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第十二話 子龍の成長記録

 息子は黒いドラゴンなので、語呂の良い『クロウ』と名付けた。

 恐竜社会では思念を鳴き声に乗せて会話するので、相手のことを呼ぶ必要がなく名付けの習慣はない。

 そういうわけでティラ子は「ん? いいんじゃない」と薄い反応だった。名前の概念がないから当たり前だろう。


 野生にいきる生物達との会話は名前が無いため、俺は頭でなんとなく補いながら話している。それが結構大変だったのだが、慣れれば問題ない。

 『魔力操作』するときのように意識を向けるのだ。






 微粒子の流れを見ると、息子も魔力だけ吸収すれば問題なさそうだ。しかし妻は狩を教えている。彼が倒せる大きさの生物を連れてきては戦わせているのだ。

 今は全長12メートルの『魔恐竜トリケラトプス』と戦闘中だ。

 そろそろ決着がつくだろう。頑丈でねじ曲がったトリケラトプスの角を両手で掴み、口から超高温の火炎球を放つ準備をしている。

 あれを受けてしまえば顔面がドロドロに融解してしまうだろう。


 少し前までは2メートルの甲虫(こうちゅう)などと戦っていたが、体の大きさに合わせて相手も変えている。

 母親として子供の成長をよくみながら調整しており、時折かすり傷を負うことはあるが命の危機に陥ることはない。


 恐竜の教育はおおよそ似たようなやり方で行われるみたいだ。ディノニクスも子供達の戦闘訓練では、少しずつ実践に慣らしていた。


 ティラノサウルスによる狩りの教えによるものか、ティラ子の性格が色濃く出ているのか、どちらにせよ息子はかなり獰猛(どうもう)に育っている。

 ……棚にあげたがドラゴンの性質かもしれない。


 体もすくすくと成長し、今では全長8メートルで、後ろ足で立ち上がると体高3メートルの大きさになった。

 俺もそうだが、立ち上がるときに首をだらりと前方に垂らしているので、体の長さのわりに高さは低く見える。

 産まれたときと比べて8倍に成長した。年数は9年だ。俺よりもだいぶ成長が速い気がするが、栄養を効率よく摂取できているからだろう。俺と違って補食している。


 ちなみに年数がなぜわかるのかというと、太陽の動きを見ながら倒木に正の字を書いて記録したのだ。

 記録をしながらしっかりと環境を認識すると、四季があることもわかったので、1年の長さは計測しやすかった。結果として1年は365日、4年に1度はうるう年が存在することがわかった。






 日数と季節、1年の長さが地球と等しいということは、アースの大きさは半径6400キロメートルほどであり、太陽からの距離も地球と同じ、地軸の傾きかたも23.4度である。

 ここまで宇宙に出て外側から観測すること無く推測できる。


 太陽の大きさや、それからの距離も地球とほぼ同じはずだ。そうだとすると、公転速度も同じなので、太陽とその他の惑星、衛星の引力関係も同じくらいなのだろう。つまりこの惑星は、天文学的な確率で地球とほぼ同じ条件が成立したがゆえに生まれた星なのだ。

 ユルい仮定だが問題ない。俺は文系人間だった。

 地球ではないことは確定している。これまでに、地学の教科書にあったような歴史を歩んだために、地球の過去に転移してしまったのでは? と考えたこともあった。

 しかし、夜空を意識して見るようになって気づいたが、黄道(こうどう)十二星座が違った。知っている星座がない。


 地球とは存在している宇宙空間が違うということがわかったのだ。したがって完全な異世界だということが確定したのだ。






 子供が産まれてから成長記録を脳内保存するために日数を数えた結果、このように様々なことがわかったが、同時に自分の時間に対する鈍感さというか、環境に対する無反応さを実感した。

 というか自分では色々なことに興味津々だと思っていたが、興味あること以外はとことん眼中にない。

 クロウを見ていてより理解した。彼の場合は()()()()にしか興味がない。ティラ子も同じだ。


 クロウもティラ子も戦うことが大好きな戦闘凶だが、自分よりも格下の生物には興味がない。襲いかかってきたときは反射的に尻尾などで吹っ飛ばすだけで、追撃はしない。刺激に対して反応するだけで、()()()()()()()

 彼や彼女とコミュニケーション(戦闘や会話)をするためには、相対するだけの存在感や理由が必要だ。


 クロウは勝利した後必ず相手の全身を食べ尽くす。食べる必要がないはずなのに、必ず食べるのだ。

 彼曰く、「強者を倒して食べる。相手の強さを自分の中に取り込む。最高の気分だよ」だそうだ。

 ……昔ここに向かって旅している間にティラ子から同じようなことをきいた気がする。教育の賜物(たまもの)かな。






 教育はティラ子だけがしているわけではない。もちろん俺も参加している。教えているのは主に『魔法』と『知識』だ。

 俺は日本人のときに、特に優れた人間ではなかったが、国立大学を出て公務員に就職したために、ちょっと勉強した高校生プラスαくらいの知識は最低限残っている。しかし発明などの知的創造は無理である。俺に才能はないのだ。

 それでも、自然科学を応用すれば魔法にも使えるだろうし、身の回りの出来事を理解する助けにもなる。


 クロウは両親を尊敬する良い子であり、素直に教えたことは学んでくれる。特に宇宙について軽く教えたときは目を輝かせて聞いてくれた。

 すごい可愛いッ。昔からカメやヘビなどが好きだったのもあるが、自分の子供だとより天使!

 ……他人からしたら邪悪な見た目の黒龍で、実際に戦闘凶だが俺にとっては可愛い息子なのだ。

 世界の生物よ、残酷だが食物連鎖を受け入れたまえ。






 「グルォ、グルアゥ。(ねえ父さん、父さんはどうしてあまり食べないの?)」


 ある日クロウに聞かれた。彼は魔力のみで生存できるが、そうはせず積極的に狩をする。狩りはドラゴンの本能と妻の教育によるもので、俺も本来はそうあるはずだったのだろう。


 既に生物を殺して食べることについては、自分のやりたいようにすると決めたため悩まなくなっている。

 だから殺して食べることはあるけれど、頻度は家族の2頭と比べても圧倒的に少ない。攻撃を仕掛けられたときだけだ。あまり狩りすぎると弱いものいじめというか、虐殺しているようで気分が悪いのだ。

 別に要らないし。

 本能を解放して、致命傷を与えることを気にしなくなってからは苦戦することもないし……。

 はっきり言って、戦うことに飽きた。

 全力が必要ないのだ。


 しかし、この身に宿す滅びの力は使()()()があると直感している。この直感には理由がある。


 世界樹と地脈を観察したときのことだ。星の奥底にある『世界の意思』らしきものと接触したときだ。初めは理解できなかったが、何度か意識を集中させるうちに、


 『世界の進化を(うなが)し、俺の存在に興味を持ち、それらすべてを強化しようとしている』


 という思考を漠然と感じ取った。『世界樹』などの巨大存在達よりも意思の力が強いために、動物以外で初めて思考の方向性を感じ取れたのだ。

 なんらかの力を働かせて生物を操っているわけではないだろうが、アースに存在する生物を()()し、見守っている。


 ――全生物に願いを込めている。


 惑星に存在するすべてのモノを進化させようとしているということは、それ相応の目的があるはずだ。

 ()()()()()()()()()何かが……。


 だからこそ時間を認識しない俺は些細なことで力を使っていない。ひたすら気分が(おもむ)くままに観測し続けるだけだ。

 自分の目的を果たすために。

 『世界の意思』に関する答えを知るために。

 興味ある力の動きに意識を向けることは、『魔力操作』の訓練になっているので自分の成長にも繋がる。良いことだらけだ。




 さて、わが息子にはどのようにして何を伝えようか。俺の思考が電波過ぎて、伝えたいことがうまくまとまらないな。もっと頭がよくなりたい。前世の叔母は俺の聞きたいことに的確に答えてくれるものすごく賢い人だった。

 なんで俺には賢さが遺伝しなかったのだろう、辛い。


 「グルルゥ、グルォ。(私はね、自然が好きなんだよ。私たちがちっぽけに思えるような、自然がね。宇宙に興味津々のクロウもわかるだろう?)」


 「ぐるぅ。(まぁ、うん)」


 なんだか答えになっていない、と言いたげな意識を彼の視線から感じたが、スルーして話を続けた。……頭の中で考えすぎると論理が飛躍してしまうことがある。大きな欠点だ。


 「グルルル、グルガウ……グルガァ。(自然の中で、誰もが何かを食べて、栄養を吸収し、生を繋いでいく。他者を殺しながら強さの序列が決まっていくが、それは絶対ではなく別の進化によってすぐに入れ替わる。

 目に見えない細菌、草や木などの植物、恐竜達もすべて自然のサイクルの中にあるんだ。全生物は進化をしながら強くなっていく。

 惑星にあるすべての現象、存在が1つのシステムのように美しくまとまっている。私達もその中のほんの一部でしかないんだ。


 ……しかし私のところまで(食物連鎖の頂点に)たどり着いたものは未だにいない。君達は他者を取り込むことで強くなる実感があるかもしれないけれど、私は感じることができないんだよ。

 張り合いのある者が誕生したら、そういう意欲が湧くかもね)」


 自分自身のことながらなんという慢心! しかしこれでいい。嘘は言っていない。もうただの恐竜に俺を傷つけることはできないのだ。戦闘観察はクロウやティラ子を見ていればできるので、俺が攻撃を受けとめる必要がなくなった。

 飛んで空爆したら終わるのだ。


 俺が話し終わると、クロウが少し考えた後、


 「グルルゥ、グオオ! (父さんは、ロマンチストなんだね。じゃあ俺がその退屈を解消してあげよう)」


 と笑いながら答えた。確かにクロウは俺の命に届き得る存在だが、君と戦うつもりは無いぞ?


 「グオォ。(それは嬉しいけど、クロウと殺し合いをするつもりは全く無いからね)」


 そう言って話を終わらせようとしたが、彼は何かを思案しながら、


 「グルルゥ。グルゥ! (俺も父さんと殺し合うつもりはないよ。ただ、父さんから聞いた進化についての話を参考にして、やろうと思ってることがあるんだよ。

 じゃれ合い程度はできるようになるかもしれないから期待してて!)」


 まだまだ子供だが、既に力は強大で知識もそれなりに蓄えている。彼が何をするつもりかわからないが、生態系を変化させる行動であることに間違いはないだろう。


 「グルル、グオオ! (楽しみにしておくけど、弱いものいじめだけはしちゃダメだぞ! 精神が貧弱になってしまう。自分の成長に繋がらないからね)」


 そう言い聞かせておく。戦闘凶であることにとやかく言うつもりはないが、弱者をなぶるような存在になってほしくない。

 クロウは自分よりも弱い者に興味がないから心配ないだろうが、一応念を押した。子供のやることは親の責任だ。しっかりしつけしないとな!


 自分と似た姿の息子の成長を見守ることは、自分自身の生態を知る手がかりにもなるため二重の意味で楽しい。

 もう少しで成体になり親元を離れるだろうが、それまでは見守っていようと思う。

ただいまリアル多忙のため更新できていませんが、9月頃には再開できると思います。楽しみにしてくれている皆さんには申し訳ないですが、もう少しお待ちください。

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