漫画版用の2話目冒頭の小説版(せっかく書いたので一応載せます)
何処までも続く不毛の大地。見渡す限りの砂、砂、砂。ジリジリと照りつける、灼熱の太陽。
「命が、枯れていきやがる…」
パーティーを追放された毒魔術師ニトロ、彼の飛ばされた先は、拠点から遠く離れた南西部の砂漠だった。過酷極まる環境のせいで、ニトロの体力はみるみるうちに削れていく。
「あんのクソ勇者がっ!!」
途方にくれて大空に絶叫するも、返事は返ってこない。全くの無為であった。
「あんだけメチャクチャされても、何も言わずに従ってきたのに…。」
ニトロはこれまでの旅の記憶を思い出していた。
「おい、ニトロ。5分でこの雑魚共を片付けろ。俺はその間に、ボスのところまで向かう。」
「えっ…5分!?20以上の甲獣を…5分!!?」
「殲滅した後はすぐに俺の加勢に来い。遅れたら給料無しだからな。じゃあ俺は先に行くぞ。」
「ちょっ、オイ!待ってくれええ!!」
結局ニトロは15分以上かかり、給料は全額カットされた。
「おい、ニトロ。俺は野暮用があるから、代わりにその書類やっといてくれ。」
「えっ、ちょっ、何枚あんのコレ!?」
「ざっと30枚といったところか。見れば分かるだろ?」
「いやいやいや、そういう問題じゃなくて…俺がやるの!?一人で!!?」
「言ったろ?俺は用事があるって。カボスは書類仕事が苦手だし、リエンは文盲だし、お前しかいないんだ。」
「で、でも…」
「じゃあ、頼んだぞ。ちなみに締め切りは明日の朝だ。」
そう言って、勇者は足早に部屋を出て行った。
(お、おっパブで羽根を伸ばす予定だったのにィ!!)
ニトロは誰一人いなくなった宿の一室で、奥歯を噛み締めた。
ちなみに勇者は、オレが書類仕事をしている間、その街一番の娼婦と乳繰りあっていた。Gカップだったらしい。
「……あんのクッソ勇者がああああ!!!」
ニトロはさっきよりも更にデカイ声で叫んだ。
「クズのスケコマシが!!本当に人を弄ぶのばっか得意だなああ!!どうせ、リービッヒさんを入れたのも、自分が手を出すためなんだろ!!許さねえ!!その前にオレが舞い戻り、お前を倒してやるからなああ!!!」
実際はそんなことほぼ不可能である。しかし、冷静な判断なんてしてもしょうがないし。砂漠から、脱出出来る訳でもない。
「あの人、どうして大声を…?」
そんなニトロの姿を、空から見ているものがいた。一人の、翼を持った少女である。
「既に相当消耗しているのに、あんなに暴れるなんて…。服装も砂漠用のものではなく、水も食料もない。このままじゃ野垂れ死ぬだけですね。助けてあげるべきなのか、それとも…。」
彼女の恐るべし視力は、遠く離れた位置からでも、ニトロの姿を鮮明に捉えることが出来た。
「手首に嵌めているリングは冒険者の証。ただの人間なら今すぐ情けをかけてもいいのですが…。さて、どうしましょうか…。」
少女は腕組みをして、しばし考え始めた。
「諦めねえ、諦めねえぞ…」
その頃ニトロは、念仏のようにそう唱えながら、砂漠を歩いていた。
(オレの体力が尽きるより前に、オアシスやキャラバンを見つければどうにかなる…生きてここから帰ることが出来る…)
勿論、可能性は低い。既に目眩がして、足元も覚束ない。命を拾うよりも、このまま失う可能性の方がはるかに高いのだ。
「それでも、それでも…!」
ニトロは死ねなかった。まだ何も成し遂げいないのに、死ねるわけがない。
「まだ全然、魔法を極められてねぇ…。シグへの逆襲も、リービッヒさんを助けることも、出来てねぇ…。ここで、死ねるかよ!死んでたまるかよ!!」
しかし、現実は無情である。その瞬間は、唐突に訪れた。
「ドサッ!」
ニトロはその場に倒れ込んだ。灼熱の太陽に肌を焦がされ、水分を失い、補給も回復も出来ない。北方出身のニトロ、その限界は、自分が思うよりもはるかに早かった。
「畜生…。」
ニトロに出来ることは、カラカラの手で乾いた砂を握ることだけだった。




