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第五話 偵察恐竜とのやり取り

 ドラゴンはより北側へ向かいつつ草原での調査を続けている。ディノニクス達は高度な社会生活を営んでおり、その生活は大変興味深い。この草原のハンター達は魔法をも(あやつ)りながら(たく)みに戦闘を行う。大量絶滅のときから俺は魔法を使っていないのだが、他の生物が使うところを見ていると気になってしまうのだ。


 観察しているとディノニクスが使っているのは風の魔法ではないことがわかった。俺が実験を始めた頃のように、単純に魔力を固めて足場にしていたのだ。二段ジャンプである。さらに驚くことに獲物に近づいていくときには、地面との間にクッションを作るようにして歩くため音がならない。

 こんな使いことをするとは! 俺も腹とか脚と地面の間に仕込めばもっと忍びやすくなるじゃないかっ! 彼らはとても上手い。生き抜くために必死に考え出したのだろう。しかもそれが次世代へと受け継がれていく。





 俺も魔力を固めたりできるのだが、そんな使い方を思い付かなかった。災害を起こすだけだ。火炎を放射したり嵐を起こしたり……。

 何故だろうかと考えたが、それは生物として根本的に考え方や本能が違うからだと一先ず結論付けた。


 彼らはハンターであり、深くは知らないが忍者のような、暗殺者のような生き方をする生物なのだろう。小型や中型の肉食恐竜は素早さと細かい動きを武器にして生存競争に打ち勝ってきたのだ。


 俺は大型の生物だ。ティラノサウルス達の方に在り方が近い。本来であれば隠れずに存在を誇示していたような気がする。力を示し、他者を蹂躙する。環境を操り破壊をもたらす。龍の怒りは世界の終焉。……最初の人生で聞いたような伝説だ。あの人生は文字が読めなかったし記憶がぼんやりしている。


 しかし、お伽噺(とぎばなし)か何かで聞いたことがある。ドラゴンはとんでもなくヤバイ奴だ。見かけた者はいないが確実にいる。出会ったら殺されるだろうが死んでも怒らせるな。怒らせたやつのせいで人類が滅ぼされるぞ。媚ながら殺されてやれ。

 そんな感じで脅されたこともあった気がする。


 俺はこんな危険な生物に産まれてしまったのだろうか? いや、人間だって悪い人もいれば良い人もいる。ドラゴンだって恐ろしい龍もいれば優しい龍もいるだろう。俺自身は多分優しい方だ。喧嘩するけど殺してないからな!


 ドラゴンになってからやたらと暗いことを考えるようになっている。独りだからだろうか。ホームシックだろうか。生まれ変わったからにはこの生をしっかり満喫してやろうと思っているのだが、心の底からはノリ切れていない。





 物思いに(ふけ)っていると普段と違う点に気づいた。狩りの偵察担当を別の個体が(おこな)っている。魔力の集め方がまだ不慣れなのか、音を消しきれていないし動きも少々ぎこちない。

 最後に畳み掛けるときなど、大きな動きをするときは無駄があっても問題ないのだが、戦闘前の繊細さが必要なタイミングだとあまりよろしくない。

 群れでは世代交代の準備をしているのだろうか?


 ……いや、違うな。俺が見張られているのだろう。いつからか群れのリーダー達が俺の方を気にするようになっていた。時間が認識できないとこういうときに鈍いな。だが、どこから見ているんだ? 全然視線を感じることができない。


 素粒子を感知する第7感的なモノはあるが、霊感みたいな第6感は持っていない。殺気などでもいいから()()を向けられれば、会話をするための訓練のおかげか反応できるんだが……。







 俺はあの会議の後、時々巣に戻りながら『翼を持った首長竜』の監視をし続けている。近くで観察してもどの種類の生き物なのか判別ができない。恐竜というより、もっと地を這うトカゲやヘビに似ているような気がするけど……。


 群れの方は次世代の訓練を急いで行い、非常事態に備えている。こいつが暴れたときの備えだ。俺達3頭で戦い、子供達と世話役のメス2頭を逃がす。下の世代が戦えるようになれば、俺達がいなくなっても群れは存続していく。


 この謎生物は随分と鈍いようだ。もう3日も経っているのに俺の様子に気づいていない。群れから離脱したことには気が付いているようだけど、俺のことは発見できていない。

 ずっと同じところにいるのではなく、どんどん距離を詰めているがそれでも気付かない。この鈍さは純粋な膂力(りょりょく)に特化したタイプに多い特徴だ。視力がほとんどなく動くものに飛び付く奴や、鱗を発達させ過ぎて触られても気が付かない奴。

 よくそれで生き残ってきたな! って生物がマジで存在している。羨ましい限りだよ! 俺達は目も耳も鼻も感覚が鋭い方だけど、そうじゃないと生き残れないんだ。


 やり場のない嫉妬心を抱きながら観察する。また少し近付くことにした。もう距離は3メートルくらいまで迫った。全然認識されていない。今はまだ大丈夫だとしても気を抜くことはできない。

 腕や体の羽毛を周囲の景色に溶け込ませる。目もなるべく開かないで視線を弱くする。土や葉に同化していく……。


 そして情報収集を続けていき――







 ――見つけた。すっごいなこの偵察君! 俺は気配察知などの高度なことはできないので力業(ちからわざ)を使った。めちゃくちゃ目を凝らしただけである。普段はだらーっと見ているだけだが、上空10000メートルから地上を見るときと同等以上に凝視した。

 魔力の宿ったドラゴン・アイ、凄まじい性能だと思う。


 彼は風景の一部であるかのように振る舞っていた。距離は3メートルもなく、そんなところまで接近させてしまうとは、俺って奇襲に弱すぎるのではないか? 彼に攻撃されていたら当たった後に気づくとか、そんな感じになってしまう。

 確かにダメージは受けなさそうなので問題はないが、前世の価値観に引きずられて恐ろしく感じてしまう。

 今回発見できたのも、時間を気にせず(すみ)から隅まで確認したからだ。奇襲が本意の相手であれば絶対に発見できなかった。


 ドラゴンという生き物については、長く生きていてもそれほど解明できていない。自分の体なのにわからないことだらけだ。それでも性質というか、特徴でわかったことがある。能力が極端な生き物だということだ。感知できるものとできないものの差が激しすぎる。

 1つの進化の到達点なのだろうか? 必要なものだけ残し、要らないものは切り捨てた進化の極致……。それにしてはこの星に生まれた最初の命なのだが……。まだまだ謎は多い。

 俺の人生(龍生)の目標の1つに自分の謎に迫ることも加えている。自由研究『惑星の進化とドラゴンの生態』といったところだろうか。周りの観察をすることでこうして客観的に把握できることもある。気長にいこう。





 さて、この偵察君はどうしようか。もちろん喧嘩は売らない。下手に攻撃を加えてしまうと、俺の爪の長さだと真っ二つに割ってしまう。

 ディノニクス達は俺の様子をうかがうだけで敵対行動をとっていない。警戒しているだけのようだ。子供がいる群れだからかもしれない。高度なコミュニケーション能力も持っているので、家族愛や友愛の精神も持ち合わせているかもしれない。

 ……俺の好奇心によって彼らの日常が壊れてしまったのだろう。あの時のスピノサウルスの様に……。


 しかし、植物のように動かず、廃人のように周囲と関わりなく生活をすることなどできない! この世は弱肉強食だ。……『殺さない』というルールを守り、できるだけ自然を乱さない。なんとも身勝手な振る舞いだが、今の俺はこれしか方法がわからない。


 戦うつもりがないなら話しかけてみよう。色々考えていたら吹っ切れた。考えることをやめた。


 「……グルオオオ。(……そこの偵察している君、私に攻撃の意思は無いので少し話をしませんか?)」


 相手に伝わっていなかったとしても、丁寧に話しかけてしまう。公務員は雑な態度をとるとすぐクレームが入るので癖になった。


 「……グワ。(いいよ。もう見ているだけじゃ何も進まなそうだから、俺も話したいと思ってたんだ)」


 龍が目を凝らしたのも発見できた理由だ。しかし、この偵察担当が()えて見つかるように移動したのだ。監視されていることに気づいて辺りを見回し始めても、暴れて周囲を攻撃しなかったことから理性的だと判断した。

 攻撃をされる可能性は低いと賭けに出たのだ。

 それに、話しかけることはしていない。()()()()()()()んだ。約束は破っていない。


 「グルオオ! (それは良かったです! 何か聞きたいことがあるんですよね? お先にどうぞ!)」


 「……グワ! グワ! (そうだなぁ、お前は襲うためじゃないのに何で俺達を見ているんだい?)」


 「……グルオオ。(えーっと、私は結構長生きしているんですよ。そうすると色々な生物が生まれるから気になってしまって、……興味本位で見ています)」


 「グワァ! (興味本位ってなんだよ! 意味がわからない……。生きるためにしていることじゃないってこと……?)」


 偵察担当の彼には理解できなかった。生きるためだけに生きているのだ。出会ってきた他の生き物だってそうだ。


 「グルル。グルオオオ。ガルルゥ(そうですね。私を観察していたならわかるでしょう? 食事をしているところを見たことありますか? 狩りをしているところを見たことありますか? 腐肉を(あさ)るところを見たことありますか? 食べる必要がないから、それ以外の目的で生きているのです)」


 「……グワァ(……確かに見たこと無いかも……。何で生きていられるの? おかしいでしょ)」


 「グルル。(それはそういう生き物だからとしか言えないですね。食べる必要がないですから、私は襲われない限り攻撃しない主義なんですよ)」


 偵察担当の彼は思考する――確かに食べないで生きていけるのはこの目で見ている。本当なんだと思う。信じられないが、あるかもしれない。信じて対処するしかない。

 この『翼を持った首長竜』はからだの至るところに傷がある。食べないからといって大人しい生物だとは思えない。全く思えない。


 首や頭についた傷痕は大型の肉食恐竜と争った跡だ。強者と戦い生き残るものは強者のみ。傷痕を持って生きている奴は最高に危険だ。


 このディノニクスは今、生まれて始めて戦わずに危機を乗り越える方法を模索している……。


 「グワ! (よくわからないけど、そういうことにしておくよ……。お前は俺達を襲わないし、狩場を奪うつもりも無いってことだね? 絶対だよね!?)」


 「グルオッ! (絶対ですよ! 安心してください。君たちの群れについても教えてくれないかい?例えば――)」


 ディノニクスは龍の要求に答え続けた。

 この後も会話は続き、家族構成や狩りの仕方、暮らしぶりなどを質問し続ける。龍はご満悦である。

 ボールに保管する生き物の図鑑を埋めていく感覚だ。


 「グルオオオ! (いやぁ、いい話が聞けました! 色々と迷惑かけてしまってすみませんでした。もう少し周りの散策して満足したら、更に北へ向かいますので安心してくださいね)」


 「グワ! (お前もっと北を目指してるの!? やっぱり戦闘凶じゃんか……。あそこは普通の奴じゃ生きていけないよ)」


 「グルルゥ。(北について何か知ってるんですか?)」


 「グワゥ。グワ。(ここよりも北の地は寒いんだけど、やたらと強い生き物が集まってるんだよ。しかも不思議な生き物が。お前が何も食べないとか、そういうのを信じたのも奴らを見たことがあるからだ)」




 俺は嫌な予感がした。俺の不死性を信じる要因となる程の生物だ。この偵察君にはもう少し話に付き合ってもらおう…………。

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