飢えた狙撃手
安らぎの空間を訪れた4人。
朝日を浴びる花々は、艶のある色彩豊かな光を発している。
建築物は確認できないが、明らかに周囲が穏やかな雰囲気に変わったことから、次の街に着いたと察する。
「……ここは」
「マリガンの端っこぐらいですかねぇ。これはこれはやっと着きましたか。皆さん、大丈夫ですか?」
「無理なんだぉ……一歩も歩けないよぉ……」
「お、俺も……」
「……すみません、ローズさん。私もちょっと……」
「ですよねぇ……ではでは休憩できる場所を探しましょうか。おっと……着替えますのでお待ちを」
旅の荷物を全て担いでここまで歩いてきたローズは、自分の衣服が入っているリュックから私服を取り出すと、それに袖を通し、代わりに真っ白な軍服とその他の荷物を焼いていく。
必要最低限の物だけにまとめると、タクスス達へと向き直り、住人が住居を構える街の方角へと歩みを進める。
「ローズさん、燃やして良かったの? アレだったら俺が持ったのに……」
「余計な心配は必要ないですよ。この街を過ぎたら、後はバナンを経由してブリダンへと到着しますしねぇ……追手が来ている現状、荷物は少なくしたいのですよ」
「軍服もよかったの?」
「はいはい。もう持っててもしょうがないので。 ……シャガの母親は港町のブリダンに居るのでしたよね?」
「うん。移住していなければまだ居るはず……」
「くっくっく……軍隊に目をつけられてしまったシャガ。果たして今後、平穏な時間を過ごすことが出来るのか!? 見ものですねぇ……」
「何で他人事なのさ」
「シャガはエレーケスに来ないのでしょう? ならばそこで別れることになるのでねぇ」
「ローズさん冷たいなぁ~……アウレラからの付き合いなのに」
「一か月にも満たない時間なのに、付き合いも糞もないですよ」
「へ~い」
「山賊だった頃の悪行は大目に見ておきます。それでも悪さしたいのなら、プロテア大佐達が相手になるので気をつけてくださいよ」
「……絶対しない」
「賢明な判断ですよ。 ……おやおや? 見えてきましたねぇ」
先頭を歩くローズとシャガは、いち早く眼下に広がる光景に気が付く。
丘の上からマリガンの全貌を見下ろす2人。
街は丘に囲まれた標高の低い場所に位置しており、至る所に植物が生い茂り、背丈のある大木が幾つにも連なっている。
それはまるで、太陽光を遮断するカーテンのようでもある。
遠目からではよく見えないが、街を歩く住人の姿が確認できることから、人がいないわけではないようだ。
「う~ん……? おぉ!! マリガンなんだよぉ!!」
「見れば分かりますが」
「ごめんなんだよぉ……」
「……ここがマリガンですか」
「はいはい、タクススは察しが良いですねぇ」
「……ねぇ、いつにも増して僕に厳しくない?」
「気のせいですよ。本当に煩いですねぇ……アナタはそこの鹿にでも食われれば良いのですよ」
顔には出していないが、ローズ自身も疲れが溜まっているようで、いつにも増してタクスス以外への扱いが雑になる。
目の前にいた鹿に食われろと無茶ぶりした彼女。
生い茂る植物を咀嚼している大柄な鹿は、タクスス達を見ると困惑したように顔を傾げている。
「……いただきます」
和やかな場にいるタクスス達には、絶対に聞こえない距離から発せられた言葉。
それの発声した主は、静かに引き金を引くと、静かな森林地帯に相応しくない発砲音を響かせる。
無様に体勢を崩していく野生動物。
眉間を正確に打ち抜かれたそれが地面に倒れるよりも早く、ローズはタクススとアムネシアを両手で引っ張り、花畑の中へと身を隠す。
「……きゃっ!?」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!? 急に何するんだよぉ!!」
「ローズさん、これって!?」
「これはこれは、もう追手が追い付いたのかもしれないですねぇ……それに加え、応援としてザクロ中佐やカンナ准佐が近くに……?」
残響音が空を飛び回る中、周囲への警戒心を最大まで引き上げるローズ。
目につくものは無害な植物のみで、コチラへ害を加えようとするものは1つも見られない。
「3人とも良いですか? 今からあの街まで一直線に向かいます」
「……大丈夫なんですか、この状況で」
「狙撃手のあの2人がここに来ているのでは、反撃も出来ませんのでどっちみち詰みです。なので一か八かしかないですねぇ」
「マジで……」
「へとへとなんだよぉ……」
「最後なので気力を振り絞って下さい。 ……行きますよ」
ローズの短い合図と共に姿を晒した彼女達は、ただひたすらに前へと駆け出した。
途中に佇む岩々で射線を切りながら、全身の酸素がなくなる程の必死さでマリガンの中心地へと進んで行く彼女達。
幸いにも、再び発砲音が周囲に聞こえる事はなかったのであった。
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タクスス達がマリガンの中心地へと到着した頃。
命を落とした鹿の元へと姿を現した人物。
その人物はどうやら女性のようで、古びれた土色のポンチョを頭まで羽織っている。
短パンにボロボロの白いサラシで胸を潰している彼女。
フードから顔を覗かせる長髪は、南国の美しい海のようなターコイズ色をしており、オシャレに興味がないかのように、無造作にまとめている。
使い込まれた狙撃銃を背中に担ぎ、獲物へと近づく右腕しかない彼女は、横たわる鹿を肩で担ぐと、乱暴な物言いで口を開いた。
「……アタシの得物を奪おうものなら、速攻でぶっ殺そうって思ってたのに……とんだ杞憂だったなっ!!」




