↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/162

第55話 Cランク戦ヘッズアップ

「伏見遊都様テーブルAへ席移動して下さい。5分後に決勝トーナメントです」


 俺はディーラーの言うとおり席を移動する。

 席の真向かいにはテーブルAの勝者。徳川巴が座っていた。疲れているだろう様子の巴だったが、その巴の眼光だけは炯々(けいけい)としている。


「勝ったのか」


 俺の呟きに巴は反応しなかった。つかの間の休憩時間。それに決勝のヘッズアップもブラインドレベル1もブレイクタイムに10分あてがわられている。この時間はアンティを取られないのでゆったりプレイできる。そのあとアンティが取られはじめ、12分単位でブラインドが上昇していく。ヘッズアップは静かに始まった。


【3ハンド目 開始時点】 

【ブラインドレベル1:25/50 アンティなし】


BTN/SB(最初)…… 遊都   (4925) 

BB        …… 巴    (5075)



「俺は巴に救われた」

「なんのこと?」

「俺の人生は金が全てだった。金が必要だった。金が必要ではなくなり、金を捨て始めて全てがなくなったと思っていた。けど違った。何もなくなっても世界は続いていく。俺はまた前に進んでいいんだと巴が教えてくれた」


 俺はダンジョンで大立ち回りをしていた時の巴のことを話したら、巴が心当たりがないという顔をしていたが、納得した。


「あれね? 遊都が言ったのよ。このハンドと一緒に死ぬ気なら何だったってできるって。私はそれを戦闘中思い出して、わかりやすく口にしただけ。死ぬ気でやることで見えてくるものがあったわ。だから遊都の心の奥底に自分を救う力は既にあった。そうねそれに、遊都が何かに躓(つまづ)いていて、例え誰かが何かを言ったってその感情が届くかどうかも遊都次第、結局きっかけはどうあれそれは……」


 巴と眼が合う。


「遊都の力よ」


「そうか……でも言っておくよ、ありがとう」

「どういたしまして」

「そういえばヘッズアップのやり方というか戦略だが」

「今はいいわ……観客(ギャラリー)がいるし、何より私は私のやり方で勝ちたい」

「勝つ気なのか」

「なに? 今勝っているのは私よ」


 ちょこんとしたチップを小突いて。巴が笑って言う。

「それよりそんなしみったれたことを言って」と巴の空気が変わる。巴が俺を煽る。


「遊都……あなた負けるわよ」


 巴の眼はもう笑っていなかった。

 俺の感情にも巴の火が伝播(でんぱ)する。


「レイズ200」


 ブラインドを無視してレイズ額が加速していく。


【43ハンド目 開始時点】 

【ブラインドレベル2:25/50 アンティ50】


BTN/SB(最初)…… 遊都   (3575) 

BB        …… 巴    (6425)


【スターティングハンド】

遊都:スペードの2 クラブの2

巴 :クラブの5 スペードのT(10)


「レイズ400」


 巴がノータイムでコールしてくる。

 ヘッズアップ時。普段より思い切りが良くなっていないか? こいつこんなに強かったか? やりにくい。


 <フロップ>

 ダイヤの8 クラブのJ クラブのA


「ベット450」

「コールよ」


 ここでコールということはAは持っていないな。


 <ターン>

 ハートの5


 なら、「ベット900」。

 巴と眼で会話をする。俺はAを持っているぞプレスト(かかってこいよ)と。

 すっと巴が視線を外した。


「強いわね……フォールドよ」


 ここからは序盤堅く戦っていたテーブルイメージを利用する。どこまで稼げるか。


――実力が拮抗する。


【43ハンド目 終了時点】 

【ブラインドレベル2:25/50 アンティ50】


BTN/SB(最初)…… 遊都   (4475) 

BB        …… 巴    (5525)



 序盤はレイズ額が雑だったが、推し量っていた? 巴のレイズ額が400で固定されてきた。ハンドを読ませないためか。俺はそこまで教えてないぞ。ヘッズアップでの注意点はJあったら参加するってスタンスが多いって言う程度で実際大したことはない。Jがなければあるように見せかければいいわけだしな。しかし、それを知っているのと知らないのではプレイが変わってくる。より高いハンドが片っ方だけでも入っていることがヘッズアップではより有利になる。それを知らずに自然とやっているなら、本当に俺はとんでもないやつを育ててしまったかもしれない。追いついてきたと思ったチップがまたじわじわと離される。だが、まだ負けない。地上戦が駄目なら空を攻めればいい。次ブラインドが上がったら仕掛ける。



【65ハンド目 開始時点】

【ブラインドレベル3:50/75 アンティ75】


BTN/SB(最初)…… 遊都   (2800) 

BB        …… 巴    (7200)


 意味もなく顎(あご)を触る。ハンドをまためくる。腕組みをする。大げさに悩む。しっかりと巴を見据える。

「オールイン」

「はっ、何よそれ降りるに決まっているわフォールドよ」



【66ハンド目 開始時点】

【ブラインドレベル3:50/75 アンティ75】


BTN/SB(最初)…… 巴    (7050) 

BB        …… 遊都   (2950)


「レイズ400よ」

「オールイン」


巴と眼で会話する。まさかこのまま行かないわよね? と聞いている。行くんだよ、このまま。


「フォールドよ」



【67ハンド目 開始時点】

【ブラインドレベル3:50/75 アンティ75】


BTN/SB(最初)…… 遊都   (3425) 

BB        …… 巴    (6575)


「オールイン」


さてどうする巴。迷うか引くか、勝負するか。どういうスタイルでプレイするんだ? 何もしなければかっさらうぞ。


「……フォールドよ」


 ここまでのハンドはK3、A2、K7次こそはいいハンドが来ればいいのだが。



【68ハンド目 開始時点】

【ブラインドレベル3:50/75 アンティ75】


BTN/SB(最初)…… 巴    (6500) 

BB        …… 遊都   (3500)


「レイズ400よ」


 逃げなかったか。さてこれは本当に強い手なのか? ハンドを見てから3秒後にレイズこれは巴の普段の間隔悩んでいるそぶりはないコネクターではないな。弱い手で入ってくるタイミングではないこれで大分絞られる。K、A以上、そしてオールインされてもいいと思っていると……Aが絡んでいるな。


「フォールド」



【69ハンド目 開始時点】

【ブラインドレベル3:50/75 アンティ75】


BTN/SB(最初)…… 遊都   (3375) 

BB        …… 巴    (6625)


「レイズ150」

「レイズ500よ」


潰しにきたな。期待値(インプライドオッズ)が高いハンド例えばスーテッドコネクターあたりと思っただろ?


「レイズ1000」


 巴が時間を使う。その小さくとも形のいい唇に指をはわす。それが巴の癖(テル)か。悩んだ末、結論を出したようだ。ここで潰すと。


「オールインよ」


 良く通る声は迷いがなく、歯切れが良かった。


「オールイン」


 会場に歓声が響く。


 巴のハンドはスペードのQ ハートのJ

 俺のハンドはクラブのA クラブのJ


 支配的ハンド(ドミネイト)だ。


 読みを外しただろう巴が頭を軽く振った。

 巴はQを引き当てるしかない。そしてその確率は約20%だ。


 <フロップ>

 ハートの9 クラブの8 ハートの3


 俺の勝率が上がる。


 <ターン>

 クラブのT(10)


 <リバー>

 スペードの7


 お互いノーヒット。Aの持っている俺の勝ちだ。


「狙ってやったの?」

「まあな」

「え? なんで? そっか。そういうやり方もありなのか」


 巴は唇に手を当て深く思慮の海へ潜っていった。もうこのゲームで戦略は巴に使えないだろう。

 そうだ、今やっているのはスキルとか関係ない。純粋なテキサスホールデムだ。俺は今テキサスホールデムをやっている。何の邪魔も入らないテキサスホールデムだ。楽しい……楽しいなあ。


「テキサスホールデムは楽しいよな」


 思わずこぼす。

 天井を見ながら巴も答える。


「ええ、楽しいわ。こんな世界があるなんて。テキサスホールデムの前には人は等しくなれる。私が正しいと思ったプレイは正しくて。私が間違っていると思うプレイはやはり間違っている。私のやり方を貫いて馬鹿にされることもない。そしてそれが実証される」

「頭ん中アグレッシブかよ」


 思わず笑ってしまった。


「遊都勝負はこれからよっ!」

「もちろんだ!」


 その時、笑顔だった巴の顔が苦痛に歪んだ。


「痛い」


 サハギンとの戦闘でも弱音をはかなかった巴が痛いと言った。


「大丈夫なんでもないわよ。きっと気のせいよ」

「そうか、ならいいんだが」


 ゲームが進行する。その間も巴の息づかいが段々荒くなっていく。苦しげに巴が胸を抱えた。


「ディーラー!! 医者はいないか巴が病気みたいだ」

「市医者はいますが、これから向かうとすると棄権ということになりますが、それならまず徳川巴様の意思確認を」

「棄権? するわけないじゃない」


 青い顔の巴が気丈に言う。


「でも異世界の病原菌だったりしたら」


 巴が顔を振る。それは違うと。


「違うわ遊都。スキルよ」


 巴が苦しげに天井に炎を放つ。

 ほっと巴が肩で息をする。


「ディーラー! 誰かに害されているんじゃ」

「不正は行われていません。スキルも正常に効果を発揮しています」

「だったら何故……」

「棄権は……しないわ。遊都あなたが棄権しても私は……許さないわ」

「でも巴真っ青じゃないか」

「私はやるのよ! やりたいの! 私は……私の感情を優先する」


 さあ、席に着きましょう。巴が席について俺を待っている。


「大丈夫よ! 大丈夫って言ってるでしょうが! この勝負くらいもつわよ、さあやるわよ遊都。なんでかは知らないけど痛みも炎に変えればなんてことないわ……痛っ」


 こうなった巴は止められない。やり遂げる。俺が巴にできることはいち早く巴を飛ばすことだけだ。思考がクリアになる。


「レイズ額あげてくぞ」


 手を振って巴が遠慮した。

 普段よりも大きめのベット額をかける。

 巴がフォールドした。


「そんな見え透いたベット額に突っ込む馬鹿はいないわよ」

「誰のためを思ってやっていると思って」

「だったら……本気で来なさいよ」


【126ハンド目 開始時点】 

【ブラインドレベル4:50/100アンティ100】


BTN/SB(最初)…… 巴    (875) 

BB        …… 遊都   (9125)


 ここまで、ねばられた。ねばらせてしまった。巴のオールインに入る。引き分けでまた粘られた。127ハンド目のオールインの応酬で巴のハンドが負けた。ようやく勝てた。


「ディーラー医者はどこに」

「医者じゃないって」

「私は大丈夫よ。それより言わなければいけないことがあるわ」


 後ろに倒れそうになる巴を支える。

 腕にもたれかかった巴が微笑んで言った。


「遊都Cランク認定おめでとう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。