第33話 空・陸・海
「なんで遊都に勝てないのよ」
「まだまだつけいる隙が多いからな」
「なにそれ? なんかむかつく」
あ、それより、と巴は思い出したことを告げる。
「さっきの手札が配られた状態でのレイズの掛け合いはなんだったの?」
「自分の方が強い。または強いと思わせる時に生じるレイズの掛け合いだな。AA、KK、QQあたりをそれぞれのプレイヤーが持っていたりすると頻繁に起こる。KK、QQはもとよりAAももちろんチップを大きく膨らましたいからな」
「めくられて当たってからでもよくない?」
「俺の場合だとJJ、TT、99ぐらいだったらそれもありだな、誰も当たってなさそうでも動けるからな」
「遊都は何持ってたのAAはないだろうからKK? QQ?」
「いや88だ」
「え? 何それ? 絶対負けるやつじゃん」
「それがそうとも限らない現に俺は勝った」
「やつには見えたはずだこの88がQQやKK、AAにだって見える幻影が……それに」
「それに?」
「相手がAKやKQの場合も考えられた」
「その時はどうなるの?」
「ガチの殴り合いになるだけだ」
俺は笑って言った。
「このハンドと一緒に|死ぬ気なら何だったってできる《・・・・・・・・・・・・・・》」
「へーでもチップの賭け方の意図がそんなに変わるのねプリフロップって」
「そうだ俺のイメージで悪いがそれぞれプリフロップ、フロップ、ターンとリバーを教えようか」
「うん、お願い」
「こう覚えておくといいテキサスホールデムには3つの戦場がある」
人差し指を立てる。
「ひとつ……空中戦」
中指を立てる。
「ふたつ……陸上戦」
薬指を立てる。
「みっつ……海中戦」
「そう……テキサスホールデムは3つの戦場なんだ。空中戦はプリフロップ。戦闘機が飛び交うはるか上空の制空権を取り合う闘いだ。AAという太陽を背にして、常に自分より高いところを取られるという影に怯えながら戦う場でもある。俺のさっきの88はさしずめ上を気にしすぎた奴を下から撃ち抜いた形になった訳だが、俺の方が太陽に近いぞとチップでアピールして闘うのは一緒だ。最初の3枚という地表がめくられたら陸上戦だ。フロップというとっかかりを意識して激突する。牽制、斥候、陽動、なんでもありだが主砲はポッドの半分だ」
頭の中の戦車が主砲を撃つ。
「ターンとリバーは海に舞台を移していく。海中戦だ。欺し欺され。深海魚のアンコウが疑似餌をちらつかせてパクッといくように海中という深淵に引きずり込め。深く沈み潜み込む潜水艦だ。ストレートやフラッシュはたまたフルハウスという機雷を持っているように見せかけ海中で制止させ、ここはないと突っ込んできたところを実は完成された役という魚雷で討ち取る。読み合いに勝ったものが闘いに勝利する」
巴が気がついたら顔を伏せ沈黙していた。
引かれた……か。ついつい熱を持って話しすぎた。なんだよアンコウって。ギャンブルってだけで引かれやすいんだ。ましてやカードなんて女性受け悪いし。気持ち悪かったか……。
「なるほどね……3つのパターンで引きずり下ろせる訳ね……カードで勝たなくてもいい? そうなるとチップを賭けるわけだけど、のってきた時にリスクがあるわけだから……」
「巴すまん。俺の気持ち悪いイメージの話だから今のは忘れて……」
巴が顔をあげる。その顔は晴れやかで……。
「ありがとう。わかりやすかったわ」
満面の笑顔で巴がお礼を言う。
……何故だか俺は直視できなかった。




