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いざ行かん

 

「アルを迎えに来ただと…!?ふざけるなっ!いきなり来たと思ったら、何をふざけたことを言い出すんだ!いい加減にしろっ!」


「ふざけてなんかいないさ、私は本気だよ。ほらっ、さっさと支度をしてきな。ここから本家までは馬車で二週間近く掛かるんだからね、あんまりのんびりするんじゃないよ。」


 曾祖母が俺に家を出るのを急かしてくるが、父が俺の前に立ち曾祖母と対面する形で俺を守ろうとしていた。


「いい加減にしろと言ったはずだ、あんたの気まぐれでアルを渡してたまるか。さっさとこの家から出ていけっ!!」


「おぉ五月蝿い五月蝿い、そんなに大声を出さなくても聞こえてるよ。まだ難聴なんて歳じゃないんだからね。この子を連れてさっさと出ていくさ、荷造りが終わるまでは茶でも飲みながら待たせてもらうよ。」


 暖簾に腕押しとはこの事だ、父が何を言おうと曾祖母には意味がない。曾祖母は最初から父を相手にしていないんだ。だから父が何を言っても怒りもせず、ただただ俺を連れ出すことだけを考えているようだ。


「あの、サクヤ様。何故アルを突然連れていこうとするのですか?サクヤ様とアルは今日が初対面ですし、連れていく理由をお聞きしたいのですが。」


「おやおやクリア、流石に母親だね。表情や声は冷静を保ってるけど、溢れ出す殺気までは押さえていないね。どっかのバカ孫とは大違いだ、クリアみたいな子が一番恐ろしいね。」


「サクヤ様?理由をお伺いしても?」


 いつの間にか母も俺の前に立ち、父と並ぶようにして俺を守るようにしていた。傍にいたミリアとララは俺の両隣で、俺の服を強く握りしめていた。恐らくどこにも行かせないようにしているのだろう、何て愛らしいんだろうか。


「そうさね、クリアに免じて理由くらいは話してやろうかね。私がこの子を連れていく理由は、この子が出来損ないだからだよ。」


 出来損ないだから、曾祖母は確かにそう言った。俺が出来損ないなのはミリアとの双子だから、父と母はそう俺達に話している。双子は片方が出来損ないがほとんどで、昔は忌み嫌われる存在となっていたらしいが、曾祖母も言ってしまえば古い人間だ。もしかしたら曾祖母も、その出来損ないのである俺が許せないのだろうか?だがそう考えると何故俺を連れていく事になるのか、その辺りが矛盾してしまい結局分からなくなってしまう。


「ですがサクヤ様、それはアルとミリアが双子だからです。ミリアに魔法の才能がほぼ受け継がれ、片割れのアルはその才能を受け継ぐ事ができなかったのです。もしアルを出来損ないとして罰するのなら、母である私を罰してください。アルに罪はありません。」


「本当にクリアは良い子だねぇ、親の鏡だよ。それに比べバカ孫は気の利いた事すら言えないんだからね、クリアの爪の垢でも煎じて飲ませたいよ。」


「黙って聞いてれば好き勝手言いやがって…!」


 熱くなって曾祖母に反論しようとする父を、母が手で制し父を落ち着かせている。今曾祖母にものを言えるのは母だけだ、父では上手い具合に曾祖母に転がされるだけだ。


「さてクリアよ、私は別にアルを罰したりはしないね。可愛い可愛い曾孫じゃないか、それを出来損ないだからと言って苛めるのはあんまりだよ。私がこの子を出来損ないだからと言って連れていくのは、私が直々にこの子を鍛えるためさね。」


「サクヤ様が、アルを鍛える…?ですがそれこそ親である私達の役目です、どうかこのまま私達に任せてはもらえないでしょうか。」


「クリアの頼みでもそれは無理だね、事実五歳から今に至るまで成果が出ていないじゃないか。この先お前達二人が育てても、この子は一生成長せず出来損ないのままだよ。」


 曾祖母はまるで、今まで俺の成長を見てきたかのように話す。五歳の時に魔力保有量が青と分かり、三年半経ってもいまだに青のまま、更に剣術も最近は伸び悩んでたりもしている。しかしこの事を知っているのは、両親二人とミリアとララだけだ。使用人達は誰も知らず、外部に漏れるはずのない情報を何故曾祖母は知っているのだろうか?


「まだアルは八歳だ、魔力も剣術も成長途中だ。俺がそうだったように、アルはいずれは俺より強くなる。だから部外者であるあんたに任せる必要はない。」


「そうだね、お前が鍛えなけりゃお前より強くなるだろうさ。お前がこの子をお前と同じ境遇で見ている限り、この子はこれ以上成長しやしないよ。他の誰でもない、お前のせいでね。」


 幾分か落ち着きを取り戻した父だが、やはりいくらいっても曾祖母には相手にされず、逆に挑発的な発言で再び父を怒らせようとしている。父もそれを分かっているのか、今の曾祖母の言葉には反応を見せずに何とか我慢することができたようだ。


「はっきり言おうか、この子はある意味特別な存在だ。今まであまり事例がないようなね。そんな子を、まともな教え方で育てようとしていること事態が間違ってるんだよ。その点私なら、この子を十二分に育てることができる。分かったかい?分かったのならさっさと準備させな、予定より大分時間を食っちまったからね。」


「アルが特別な存在だと…?特別だからと言って納得できるか!第一何故、一度も会ったことのないあんたがそんなことが分かるんだ!でたらめも大概にしろ!」


 俺が特別な存在だと曾祖母は言う。確かに父の言うとおり、曾祖母は何故そんな事が言えるのだろうか?何かしらの根拠があると言うのか?


「あぁもう、本当に五月蝿いね。いい加減しつこいよ、時間が無いと言ってるだろうが。お前は引っ込んどきな。」


 ドゴンッという音がした瞬間、父が誰もいない右側の壁に吹き飛ばされた。父は壁に激突し、そのまま倒れ込んでしまった。父が吹き飛ばされた時、父の頭が見えない何かに思い切り殴られたかのように見えた。もしかしたら曾祖母が魔法を使って父を吹き飛ばしたのだろうか?父が倒れたのを見て、母が慌てて父の傍へと走っていった。


「さてようやく邪魔者がいなくなったね、ほらもう時間がないんだから必要な物だけ持ってきな。後は向こうで揃えれば良いだろうしね。」


「ダメ!アルを連れてっちゃダメ!」


「お兄ちゃん、連れてくのダメ。」


 今まで俺の隣にいたミリアとララが前に出て、手を横に広げて通せんぼしていた。二人は今までの話を全て理解はしていないだろうが、それでもこのままだと俺がいなくなるのは分かっているらしく、二人共先ほど父が吹き飛ばされた恐怖からか、身体を震わせながらも曾祖母を止めようとしている。


「おやまぁ、可愛いお姫様達だこと。王子を助けるお姫様なんてロマンチックだねぇ。でもねお姫様達、このまま王子が情けない姿を晒し続けても良いのかい?王子だってね、お姫様達にはカッコいい姿を見せたいはずだよ?」


「アルは今でもカッコいいもん!だからお願い、アルを連れて行かないで!」


「お兄ちゃん頑張ってる、ララ知っている。」


 どうやら曾祖母は、ミリアとララには流石に手を出すつもりはないらしく優しく話しかけてくる。それでも二人は一歩も引かずに曾祖母を止めようとする。見ると父が何とか起き上がる姿が見えた、多分母が回復魔法を掛けたのだろう。だがまだ頭がふらつくのか、少しこちらに来る足取りが遅い。今はまだミリアとララには優しいが、万が一二人が怪我をするようなことがあれば悔やんでも悔やみきれない。いくら回復魔法があっても、心の傷までは癒すことはできない。曾祖母に吹き飛ばされればトラウマの一つや二つ簡単に出来てしまいそうだ。


「あの、ひいお婆様。僕行きます、だから少し待ってて下さい。」


「アル!?」


「お兄ちゃん、ダメ。」


「おぉそうかいそうかい、今まで黙ってるから心配してたけど、物事を考える頭はあるようだね。なら直ぐに荷物をまとめて外に出な、馬車で待ってるよ。」


 そう言うと曾祖母はこちらに来る父と母には目もくれず、さっさと広間を出て行ってしまった。父と母が俺の近くまで来て、父がしゃがみこみ俺の肩に手を置いた。


「アル、行く必要はない。俺が何とかしてみせる。」


「そうよアル、お母さんももう一度サクヤ様に話してくるわ。あなたはミリアとララと一緒にいなさい。」


 優しく父と母が言ってくれるが、俺は首を横に降る。恐らくだが曾祖母相手に次はない。今父と母が曾祖母を追って外に出れば、最悪の事態になりかねない。実の孫相手でも容赦の無い攻撃をした曾祖母だ、有り得なくはない。


「大丈夫だよ、僕ひいお婆様のとこに行く。行って強くなって帰ってくるよ、だって父さんと母さんの息子だから。だから、行ってきます。」


「アル…」


 父は俺の言葉を聞いて、引き留めるのを躊躇している。今度はミリアとララに向き直り、二人共泣くのを我慢しながら俺を見ていた。


「やだ、行っちゃやだぁ…。」


「お兄ちゃん、行かないで…。」


「ごめんね、お姉ちゃん、ララ。ちょっとひいお婆様の家に行ってくるね。次に会うときは、二人に恥ずかしくない姿を見せれるようにするね。…行ってきます。」


 遂に泣き出した二人を母が優しく抱き締めていた。泣かせてしまったのは罪悪感が半端ないが、二人を思っての事だ。それにこういったシチュエーションで別れるのも、ちょっと美味しい展開だと思っているのは内緒だ。


「アル、ごめんなさい。あなたには辛い思いをさせてしまったわね。…こんなお母さんを恨んでもらって構わないわ。」


「そんな事ないよ、母さんには感謝してるから。一生の別れじゃないんだから、また直ぐに会えるよ。それじゃ、行ってくるね。」


 皆に挨拶を済ませ直ぐに自室に行き荷物を持とうとするも、着替えとかは向こうで揃えてもらえば良いし、魔法関係の本や父との稽古の時に使っている木剣だけ持てば良いかと考え、本は数冊手に持ちもう片手に木剣を握りしめて走って屋敷の玄関へと急ぐ。

 屋敷の外には大きな立派な馬車が待っていた。軽く大人六人は乗る程の大きさだ、他にも誰か乗っているのだろうか?


「ようやく来たね、別れの挨拶は済んだかい?済んでなくても、もう出発するがね。ほらさっさと乗んな、日が暮れる前には宿に着きたいんでね。」


 馬車の窓枠から顔を出している曾祖母がそう言い、御者が馬車の扉を開けてくれて中に入る。中には曾祖母以外にメイドが四人同乗していた、空いていた席へと座ると馬車が動き始めた。


「よぉく自分の家を見ておくんだね、もしかしたらこれが最後かもしれないよ。」


 曾祖母が洒落にならない洒落を言い出した。のっけから最悪な展開になりそうだが、果たして曾祖母の家で無事に過ごしていけるのだろうか。出来れば生きてまたミリアとララに会いたいもんだ。

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