狂い惑わす幻
風が止むことは無く、激戦に呼応するように激しさが増していく。
アヤメの元から飛ぶように走って来たカタバミは、タクスス達の元へ辿り着くと、尻を地面に付けて一息ついている。
「ぜぇ……ぜぇ……げっほ、死ぬかと思った……」
「……カタバミさん、あの人を1人にして良いんですか? あの数は流石に……」
「だ、大丈夫です、えっと……」
「……タクススです」
「大丈夫です、タクススさん。むしろ、私はお荷物ですよ!! あの場に居ると……」
タクススからの質問に、食い入るような目をコチラに向けて、説明していくカタバミ。
強風の影響を考慮して、懸命に伝えようと口を大きく開ける彼女。
そんな最中、四辺に建ち並ぶ居所の外壁が、次々と吹き飛ばされていくのを目撃すると、カタバミの表情がみるみる曇っていく。
「やっば、やっば!! 巻き込まれる……!!」
「何だよコレ……完全に嵐じゃん……どうなってるの!? 全力じゃなかったの!?」
「えぇ~と……シャガで合ってるよね? んなわけないでしょ!! アヤメ少将が本気で暴れ始めたら、民家なんて跡形もなく吹き飛ばされ……!! ん?」
雲一つない晴天の空から、絶え間なく降り注ぐコンクリートの雨。
彼女の言った通り、半壊した住居の一部がタクスス達の元へ迫って来る。
腰を下ろす彼女達はその場から飛び上がると、瓦礫の下敷きにならない位置まで逃げていく。
「……はっ……はっ!! やみ、あがりなのに……」
「タクススお姉さん!! 無理しないで!!」
「……ゴメン、ちょっと、肩……貸して……」
「あ、私の肩で良ければどうぞ!!」
「……す、すみません……」
「皆さん」
「……? どうしました? えぇ~と……コルスさんで合っていますか?」
「はい」
「では改めてどうしました!?」
「私の見間違いでなければ、余計なものまで降って来てますよ」
先ほどの場所を注視する4人。
粉々に砕かれた残骸に紛れて、微かに動く姿。
アヤメに吹き飛ばされた2匹の篏合体が蹲っているようだ。
猿をベースに歪な進化を遂げている生物は、発達した両腕を地面に叩きつけ、歩道に亀裂を作る。
「うっわ!? マジかよ!!」
「あの腕力……ゴリラの遺伝子でも配合されているのでしょうか。シャガ、ちょっと捕まえて来てくれます?」
「無理に決まってんだろコルスさん!! そもそも捕まえてどうする気だよ!?」
「ん~……その辺で売りさばく?」
「売るっ!?」
「はいそこの2人っ!! こんな時にふざけないで下さい!!」
「……あの」
「だいたい何ですか、売るって!! あんなキモイ生物が売れる訳ないじゃないですか!!」
「…………あの」
「いや~案外売れるかもしれませんよ? やんちゃな所がチャームポイント✰ 未確認生物のキメラ君で~す!! ……行けますねこれは」
「全っ然です!! 早く捕まえますよっ!!」
「………………はぁ、もういいです」
「あれ? タクススお姉さん、どうしたの?」
「……来てますよ、直ぐそこまで」
化け物達とは距離があるため、直ぐには襲われないだろうと高をくくり、視線を外し会話に夢中で気が付かなかった3人。
タクススの呼びかけに応じた時には、鋭利な爪を突き立てる化け物が鼻先まで迫ってきていた。
「速っ!? 『止まれ』!!」
「調教がなっていませんね……『増えろ』」
動きを止めたシャガに続く形で、身に纏う黒のスーツを2着増やしたコルス。
両手に1枚ずつ持つと、目くらましでも行うように、篏合体達の顔に向かって投げ捨てる。
「さあ、『潰れて』ください。重さによってね」
彼の二言目によって、地面へと叩きつけられる篏合体達。
全身に力を込めるが、覆い被さるひらひらなスーツに押さえつけられており、その場から立ち上がる事すら出来ない。
「すげぇ!! コルスさん、そんな言葉使えるんだ!!」
「この程度、朝飯前ですよ。どれどれ……」
「ちょっ!! 危ないって!!」
「平気ですよシャガ。ちょっとお仕置きするだけですから」
(俺を殺そうとした罰としてな)
笑顔を崩さず、スタスタと歩いて行くコルス。
その場で足掻く篏合体に近寄ると、何を言っているのか、途切れ途切れにしか聞こえないくらいの小さな声で、ある言葉を呟く。
「ゴ……ども……煩いん……なぁ……狂い『■■』」
毒を一言吐いた彼はそれで満足したのか、篏合体達の拘束を解いていくと、背中を見せて悠々と戻って来る。
元の重さに戻ったスーツを振り払い、再度襲い掛かる化け物達。
ナイフのように鋭利な爪が、コルスの後背へと振り下ろされる……
そう思っていたのは、タクスス達3人だけであった。
「……えっ!? 何で同士討ちをしているんですか!?」
「は~い、軍人さん!! 私は仕事を終えたので、後は頼みますよ」
「え? あ、分かりました!!」
彼に言われるがまま、カタバミは篏合体達を氷漬けにし、生け捕りにしていく。
生命維持活動を一時的に止める篏合体達。
同士討ちによって生まれた傷は、生身の人間なら即死してもおかしくない程の重傷であった。
「……本気で殺しにいってる。味方同士で? こんな事が出来る言葉って確か……」
コルスが使った言葉を、記憶の図書館から探しだすカタバミ。
彼女の思考を邪魔するようなある変化が、ふらりと訪ねて来たのである。
……風が止んだ。




