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第六話 偶奇という名の残酷な神

突如として知らされた襲撃に、当惑するニトロたち。その上、敵は「人間」。さてニトロはどのような決断を下すのか。そして、その先にあるものとは?


 「……こうしちゃおれんな。ナデコ!お父さんは上に昇って軍装を整えてくる。お前も準備が済んだら、すぐに玉座の間に来い!!」

 そう言うと魔王は、大慌てで部屋を出ていった。

 そして残された二人だが、両名とも当惑していた。しかしニトロの場合は、そこに躊躇が加わる。

 「に、人間相手か……。」

 別にニトロは人間と戦ったことがないわけではない。しかし、相手はヤクザや奴隷商人など、悪人ばかりであった。しかし今回は……。

 (魔王の城に単騎で攻め込んでくるような奴なんて……ほぼ冒険者確定!!くそっ!どうすればいい!!?)

 「……ニトロさん?」

 事前の約束では、人間と戦う必要はないとなっていたたはずだ。ここで戦わないという選択肢をとっても、別に不義とはなるまい。しかし、ナデコのことを考えると……。

 (あいつ、オレが死んだと勘違いして……泣いてくれてたよな。そこまでオレのこと思ってくれている奴って、今までいたか……?人間にはほとんどいなかったはずだ。)

 ナデコが元々涙もろいのもあったのだろう。それでもニトロは、ナデコに情が移りつつあったのだ。そして彼女のことを「信用」しつつあった。

 (ナデコは見捨てられねぇ。どうせどっちの選択肢を選んでも後悔するんだ!ならば、ナデコのためになる方をオレは選びたい!!)

 「行くぞナデコ。出陣だ!!」

 「えっ……?いいんですか?」

 ナデコに額に汗が滲む。

 「いいんだよ。人間なんてロクな奴いねえ。長年の仲間を、平気で見捨てるような奴ばっかりだ。」

 ニトロは微笑みかけて見せた。それが彼にとっての、精一杯の強がりだった。

 「それは……どういう意味を……。」

 言いかけたところで、ナデコは踏みとどまった。

 「……止めておきましょう。覚悟を固めた漢に、余計な言葉をかけるな。亡くなったおじいちゃんもそう言っていました。」

 「……ああ、その通りだぜ。身勝手な決断だからな。他人にとやかく言われても聞く耳もたねえよ!」

 「身勝手……ですか。フフ、分かりましたよ。やっぱりあなたを助けてよかったです。ヒーちゃんのエサを取りに来ていただけだったのに。運命って…不思議なものですね。」

 「確かにそうかもな。」

(この不思議な巡り合わせ、捨てるのはやはり惜しい。命を救ってもらった恩、ここで返すぜ。天才毒魔術師の本領発揮だ!!)

 こうして決意を固めた二人は、すぐに玉座の間へと向かった。

 

 ――しかし、それは一つの罠だった。ニトロが思っているよりもはるかに、運命は残酷なものであり、彼はこのときまだ、もてあそばれているだけだったのだ。その証拠に彼はこの後、一転して運命の悪戯を恨むこととなる。明かされた核心は、それほどにも数奇なものだったのだ。

 


 走り続けていると、純白の扉が見えてきた。

 「あれを開ければ、もう玉座の間です!」

 「よし!突っ込むぞ!!」

 ニトロらは勢いよく扉を開けた。そして……

 「!!?」

 状況は悲惨だった。漆黒の絨毯は血で赤黒く染まり、敗れた兵士らが累々と転がっている。暗幕や肖像画など、調度品の類もズタズタに破壊されており、宝石をあしらった玉座は、壇上から転げ落ちていた。

 「ひ、ひでえ。だけど……本当にヤバいのは……。」

 「お、お前ら……。」

 最悪の事態である。侵入者と対峙する魔王は、すでに敗れかけていた。

 「お、お父様!!」

 彼の胸には深々と、氷の槍が突き刺さっている。

 「に、逃げろ……。コイツは、強すぎる……。」

 そう言い残し、魔王は地に臥した。

 「お父様……。」

 ナデコの声は細かく震えていた。

 「くそったれ……。」

 恐るべし窮地。しかし、それでもニトロは一切ひるんでなかった。

 (勝算はあるはずだ……。これまでに敗れた連中はそこまで強くない。上級冒険者にはかなわないレベルだ。しかし、オレたちは違う。そのことを思い知らせてやる。)

 「おいナデコ、ショックなのは分かるが今すぐ魔王たちを収容しろ!!このままじゃ巻き添えを喰らっちまう!!」

 呆けていたナデコだが、この呼びかけで我を取り戻した。

 「分かりました!すぐに戻ってくるので、それまで奴の相手をお願いします!!」

 ナデコは大急ぎで魔王の方に駆け寄っていった。

 (よし。これで全力でやれる。)

 そしてニトロは、魔王に代わって侵入者と対峙した。相手の姿は冷気の霧に阻まれて見えないが、そのシルエットは随分と華奢だった。

 (氷系統の魔術師か……。相性的な不利はない。しかしあの背格好……もしかして女か?)

 「……あなたは。」

 ニトロが相手を観察していると、霧の中から色味のない声が響いた。透き通った少女の声だった。

 (えっ……?)

 その冷たい響きに、ニトロは時が凍りついたかのような感覚を覚えた。

 (おい、嘘だろ…。どうして!?)

 霧が少しずつ晴れていく。

 (ふざけんなよ……。)

 動悸が早まっていき、背筋から汗が湧き出る。戦意は瞬時にして失せ、代わりに当惑が頭をもたげた。

 (ふざけんな、ふざけんなよ!何で、何で今、君なんだよ!!)

 霧は晴れ、全てが明らかになった。そしてニトロは運命を呪った。

 「……久し振りね。毒魔術師さん。」

 侵入者の正体――それはニトロが思いを寄せる、あの女賢者であった。



 現実の残酷さにいくら打ちのめされたとしても、前を向いて進まなきゃ何も始まらない。明日を信じて、ニトロは苦境に挑む。―という感じで次回に続く。



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