花の街・マリガン
「別にね、何て答えようがこっちとしては良かったんだわ。写真の子供とはお喋りしたしね。ローズちゃん達と話した内容まで確認済みだぜ?」
「これはこれはご苦労なことで」
普段の呼び方以外で呼ばれると、どうしてこうも冷やりとするのか。
酸素が血液から急速に失われていく。
ああ、このままでは酸欠で失神してしまうぞ!!
……なんて冗談を思い浮かべる彼女は、どうやってこの場を切り抜けようかだけを考えている。
「俺の最後の質問、すげ~抽象的だったろ? 軍人の尋問方法からは考えられない……普通はYesかNoで答えられるよに質問しないといけね~からな」
「そうですねぇ……そんな基本的なことも忘れてしまったのかと、私は心配しましたよ」
「はっ!! んでよ……不審で仕方がない俺に余計なことを悟られないように、質問はなるべく正確に答えようとした。適当に答えたら余計に怪しまれるもんな? 例えばそうだな……抽象的な質問を正確に再定義したりね」
「……ほうほう」
(まったく、これだからプロテア大佐とは会話をしたくない。隠し事が出来ないのでねぇ」
「そのせいで余計なことを言ってしまった。そのせいで意見の食い違いが出てきてしまった……間違った証言はしてないぜ? 実際母親は赤い目をしてたし……」
「あの~……さっきから聞いてたら、私が何かやましい事を隠している前提で話が進んでいるのですが?」
「ローズちゃんがじゃなくて、ローズちゃん達がの間違いじゃね~か? ってかさ、このまま話し合っても平行線じゃん? だからこうしようぜ」
「何でしょう」
「俺達と一緒に軍に来てもらう。クズの野郎に記憶を覗いて貰って、ここ数日間の記憶を見せてもらうぜ。それで何にもなかったら、晴れて自由の身だ。邪魔した詫びとして、俺達もゴルウェーの街を滅ぼした犯人捜しに協力する。どうだ? 悪くないだろ?」
「レディーの秘密を探るとは……感心しませんよ」
「クズの奴は口が堅いのは知ってるだろ? それとも何だ……よっぽど知られたくないのか?」
「……」
(はぁー……ここいらが限界ですね。仕方がありません」
「分かりました、大人しく言うことを聞きますよ。それと、1つ言い忘れていたことがあるのですよ」
「あ? んだよ」
「あそこにいる子供。シャガはですね、クシノヤさんの息子なんですよ」
「へー……は?」
「ねぇ……シャガ!!」
打ち合わせ通りの合図が飛んできた。
一際大きく、聞き逃しがないように声を張るローズ。
いつどんなタイミングで指示が来てもいいように身構えていたシャガは、乾いた口を丁寧に動かす。
「『輝け』!!」
静かに膨らむ光の膜。
やがてそれは、夜を照らす小さな太陽となり、直に見た人間の視覚を一時的に奪い去る。
「タクスス、シャガ、アムネシア!!」
事前に備えてたローズと後方で待機していた3人。
周囲の軍人達が目を抑え狼狽える中、いち早くこの場から逃げ出す彼女達。
プロテア達の視力が戻った時には、神隠しにでも遭ったかのように、姿が忽然と消えていた。
「くっそ……誰か!! アイツらを見た奴はいねーか!!」
「プロテア大佐!! 薄っすらとですが、ここから西の方角に人影が4人ほど走り去るのが見えました!!」
「了解っと……半数は軍にアビュース達を連れて行け!! アヤメ、カタバミちゃん、警護を頼むわ」
「分かった」
「あの!! ローズ少佐はやっぱり何か……」
「それが分かるのは軍に帰ってからだぜカタバミちゃん。まあ、大ぴらに出来ないヤベーことを隠してんなありゃ……つーかさ……シャガがクシノヤ少将の息子? どうなってんだマジで」
「……あっ!! まさかあの時の……」
「どうしたテッセンちゃん」
「いや……確実とは言えないんですが……アウレラで追いかけてた山賊達の中に、シャガがいたような……?」
「マジで?」
「ハッキリとはしないですが……」
「了解了解……こりゃ、是が非でも捕まえる必要があるな……残りの半数は俺と来てくれ!! ローズちゃん達を捕まえるぞ!! テッセンちゃんも付いて来てね」
「了解です!!」
迷いのない指示により、一斉に捜索を始めるプロテア達。
その足音は、闇の中に消えていくのであった。
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「……上手くいきましたね」
「そうですねぇ……よく機転が利いたものですよ」
「ふっふっふ……流石我輩って感じなんだよぉ!!」
プロテア達が西へと進む頃、タクスス達は足を止め、瓦礫の山の影に身を潜めていた。
輝きに照らされる僅かな時間、近くにいた軍人の記憶を改竄し、偽の情報を与えていたアムネシア。
彼女の行いのお陰で、無事に追っ手を撒くことに成功するのであった。
「危なかった……っていうかローズさん!! 俺がお父さんの子供だって言って良かったの!?」
「隙を作るために仕方がないですよ。プロテア大佐から逃げるのは、そう簡単ではないのでねぇ」
「……あの、早くここから移動しましょう。彼らが戻って来る前に」
「はいはい、それが賢明です」
軍人達が完全に居なくなったのを確認してから、次の街への移動を始めるタクスス達。
心臓の鼓動が早い。
今回は何とか逃げることが出来たが、次も同じような目に遭遇した時、果たして逃げ切ることが出来るのか。
不安に心を蝕まれる中、緊張の糸をピンと張り続ける。
そんな夜通しの移動の末、東へ東へと進み、ようやく次の街に辿り着いた。
白い光が闇を溶かし始めた時間帯。
小鳥の鳴き声と共に、甘酸っぱい香りが疲労困憊の彼女達を優しく出迎える。
ここは花の楽園。
自然と共存する美しき街。
その名はマリガン。




