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第65話 群生地

「遊都もわかってきたじゃない?」

「何をだよ?」


 横に並びながら歩いている巴がほくそ笑む。


「ん~? 人の心?」


 我ながら酷い顔をしていたのだろう。巴がまたそんな顔をするとか言ってくる。あーだこーだ話している間に、家と家の間に挟まれるように座っていたステラを見つけた。


「結局魔力欠乏症の子を助けることにした?」

「そうよ、人助けに目覚めたのよ、遊都は」

「目覚めてなんかない」

「助け合いをするのは確かに必要」


 意外とステラが同調した。


 でも、とステラは狩りの最中雪山で負傷した仲間を見捨てた話を淡々と語り出した。


「見捨てないといけない時は来る。どちらか1人しか助からないという状況では、1つの決断はもう1つの可能性を切り捨てること。私はその時、仲間を見殺しにしたわ。私は私を選んだ。巴はその判断を迫られた時どちらも選べずにあなたはともに死ぬ」


 お願い。ステラが真っ直ぐと巴を見る。


「遊都を巻き込むのはこれっきりにして」


 その時の氷像のようなステラの顔は忘れないだろう。



――荒野、俺たちは魔狼の集団に襲われていた。


「ステラ! 後ろっ! 屈んで! ステラ! あなた不味い状況になったら見捨てるんじゃなかったの?」

「うるさいっ」


 横に転がりながらステラの居た地点につららが地表から生え出す。モズのはやにえとかしたオブジェができあがり、魔狼が痙攣している。


「ねえ、遊都? 私臭い?」


オオカミに捕捉されているのが納得いかないのだろう、

またステラに飛んできて、噛みちぎろうとする魔狼をくぐるように屈んで躱すステラ。


 今度はステラの立ち回りをフォローし、500ライルを消費し、魔狼の首を落とす。


「消費される金が数字にしか思えなくなってきた」

「ん、テキサスホールデムプレイヤーとしては良い兆候」

「ちょっと無駄遣いしないでよ。今絶体絶命なんだからね」


 十数体の魔狼が俺たちを牽制するかのように一定距離を置きながら取り囲む。


……なんでこうなったのか。


 魔力草1本が原因だった。


 魔力草が取れるという荒野は本当に荒野で……要するに不毛地帯だった。草らしい草もほとんど見つからず。

岩の割れ目に生えていた草の中から魔力草を1本、数時間かけて見つけただけだった。


「これじゃ駄目だな」


 ようやく見つけた魔力草を根っこから採る。土は付けたまま採取袋にいれた。


「大丈夫よ、まだまだ……時間はないけれど」

「引き際が肝心」

「帰りの時間を考えると闇雲に探せれない。となると、あとは調査されたとかいう魔力草分布の地図だけか」

「遊都? 本気?」


 怪訝な目でステラが尋ねる。

 この調査された魔力草分布の地図だが、やけに奥地にあるのだ。ここには群生地がある可能性が高いとのことだ。


「行きましょう。一番近いとこならたどり着けそうだわ」

「嫌な予感。調査の時に採取しなかった理由はなに?」

「それは調査だからじゃないの? それよりさっさと行きましょう」


 どうするか……俺は衰弱したシュイの姿を思い出す。シュイに魔力草1本だけ渡せるか……それで良くなることがあるのか……。俺は決断した。


「行こう、魔力草1本だけじゃ意味がない」


 騒がしく盛り上がる巴に対し、ステラは冷ややかな目で一瞬何かを言おうとして無言になった。しばらくしてぽつりとステラが口を開く。


「魔力草が生えるところはエーテルが濃い。魔物も強い……覚悟して」


 そこに向かう途中。


 音がないことに気がついた。


 鳥や虫といった生物の気配がない。


 気配はないが視界に映るあらゆるものが数値で表されていた。


 石も岩も、木々や草にまで。こんな場所は初めてだ。


 不気味だな。


 岩場の袋小路のような場所に草が生い茂っているのが見えた。


「ねえ、あれって全部魔力草じゃない?」


 巴が小走りで向かっている。

 俺とステラも周りを警戒しながら、歩いて向かう。


「エーテルが濃い。まるでダンジョンの深部」

「これがエーテルなのか」


 魔力草の群生地に足を踏み入れた時、確かに空気が変わった。ひりつくような空気だ。巴はこの異様さに何も感じないのか?


「何があっても大丈夫このエーテルの濃度なら普段より私は強い」


 ステラが弓をつがえてそう言った。


 どうやら俺の眼はエーテルを数値化して情報を送ってくるらしい。パチンコの確率の様に表示されるものがたくさんある。ここは確かにエーテル溜まりで、魔力草の群生地になり得る場所なのだろう。


 魔力草をとりに巴が袋小路に入る。

 何が起こっても対応できるようにステラが気配を殺し備える。

 俺は袋小路全体が見えるところに陣取り、採取する巴を見守る。


 数値が変動したのを見つけた。入り口から少し離れたところ、崖の上。まるで俺達の頭上に蓋をするように数値が跳ね上がる。


「巴魔物だっ! 頭上に気をつけろっ」


 魔物が大量に靄のように可視化できるエーテルから生まれた。


 魔物の集団が雄叫びをあげた。

 ステラが青ざめていた。


 あれからどうしたんだっけ。


 頬に衝撃が走る。


「おきて、ステラが押さえ込んでいるのよ」


 飛ばされて叩きつけられたのよ。

 意識ある?


「ああ、もう大丈夫だ」


 魔狼を牽制して、巨人が出てきて、吹っ飛ばされて、イノシシ型の魔物のサンドボアもいると叫ぼうとして、それでどうなった。

 辺りを見渡す。また、魔物の種類が増えてやがる。種類だけじゃない量も絶望的に増えて行っている。


「……俺は判断を間違えたのか」


 戦闘なので頭を切り替えないといけないが、あまりにも奮闘している巴とステラをどこか他人事で見て呟いた。巴とステラが広域殲滅魔法とでも言うべき威力のスキルを連発しているがそれよりも魔物の発生速度の方が早い。そして俺たちの背後に取り囲むようにまた魔物が発生しそうなのがわかる。そしてそれは強い。


 このままじゃ駄目だ。


 一点突破だ。


 一点突破しかない。


「退路を切り開く。逃げるぞ」


 大声で叫ぶ。


 巴もステラもこちらを一瞥することもない。


 だが、息を合わせたように溜めを作る。

 巴がステラが同時に大技を放つ。

 前方の魔物の集団が一部消失した。


 血がついた顔で微笑み俺に手を差し向ける。


「「送金(トランスファー)」」


巴とステラがトランスファーで全財産を俺に託す。


 その笑顔に応えようと俺は銀色の剣を天高く、高くに掲げた。


「衝撃のあとに走れええええええっっっっっっっ」


 音もろとも銀色の光の柱がなぎ倒す。

走った。走った。限界まで限界のその先まで。袋小路を抜け、モンスターがいた残骸を抜け、荒野の安全であろうとこまで逃げた。大丈夫巴とステラがともに走っている。むしろ俺より少し早い。大丈夫だ。


「逃げ……きれ……た?」

「もう走るの無理」

「ああ、ここまでくればエーテル溜まりはないはずだから……」


 群生地を振り返った俺は後悔した。

 ありとあらゆる数字がこっちを追いかけてきている。


「ステラ……あの時仲間を見捨てたって話をしたよな……お別れみたいだ。巴、済まないが一緒に死んでくれ」

「何? 何冗談言っているの? 遊都」

「嘘」


 スライムがぴょんと何もないところから俺たちの前に出現する。何もないわけではない。俺は数字で見えている。これから起こるだろうことも。


「魔狼がでてくる前に姿を消すんだステラ。ステラなら逃げ切れる」


 一角ウサギやサボテンたちが俺たちを取り囲んで嘲笑うように跳ねている。


「早く」

「でも」


 魔狼の集団がエーテルの靄から現れる。


「あれは死んでも俺と巴が食い止める……巻き込んですまなかった」

「嫌……」

「仲間は捨てたんだろ」

「遊都は恋人……仲間とは違う。あなたが死ぬなら、私も死ぬ。私は巴が羨ましい……一緒に死んでくれと言われた貴女が羨ましい」


 幽鬼のように魔物の集団にふらふら出ようとしたステラを抱きしめて止める。

「俺は1人でも生きて欲しい」


 ぺしっとステラが俺の頭を叩く。


「そこはステラが生きて欲しいと言うべき」


 満面の笑みで俺にステラがキスをする。


「大丈夫……」


 何が大丈夫なのか。風切り音が聞こえた。

 氷のハンマーが俺に振り下ろされていた。

 咄嗟によける。俺を取り囲むように氷がせり上がってくる。


「ステラよけろっ」


 ステラの後方からオークが棍棒を振りかぶる。


「だめ、じっとして」


 ステラを突き飛ばし棍棒を受けとめる。

 背骨がきしむ。


 オークを固めかつ俺を隔離しようと周囲から氷の殻がせりだしてくる。


「やめろ、何してる。巴、止めろ、ステラを止めろ」

「まあ、役に立たない負傷者は隔離されるべきね」


 岩にもたれて少しでも休憩しようとしている巴が言う。

「やめろ、俺はこんなこと望んでいない」

「巴、遊都のそばで戦ったら許さないから」

「全滅させればいいんでしょ?」

「それは、そう」

「じゃあね、遊都」

「やめろおおおおおおおおおっっ」


 下半身が凍っても、棍棒になお力を入れてくるオークを睨む。


「あああああっっ」


 叫ぶが力関係が逆転することはない。

 背中の高さまで俺を守る氷の殻ができあがってくる。

 この後起こる絶望に対して俺は天に慟哭した。


 何かの風切る音がした。

 急に軽くなったオークの棍棒を打ち払う。


 オークを見るとテキサスホールデムで見慣れた二対の剣が紫電を纏い、その顎を貫いていた。

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