失った物
アヤメが戦っていた場所へと駆けつけるタクスス達。
台風が過ぎ去った後のような、散乱としている歩道を進んで行く。
「あ、アヤメ少将、大丈夫かな!?」
「……風が止んだのなら……勝敗が決まったか、殺されたかのどっちかですね……」
「殺されるわけありませんよ!! アヤメ少将は強いんですから!!」
「……勝敗が決まった方ですね」
「ですよねー!!」
カタバミとタクススの会話を聞いていたシャガ。
前ばかりに意識が集中していたため、並走していた彼の存在を忘れていた。
途中まで一緒について来ていたコルスを探すも、彼の姿は何処にも見えない。
「アレ?コルスさん、どこ行ったんだろう……」
「えっ!? あの白髪、いないんですか!?」
「みたいだね……」
「は〜!! 男の癖に根性なさすぎ!! 腰抜けめっ!!」
「まあまあ……それよりも、俺達は早く合流しなくちゃ!!」
行方をくらませたコルスの事が気になるが、今はとにかく先を急ぎたい。
目的の場所を目指す3人。
進むにつれて、建物の倒壊は目に見えて酷くなっていく。
辛うじて姿を保っていた広場には、息をのむ光景が広がっていた。
「アヤメ少将が……いない!?」
「……やった。やったぞ!!はっは〜!! 頭が悪いのに、俺に盾突くからこうなったんだよっ!!」
積み上がる瓦礫の山々のそばに、全身血まみれで立っているフォゼン。
アヤメ、嵌合体達の姿はなく、彼1人が目の前に存在した。
「……『治れ』。ん? 何だよ、お前達。やっと来たの?」
「おいガキ!! アヤメ少将は何処だ!!」
「ん~……天国で〜す! !いや、地獄かな?」
「あ?」
「兵隊達を無限に治してたらさ、あのオバさんジリ貧になっちゃってね。途中で見失ったんだけどさ、その辺の瓦礫の中にでも埋もれてるんじゃない?」
「この……!!」
「何だよ……俺は被害者だぞ!? 折角の研究成果を台無しにされたんだからさ!? 鳥頭のお前らにも分かりやすく言うけど……馬鹿な奴は俺に話しかけんじゃ……」
広範囲に轟く爆音。
フォゼンはカタバミと話す前に、治す言葉を発していた。
その効果が現れたのだろう。
瓦礫の中に埋もれていた嵌合体達が、力を取り戻し、カタバミ達を蹂躙する……
そんな幻想を抱いていたフォゼンに、にわかには信じがたい姿が目に飛び込んできた。
「何でババアが……!? ぐぇぇぇ……」
コンクリートの塊を顔面に投げつけられたフォゼン。
正確には、吹き飛ばされただろうか。
多少の切傷はあるが、殆ど無傷のアヤメが、瓦礫の山を吹き飛ばしながら現れた。
「アヤメ少将!! 死んでなかったんですね!!」
「勝手に殺すな!! おいそこのガキ……随分手間取らせてくれたなっ!! あぁん!?」
心なしか口調が苛烈になったアヤメは、風の力を利用してフォゼンに急接近すると、右手で彼の首を掴み取り、万力のように締め上げていく。
「ぐぇぇぇ!! 離せババア!! 何で生きてんだよ!! クソがっ!!」
「無限に化け物を治す程度で勝った気になるとはな。あんな言葉、瓦礫で視線を遮ってしまえば、簡単に防げる!!」
「ぐぅ……!! 『燃え……』ぐぇぇぇ!?」
「余計な言葉を使うなっ!! ブチ殺すぞっ!!」
(おいおいおい、俺が捕まるのか!? 今まで完璧に隠蔽してきた天才の俺がっ!? こんな野郎どもに!?)
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!! 嫌だ、捕まりたくない、お前らなんかに!! 離せぇぇぇぇぇぇ!!」
拘束する手に、更に力を込めるアヤメ。
顔が猩猩色に鬱血し始めたフォゼンは、周囲に助けを求める。
だが彼の視界に映るのは、灰色の塊と細切れになるまで切り刻まれ、命を失った嵌合体の哀れな末路しかない。
残酷な現実に体を震わせ泣き叫ぶフォゼンへ、毅然とした口調でアヤメは罪状を叩きつけた。
「ルメル・フォゼン!!貴様を、違法実験の罪で逮捕する!!」
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一時の騒ぎに巻き込まれたタクススとシャガは、アスロンの都心を後にし、アムネシアの家へと帰宅していた。
騒ぎに巻き込んでしまったお詫びに、そこそこ高価な加工肉を渡された2人。
彼女達はそれを見ながら、カタバミとアヤメの事を思い出していた。
「……昼間の軍人、凄かったね」
「うん。俺は正直、二度と会いたくないなぁ……」
「……私達の身の上がバレたら、アレと戦うかもね」
「……勘弁してほしいよ、それ……」
いずれ巨大な力を持つ彼女達と、戦うことになるかもしれない。
そんな不安に駆られながら、根城にたどり着いたタクスス達を出迎えるローズとアムネシア。
……彼女達は、タクススが居ない間に何をしていたのだろうか。
縄で亀甲縛りにされたアムネシアが、家に入るや否や、タクススとシャガに懇願してきた。
「2人共ぉ!!僕を助けるんだよぉ!!」
「おやおやタクスス、お帰りなさい」
「……ただいまです。あの、何のプレイですかこれ?」
「いやね、ちょっとした尋問をしていたのですよ。……アムネシア?」
「分かったよぉ……話すからさぁ!? 襲うのは辞めて欲しいんだよぉ!!」
またローズが性欲を発散させていたのだろうか。
その時の事がすっかりトラウマになってしまったアムネシアは、タクススの方を向き直すと、改まった口ぶりで話し始めた。
「タクスス様、僕アムネシアは、伝え忘れていたことがあります」
「……はぁ」
「手術していた時に気が付いたことなんだけど……君の子宮が綺麗さっぱり無くなってたんだよぉ」




