なら、事件じゃなくて事故だ、良かったな仕事が増えなくて」

「事故でも仕事はあるのだが」

「それより見ろよシャーロット。スキルが二つ増えたんだ」

「またか、お前の収集癖はもはや病気だな……いやすまない国策だった。よし、私が直接見てみよう」

「金を直接攻撃力に変えるんだが、無制限でな。ん? 覚えていない」


 シャーロットが途端爆笑する。


「ぬかったな。グレイソンともあろうものが、それとも恩義を感じていなかっただけかもしれんぞ。どうだ?」

「そんなはずはねえんだけどな」


 鏡に映った俺は凄い高くついた買い物をしたような顔をしていた。気を取り直す。


「もう一つは戦闘面では役に立たないハズレだと思ったんだがな、テキサスホールデムではなかなか使い道が有用でだな」


 俺は敢えてエーテルを全て消して爪先に火を灯す。


「炎魔法か? ん? 今エーテル変化したか?」

「くはは、秘密だ」

「秘密ってお前しょっぴくぞ」

「これはなかなかに便利だ」


 俺は手の甲の上で手乗り龍を出す。トカゲサイズの龍は俺の手をくるくると這っている。


「グレイソンそれをどこで?」

「徳川巴……伏見遊都のパーティの女だよ」

「ふむ。覚えておこう」

「王族がたくらむなよ、怖いだろ」

「お前が言うなグレイソン」


 呆れた声でシャーロットが静かに呟く。


「前回の大祓のファイナリストよ」

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