曾祖母の屋敷にて
自宅を出て馬車に揺られる事二週間近く、ようやく曾祖母の屋敷へとたどり着いた。曾祖母と一緒に着いて来ていたメイド四人は、道中の宿で二人ずつに別れ曾祖母と俺の世話をしてくれた。常に同じメイド二人だった為、曾祖母の屋敷に着くまでにそこそこ仲良くなれたと思う。
曾祖母の屋敷は意外とこじんまりとしていた。ペンデュラン本家ともなれば、さぞ立派な屋敷だと思っていたが、規模で言えばウチよりも小さいくらいだ。屋敷の門から屋敷全体を見ていたら、屋敷の中から人が出てきた。
「お帰りなさいませ、サクヤ様。この度の長旅お疲れ様でした。」
「出迎えご苦労だね、セバスチャン。この子が話していたアルドラドだよ。」
「これはこれは、初めましてアルドラド様。私長年サクヤ様に使えております執事のセバスチャンと申します。これからよろしくお願いいたします。」
初老の男性、黒の燕尾服を着て白髪のオールバック。口の回りに髭が生えているが、しっかりと整えてられていて中々好印象な人だ。全体的にスラッとしていて、背もそこそこ高い。見た目はいかにも執事、という感じの人だ。
「初めまして、アルドラドです。これからお世話になります。」
「ほほっ、まだ小さいのに礼儀がしっかりとされている。余程ご両親の教育がよろしいのでしょう。」
「クルガにそんな事できやしないよ、ほとんどクリアに任せっきりだろうさ。ほら、そんな事よりさっさと中に入るよ。とりあえず着替えて茶でも飲みたいね。」
「かしこまりました、ではサクヤ様はこちらへ。アルドラド様も一度ご自身のお部屋へどうぞ。案内はアーシャとカナリアがいたします。また後程二人が呼びにきますので。」
曾祖母とお付きのメイド二人、そしてセバスチャンの四人が先に屋敷の中へ入っていく。残った俺とメイド二人、アーシャとカナリアが道中俺の世話をしてくれ、そこそこ仲良くなった二人だ。
「ではアルドラド様、こちらへどうぞ。」
カナリア先頭で歩き出す。カナリアは肩より少し長めの金髪で、黒と白の色合いのメイド服を着ている。歳はまだ二十歳前と聞いているが詳しくは知らない、大体その辺なんだくらいの認識だ。背はそこまで高くなく、体型もスラッとしている。
「荷物はアタシが持つし、アル様が持たなくても大丈夫だし。」
言葉の最後に、しが付く喋りが特徴のアーシャ。癖なのか何なのかよく分からないが、曾祖母相手にもこの喋り方をしていたから、多分彼女は普通の喋りがこういう風なんだろう。アーシャは赤い髪色で少し短めだが、ギリギリポニーテールができるくらいには長さがある。アーシャもカナリアと同じメイド服で、カナリアと違うと言えばアーシャはメリハリがしっかりとしている。背もカナリアとあまり変わらないが、唯一違うのはプロポーションだけ天と地の差だ。神は何と残酷な。
「アルドラド様?何かお考え事ですか?」
「いえ、あまり人を見かけないなって。」
急にカナリアに話しかけられてビックリしたが、何とか誤魔化す事ができた。しかし事実、そこそこ屋敷内を歩いているのにまだ誰にも会ったりしていないのだ。
「そりゃそうだし、この屋敷にはアタシ達だけだし。アル様入れて七人しか、この屋敷には住んでないし。」
「それは他で暮らしているとか?」
「いえ、サクヤ様はあまり人を雇うことをしないので、本当に私達だけなんです。ですので、屋敷も普通より少し小さいんですよ。」
俺を合わせて七人、つまり来る前は六人で住んでいたわけか。確かにそれなら大きな屋敷は必要ないが、何故それだけしか雇わないんだろうか?
「サクヤ様、あまり賑やかなの好きじゃないし、だから屋敷も少し国の国境付近に寄せて建ててるし。この辺はあまり人も来ないし、街からも離れてるから絶好の場所だって前話してたし。」
「人嫌いなんでしょうか?」
「それとはまた違うんですけどね、その事に関しては恐らくサクヤ様から直接お話があると思いますので、今は控えさせていただきます。そうこう話している内に、アルドラド様のお部屋に着きました。また後で私達がお迎えに参りますので、それまでは中でお休みください。」
「部屋の物は自由に使っても良いし、着替えも何着かはこっちで用意してるからそれに着替えてても良いし。とりあえずは勝手に部屋から出なけりゃ好きに過ごしてるし。」
アーシャが部屋に荷物を運んでくれて、部屋の物を好きに使って良いと説明されそのまま二人は部屋を後にした。後でまた来ると言ってたので、とりあえず今は長旅で疲れた身体を休めることにした。とにかくずっと馬車だったから、尻が痛い。気休め程度に敷物を置いて座っていたが、あまり効果はなく結局尻がカチカチになるくらい座りっぱなしだった。当分馬車での移動は遠慮したいもんだ。
持ってきた荷物は少ないながらも部屋の脇に置いておき、用意してもらった服を見てみる。服はクローゼットに入っており、どれもシンプルなデザインながらも、やはり上品さも兼ね備えた服ばかりだ。何だか着るのが申し訳なくなり、クローゼットをそっと閉め、今の服を着ていることにした。
特にすることもなく、ベッドに腰掛けながら持ってきた魔法の教科書を流し読みしているとドアをノックする音が聞こえた。
「アルドラド様、お迎えに参りました。サクヤ様がお庭でお待ちですので、私達とご一緒に来て下さい。」
「分かりました。」
ドアを開けるとカナリアとアーシャが待っていた。どうやら曾祖母が庭で待っているとの事なので、三人で庭へと向かう。やはり屋敷内を歩いていて、誰にも会わないのはまだ違和感がある。庭まではそう遠くなく、軽く雑談をしていたら直ぐにたどり着いた。庭には既にセバスチャンと優雅に茶を飲んで座っている黒髪の少女がいた。……誰だろうか?歳は十代半ばに見え、白のワンピースを着ている。座っているから背丈は分からないが、そこまで高くはないと思う。
「あらアル、どうしたの?早くこちらに来たら?アルの分のお茶とお菓子もあるわよ。」
呆然と立ち尽くしていると、不意に黒髪の少女が手招きして俺を呼んでいる。まだ名乗ってないのに何故名前を知っているのだろう?アーシャやカナリアの話では、俺以外の来客はいないはずだが…。彼女の後ろにいるセバスチャンは特に疑問を持っていないようだ、すると隣にいたアーシャがくすっと小さく笑うのが聞こえた。アーシャを見ると、慌てて咳払いするような動作をし始めた。アーシャは何に笑った?呆然としている俺か?黒髪の少女に対してか?…ここは一つ賭けてみるか。
「すいません、少し驚いてしまいまして。ご一緒してよろしいですか、ひいお婆様?」
ひいお婆様と言った瞬間、セバスチャンが目を見開いたのを俺は見過ごさなかった。後ろにいるから分からないが、恐らくアーシャとカナリアも同じ反応だろう。曾祖母は分かってもらえたのが嬉しいのか、笑顔で拍手している。
「はい、良くできました。座って良いわよ、あなたには色々聞きたいことがあるから。セバスチャン、アルにもお茶を注いであげなさい。」
「かしこまりました、失礼しますアルドラド様。…よくサクヤ様とお分かりになりましたね。」
「ただの当てずっぽうですよ。」
セバスチャンが俺にもお茶をカップに注いでくれ、感心したようにしているが確信のない答えだったから、ほぼ勘と言っても良いだろう。
「ただの当てずっぽうでは当たらないと思うけれどね。ではアル?私は確かにサクヤ・ペンデュランで間違いはないけれども、何故今はこのように若返り絶世の美少女になっているのか、納得できる答えを聞かせてもらえるかしら?」
自分で絶世の美少女とは普通は中々言えないが、今の曾祖母は確かにそれくらい言っても過言ではないだろう。さて、何故今曾祖母は若返っているかと言う問題だが、単純に魔法で若返ったと言う答えでは駄目だろう。曾祖母が納得できる答えじゃないと、間違えたら何をされるか分かったもんじゃない。魔法で若返っているのは間違いではないだろうが、果たしてそんな魔法が存在するのか?仮に存在するならば、この世に年老いた人間は一人もいなくなるはずだ。しかもただ若返っただけじゃない、老婆の姿の曾祖母は金髪だったが今の曾祖母は黒髪と、明らかに成長したからと言って髪が黒から金になるはずがない。つまり若返って尚且つ容姿も違うのだろう、そんなでたらめな魔法があるとは思えない。だが実際に曾祖母は若返って姿を変えている、確実に常人には真似のできないことだ。つまり曾祖母しか出来ないことだ。
「恐らくひいお婆様だけの魔法かと。しかもこれだけの魔法を扱うにはかなりの魔力を使うはず、つまりひいお婆様は虹の魔力保有者ですね?赤の魔力保有量では到底できることではありません。」
俺が答えると、曾祖母は満面の笑みで再び拍手をし始めた。
「大正解よ、よく導きだしたわね。まだ八歳とは思えないくらいだわ、大正解のアルにはセバスチャン特製のクッキーをあげる。この付け合わせの花を一緒に食べると更に美味しいわよ。」
確かに子供にしては考えが鋭すぎただろうが、曾祖母相手に思考を躊躇している場合ではない。実の孫にあれだけのことをする曾祖母だ、今くらいは自分の身の安全を優先したい。しかしここで何か言い訳するのもかえって怪しいから、大人しくクッキーを食べることにする。付け合わせの花を摘まむと、花が虹色に色づいた。花の色を見た曾祖母はニヤリと笑い、自らも花を摘まんだ。曾祖母の摘まんだ花もまた、虹色に変化した。しまった、まさかこの花は…。
「気づいたわね、この花はマジカントフラワーと言う珍しい花よ。摘まんだ本人の魔力保有量を色で示すの、これは水晶で測定するよりも敏感に反応して比較的分かりやすいのよ。私はあなたが言うように虹色の魔力保有者、そして私と同じように虹色に色づいたあなたも、私と同じ虹色の魔力保有者と言うことね。」
そこまで話して、曾祖母は一度お茶を飲み喉を潤す。そして次の言葉は思いもよらないものだった。
「そしてあなたは私と同じ、チート能力持ちの転生者ね?」
曾祖母の言葉を理解するのに、それなりに時間を有したのは言うまでもないだろう。